出資金の勘定科目とは?仕訳方法やメリット・デメリットを解説
更新

事業や組織に対して出資者が提供する資金を、出資金といいます。出資者が出資した際には、その都度仕訳が必要で、その際に使用するのが「出資金」の勘定科目です。例えば、合同会社をはじめとする持分会社の社員になる場合や、信用金庫・信用組合の会員になる場合などは、出資した金額を「出資金」の勘定科目で計上します。
ただし、出資の中には、株式会社への出資など、「出資金」以外の勘定科目を使用するケースもあります。「出資金」は日常の取引で頻繁に使用する勘定科目ではないため、どのように仕訳すればよいか迷う方もいるかもしれません。出資金を正しく計上するには、「出資金」の勘定科目の意味や使用する場面、仕訳方法を把握することが大切です。
本記事では、「出資金」の仕訳方法について具体例を交えながら解説します。併せて、事業者が出資するメリットやデメリット、出資金を受け取った場合の経理処理についても紹介します。
会計・経費・請求、誰でもカンタンまとめて効率化!法人向けクラウド会計ソフト「弥生会計 Next」
「出資金」は出資者が事業や組織へ資金を提供する際に使用される勘定科目
「出資金」は、企業や組合などの事業・組織へ出資した際に用いられる勘定科目です。「出資金」の勘定科目を使用するのは、出資を受けた場合ではなく、出資者が他の企業や組合などに出資した場合に使用します。具体的には、以下のような場合に「出資金」の勘定科目を使用します。
「出資金」の勘定科目を使用する主なケース
- 信用組合や信用金庫などへの出資
- 協同組合への出資
- 株式会社以外の法人(合同会社、合資会社、合名会社など)への出資
- ゴルフ会員権の取得
- 任意組合や匿名組合契約に基づく出資
出資金は、組織を退会または脱退する際に払い戻されることが一般的です。そのため、出資にあたり支出が発生していますが資産として計上され、貸借対照表上の「投資その他の資産」に記載されます。
なお、出資金という言葉を聞くと、株式会社への出資をイメージする方も多いかもしれません。株式会社への出資とは、株式を購入し、その企業の株主になることです。株式会社は、自社株式の発行と引き換えに出資者から調達した出資金を資本金として計上し、資本金を元手にさまざまな事業活動を行います。株式会社へ出資した場合、「出資金」ではなく「投資有価証券」などの勘定科目で処理します。また、株式会社に出資した出資金は、原則として返還されることはありません。
出資金の仕訳方法
ここでは、出資したときに「出資金」の勘定科目で計上するケースの詳細と仕訳例を紹介します。それぞれ見ていきましょう。
信用金庫への出資の仕訳例
信用金庫や信用組合などの金融機関を利用する際には、出資して会員になる必要がある場合があります。特に、融資を受ける場合は原則として、出資金を提供して会員になることが必要です。支払った出資金は「出資金」の勘定科目で処理します。
仕訳例:信用金庫への出資金3万円を現金で支払った
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
出資金 | 30,000円 | 現金 | 30,000円 |
協同組合への出資の仕訳例
生活協同組合(生協)や農業協同組合(農協)といった協同組合のサービスは、基本的に組合員を対象としています。協同組合の組合員になるには、出資金を支払って組合に加入することが必要です。事業のために協同組合に加入する必要があり、協同組合に支払った出資金は、「出資金」の勘定科目で計上します。
仕訳例:生活協同組合の組合員になるために3,000円を出資した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
出資金 | 3,000円 | 現金 | 3,000円 |
株式会社以外の法人への出資の仕訳例
合同会社、合名会社、合資会社の社員になるために出資した場合も、「出資金」の勘定科目で計上します。ここでいう社員とは、従業員という意味ではなく、出資者(=経営者)を指します。
合同会社、合名会社、合資会社は、出資者自らが経営を行う企業形態です。このような企業形態を持分会社といいます。株式会社は、出資者である株主と企業を経営する経営者の役割が切り離されていますが、持分会社は「出資者=経営者」であり、所有と経営が一致しているという特徴があります。なお、現在は新規に設立することはできませんが、有限会社に出資する場合は投資有価証券として扱われます。持分会社に出資した出資金は、退職する際に払い戻しを請求できる場合があります。
仕訳例:合同会社の社員になるために200万円を出資した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
出資金 | 2,000,000円 | 現金 | 2,000,000円 |
ゴルフ会員権などの支払の仕訳例
会員制のゴルフ場やレジャー施設など、特定の施設・設備を優先的に利用する権利を得るために支出した場合は「出資金」として処理が必要です。これらは入会金や会費などと呼ばれることもありますが、経理処理上は、名義書換料、仲介料などの付随費用も含めて「出資金」として資産計上されます。
なお、ゴルフ会員権などの取得費用を「出資金」として計上できるのは、法人会員として入会する場合に限られます。個人会員として入会する場合や、法人会員であっても特定の人が業務と関係なく使用する場合などは、役員報酬・給与手当と見なされる可能性があるため注意しましょう。
仕訳例:ゴルフ会員権を取得し、付随費用を含めて150万円を支払った
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
出資金 | 1,500,000円 | 現金 | 1,500,000円 |
事業を共同で運営するために出資したときの仕訳例
他の事業者と共同で事業を運営するために、任意組合や匿名組合などの形式で出資を行うことがあります。この場合に提供した出資金も「出資金」の勘定科目で計上されます。
任意組合とは、各出資者が共同で事業を運営することを合意して成立する組合で、一般の事業組合のほか、映画会社や広告代理店、出版社などが共同で出資して映画を製作する映画製作委員会などがあります。また、匿名組合とは、出資者(組合員)が営業者に出資し、その営業から生じる利益の分配を受ける契約を締結することで成立する組合のことです。出資者の名前や個人情報は公にされないため、匿名組合と呼ばれます。
仕訳例:任意組合に200万円を出資した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
出資金 | 2,000,000円 | 現金 | 2,000,000円 |
任意組合などが決算したときの仕訳例
任意組合が事業を運営することによって発生した損益は、組合契約に分配割合を定めていなければ、各組合員の出資割合に応じて分配されます。任意組合からの損益分配の方法は、当該組合事業の収入金額、支出金額、資産、負債等をその分配割合に応じて各組合員の金額として計算する「総額方式」が原則です。ただし、会計処理の方法は出資契約などによって異なるため、決算の際には税理士などの専門家に相談することをおすすめします。任意組合から損益分配を受けた場合の一般的な仕訳例は以下のとおりです。
仕訳例:出資している任意組合が決算を行い、300万円の利益があった。自社の出資比率は20%のため、60万円の利益を計上した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
出資金 | 600,000円 | 投資収益 | 600,000円 |
出資金が返還されたときの仕訳例
信用金庫や信用組合、協同組合への出資金は、脱退・退会の際には返還されることが一般的です。出資金が返還されたときには、返還額を資産から控除する仕訳を行います。
仕訳例:信用金庫の会員を脱退し、出資金3万円が返還された
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金 | 30,000円 | 出資金 | 30,000円 |
出資によって損失が生じたときの仕訳例
出資先によっては、財務状況の悪化などにより、持分や会員権の時価(評価額)が著しく低下してしまうこともあります。例えば、ゴルフクラブ会員権の価値が、取得時に比べて大幅に下落し、回復の見込みが立たないようなケースです。このような場合は、生じた損失を計上するための減損処理が必要になります。
仕訳例:150万円で取得したゴルフ会員権の時価が50万円まで下落し、回復の見込みがない
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
出資金評価損 | 1,000,000円 | 出資金 | 1,000,000円 |
この場合は、実際の損失額「150万円-50万円=100万円」を、出資金評価損として計上します。
出資と融資・投資の違い
出資とよく比較されるのが、融資や投資です。出資と融資・投資では、資金の扱い方が異なります。出資とは、法人や個人が事業・組織に資金を提供することです。一般的には、事業の成長や成功を期待して、企業などの組織に資金を提供することを出資と呼びます。その一方で、融資とは金融機関などが法人や個人へ資金を貸し付けることです。融資を受けた資金は借入金であり、返済義務と利息が発生します。
また、投資とは将来的な利益を期待して資金を提供することです。投資先は多岐にわたり、事業のほか、不動産投資や株式投資、債券投資などがあります。出資と投資は似ていますが、投資は、より直接的なリターンを期待する性質があります。
出資する側における出資金のメリット(出資して株主になった場合)
出資する側のメリットは、配当金を受け取れる点です。
出資をすると、出資先の事業や組織に利益が出た場合に、配当金を受け取れることがあります。例えば、株式会社に出資した場合、処理する勘定科目は「出資金」ではなく、「有価証券」となりますが、広い意味での「出資」といえます。株主になると、保有株式の数に応じて利益の一部が配当金として還元されます。受け取れる配当金は、保有株式が多い、つまり出資金の額が多いほど大きくなるしくみです。1株当たりの配当金が10円だとすると、100株持っている人は1,000円、1,000株持っている人は1万円の配当金を受け取れます。また、出資した企業の業績が上がれば株価も上昇するため、株式を売却して売却益を得ることも可能です。ほかに、出資先の経営に影響力を持つことができるのもメリットとしてあげられます。
出資する側における出資金のデメリット(出資して株主になった場合)
出資をしても、常にリターンを得られるとは限らないことは、出資金のデメリットとしてあげられます。
配当金や売却益を得られるのは、出資先の事業が成功して利益が出た場合です。同じように、株式会社に出資してもその企業の業績が悪ければ配当金は受け取れません。また、出資先の企業の株価が下がると、株式の評価額が出資額を下回り、売却したときに損失が生じる可能性もあります。
さらに、出資した企業が倒産してしまった場合は、配当金を受け取れないだけでなく、出資金の価値がゼロになります。この場合、株式の売却が難しくなり、場合によっては出資額の全額が損失となる可能性もあるため、注意しましょう。出資先の企業の経営状態などを常にチェックすることが大切です。
出資金を受け取った場合の勘定科目
企業が出資金を受け取るのは、主に企業の設立時と増資時です。株式会社を設立する際には、発起人による資本金としての出資金の払い込みが必要になります。出資金は企業の資本金となり、事業を行う元手となります。ただし、出資金の払い込みをする段階では、まだ企業は設立されていません。そのため、出資金の振込先は、発起人の個人口座となります。その後、法人登記が完了して無事に企業が設立されると、出資金を発起人の個人口座から法人口座へ移し、資本金に振替する仕訳が必要です。
仕訳例:発起人名義の口座に資本金(出資金)500万円を預け入れた
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
預け金 | 5,000,000円 | 資本金 | 5,000,000円 |
仕訳例:法人名義の口座を開設し、発起人名義の口座から資本金(出資金)500万円を振替した
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 5,000,000円 | 預け金 | 5,000,000円 |
また、株式会社が増資のために新株を発行して出資を受け、その金額を資本金に組み入れる場合は、以下のように仕訳をします。
仕訳例:新株を100万円分発行し、100万円の出資を受けた(払込を受けたとき)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
普通預金 | 1,000,000円 | 新株式申込証拠金 | 1,000,000円 |
新株の発行にあたっては、払込期日を決めて出資者からの払い込みを受けます。
仕訳例:払込金額全額を資本金に計上した(払込期日、または払込期間の末日)
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
新株式申込証拠金 | 1,000,000円 | 資本金 | 1,000,000円 |
なお、株式会社の設立や株式の発行に際して資金が払い込まれたときには、資本金とは別に「資本準備金」を積み立てることが認められています。資本準備金の大きな目的は、万が一のときの準備金とすることです。事業を続けていく中で、多額の支出や赤字が発生する可能性があります。そのようなとき、資本金を取り崩すと、株主総会の特別決議や変更登記の手続きが必要になり、手間とコストがかかります。資本準備金を計上していれば、手続きも比較的スムーズです。ただし、資本準備金には上限があり、会社法によって「資本金の2分の1を超えない金額」と定められています。
例えば、株式会社が新株を発行して100万円の払い込みを受け、その2分の1を資本準備金として計上した場合の仕訳は、以下のように行います。
仕訳例:新株を100万円分発行して100万円の出資を受け、その2分の1を資本準備金として積み立てた
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
新株式申込証拠金 | 1,000,000円 | 資本金 | 500,000円 |
資本準備金 | 500,000円 |
会計ソフトなら日々の帳簿付けや決算書作成もかんたん
「弥生会計 Next」は、使いやすさを追求した中小企業向けクラウド会計ソフトです。帳簿・決算書の作成、請求書発行や経費精算もこれひとつで効率化できます。
画面を見れば操作方法がすぐにわかるので、経理初心者でも安心してすぐに使い始められます。
だれでもかんたんに経理業務がはじめられる!
「弥生会計 Next」では、利用開始の初期設定などは、対話的に質問に答えるだけで、会計知識がない方でも自分に合った設定を行うことができます。
取引入力も連携した銀行口座などから明細を取得して仕訳を登録できますので、入力の手間を大幅に削減できます。勘定科目はAIが自動で推測して設定するため、会計業務に慣れていない方でも仕訳を登録できます。
仕訳を登録するたびにAIが学習するので、徐々に仕訳の精度が向上します。

会計業務はもちろん、請求書発行、経費精算、証憑管理業務もできる!
「弥生会計 Next」では、請求書作成ソフト・経費精算ソフト・証憑管理ソフトがセットで利用できます。自動的にデータが連携されるため、バックオフィス業務を幅広く効率化できます。

自動集計されるレポートで経営状態をリアルタイムに把握!
例えば、見たい数字をすぐに見られる残高試算表では、自社の財務状況を確認できます。集計期間や金額の累計・推移の切りかえもかんたんです。
会社全体だけでなく、部門別会計もできるので、経営の意思決定に役立ちます。

「弥生会計 Next」で、会計業務を「できるだけやりたくないもの」から「事業を成長させるうえで欠かせないもの」へ。まずは、「弥生会計 Next」をぜひお試しください。
出資者として出資したときには適切な方法で仕訳をしよう
事業者が事業や組織に対して出資したときには、「出資金」の勘定科目で仕訳をします。「出資金」の計上には、信用組合や信用金庫、協同組合への出資、持分会社への出資、ゴルフ会員権の取得など、さまざまなケースがあります。その一方で、企業の設立や増資にあたって出資を受けた場合は、使用する勘定科目と仕訳方法が異なるため注意が必要です。仕訳の手間を軽減するには、「弥生会計 Next」などの会計ソフトを活用することをおすすめします。「弥生会計 Next」なら、日々の帳簿付けが簡単になるうえ、ミスや漏れの防止にも役立ちます。会計ソフトを利用して、経理業務の効率化を目指しましょう。
【無料】お役立ち資料ダウンロード
「弥生会計 Next」がよくわかる資料
「弥生会計 Next」のメリットや機能、サポート内容やプラン等を解説!導入を検討している方におすすめ

この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
