圧縮記帳とは?適用要件や対象、限度額などを解説
監修者: 岡本匡史(税理士)
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企業が補助金の交付などを受けて固定資産を取得した際には、「圧縮記帳」という制度を利用することができます。圧縮記帳を適用すると、補助金などにかかる法人税を翌期以降に繰り延べることが可能です。圧縮記帳はその年の税負担が軽減され、長期的な資金繰りにも役立つ制度ですが、適用にあたっては特殊な会計処理が必要になります。国や自治体では、企業を対象としたさまざまな補助金制度を設けています。交付された補助金などをより有効に活用するためにも、圧縮記帳について正しく理解しておきましょう。
本記事では、圧縮記帳のしくみや適用要件、仕訳方法の他、圧縮記帳を利用するメリット・デメリットについても解説します。
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圧縮記帳は課税所得となる利益を翌年度以降に繰り延べる制度
圧縮記帳とは、税法で規定された、課税の繰り延べをする会計処理のことです。国からの補助金などを利用して固定資産を取得した際、固定資産の取得価額から補助金の金額分を控除(圧縮)することで、一時的かつ多額の税負担を回避できます。
圧縮記帳の大きな目的は、課税によって補助金の効果が薄れないようにすることです。例えば、機械設備の購入にあたり、国から補助金の交付を受けたと考えてみましょう。補助金は事業活動上の売上ではありませんが、受給した事業年度の収入として計上され、法人税の課税対象になります。その一方で、機械設備の取得価額は、耐用年数に応じて減価償却を行うため、一括で損金計上することができません。そうなると、補助金を受給した年度の課税所得が大きくなり、税負担が増加して、受給した補助金の効果が薄れてしまいます。また、場合によっては、高額な税負担のために資金不足となり、補助金の目的である機械設備の取得ができない状況にも陥りかねません。
このような税負担を軽減するために設けられているのが、圧縮記帳です。圧縮記帳を適用した場合、補助金の額が圧縮損として計上され、固定資産の取得価額から控除されます。それによって補助金の益金と圧縮損の損金が相殺され、補助金分の課税負担を翌期以降に繰り延べることが可能になります。
ただし、圧縮記帳によって得られる効果はあくまで課税の繰り延べであって、税の免除ではありません。圧縮記帳によって固定資産の取得価額から補助金の額を控除すると、その分、減価償却費は少なくなります。そのため、圧縮記帳を適用してもしなくても、トータルで見ると収益の認識額は変わりません。
圧縮記帳が適用できる要件
圧縮記帳を適用するかどうかは企業の任意ですが、適用にあたっては所定の要件を満たす必要があります。適用要件の1つが、会計処理の方法です。圧縮記帳を行う場合は、帳簿価額を損金経理により減額する方法(直接減額方式)、または、積立金として積み立てる方法(積立金方式)による会計処理を行わなければなりません。さらに、確定申告の際には、圧縮記帳に関する詳細を記した明細(別表)の添付が必要です。また、清算中の法人は圧縮記帳を適用することはできません。
圧縮記帳の会計処理である直接減額方式と積立金方式については、後ほど詳しく解説します。
圧縮記帳の対象
上述した圧縮記帳が適用できる要件に加え、圧縮記帳には対象となるものが定められており、それぞれ圧縮限度額が決まっています。圧縮記帳を適用できる主なケースと、その限度額について見ていきましょう。
国庫補助金
圧縮記帳の対象になる代表的なものが、国庫補助金です。国庫補助金は、国や地方自治体が特定の施策を奨励したり援助したりする目的で給付する補助金を指します。また、ものづくり補助金やIT導入補助金など、国や自治体から直接交付されるものではなくても、国の補助金を原資とする理由から、圧縮記帳の適用が認められる補助金もあります。ただし、すべての国庫補助金が圧縮記帳の対象になるわけではないため、必ず個別に確認するようにしましょう。
なお、国庫補助金の圧縮限度額は、固定資産の取得に充てた補助金の額までと定められています。あくまで限度額なので、補助金の一部のみを圧縮記帳の対象としてもいいですし、まったく適用しなくてもかまいません。
工事負担金
工事負担金とは、電力会社やガス会社などの公益事業会社が、設備を施設するための資金として受け取ったお金のことです。そのため、一般の企業にとっては扱う機会が少ないといえるでしょう。工事負担金の圧縮限度額は、固定資産を取得した価額から、受け取った資金の額を差し引いた金額となります。
保険差益
災害や事故などで固定資産が滅失・損壊したために保険金等が支払われたとき、その固定資産の帳簿価額よりも受け取った保険金等の額が多いと、保険差益が発生します。この保険差益に対して、当該年度にまとめて課税されることになると、企業の負担が非常に大きくなり、災害や事故などの被害から回復する上で弊害となります。そのため、滅失・損壊した固定資産の代わりとなる同一種類の固定資産(代替資産)を取得した場合は、圧縮記帳の適用が可能です。保険差益の圧縮限度額は、以下の計算式で算出した金額となります。
保険差益の圧縮限度額の計算式
圧縮限度額=保険差益金の額×(代替資産の取得などに充てた保険金等の額÷(保険金等の額−減失経費の額))
なお、固定資産の滅失・損壊に伴う収益減少や費用の補てん、棚卸資産の滅失などによって支払いを受ける保険金等は、圧縮記帳の対象にはなりません。
交換差益
土地や建物などの固定資産を他者が所有する固定資産と交換した場合は、時価で譲渡および取得をしたものとして所得計算を行います。このとき、譲渡する資産の帳簿価額よりも時価が高い場合、金銭の授受はなくても差益(譲渡益)が発生して課税対象となります。このような交換差益に対しても、圧縮記帳の適用が可能です。ただし、圧縮記帳の対象になる交換にはさまざまな要件が定められているため、あらかじめ確認しておきましょう。交換差益の圧縮限度額の計算式は以下のとおりです。
交換差益の圧縮限度額の計算式
圧縮限度額=取得資産の価額-(譲渡資産の譲渡直前の帳簿価額+譲渡経費の額)
なお、固定資産を交換する際、譲渡資産の取得資産の時価での差額を補うために、金銭の授受があった場合には圧縮限度額の計算方法が変わります。
特定資産の買換
棚卸資産以外の特定の資産(譲渡資産)を譲渡して、その年度内に買換資産を取得し、取得から1年以内に買換資産を事業に用いた(見込みを含む)場合は、圧縮記帳の適用が可能です。圧縮記帳の対象になる買換および資産の種類には、所定の要件が定められています。特定資産の買換の圧縮限度額は、以下の計算式で算出した金額となります。
特定資産の圧縮限度額の計算式
圧縮限度額=圧縮基礎取得価額×差益割合×80%
圧縮基礎取得価額とは、買換資産の取得価額と譲渡資産の譲渡対価の額のうち、いずれか少ない金額です。また、差益割合は、以下の計算式によって算出できます。
差益割合の計算式
差益割合=(譲渡対価の額−(譲渡資産の帳簿価額+譲渡経費の額))÷譲渡対価の額
非出資組合の賦課金
非出資組合は、出資のない協同組合などを指します。また、非出資組合の賦課金とは、事業活動に必要な支出のために、組合員から集める資金のことです。非出資組合が、賦課金を固定資産の取得または改良に充てた場合は、圧縮記帳を適用できます。なお、圧縮限度額は、工事負担金の圧縮限度額に準じます。
圧縮記帳の方式
前述したように、圧縮記帳を適用する場合は、直接減額方式か積立金方式で会計処理を行う必要があります。それぞれどのような会計処理なのかを、仕訳例と共にご紹介します。
直接減額方式
直接減額方式は、受給した補助金等の額を、固定資産の取得価額から直接減額する方法です。補助金等の額は、「固定資産圧縮損」の勘定科目で費用として計上します。圧縮記帳という名のとおり、帳簿価額が圧縮されるため、後述する積立金方式に比べてわかりやすいでしょう。
直接減額方式の仕訳例は以下のとおりです。
直接減額方式の仕訳例
国庫補助金等の対象になる固定資産の取得のため、300万円の補助金の交付を受けた。その後、500万円の機械装置を購入した。なお、交付された補助金は全額圧縮記帳を適用し、機械装置は耐用年数5年の定額法で償却するものとする。
国庫補助金等の対象になる固定資産の取得のため、補助金300万円が交付された
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
普通預金 | 3,000,000円 | 国庫補助金 | 3,000,000円 | 補助金交付 |
500万円の機械装置を購入した
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
機械装置 | 5,000,000円 | 普通預金 | 5,000,000円 | 機械装置購入 |
固定資産の取得価額のうち、補助金の金額分を減額する
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
固定資産圧縮損 | 3,000,000円 | 機械装置 | 3,000,000円 | 圧縮記帳 |
減価償却費を計上する
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
減価償却費 | 400,000円 | 機械装置 | 400,000円 | 償却費の計上 |
圧縮記帳後の機械装置の取得価額は、「500万円−300万円=200万円」となります。定額法5年で償却するため、毎年の減価償却費は40万円です。
積立金方式
積立金方式は、補助金等の額を圧縮積立金として純資産に計上した上で、段階的に圧縮積立金を取り崩していく方法です。補助金等の交付や機械設備の購入においては、上述の直接減額方式と同じ仕訳を行いますが、その後の処理が異なります。直接減額方式と同様の例で、仕訳例を見ていきましょう。
積立金方式の仕訳例
国庫補助金等の対象になる固定資産の取得のため、300万円の補助金の交付を受けた。その後、500万円の機械装置を購入した。なお、交付された補助金は全額圧縮記帳を適用し、機械装置は耐用年数5年の定額法で償却するものとする。
国庫補助金等の対象になる固定資産の取得のため、補助金300万円が交付された
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
普通預金 | 3,000,000円 | 国庫補助金 | 3,000,000円 | 補助金交付 |
500万円の機械装置を購入した
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
機械装置 | 5,000,000円 | 普通預金 | 5,000,000円 | 機械装置購入 |
圧縮積立金の積立
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
繰越利益剰余金 | 3,000,000円 | 圧縮積立金 | 3,000,000円 | 圧縮積立金の計上 |
減価償却費を計上する
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
減価償却費 | 1,000,000円 | 機械装置 | 1,000,000円 | 償却費の計上 |
減価償却費は、当初の機械装置の取得価額500万円を基に計算します。
積立金の取り崩し
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
圧縮積立金 | 600,000円 | 繰越利益剰余金 | 600,000円 | 圧縮積立金の取り崩し |
圧縮積立金300万円を、定額法5年で取り崩します。
圧縮記帳のメリット:税負担を軽減できて資金の確保がしやすい
圧縮記帳のメリットは、固定資産を取得した年の税負担を軽減できることです。例えば、補助金や保険金などで収入額が多くなると、その年の税負担が大きくなってしまいます。しかし、圧縮記帳を適用すれば、単年度に多額の税金がかかるのを避けることができます。そのため、一時的な節税効果により、固定資産の取得後にまとまったコストが発生する場合などでも、資金を確保しやすいでしょう。
圧縮記帳の制度がないと、補助金の交付に伴ってまとまった額の税負担が発生するのでは、設備投資や事業拡大に向けた意欲がそがれてしまうかもしれません。圧縮記帳によって課税を繰り延べ、税負担を分散させることで、補助金などをより有効に活用しやすくなります。
圧縮記帳のデメリット:資産管理が複雑化し会計処理に注意が必要になる
圧縮記帳にはメリットがある一方で、資産管理が複雑になり手間がかかるというデメリットがあります。圧縮記帳では通常とは異なる会計処理が求められ、対象となる固定資産は他の資産と区別して管理しなければなりません。さらに、固定資産を取得した年度だけではなく、翌年度以降の会計処理にも注意しましょう。
また、圧縮記帳は課税の繰り延べであり、免除ではないため、適用年度の税負担が軽減される分、翌年度以降の納税額は増えることもあります。その他に、圧縮記帳で計上している資産を途中で売却した場合は、課税所得が多くなる可能性があります。
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この記事の監修者岡本匡史(税理士)
「岡本匡史税理士事務所」の代表税理士。
1979年和歌山県生まれ。滋賀県立膳所高校、横浜国立大学経営学部卒業。城南信用金庫、公認会計士事務所勤務を経て、2012年に豊島区池袋にて岡本匡史税理士事務所を設立。
低価格で手厚いサポートを行うことを目標としており、特に開業前~開業5年目の法人・個人事業主の税務会計が得意。
毎年、市販の確定申告本や雑誌の監修にも携わっている。