企業会計原則とは?一般原則や守らなかった場合のペナルティを解説
監修者: 齋藤一生(税理士)
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企業会計原則とは、企業が会計処理において一般的に守るべき方針をまとめたものです。企業の会計・経理担当者の中には、「企業会計原則という言葉は聞いたことがあるが、具体的にどのような内容なのかわからない」という方もいるかもしれません。
企業会計原則は、日常の会計業務だけではなく、財務諸表(決算書)の作成にもかかわる重要なルールです。そのため、企業の会計業務に携わる方は、企業会計原則を正しく理解しておく必要があります。
ここでは、企業会計原則の概要や企業会計原則の中でも基本となる7つの一般原則、企業会計原則を守らなかった場合のペナルティなどについて解説します。
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企業会計原則は、企業が会計処理を行ううえで基準となるルール
企業会計原則とは、企業が会計処理を行ううえで基準となるルールで、1949年に、旧・大蔵省の企業会計審議会によって定められました。企業は、日々の会計業務をはじめ、財務諸表の作成においても、この企業会計原則に沿って会計処理を行わなければなりません。
財務諸表とは、事業年度ごとに企業の財政状態や経営成績をまとめた書類のことです。一般的に決算書とも呼ばれます。財務諸表にはいくつかの種類がありますが、そのうち貸借対照表と損益計算書は、企業規模にかかわらず、すべての企業に作成が義務付けられています。
財務諸表は、一般に公正妥当と認められる企業会計のルールに則って作成することが必要です。財務諸表を作成する際のルールが企業ごとに異なると、他社と内容を比較できず、財政状態や経営成績などを利害関係者に正しく報告することができません。この「公正妥当と認められる企業会計のルール」が、企業会計原則です。
企業会計原則は、企業会計の実務で慣習として発展したものから、一般的に公正妥当と認められた部分を要約することによってできたルールです。法律ではないため法的な拘束力はありませんが、すべての企業が遵守すべき基準として位置付けられています。会計監査の際にも、企業会計原則に則って、財務諸表が適正かどうか判断されます。
企業会計原則と企業会計基準の違い
企業会計原則は企業会計の基本ルールですが、具体的な会計処理については詳しく触れられていません。そのため、企業会計原則と併せて、実務上、主に用いられるのが「企業会計基準」です。
企業会計基準とは、企業が財務諸表(決算書)を作成したり、理解したりするために必要な基準のことです。国ごとに異なり、現在日本で認められているのは、「日本会計基準」「米国会計基準」「IFRS(国際会計基準)」「J-IFRS」の4種類です。
会計基準の種類と概要
会計基準の種類 | 概要 |
---|---|
日本会計基準 | 企業会計原則をベースとした日本独自の会計基準。国内の企業に最も多く採用されている会計基準。 |
米国会計基準 | 企業会計原則をベースとした日本独自の会計基準。国内の企業に最も多く採用されている会計基準。 |
IFRS(国際会計基準) | 現在、グローバルスタンダードとされている会計基準。EUでは、上場企業に対してIFRSの適用が義務付けられている。 |
J-IFRS | IFRSの内容を日本国内の経済状況などに合わせて調整した会計基準。日本版IFRSとも呼ばれる。 |
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企業会計原則の7つの一般原則
企業会計原則は、「一般原則」「損益計算書原則」「貸借対照表原則」という3つの原則から成り立っています。
その中で最も重要とされる一般原則には、下記の7つの原則が設けられています。
真実性の原則
真実性の原則とは、「企業会計は企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない」という原則です。この原則は企業会計原則の最高規範と考えられます。
企業の状況を利害関係者に報告する財務諸表は、真実に基づき正確に作成する必要があります。売上や在庫の過大計上による粉飾決算、情報の改ざんなどは決して行ってはいけません。ただし、企業会計においては、複数の処理方法が認められているケースがあります。
例えば、主な減価償却方法には「定額法」と「定率法」の2種類があり、企業や資産の状況に応じて減価償却方法を選択することが可能です。同じ固定資産について、企業ごとに異なる減価償却方法が採用されていたとしても、どちらも正しい処理であり、選択した方法が妥当であれば、真実性を満たすものとして認められます。
正規の簿記の原則
正規の簿記の原則は、「企業会計は、すべての取引につき、正規の簿記の原則に従って、正確な会計帳簿を作成しなければならない」とする原則です。
企業が行った取引を記録する際には、下記の3つ要件を満たす必要があります。
正確な会計帳簿の要件
- すべての取引について漏れなく記録する(網羅性)
- すべての取引について継続的・体系的に記録する(秩序性)
- すべての取引について客観的な立証が可能(検証可能性)
実務上、これらの要件を満たす記録に該当するのが、複式簿記で作成された帳簿です。借方と貸方に分けて記録することで、企業のお金の増減と出入りを可視化する複式簿記は、正規の簿記の原則に定める正確な会計帳簿といえます。取引の内容をメモやノートに残すだけでは、継続的・体系的に整理されているとはいえません。
資本取引・損益取引区分の原則
資本取引・損益取引区分の原則とは、「資本取引と損益取引を明瞭に区別し、特に資本剰余金と利益剰余金とを混同してはならない」と定める原則です。
資本取引とは、株式の発行や増資、減資など、資本を直接増減させる取引のことです。一方、損益取引とは、商品の売買に代表されるような、収益や費用に関する取引のことを指します。資本取引と損益取引を区別せずに処理すると、財政状況や経営成績が財務諸表に正しく反映されなくなってしまうため、資本取引と損益取引は区別することが必要です。例えば、資本取引である株主からの出資を損益計算書の収益に計上してしまうと、企業活動の本来の利益を損益計算書から読み取れなくなってしまいます。
また、資本取引・損益取引区分の原則では、資本剰余金は資本取引から生じた余り、利益剰余金は損益取引から生じた利益の積み重ねで、原資が異なります。そのため、資本剰余金と利益剰余金を明確に区別するように求めています。
明瞭性の原則
明瞭性の原則とは、「企業会計は、財務諸表によって、利害関係者に対し必要な会計事実を明瞭に表示し、企業の状況に関する判断を誤らせないようにしなければならない」という原則です。
例えば、財務諸表を作成する際には、利害関係者の誤解を招くような表現は避けなければなりません。そのため、決算報告書の配列や勘定科目の選択を適切に行うことなどが求められます。
また、減価償却方法など、貸借対照表や損益計算書だけではわからない情報を注記することも、明瞭性の原則に当てはまります。この明瞭性の原則を守ることで、企業は、利害関係者から自社の財政状況や経営成績について誤った判断を下されるのを防ぐことが可能です。
継続性の原則
継続性の原則は、「企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない」と定める原則です。
真実性の原則で触れた減価償却方法のように、企業の会計処理においては、2つ以上の方法が認められているものがあります。こうした会計処理方法を毎年変更するようなことがあっては、期ごとの損益を正しく比較できず、企業による利益操作も可能になってしまいます。そうなると、投資家や取引のある金融機関の判断を誤らせてしまう可能性があります。そのため、一度選択した会計処理方法を正当な理由なく変更することは、継続性の原則に反する行為となるため、行ってはいけません。
保守主義の原則
保守主義の原則とは、「企業の財政に不利な影響を及ぼす可能性がある場合には、これに備えて適当に健全な会計処理をしなければならない」という原則です。
これは、将来に備えて企業の安全性を高めるために、企業に不利益をもたらす可能性がある場合は早めに費用として処理し、確実な収益を計上しようとする考え方です。
例えば、取引先の経営状況が厳しく、売掛金の貸し倒れが懸念される場合、あらかじめ貸倒引当金を設定し、債権を正しく評価することが、経営の健全化につながります。ただし、行きすぎた保守主義は、真実性の原則に反するため注意が必要です。
単一性の原則
単一性の原則とは、「株主総会提出のため、信用目的のため、租税目的のため等種々の目的のために異なる形式の財務諸表を作成する必要がある場合、それらの内容は、信頼しうる会計記録に基づいて作成されたものであって、政策の考慮のために事実の真実な表示をゆがめてはならない」とする、複数の会計帳簿の作成を禁止する原則です。
企業は、株主総会や金融機関に提出するため、税務申告のためなど、提出先や目的に応じてさまざまなパターンの財務諸表を作成します。財務諸表の形式が異なっても、元になる帳簿は1つとし、事実と異なる表示や計算をしてはいけません。
例えば、金融機関に提出する財務諸表では利益を大きくしたり、税務申告のための財務諸表では利益を小さく見せたりするようなことは認められません。
企業会計原則の損益計算書原則と貸借対照表原則
企業会計原則には、前述した「一般原則」のほかにも、「損益計算書原則」と「貸借対照表原則」という原則があります。損益計算書原則は損益計算書に、貸借対照表原則は貸借対照表に対応した原則となっています。
損益計算書原則
損益計算書原則は、財務諸表のうち、損益計算書を作成する際の基本的なルールがまとめられたものです。損益計算書とは、一会計期間における企業の収益と費用の損益計算をまとめた書類のことです。損益計算書原則には、費用と収益の計上時期や、損益計算書の表示に関する内容などが定められています。
貸借対照表原則
貸借対照表原則には、貸借対照表の作成における基本的なルールがまとめられています。貸借対照表とは財務諸表の1つで、決算日時点の資産と負債、総資産の状態を表す残高一覧のような意味を持つ書類のことです。貸借対照表原則では、貸借対照表の表示や各資産の貸借対照表価額の算定方法などが定められています。
企業会計原則を守らなかった場合のペナルティ
企業会計原則は、すべての企業が遵守すべき基準とされているものの、法的な拘束力はありません。そのため、企業会計原則を守らなかったとしても、その行為自体に対して何らかのペナルティが発生するわけではありません。
しかし、企業会計原則および企業会計基準による「公正妥当な企業会計のルール」は、会社法や法人税法、金融商品取引法など、さまざまな法律と密接に関わっています。
企業会計原則を守らなかった場合は、たとえ意図していなかったとしても、会社法など関連する法令に違反する可能性があるため注意が必要です。法令に違反すると、状況によっては刑事罰や行政処分の対象になることもあります。
企業会計原則の覚え方
企業会計原則のうち7つの一般原則は、企業の会計・経理担当者が必ず知っておくべき重要な原則です。しかし、これから起業する方や経理初心者の方にとっては、なじみのない言葉が多く、一つひとつの原則を覚えるのは大変かもしれません。
そのような場合は、7つの原則の1文字目の漢字を順番に並べて、「しん・せい・し・めい・けい・ほ・たん」と覚える方法があります。 ただし、語呂合わせにはなっていないので、言葉のリズムで覚えてしまうか、「しん・せい」に「申請」や「真正」、「し・めい」に「氏名」や「指名」など、イメージしやすい意味を当てはめてみるのもいいでしょう。
企業会計原則を理解し、適切な会計処理を行おう
企業会計原則は、企業が会計処理を行ううえで準拠しなければならない原則です。企業の会計・経理業務においては、企業会計原則の目的や内容を正しく理解し、それぞれの原則に沿って帳簿や財務諸表の作成を行わなければなりません。特に、企業会計原則の7つの一般原則は、すべての会計処理の基本となる重要なルールです。自社の財務情報を正しく報告するためにも、常に企業会計原則を守ることを意識しましょう。
会計処理の基本は、日々の取引を帳簿に記録する仕訳ですが、企業は商品を販売したり材料を仕入れたりするほか、設備投資など日々多くの取引を行います。それらすべての取引を、ルールに沿って正しく帳簿に記録するのは大変手間がかかります。そのようなときは、少ない負担で企業会計原則に則った帳簿が作成できる、会計ソフトの導入がおすすめです。
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