法人決算を自分で行うには?税理士なしで進める方法などを解説
監修者: 齋藤一生(税理士)
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すべての企業は、事業年度ごとに必ず決算を行わなければなりません。法人決算は仕組みが複雑で、準備しなければならない書類なども多岐にわたります。そのため、多くの企業では、法人決算業務を税理士に依頼しています。では、法人決算を税理士に依頼せず、自分で行うことは可能なのでしょうか。
ここでは、法人決算を自分で行う方法や、そのメリット・デメリット、税理士なしで法人決算が可能かどうかを判断するポイントなどについて解説します。
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法人決算とは、損益をまとめて書類を作成する一連の手続きのこと
法人決算とは、企業の年間の損益をまとめ、書類を作成する一連の手続きのことです。株式会社や合同会社などすべての企業は、規模にかかわらず、事業年度ごとに必ず決算を行わなければなりません。
決算は、その事業年度における「収益」「費用」「資産」「負債」などを取りまとめて損益状態を把握し、企業の財政状況を明らかにする作業です。決算において作成する書類を、決算書(正式には財務諸表または計算書類)と呼びます。損益計算書や貸借対照表といった、一度は耳にしたことがあるであろう書類です。また、決算で作成した決算書をもとに法人税などの税額を計算し、税務署等に申告することを「決算申告」といいます。
法人決算については別の記事で解説していますので、参考にしてください。
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法人決算は、税理士なしで自分一人でもできる?
法人決算を自分一人で行うことは可能です。ただし、法人決算は個人事業主の確定申告に比べて非常に複雑です。また、「決算書」と呼ばれる書類にも複数の種類があり、作成にあたっては税や会計、簿記などの知識が求められます。そのため、多くの企業では、法人決算を税理士や会計士に依頼しています。
しかし、法人決算を経営者自身や経理担当者が行うことに、何か法的に問題があるわけではありません。税理士に依頼せず、自分で法人決算を行うこともできます。
法人決算を自分で行うメリット
法人決算を自分で行うことで、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、法人決算を自分で行うことによって得られる主な2つのメリットをご紹介します。
税理士費用を削減できる
法人決算を自分でメリットの1つが、コストを抑えられることです。自社で法人決算を行えば、税理士への依頼費用がかかりません。一般的に、税理士に決算申告業務を依頼した場合の費用の相場は、15万円から25万円程度といわれています。この費用を丸々削減できるのは、法人決算を自分で行う大きなメリットといえます。
自分自身に知識が身につき、経営に活かすことができる
法人決算を行うには、簿記のスキルや税に関する知識が必要になります。そのため、法人決算を自分で行えば、おのずと専門知識が磨かれていくでしょう。また、経営者が法人決算を行う場合、決算書の作成を通して、自社の財務状況や経営成績を把握できるというメリットもあります。今後の経営方針を決めるうえでも、重要な判断材料になるはずです。
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法人決算を自分で行うデメリット
税理士なしで法人決算を行う場合、いくつかのデメリットも生じます。ここでは、法人決算を自分で行った場合の4つのデメリットについて説明します。
専門的な知識が必要になる
法人決算を自分で行うためには、専門的な知識が必要不可欠です。会計ソフトを利用すれば、かんたんに帳簿付けができます。ただし、決算ということになると、最低限の簿記の知識は必要だと考えておいたほうが良いでしょう。専門的な知識がないと、ミスなども起こりやすくなります。
時間と手間がかかる
法人決算に慣れていない人が自分で決算業務を行う場合、不明点があるたびに調べなければならず、結果的に膨大な時間と手間がかかってしまうというデメリットがあります。決算期には決算業務にかかりきりになり、本業を圧迫してしまうかもしれません。思うように営業活動ができず、売上に悪影響を及ぼす可能性もあります。
節税対策が十分にできない可能性がある
節税対策が十分にできない可能性がある点も、法人決算を自分で行った場合のデメリットです。税理士に依頼せずに法人決算を行うと、税理士から節税のアドバイスを受けることができません。法人には、個人事業主に比べて多くの節税メリットがあります。
しかし、節税する方法を知らなければ、対策の取りようがありません。法人の税金の仕組みは複雑なうえ、頻繁に税制改正があるため、専門知識のない人が自力ですべての情報を集めるのは困難です。節税対策が十分にできなかった結果、税負担が増えてしまう可能性があります。
税務調査の対応に困る場合がある
自分で決算申告を行った結果、ミスや漏れ、認識の誤りなどが生じ、税務調査の対象になる場合があります。
税理士なしで法人決算を行った場合は、税務調査の際にも自分で対応することになります。税の知識がないまま税務調査に臨むと、準備や対応に多大な時間がかかったり、根拠ある説明ができずに納得できない結果になったりすることも考えられます。追徴課税が出た際には、罰金や利息も取られてしまうのです。
税務調査だけを税理士に依頼したいと思っても、その税理士自身が決算申告に携わっていないと、会社の状況を把握しきれず、対応が難しい場合があるため注意が必要です。
法人決算を自分でできるか判断する基準
無理に自分で決算をしようとすると、膨大な手間と時間がかかり、ミスが起こったり、本業を圧迫したりすることになりかねません。下記に挙げる基準を参考に、法人決算を自分でできるかどうかを慎重に判断しましょう。
日常の経理業務を丁寧に行うことができる
法人決算を税理士なしで行ううえで、日ごろの経理業務が丁寧にできるか否かという点は重要です。法人決算は、日々の経理業務の集大成ともいえるものです。日々の帳簿付けや収支管理、財務状況の把握など、経理全般の業務を丁寧に行える人でなければ、自力での法人決算は難しいでしょう。同時に、法人決算を行うなら、ある程度の簿記の知識は身につけておく必要があります。
ひとり社長である
従業員がいないひとり社長の企業であれば、取引も比較的シンプルだと考えられるため、自分で法人決算を行うことも可能かもしれません。ひとり社長なら仕事量なども調整しやすいため、決算期に通常業務をセーブすることも可能でしょう。ただし、ひとり社長であっても、取引先や取引数が多い場合や、取引内容が複雑な場合などは、税理士に依頼したが安心です。
売上規模が大きすぎない
税理士なしでの法人決算は、規模が小さい企業のほうが向いています。売上高がそれほど多くないスモールビジネスなら、自分で決算を行ってもリスクは少ないと考えられます。赤字で法人税の納税が必要なさそうな事業年度に、法人決算に挑戦してみるのも1つの方法です。
節税対策にこだわらない
節税対策にこだわらない方であれば、自力で法人決算を行っても問題ありませんが、そうでない場合は、税理士なしの法人決算はおすすめしません。
前述したように、税理士なしでの法人決算では、節税対策が十分に行えない可能性があります。少しでも節税したいと考えるなら、税理士への依頼を検討することをおすすめします。決算申告だけでなく、税理士と顧問契約を結べば、会社の経営にかかわる節税も含めた中長期的なアドバイスをもらうことも可能だからです。
会計ソフトを導入できる環境である
自分で法人決算を行うなら、会計ソフトの導入は必須といえます。会計ソフトを利用すれば、決算の基本となる帳簿付けのミスや手間を軽減でき、また、入力したデータを反映して決算書を作成できるものもあります。さらに、スマートフォンからも取引の入力ができる会計ソフトを選べば、出先や移動中の隙間時間を活用して効率良く記帳を進めることができます。
法人決算を自分で行う方法
ここからは、実際に法人決算を行う流れについて解説していきます。法人決算は、大きくは下記のようなステップで進めます。
1 試算表を作成する
法人決算を行う際、まずは試算表を作成します。試算表とは、記帳の整合性をチェックするための集計表の役割を持つ書類です。帳簿のデータと実際の残高を突き合わせて内容が合致することを確認したら、試算表を作成し、借方、貸方の合計値が一致しているかどうかをチェックします。合計値が異なる場合は、仕訳やデータ入力にミスがあるということなので、見直しが必要です。ただし、会計ソフトを利用していれば、貸借が不一致となることはないでしょう。
2 決算整理仕訳を行う
試算表が完成したら、次は決算整理仕訳を行いましょう。決算整理仕訳とは、事業年度をまたぐ取引について、今期分と来期分に分けて整理する仕訳のことです。まだ支払いが済んでいないものや、これから代金を受け取るものなど、入金や支払いが来期になる取引を確認し、帳簿を修正します。
また、決算時の棚卸資産の残高を確認するために在庫を点検・計測する「実地棚卸」を行って適切に評価したり、固定資産の減価償却を行ったりします。決算整理仕訳を終えたら、試算表を改めて確定させます。
3 決算書を作成する
決算整理仕訳が完了して試算表が確定したら、決算書を作成します。法人決算で作成する決算書は、主に下記のとおりです。
書類名 | 内容 |
---|---|
貸借対照表(B/S) | 決算日現在の資産と負債、純資産の状態を表す決算時の残高一覧のような書類 |
損益計算書(P/L) | 収益と費用の損益計算をまとめ、一事業年度の利益を把握するための書類 |
個別注記表 | 貸借対照表や損益計算書など各決算書類の注記事項を一覧にしてまとめた書類 |
株主資本等変動計算書(S/S) | 1年間を通した株主資本の変動を表す書類 |
計算書類に係る附属明細書 | 計算書類(貸借対照表、損益計算書、個別注記表および株主資本等変動計算書など)を補足する重要な事項を示す書類 |
事業報告書 | 事業年度ごとの会社の事業内容や状況について報告する書類 |
事業報告に係る附属明細書 | 事業報告を補足する重要な事項を示す書類 |
4 取締役会と株主総会で承認を得る
作成した決算書は、会社法で定められている機関から承認を得る必要があります。株式会社の場合は、原則として取締役会、株主総会で承認を受けます。
社長と株主が同一人物の1人会社の場合は、自分1人で承認をすることになるので、ここは特に手間とはならないでしょう。ただし、株主総会議事録は作成しておきましょう。
またこの株主総会議事録にて、役員報酬の変更なども行っておきましょう。
5 法人税申告書を作成する
株主からの承認を得たら、次は決算書をもとに納めるべき税額を計算し、法人税申告書を作成します。法人税申告書は、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。法人が申告する税金は、法人税、消費税、法人事業税、法人住民税などです。法人税申告書は自力で作成するのが非常に難しいため、税理士に依頼するのが一般的です。
6 税金を納付する
作成した申告書を決算書とともに税務署等に提出し、確定した税金を納めます。税金の種類によって申告先が異なるので注意しましょう。例えば、法人税と消費税は所轄税務署に、法人事業税と法人住民税は都道府県税務事務所などに申告します。各種税金の申告・納付期限は、事業年度終了日の翌日から2か月以内です。
7 必要書類を保管しておく
貸借対照表や損益計算書、個別注記表などの書類は、原則として税法上では7年、会社法では10年の保存が必要と定められています。保存しなければいけない書類を確認したうえで、定められた期間はしっかり保管しておきましょう。
法人決算を自分一人でスムースに行うポイント
法人決算を自分一人でスムース行うには、どのようなことに気をつければよいのでしょうか。ここでは、法人決算を自分一人でスムースに行ううえで押さえておくべき主な2つのポイントをについて説明します。
経理業務を日頃からこまめに行っておく
法人決算を自分一人でスムースに行うためには、日ごろから経理業務をこまめに行なっておくことが必要不可欠です。
法人決算は帳簿をもとに進めます。当期分の記帳がすべて完了していなければ、決算処理に取り掛かることができません。決算前にまとめて記帳をしようとすると、作業量が膨大になるうえ、ミスも起こりやすくなります。決算前に慌てることのないよう、日頃からこまめな帳簿付けを心掛けましょう。
会計ソフトを利用する
法人決算を自分一人で行う際には、必ず会計ソフトを利用しましょう。前述のとおり、法人決算を行うには、日頃から取引をしっかり記帳しておくことが大切です。
しかし、毎日発生する取引について、日付や金額、勘定科目などを一つひとつ手書きや表計算ソフトで記帳するのは大変な作業です。会計ソフトを使えば、日々の記帳にかかる手間と時間を大幅に削減できるでしょう。
さらに、会計ソフトを利用すると、入力したデータをもとに、貸借対照表や損益計算書といった決算書類を自動で作成できます。自分で法人決算を行う場合も、書類ごとの様式に悩まずに済むはずです。
また、自分で法人決算を行うことを検討した結果、やはり税理士に依頼しようと決めた場合でも、会計ソフトで帳簿を作成していれば税理士とのやりとりが非常にスムースになります。仕訳入力までは自分で行い、その後の決算と税務申告は税理士に依頼するのも1つの方法です。
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