売上計上基準とは?種類や決め方、注意するポイントなどを解説
監修者:齋藤一生(税理士)
2024/08/26更新
企業の経営状況を正確に把握するためには、売上を計上するタイミングを揃えなければいけません。
例えば、4月1日に注文が入った商品を4月3日に発送し、4月4日に先方に到着、4月6日に検収が完了した場合、売上を計上すべきタイミングはいつでしょうか。経理担当者によって処理方法が変わってしまうと、正確な月の売上や年間の売上を算出できなくなってしまう可能性があります。そこで大切になるのが、売上計上基準です。
ここでは、売上計上基準の概要や種類、販売形態別の適切な売上計上基準の決め方のほか、注意点などについて解説します。
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売上計上基準とは、売上を計上するタイミングを決める基準のこと
売上計上基準とは、売上をどのタイミングで計上するかを決める基準です。
企業の商取引では、下記のような流れでさまざまなやりとりが生じます。
企業の商取引の流れ
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1買い手からの発注
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2売り手による受注処理
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3売り手からの商品発送
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4買い手への商品納品
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5買い手による検収
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6売り手からの請求
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7買い手からの支払い
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8売り手による入金額の確認と消込
このような業務の中で、いつ売上を計上するのかは、経理処理を行ううえで重要なポイントになります。異なるタイミングで売上を計上してしまうと、正確な集計ができなくなってしまうためです。
例えば、数日のずれであっても、月をまたいだ場合、当月の売上になるのか、来月の売上として処理するのかといった違いが出てしまいます。さらに、異なるタイミングで計上を行う経理担当者がいた場合、二重計上のリスクも高まるでしょう。
こうした問題を防ぐためには、売上計上基準を定めて、それに沿った運用を行う必要があります。経理業務を行う際は、自社の売上計上基準がいつなのかを意識しておくことが大切です。
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企業の売上計上基準の考え方は実現主義が基本
企業の売上計上基準の考え方は、「実現主義」が基本となっています。実現主義とは、「売上を得る権利が確定した時点で売上を計上する」という計上方法です。具体的には、商品やサービスを提供した時点になります。
企業会計原則の中の損益計算書原則には、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売または役務の給付によって実現したものに限る」と定められています。そのため、原則として売上は実現主義で計上しなければいけません。
その他の企業の売上計上基準の考え方
企業の売上計上基準は、「商品等の販売または役務の給付」が行われたのがいつなのかについて、いくつかの考え方があります。商品の納品やサービスの完了と考えるのが一般的ですが、実際には発送時点や先方への到着時点、検収時点など、売上計上基準にもいくつかの種類があります。
ここでは、「発生主義」と「現金主義」という売上計上基準の考え方について詳しく見ていきましょう。
発生主義
発生主義は、売上が発生した時点で売上を計上する方法です。実現主義と似た考え方ですが、実現主義は取引が確定した時点での計上、発生主義は取引が発生したタイミングでの計上になります。そのため、発生主義は取引が流れる可能性がありますが、実現主義では取引が確定しています。
例えば、売買契約を締結して商品の納入前に手付金を受け取った場合、発生主義ではその時点で売上を計上しますが、実現主義では納品後の計上です。手付金を放棄して売買が白紙になった場合、発生主義では正しい売上を把握しにくい可能性があるため、売上については実現主義を利用するのが原則とされています。一方、支払いは原則として発生主義で計上します。
現金主義
現金主義は、支払いや入金といった現金の動きがあった時点で計上を行う方法です。一定の要件を満たす小規模事業者が届け出を行った場合のみ利用できます。
現金主義は実際に現金が動いた時点で計上するため、一見明快に感じられるかもしれません。しかし、入金されるまでは売上に計上されないため「多くの注文が入っているにもかかわらず赤字」といった事態になりかねません。
また、支払いのタイミングが異なる取引先が多い場合、実際の注文数の推移と売上の推移も一致しなくなってしまうため、企業の実情を把握するには適さない方法です。
売上計上基準の主な種類
売上計上基準は、主に「発送基準」「引渡基準」「検収基準」「船積基準」の4つに分けられます。いずれも実現主義の原則に則った方法ではありますが、細かいタイミングが異なるため、自社がどの時点で売上を計上するのかを定めておく必要があります。
ただし、企業の会計処理には、一度定めた会計処理の方法などは基本的に変更せず、継続しなければならないという「継続性の原則」があるため、一度決めた売上計上基準は、原則として変更することができません。
売上計上基準やその他の会計処理方法を途中で変更すると、経営状況などを正しく把握できなくなってしまいます。継続して同じルールで計上を続けることで、イレギュラーな数値が生じることなく、連続した経営状況の推移などの確認が可能です。
なお、売上計上基準の種類のうち、どれを採用するかは、それぞれの企業が任意で決められます。しかし、事業内容に適した方法を選択しないと、実態を把握しにくくなったり、管理に手間がかかったりする可能性があります。後から変更することは難しいため、最初から自社に適した方法を選定してください。
主な4つの売上計上基準の詳細は、下記のとおりです。
発送基準
発送基準は、商品を発送した時点で売上を計上する方法です。倉庫や工場、小売店などから出荷したタイミングで計上することから、出荷基準と呼ばれることもあります。
ただし、発送のタイミングを基準にした出荷基準は、厳密には「取引が確定した」とはいえない可能性があります。例えば、「商品を発送したが受け取り拒否にあった」「宛先不明で戻ってきてしまった」といったケースでは、発送後に取引が白紙に戻るおそれがあるでしょう。
一方で、大量の商品を複数の宛先に販売する企業にとっては、発送した時点でまとめて売上の計上ができるため、効率良く処理できるというメリットがあります。
引渡基準
引渡基準は、商品を取引先に引き渡した時点で売上を計上する方法です。商品やサービスの顧客への提供が完了していれば、取引が実現し、売上金を受け取る権利が確定しているといえます。
一方で、いつ引き渡しが完了したのかを正確に知らなければならないという注意点もあります。一般的には、納品書の日付を基準に売上の計上を行いますが、サービス業など、いつの時点が引き渡し完了になるのかがあいまいな業種では、あらかじめタイミングを定めておくことが必要です。
検収基準
検収基準は、取引先による商品の検収が完了した時点で売上を計上する方法です。検収とは、納品物の内容や個数、品質などについて、注文内容との相違や問題がないかを確認することです。
検収が完了する前に売上を計上した場合、不備などによるキャンセルの可能性をなくすことはできません。そのため、検収基準にすることで、より正確な計上が可能です。オーダーメイド製品の作成など、納品物の細かいチェックが必要な業種に適しているといえるでしょう。
船積基準
船積基準は、商品が船に積み込まれた時点で売上を計上する方法で、主に貿易業で利用されます。
商品を船に積み込むと、船を運行する業者から荷物を積み込んだことを証明する「船荷証券」が発行され、船積基準では、この証券の日付を基準に売上を計上します。
特殊な販売形態で売上計上をする基準
商品をやりとりする際の方法は多種多様なため、前述した4つの売上計上基準に当てはまらない販売形態もあります。例えば、商品を別の業者に委託して販売してもらう場合や、商品の無料お試し期間が設けられている場合など、売上が確定するのがいつなのか迷うケースもあるでしょう。
ここでは、特殊な販売形態で売上計上をする基準について紹介しますので、判断に迷ったときの参考にしてください。
委託販売
委託販売とは、第三者に商品の販売を委託する販売方法です。例えば、自社の作成した雑貨を委託業者に預けてエンドユーザー向けに販売してもらう場合などが該当します。委託先に商品を買い取ってもらうのではなく、委託することが特徴です。
このようなケースでは、委託先の企業はあくまでも仲介を行うだけで、商品の売却先ではありません。取引が確定するのは、委託先の企業がエンドユーザーに商品を販売した時点だといえるでしょう。そのため、売上を計上するのもエンドユーザーに商品を販売した時点になります。販売するまでに受託者が倉庫等に保管している商品については、委託者の期末棚卸高に含めなくてはならないことにご注意ください。
予約販売
予約販売は、事前に商品の予約を行い、後日商品を受け渡す販売方法です。予約時に内金として料金の一部または全部を受け取る場合も珍しくありません。
予約販売では、商品やサービスを受け渡した時点で売上を計上します。予約日や内金が支払われた日付ではないため注意が必要です。
試用販売
試用販売は、試供品やサンプルの供与、無料お試し期間などを設けた販売方法です。サンプル品やお試し品を引き渡した日付は取引が成立した日とはいえず、実際の売買が成立したタイミングで計上を行う必要があります。
例えば、1週間のお試し期間の後、購入かキャンセルを決められる取引の場合、商品を提供した1週間後に購入が確定した時点で売上を計上します。また、サンプルなどを事前に送付していた場合も、その後改めて現物商品の申し込みを受けて、商品を発送した後で売上を計上してください。
割賦販売
商品の代金を分割払いで受け取る割賦販売では、商品やサービスを受け渡した時点で売上を計上するのが一般的です。
代金が支払われていない場合でも、商品やサービスを受け渡した時点で売上を得る権利は得ていると考えられるでしょう。そのため、未回収分の代金を含めた全額を商品やサービスを受け渡した時点で計上します。
ただし、分割払いの最終支払日に売上を計上する場合もあります。こちらは、すべての入金が確定してから売上を立てる方法です。
売上計上における注意点
売上の計上方法などに問題があると、企業の収益が変わってしまい、結果として税額などを正確に計算できなくなってしまうため注意が必要です。脱税といった大きな問題を指摘されるおそれもあるため、正確に売上の計上を行わなければいけません。売上を計上する際に注意する点としては、「二重計上」と「計上漏れ」があげられます。
二重計上
二重計上とは、売上を誤って二重に計上してしまうことです。二重計上を行うと、その分、売上が増えてしまうため、必要以上の税金を支払わなければならなくなります。また、売上の水増しは粉飾決算と見なされるおそれもあります。実際よりも多くの売上を上げているように見せかけて業績を偽るのは、大きな問題です。
反対に、経費を二重計上した場合は、本来よりも経費が大きくなり、利益が減ることになります。その場合、本来支払わなければならない税額よりも納税額が少なくなるため、脱税として問題にされる可能性があります。いずれにせよ、正しい計上が行えていないため、企業の信頼を損なうことになってしまうでしょう。
なお、二重計上は、売上計上基準が定まっておらず、異なる時点で複数回売上や経費を計上してしまった場合や、計上済みの売上や経費を誤って再度計上してしまった場合などに発生します。こうした二重計上を防ぐためには、売上計上基準を明確に定めておくことや、処理済みの案件と未処理の案件をわかりやすく区別できるようにしておくことなどが効果的です。
また、売上管理ソフトや経費管理ソフトなどを導入し、売上の計上を自動化するのもおすすめです。人の手による処理には、どうしてもヒューマンエラーが生じるリスクがあります。ソフトを導入することでミスを軽減し、正確性の高い処理ができるようになります。
計上漏れ
計上漏れとは、本来計上すべき売上や経費を計上しないことです。売上の計上が漏れると、本来の売上高よりも帳簿上の売上が少なくなり、過少申告になってしまいます。本来支払うべき税額が全額支払えていない状況となるため、単なるミスによる計上漏れではなくて意図的な脱税と見なされる可能性があるでしょう。
一方、経費の計上が漏れた場合は、本来の経費よりも経費の額が少なくなるため、課税額が高額になり、本来支払うべき税額よりも多くの税金を支払わなければいけません。罪に問われる可能性は低いものの、企業としては損失につながるほか、正確な経費の把握ができなくなるため、経営判断を誤る原因にもなりかねません。金融機関に知られると、信頼を失う可能性もあるでしょう。
計上漏れは「別の担当者が入力したと思った」「入力すべき処理を見落とした」といった原因で発生します。計上漏れを防ぐためには、売上管理ソフトや経費管理ソフト導入や入力ルールの策定、ルールに沿った運用の徹底などが効果的です。
新収益認識基準が適用されるのは一部の企業のみ
新収益認識基準とは、一部の企業に対して2021年4月からの事業年度に適用されることになった新しい会計基準です。
新収益認識基準では、売上計上にかかわる取引を、下記の5つのステップで認識します。
収益を認識するための5つのステップ
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1顧客との契約を識別
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2契約における履行義務(収益認識の単位)を識別
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3取引価格の算定
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4契約における履行義務に取引価格を配分
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5履行義務を充足したとき、または充足するにつれて収益を認識
新収益認識基準が適用になるのは、「上場企業(上場予定の企業、上場企業の子会社や関連会社などを含む)」と「会社法上の大会社に該当する企業」のいずれかに当てはまる企業です。該当する場合は、新収益認識基準への対応義務があります。
新収益認識基準適用後は、適用以前よりも売上の計上のタイミングが厳格になります。現状、中小企業については新収益認識基準への対応は任意です。しかし、今後、中小企業まで対応義務が広がる可能性もあるため、法制度の改正について随時確認しておきましょう。
自社に適切な売上計上基準を定めよう
自社に合った売上計上基準を「発送基準」「引渡基準」「検収基準」「船積基準」の4つから定め、それに沿った運用を継続していくことで、正確性の高いデータの蓄積が可能になります。売上計上基準を定めることは、正確な経理業務や申告にもつながるため、売上計上基準があいまいなまま業務を進めてしまうことがないよう、気を付けてください。
売上計上基準は、かんたんに基準の変更ができなかったり、売上計上のタイミングが企業ごとに異なったりします。そのため、自社の売上計上基準に合わせて経理業務を自動化できる「弥生会計 オンライン」のような会計ソフトを活用するのがおすすめです。経理業務を正確に進めるために、経理の自動化を検討してみてはいかがでしょうか。
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