減損会計とは?対象となる資産や会計処理の手順などを解説
監修者: 岡本匡史(税理士)
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企業が所有する固定資産の価値が低下し、投資額を回収できる見込みがなくなったときには、「減損会計」という会計処理を行います。減損会計には、固定資産の帳簿価額と実質的な価値との乖離を防ぎ、財務諸表の信頼性を維持する目的があります。では、減損会計は、どのようなときに、どういった方法で行えばいいのでしょうか。
本記事では、減損会計の対象となる資産や具体的な減損会計の手順、仕訳例の他、減損会計が企業に与える影響についても解説します。
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減損会計とは固定資産の価値が著しく低下した場合に行われる会計処理のこと
減損会計とは、固定資産の価値が著しく低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿上の価額を回収可能な価額まで減額する会計処理のことです。減損処理と呼ばれることもあります。
企業は、事業拡大や売上向上のために、土地や建物、ソフトウェアなどの固定資産を購入するケースが多々ありますが、固定資産を購入したからといって、必ずしも収益がアップするとは限りません。
固定資産が回収される見込みがないにもかかわらず、貸借対照表に固定資産が計上されたままになっていると、投資家にとって適切な情報を提供できないばかりか、財務諸表の信頼性も損なわれてしまいます。そのため、企業が保有する資産の価値の実態に合わせて、帳簿価額を調整する減損会計が求められていました。固定資産への投資が失敗した事実を財務諸表に反映し、あるべき姿に調整する処理が、減損会計だといえるでしょう。
2006年3月決算期以降、会社法における資本金が5億円以上または負債が200億円以上の大企業や上場企業には、減損会計の適用が義務付けられています。その一方で、中小企業の場合、減損会計を適用するかどうかは任意です。減損会計を行うのか、減損会計によってどのような影響があるのかは、企業によって異なるため、顧問の税理士などに相談することをおすすめします。
減損会計の対象となる資産
減損会計の対象になる資産は、大きく分けて「有形固定資産」「無形固定資産」「投資その他の資産」の3つです。具体的にそれぞれどのような資産が減損会計の対象に該当するのか見ていきましょう。
有形固定資産:土地や建物など形があって目に見える固定資産
有形固定資産とは、形があって目に見える固定資産のことです。具体的には、事業に用いられる土地や社屋・倉庫・工場といった建物、自動車、機械設備、工具器具備品などが有形固定資産に該当します。不動産会社が販売目的で所有する土地などは商品なので、固定資産には当たりません。
なお、建設・製作途中の資産を管理する建設仮勘定や、リース契約に基づくリース資産も、減損会計の対象になります。
無形固定資産:のれん(営業権)や特許など形のない固定資産
無形固定資産は、形がなく目に見えない固定資産の総称です。ソフトウェアや特許権といった知的財産権、企業買収によって発生する営業権(のれん)などが無形固定資産に該当します。ソフトウェアは基本的にパソコンにインストールして使用するものなので、たとえパッケージなど目に見えるものがあっても無形固定資産と見なされます。
投資その他の資産:有価証券や債権、投資用不動産などの資産
投資その他の資産には、投資有価証券などの短期的な売買を目的としない有価証券や債権、投資用不動産といったものがあげられます。例えば、有価証券の時価が著しく低下し、回復の見込みがない場合は、減損会計の処理を行うことがあります。
例外的に対象から外れる資産
固定資産の中には、減損会計とは異なる会計ルールによって処理されるものがあります。そのような資産は、減損会計の対象にはなりません。減損会計の対象外となる資産には、以下のようなものがあげられます。
減損会計の対象外となる資産
- 「金融商品に係る会計基準」に規定される金融資産
- 「税効果会計に係る会計基準」に基づいて計上された繰延税金資産
- 「研究開発費等に係る会計基準」に基づいて無形固定資産として計上された市場販売目的のソフトウェア
- 「退職給付に係る会計基準」に基づいて計上された前払年金費用
減損会計の手順
減損会計を行うタイミングは、投資した固定資産から回収が見込めないと判断したときです。ただし、回収が見込めないかどうかは、各企業が主観で自由に判断できるわけではありません。減損会計を適用するためには、所定のプロセスが定められています。具体的な手順について見ていきましょう。
1. 資産をグルーピングする
投資額に見合う回収ができているかどうかの判断は、同じ用途の資産をグルーピング(グループ化)した上で行います。グルーピングのポイントは、独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位でグループ分けすることです。例えば、工場に導入した機械の場合、一つひとつの機械が最小単位になるのではなく、機械を使用する工場単位を1つとしてまとめます。「本店」「支店」「工場」など、継続的かつ独立して損益を把握できる単位で資産のグルーピングを行いましょう。
2. 減損の兆候を把握する
資産のグループごとに、減損の兆候があるかどうかを判定します。減損の兆候とは、資産または資産グループに減損が生じている可能性を示す事象の総称のことです。一般的には、以下に該当した場合、減損の兆候があると見なされます。
営業活動から生じる損益、またはキャッシュ・フローが継続してマイナス
継続してマイナスとは、概ね過去2期の損益、またはキャッシュ・フローがマイナスであったことを指します。ただし、過去2期がマイナスであったとしても、当期の見込みが明らかにプラスになる場合は、減損の兆候には該当しません。また、過去2期がマイナスではなくても、前期と当期以降の見込みが明らかにマイナスとなる場合は、減損の兆候があると判定される可能性があります。
事業廃止や再編成など、回収可能価額を著しく低下させる使用範囲・方法の変化
回収可能価額を著しく低下させる変化の例としては、事業廃止や再編成の他、予定より著しく早い資産の処分、取得当初と異なる用途への転用、資産の遊休化などがあげられます。
経営環境の著しい悪化
経営環境の著しい悪化には、材料価格の高騰や商品価格の大幅な下落、販売量の激減、技術革新による自社製品の著しい陳腐化などがあげられます。また、重要な法律改正や規制緩和、規制強化といった法律的環境の著しい悪化も含まれます。
市場価格の著しい下落
市場価格の著しい下落には、帳簿価額に比べて、市場価格が少なくとも50%程度下落した場合が該当します。
ただし、減損の兆候があるかどうか、またその程度については、必ずしも画一的に数値化できるものではありません。そのため、自社の状況を踏まえて、実態に応じた判断を行うことが重要です。
3. 減損損失の認識の判定
減損の兆候が確認された資産について、実際に減損会計を行うかどうかを判定します。具体的には、減損の兆候がある資産から生み出される将来キャッシュ・フローの総額(割引前)と、帳簿価額との比較を行います。将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合、減損損失の計上(認識)が必要です。
4. 減損損失を測定する
減損損失の計上が必要と判定された(認識)固定資産について、減損する金額の測定を行います。帳簿価額と回収可能価額の差額を計算し、その金額を減損損失として計上します。減損損失を求める計算式は以下のとおりです。
減損損失の計算式
減損損失=帳簿価額-回収可能価額
なお、回収可能価額は、「正味売却価額」または「使用価値」のいずれか高い方になります。正味売却価額とは、資産または資産グループの時価から処分費用見込額を差し引いた金額のことです。また、使用価値は、資産または資産グループの継続的使用と使用後の処分によって見込まれる、将来キャッシュ・フローの現在価値を指します。
正味売却価額や使用価値の計算は、専門知識がなければ困難なケースも少なくありません。正確な金額を算定するためには、税理士など専門家に相談するといいでしょう。
減損会計の仕訳方法
減損会計の仕訳方法には、「直接控除方式」と「間接控除方式」の2種類があります。直接控除方式が原則とされていますが、間接控除方式を用いることも認められています。それぞれの仕訳例について具体的に見てきましょう。
直接控除方式:減損金額を取得額から直接控除する方式
直接控除方式とは、減損損失の金額を、固定資産の取得価額から直接差し引く方法のことです。例えば、土地100万円、建物100万円、機械装置50万円の減損損失が発生した場合、以下のように仕訳を行います。
土地100万円、建物100万円、機械装置50万円の減損損失が発生した場合の直接控除方式の仕訳例
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減損損失 | 2,500,000円 | 土地 | 1,000,000円 |
建物 | 1,000,000円 | ||
機械装置 | 500,000円 |
間接控除方式:減損損失累計額を使用する方式
間接控除方式では、減損損失を取得価額から直接差し引くのではなく、「減損損失累計額」を表記して処理します。直接控除方式の例と同様に、土地100万円、建物100万円、機械設備50万円の減損損失が発生した場合、間接控除方式で仕訳を行うと、以下のようになります。
土地100万円、建物100万円、機械装置50万円の減損損失が発生した場合の間接控除方式の仕訳例
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減損損失 | 2,500,000円 | 減損損失累計額 | 2,500,000円 |
減損会計を行った後の影響
前述したように、大企業や上場企業には減損会計の適用義務がありますが、中小企業では適用は任意です。では、減損会計を行うと、企業にはどのような影響があるのでしょうか。減損会計を行うことで考えられる主な影響は、以下の3つです。
財務諸表に影響する
減損会計を行うと、損益計算書や貸借対照表といった財務諸表に影響を及ぼすことに気を付けましょう。損益計算書では、直接控除方式と間接控除方式のどちらで処理を行っても、減損損失が特別損失として計上されるため、減損損失の金額の分、当期純利益が減少します。
貸借対照表では、直接控除方式と間接控除方式のどちらの方法を選択するかによって表示が変わります。直接控除方式の場合、貸借対照表に記載されるのは、資産の取得価額から減損損失を差し引いた金額です。間接控除方式の場合は、取得価額と減損損失累計額の両方が貸借対照表に表示されます。いずれにしても、減損損失により、固定資産の帳簿価額は減少します。
なお、減損損失を計上しても現金の支出が発生するわけではないため、当期のキャッシュ・フロー計算書には影響がありません。ただし、減損損失を計上するということは、投資当初の見込みよりも利益が出ないことを意味するため、翌期以降のキャッシュ・フロー計算書の数値が悪化する可能性があります。
短期的に株価が下落する可能性がある
減損会計を行った事業年度は、大きな特別損失が発生することになります。場合によっては、損失が利益を上回り、赤字になってしまうかもしれません。そのため、減損会計を行った場合、短期的に株価に反映される可能性があります。
また、減損会計によって、企業の管理体制や資産評価方法に問題があると見なされ、市場や金融機関からの信頼が低下することも考えられます。その結果、資金調達などに影響を及ぼすことがあるかもしれません。
次年度以降の利益が改善する
減損会計は、大きな損失を発生させますが、その一方で、翌期以降の利益が改善するというメリットもあります。減損会計によって固定資産の帳簿価額が減少すると、その分、翌期以降の減価償却費が少なくなります。そのため、減損会計をしなかった場合よりも、翌期以降の利益はその分多く計上されることになるでしょう。
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この記事の監修者岡本匡史(税理士)
「岡本匡史税理士事務所」の代表税理士。
1979年和歌山県生まれ。滋賀県立膳所高校、横浜国立大学経営学部卒業。城南信用金庫、公認会計士事務所勤務を経て、2012年に豊島区池袋にて岡本匡史税理士事務所を設立。
低価格で手厚いサポートを行うことを目標としており、特に開業前~開業5年目の法人・個人事業主の税務会計が得意。
毎年、市販の確定申告本や雑誌の監修にも携わっている。