国際会計基準(IFRS)って何?中小企業がおさえておきたいポイント
2020/03/25更新

この記事の監修馬淵 宏真 氏(公認会計士・税理士/馬淵会計事務所代表)

会社を経営されている方であれば、「国際会計基準」や「IFRS」という言葉を聞いたことがあるもしれません。ご存知の通り、会社は最低でも年に1回は決算書(上場会社では財務諸表と呼びます)を作って、株主や銀行といった利害関係者に対して決算の報告をするとともに税務申告を行います。この決算書を作成したり理解したりするために必要な基準を会計基準と呼びます。
「国際会計基準」(以下、IFRS)とは、その会計基準の中でも「世界共通の会計基準」を目指して世界中の会計士や会計学者、そして企業の経理責任者等が集まり作成している会計基準のことをいいます。それに対して、日本で独自に作成されている会計基準は「日本基準」と呼ばれることが多いです。
IFRSの日本企業への義務付けはかなり先の話なので、中小企業には全く関係のない話に感じている経営者や経理担当者の方も多いでしょう。ですが、上場企業やそのグループ会社とビジネスを行う場合には、IFRSの考え方や概要だけでも知っておけば話が早かったり、逆に全く知らないと思わぬ落とし穴があったりもします。
そこで今回は、まず中小企業の経営者や経理担当者が押さえておきたい日本基準とIFRSの違いと、中小企業への影響について解説いたします。
日本における会計基準のトレンド
元々は日本基準とIFRSの間には考え方や会計処理に大きな違いがありました。しかし、2000年代以降、日本基準についてはIFRSに近づけるような変更が次々とおこなわれており(このことを会計用語で「コンバージェンス」といいます)、それに伴い、日本企業に対するIFRSの影響もどんどん大きくなってきています。
また、下の年表のとおり、日本において一時的に盛り上がったIFRS義務付けの動きは、リーマンショック後の長引く不景気を受けて産業界からコスト増となるIFRSの義務付けを先送りするよう要望書が出されたこと、東日本大震災からの復興を優先する等の判断から、2011年6月に当時の民主党政権の金融担当大臣がIFRSの義務付けを当面見送るという旨の声明を発表しましたことによりストップしました。それ以降、政権が変わっても、日本での動きはストップしたままです。
一方で、自民党政権に戻ってからの2013年にIFRS任意適用のための要件が緩和され、さらに2014年に、政府が新成長戦略「『日本再興戦略』改訂2014-未来への挑戦-」で、金融・資本市場の活性化の施策として「IFRSの任意適用企業の拡大促進」を掲げ、グローバル企業を中心に働きかけたこともあって、IFRSを任意適用する企業が急速に増えています。今では、上場企業を中心とした180社超の日本企業がIFRSを使っています。
下の年表から、浮世離れしていると思われがちな会計基準の世界も、意外にその時々の景気・経済の状況や政治情勢等と関係していることを読み取っていただけると思います。こうして見ると、会計基準の動きはご自身とは縁遠いことと思われていた方も、実は無関係ではないと感じられるのではないでしょうか。

このように、コンバージェンスによって日本基準はどんどんIFRSに近づいて行っていますし、任意適用する会社数は今後も右肩上がりで増加すると予想されます。
コンバージェンスやIFRSの任意適用は、単に上場企業や大企業の会計処理が変わるというだけでなく、ビジネス上の判断のものさしや、更にはビジネス慣行さえも変えるほどのインパクトを持つようになりました。それこそが、中小企業の経営者の皆さんもIFRSの概要についてだけでも知っておかれた方が、上場企業や大企業とビジネスを行う際に役立つという理由なのです。
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日本基準とIFRSの違い
日本においては、IFRSを義務付ける動きはストップしたままですので、IFRSを適用して株式公開(IPO)を目指す企業を除いては、IFRSが中小企業に直接適用されるとしても、かなり先の話になると思われます。
したがって、中小企業においては、自社の会計処理や決算に影響があるかという会計の技術的な観点よりも「大企業や海外企業と取引をする場合に押さえるべきポイントは何か?」という観点の問いかけの方が重要となります。
まずは日本基準とIFRSの主な違いを見てみましょう。
項目 | 日本基準 | IFRS |
---|---|---|
売上計上基準 | 契約に基づいた実現主義。請負契約等については進行基準
|
契約の形式や金額よりも、物品やサービスの顧客への提供実態を重視し、実態を反映するように売上計上 |
非上場株式の貸借対照表計上額 | 原則:取得原価 発行会社の財政悪化により実質価額が50%程度以上低下した場合は減損 | 何らかの方法で時価評価し貸借対照表に計上 |
M&A時に受け入れた無形資産の評価(買収側) | 特許権、商標権といった法律上の権利等、切り離して売却可能な無形資産を受け入れた場合は時価評価してオンバランス | 法律上の権利以外でも、顧客リスト、無特許の技術、受注残、データベース、ライセンス契約、フランチャイズ契約等、日本基準よりも幅広い無形資産を時価評価してオンバランス |
のれん(純資産評価よりも高額でM&Aをした場合の買収差額) | 20年以内で定額償却 | 償却しない(毎期1回は減損テスト) |
固定資産の耐用年数 | 実務的には法人税法の耐用年数でOK | 企業が資産を使用すると予定する期間 |
研究開発費 | すべて発生時に費用処理 | 研究費はすべて発生時に処理。開発費は一定の要件を満たす場合は資産計上 |
このように、コンバージェンスをしているとはいえ、日本基準とIFRSの間には違いのある部分もいくつも残っています。
ここから先は、その違いの中で、IFRS適用企業とビジネスをする場合に押さえるべきポイントについて解説します。
IFRS適用企業とビジネスをする場合に押さえるべきポイント
ここから先は具体例を出して説明します。以下の事例では、中小企業(A社)が読者の皆さんご自身の会社、IFRS適用企業(B社)が取引先の大企業や海外企業と思ってお読みいただければと思います。
① 売上計上基準 【IFRS適用企業(国内、海外とも)への売上がある場合】
IFRSでは、契約書の形式や金額よりも、物品やサービスの顧客への提供実態を重視し、実態を反映するように売上計上します。その結果、契約書に書いてあるのとは異なる金額で売上計上をするというケースもあります。

B社がA社からモノやサービスを仕入れて顧客に販売している場合には、販売先であるB社から、皆さんの会社(A社)に対し、契約の結び方をIFRSの考え方に沿うように変更を依頼される場合も想定されます。例えば、以下のような例が想定されます。
想定されるケース | 従来の契約方法の例 | IFRSの考え方に沿った 契約方法の例 |
---|---|---|
A社がB社にビルメンテナンスサービスを提供 | 複数のビルのメンテナンスを一括して契約 | 一棟一棟のビル毎に契約を分ける |
ソフトウェアを販売し、そのバージョンアップも提供 | ソフトウェア本体とバージョンアップサービスを一括して契約 | ソフトウェア本体とその後のバージョンアップサービスの契約を分ける |
IoT機器とそれを使ったIoTサービスを提供 | IoT機器とそれを使ったサービスを一括して契約 | IoT機器とそれを使ったサービスの契約を分ける |
なお、日本基準でも2021年4月以後に始まる事業年度から、新しくIFRSとほぼ同じ内容の売上計上基準の適用がスタートして、日本基準を使っている会社も含めて、すべての上場企業が同じような状況となります。
【参考資料】企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」等の公表(企業会計基準委員会)
したがって、今の販売先がIFRS適用企業ではないからといって安心はできません。早めに販売先に契約方法の変更があるかどうかを確認することが望まれます。
② 非上場株式の貸借対照表計上額 【株主にIFRS適用企業がいる場合】
日本基準では、企業が持つ非上場会社の株式を原則として取得価額で貸借対照表に計上しますが、IFRSでは毎期、何らかの方法で時価評価し直す必要があります。
このため、株主であるB社が持っているA社株式を時価評価するために、B社から、A社の将来の事業計画等の情報提供を求められることが想定されます。

③ M&A時に受け入れた無形資産の評価 【IFRS適用企業に会社を売却しようとする場合】
オーナー企業の場合、様々な事情で会社(A社)を手放すことがありえます。A社が優れた技術や強い顧客リスト等を持っている場合には、オーナーが持つA社株式を高値でB社に売却できるかもしれません。

優れた技術や強い顧客リストというのは無形の資産であり、A社の貸借対照表には計上されていませんが、買収するB社側では、それらを時価評価して貸借対照表に計上する必要があります。
そのようなケースでは、A社側では、時価評価のために必要な情報をそろえてB社に提出することになります。
まとめ
このように、IFRSが中小企業の会計処理や決算に直接的に関係することはほとんどないものの、IFRS適用企業からの玉突きでビジネスにも影響する可能性があります。中小企業の経営者や経理担当の皆さんも、IFRSの大まかな内容だけでも把握し、大企業ともうまく付き合いながら、ビジネスの発展、会社の成長に役立てましょう。
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この記事の監修馬淵 宏真(まぶち ひろまさ)/ 公認会計士・税理士
馬淵会計事務所代表。大手監査法人やコンサルティング会社にて、スタートアップ企業から日本を代表するグローバル企業まで、さまざまな成長過程の企業の会計監査や株式公開支援、国際会計基準(IFRS)導入支援、業務改革コンサルティングなどに従事した後、開業。 現在はクライアントの社会的信頼性を高め成長に寄与するため、会計分野にとどまらず、中期経営計画策定支援ガバナンス向上支援、内部統制構築支援なども含め、企業が次のステージに成長するための次の一手をアドバイスしている。大小多くの企業を見てきた豊富な経験から、企業にとっての「お手本」の引き出しが多いのが強み。ビジネスアンサンブル合同会社/馬淵会計事務所 ホームページ。
