労働基準法の残業時間の上限は?残業手当の計算方法の具体例も解説

2024/03/01更新

この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

残業とは、規定の労働時間を超えて働く業務のことを指します。従業員に残業をさせた場合、会社は残業時間に応じた賃金、つまり残業手当を支払う必要があります。ただし、その残業が労働基準法で定められた労働時間(法定労働時間)を超えるかどうかで、残業手当の扱いは異なります。

ここでは、労働基準法における残業時間の定義や上限について解説すると共に、残業時間や残業手当の具体的な計算方法について解説します。

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残業時間の定義

残業は、厳密には「法定内残業(法定内労働時間)」と「法定外残業(法定外労働時間)」の2つに分けられます。「残業手当=割増賃金」というイメージを持っている方もいるかもしれませんが、必ずしもすべてのケースで割増賃金が発生するわけではありません。

割増賃金の支払い義務があり、労働基準法によって労働時間の上限が規定されているのは、残業のうち法定外残業となります。残業時間とそれに伴う残業手当について正しく理解するためにも、まずは法定内残業と法定外残業の違いを知っておきましょう。

法定内残業

法定内残業とは、所定労働時間を超えて労働基準法で規定する法定労働時間の範囲内での残業のことです。労働基準法では、労働時間の上限を原則「1日8時間・週40時間」と定めており、これを法定労働時間といいます。

例えば、勤務時間が9時から17時(休憩1時間)の従業員を18時まで残業させた場合、労働時間は8時間です。この場合は法定労働時間の範囲内なので、17時から18時の1時間の労働は法定内残業ということになります。

法定外残業

法定外残業とは、前述した法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える残業のことです。例えば、勤務時間が9時から17時(休憩1時間)の従業員を20時まで残業させると、労働時間は10時間になります。この場合、3時間の残業のうち1時間は法定内残業、法定労働時間を超えた2時間が法定外残業となります。

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残業時間の上限規制

2019年4月施行(中小企業への適用は2020年4月)の働き方改革関連法(改正労働基準法第36条)によって、法定労働時間を超える時間外労働に罰則付きの上限が設けられました。それまで実質的には決まっていなかった残業時間の上限について、2019年4月以降段階的に法規制されることになったのです。

なお、そもそも労働基準法においては、1日の労働時間の上限を「1日8時間・週40時間」と規定しており、それを超える労働、つまり残業は原則禁止されています。ただし、あらかじめ労使の合意のもと「36協定(労働基準法第36条にもとづく労使協定)」を締結し、管轄の労働基準監督署に届け出ていれば、従業員に36協定の範囲内で残業をさせることが認められています。同時に、従業員に時間外労働をさせる場合には、所定の割増率で割増賃金を支払う必要があります。

36協定が定める時間外労働の上限時間

従業員に時間外労働をさせる場合に必要な36協定とは、労働基準法第36条にもとづく労使協定のことで、正式には「時間外・休日労働に関する協定届」といい、「36(サブロク)協定届」とも呼ばれています。

36協定が定める時間外労働の上限は「月45時間・年360時間」です。臨時的な特別の事情がなければ、この上限を超えることはできません。36協定を結ばずに法定労働時間を超える残業をさせたり、36協定を結んでも時間外労働が「月45時間・年360時間」を超えたりした場合は、労働基準法違反により罰則の対象となります。

36協定に違反した場合の罰則

36協定に違反すると、労働基準法第119条により、使用者は6か月以下の懲役または30万円以下の罰金の対象となります。罰則の対象となるのは、時間外労働をした従業員ではなく使用者、つまり企業側です。36協定に違反するケースには、次のようなものが挙げられます。

36協定に違反するケース

  • 36協定を結ばず従業員に時間外労働や休日労働をさせた
  • 36協定を締結したが労働基準監督署への届出をせず、従業員に時間外労働や休日労働をさせた
  • 36協定の特別条項に該当しないにもかかわらず、時間外労働の上限を超えて従業員を働かせた
  • 36協定の特別条項を結んだが、特別条項で定められた上限を超えて従業員を働かせた

36協定の特別条項

36協定では、時間外労働の上限を「月45時間・年360時間」と定めています。ただし、臨時的に限度時間を超えて時間外労働を行わなければならない特別の事情が予想される場合に限り、その上限を超えて従業員を働かせることができます。これが、36協定の特別条項です。

特別条項を設けた場合は、月100時間未満(2~6か月での平均は80時間以内)、年720時間以内(休日労働を含む)という上限が設けられ、上限を超える時間外労働が認められます。

残業時間の割増賃金の考え方

法定労働時間を超えて従業員を働かせた場合は法定外残業となり、会社には割増賃金の支払い義務が発生します。

割増賃金には、時間外労働の他、法定休日に働かせた場合の「休日労働」、22時~5時の深夜に働かせた場合の「深夜労働」があり、種類によって割増率が異なります。割増賃金の最低割増率は、次の表のとおりです。

労働時間の種類ごとの最低割増率
種類 支払う条件 最低割増率
時間外労働
(残業手当)
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えた場合 1.25
時間外労働が限度時間(1か月45時間、1年360時間等)を超えた場合 1.25
時間外労働が1か月60時間を超えた場合(※1) 1.5
深夜労働
(深夜労働手当)
22時から5時までの間に勤務した場合 0.25(※2)
法定休日労働
(休日労働手当)
法定休日(週1日)に勤務した場合 1.35
  • 2023年4月1日より適用(大企業は既に施行済み)
  • ※2 「深夜手当のみ」の割増率

割増賃金が重複して発生する場合もある

割増賃金は1種類だけではなく、重複して発生する場合もあります。例えば、時間外労働が深夜の時間帯(22~5時)に及んだ場合の割増賃金は、「時間外労働(125%以上)+深夜労働(25%以上)」で、通常労働時の150%以上の割増率となります。

また、法定休日における休日労働が、同時に深夜労働にも該当する場合は、「法定休日労働(135%以上)+深夜労働(25%以上)」で、通常労働時の160%以上になります。

固定残業時間(みなし残業時間)を超えた場合は超過時間に応じて賃金が割り増しとなる

会社によっては、就業規則や労働契約の定めによって、月々の給与の中にあらかじめ一定時間の残業手当が含まれていることがあります。これを、固定残業(みなし残業)制度といいます。

固定残業制では、給与計算の根拠となる労働時間の中に一定の残業時間が含まれているため、その範囲内の残業であれば残業手当は発生しません。ただし、固定残業の範囲を超えて従業員を働かせた場合は、超過した時間に応じて、割増賃金を支払う必要があります。

残業時間と残業手当の計算方法の具体例

続いては、一般的な勤務体系の場合をはじめ、フレックス制や裁量労働制といった多様な勤務体系の場合の残業時間や残業手当の計算方法について、具体例と共に解説していきます。

一般的な勤務体系の場合

まずは、一般的な勤務体系で、法定労働時間を超えて時間外労働をした場合を見てみましょう。

時間外労働の割増賃金は、1時間あたりの賃金の125%以上です。計算式にすると「1時間あたりの賃金(時給)×1.25×残業時間」です。1時間あたりの賃金は、「所定内賃金÷月平均所定労働時間」で求めます。

例:
所定内賃金32万円、月平均所定労働時間160時間(8時間×20日)の人が1時間の時間外労働を行った場合

1時間あたりの賃金:32万円÷160時間=2,000円
残業手当:2,000円×1.25(割増率)×1時間=2,500円

なお、時間外労働が同時に深夜労働にも該当する場合、その時間の割増率は「時間外労働(125%以上)+深夜労働(25%以上)」で、150%以上となります。この場合、深夜労働に該当する分については、「1時間あたりの賃金(時給)×1.5×深夜労働時間」となります。

例:
月給32万円、月平均所定労働時間160時間(8時間×20日)の人が5時間の時間外労働(うち1時間が深夜労働)を行った場合

1時間あたりの賃金:32万円÷(8時間×20日)=2,000円
残業手当:2,000円×1.25(割増率)×4時間=1万円
深夜労働手当:2,000円×1.5(割増率)×1時間=3,000円
総残業手当:1万円+3,000円=1万3,000円

フレックスタイム制の場合

フレックスタイム制とは、あらかじめ決められた総労働時間の範囲内で、始業や終業の時刻を労働者が自由に決められる制度です。働く時間を自由に設定できるので、法定労働時間の「1日8時間・1週40時間」を超えてもすぐには時間外労働とみなされるわけではありません。

フレックスタイム制で時間外労働とみなされ残業手当(割増賃金)が発生するのは、「清算期間」と呼ばれる一定の期間を区切り、その清算期間における法定労働時間の総枠を超えた場合です。法定労働時間の総枠は、「1週間の法定労働時間(40時間)×清算期間の暦数÷7日」という計算式で求められます。

  • 所定労働時間が法定労働時間と同一ではない場合は、労使協定で個別に定めなくてはなりません。

法定労働時間の総枠は、例えば清算期間を1か月とした場合、その月が31日まであれば「40時間×31日÷7日=約177.1時間」となり、1か月の労働時間がそれを超えると時間外労働として割増賃金の支払いが必要になります。

割増賃金の計算方法は「残業手当=基礎賃金×割増率×残業時間」となります。基礎賃金は、月給制の場合は「所定内賃金÷月平均所定労働時間」で求めます。

例:
1時間あたりの基礎賃金2,000円、清算期間が1か月(28日間)の人が165時間労働した場合

法定労働時間:40時間×28日÷7日=160時間
残業時間:165時間-160時間=5時間
残業手当:2,000円×1.25(割増率)×5時間=1万2,500円

裁量労働制の場合

裁量労働制とは、実際に働いた時間ではなく、あらかじめ定めた一定時間を労働時間とみなす制度です。例えば、みなし労働時間を8時間と定めた場合は、実際に働いたのがそれより多くても少なくても、労働時間は8時間として扱われます。

ただし、規定のみなし労働時間が法定労働時間を超えて設定されている場合、法定労働時間を超過した時間が時間外労働となり、残業手当として賃金が割り増しとなります。例えば、みなし労働時間を9時間と定めた場合は、みなし労働時間の9時間から、法定労働時間の8時間を引いた1時間分が割増賃金の対象です。

例:
1時間あたりの基礎賃金2,000円、1か月のうち所定労働日数が20日で、会社規定により、所定労働時間が8時間、みなし労働時間が9時間に設定されている人の場合

1日の残業時間:9時間-8時間(法定労働時間)=1時間
1日の残業手当:2,000円×1.25(割増率)×1時間=2,500円
1か月の残業時間:1時間×20日=20時間
1か月の残業手当:2,500円×20時間=5万円

変形時間労働制の場合はルールによって残業時間の考え方が異なる

変形時間労働制とは、1年単位・1か月単位・1週間単位と、一定の期間内で労働時間を柔軟に調整する制度です。特定の日または週において、原則の法定労働時間を超えることがあっても、月や年といった一定期間の範囲内で平均した週の労働時間が法定労働時間を超えなければ、変形労働時間制で定められた所定労働時間の範囲であれば、時間外労働とはみなされません。

変形労働時間制は、通常の労働契約よりも労働時間の管理や残業の考え方が複雑で、残業手当の計算も容易ではありません。また、変形労働時間制を導入する際は、労働基準監督署へ協定届や書面による労使協定、就業規則、期間中の労働日および時間がわかる勤務カレンダーの提出が求められるため、注意が必要です。

残業時間や残業手当の計算には給与計算ソフトを活用しよう

従業員を残業させたときには、残業時間に応じて残業手当を支払うことになります。ただし、その残業が時間外労働なのか、休日労働や深夜労働に該当するのかなどによって、残業手当の計算方法は変わってきます。誤った知識で従業員を残業させていると、労働基準法違反になってしまうおそれもあるため注意が必要です。

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この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

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