インボイス制度で免税事業者からの仕入はどうなる?仕訳例も解説
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インボイス制度下では、免税事業者からの課税仕入れは仕入税額控除を適用できません。そのため、インボイス制度における免税事業者の取引先への対応について悩んでしまう事業者もいるでしょう。インボイス制度には仕入税額控除の経過措置も用意されているため、免税事業者への対応を検討するとともに、有効活用していきたいところです。
本記事では、インボイス制度の導入後、免税事業者からの仕入れやその対応がどのように変化するのか、経過措置や仕訳例と併せて解説します。
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インボイス制度で免税事業者からの仕入は税額控除を適用できなくなる
冒頭でもふれたように、インボイス制度では適格請求書(インボイス)発行事業者以外の事業者、つまり免税事業者(または適格請求書発行事業者登録をしていない課税事業者)からの課税仕入では、仕入税額控除を適用できません。仕入税額控除のために必要な適格請求書(インボイス)を受領できないためです。
適格請求書発行事業者に登録できるのは課税事業者であるため、免税事業者のままでは適格請求書発行事業者になることができません。適格請求書を交付できない事業者からの課税仕入は、仕入税額控除の対象外になるため、仕入分の消費税も自社で全額負担する必要があるのです。
ただし、仕入税額控除については経過措置が設けられており、2023年10月1日から3年間は仕入税額相当額の80%、2026年10月1日から3年間は同様に50%の控除が可能です。その間は、経過措置の対応である旨を記載した帳簿を付けて、受け取った請求書等は決められた期間保存をします。
なお、納税者自身が買手側で簡易課税制度を選択している場合は、受け取る請求書は適格請求書である必要はありません。免税事業者からの仕入についても納税する消費税額に影響を及ぼしません。なぜなら、簡易課税の場合は、売上に係る消費税額から売上に係る消費税額にみなし仕入率を乗じて消費税額を算出するためです。
インボイス制度の概要
インボイス制度は、正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、事業者が消費税を正しく納めるための制度です。インボイス制度では、登録済みの適格請求書発行事業者のみが適格請求書を交付することができます。買手側が消費税の仕入税額控除をするためには、原則的に売手側が交付した適格請求書が必要になりました。
なお仕入税額控除とは、消費税の計算において顧客から預かった消費税のうち、実際に仕入や経費に支払った消費税を控除する仕組みです。
- 仕入税額控除の計算式
- 納付する消費税額=売上時に受け取った消費税額-仕入や経費にかかった消費税額
消費税を重複して納めないためにも、仕入税額控除は正確に行う必要があります。
適格請求書発行事業者になるには登録申請が必要
インボイス制度において仕入税額控除の適用を受けるためには適格請求書を受け取り、保存しておく義務があります。適格請求書発行事業者に登録できるのは、課税事業者のみです。
適格請求書発行事業者になるには、納税地を管轄する「インボイス登録センター」へ「適格請求書発行事業者の登録申請書」を郵送するか、e-Taxで登録申請を行います。この手続きを行うと、後日、登録番号が通知されます。
免税事業者との取引で検討すべきこと
売手側が免税事業者である場合、今後の取引については、自社への影響も含めて価格なども検討し、交渉しなければなりません。取引を続けて仕入税額控除の適用を受けるためには、課税事業者へ転換し、適格請求書発行事業者となるための登録申請をして、適格請求書を交付するように交渉・相談する必要があります。
インボイス制度開始後に、免税事業者との取引において価格の引き下げ交渉などを行う場合は、下請法や独占禁止法などの法律に抵触しないよう、慎重に進める必要があります。その際、どのような行為が問題となる可能性があるのかを把握しておきましょう。
取引対価の引き下げ
買手側が、免税事業者との取引において仕入税額控除を受けられないことを理由に取引価格の引き下げを要請した場合、双方納得したうえで取引価格を設定するのであれば、取引価格を引き下げても独占禁止法上、問題となるわけではありません。
しかし、価格交渉が形式的なもので、買手側の都合だけで極端に低い価格を設定し、免税事業者が負担していた消費税額も支払えないような価格に引き下げた場合は、独占禁止法上問題となることがあります。
商品・役務の成果物の受領拒否等
買手側が、売手側から商品の購入や役務の提供について契約をした後、売手側が適格請求書発行事業者でないことを理由に商品の受領を拒否することは、優越的地位の濫用とされ、行政処分の対象となる可能性があります。
協賛金などの負担の要請等
買手側が、インボイス制度の実施を機に、免税事業者である売手側に対して取引価格の据置きを受け入れる代わりに、その仕売手側に別途、協賛金や販売促進費などの名目で金銭の負担を要請することは優越的地位の濫用とみなされ、行政処分の対象となることがあります。
これは、該当する金銭の負担額とその算出根拠などについて売手側との間で明確になっておらず、売手側が計算できない不利益を与えることになる可能性があるからです。
購入・利用強制
買手側が、インボイス制度を機に免税事業者である売手側に対して取引価格の据置きを受け入れる代わりに、該当する取引にかかる商品・役務以外の商品・役務の購入を要請することは、優越的地位の濫用として問題となることがあります。
これは、売手側が事業遂行上、必要としない商品・役務であり、またはその購入を希望していない場合があるからです。
課税事業者への転換要請
課税事業者が、インボイス制度に対応するために取引先の免税事業者に対して課税事業者へ転換するよう要請すること自体は、独占禁止法上問題となるものではありません。
しかし、「課税事業者に転換しなければ取引価格を引き下げる」「それに応じなければ取引を打ち切る」など、一方的に通告することは、独占禁止法上または下請法に抵触する可能性があります。
売手側が免税事業者であることを理由に、買手側が消費税相当額の一部または全部を支払わない
買手側が下請事業者に対して、免税事業者であることを理由に、消費税相当額の一部または全部を支払わない行為は、下請法で禁止されている「下請代金の減額」に該当します。
下請事業者が課税事業者へ転換したにもかかわらず、その後の価格交渉に応じない
下請事業者が免税事業者から課税事業者へ転換したにもかかわらず、売手側が免税事業者であることを前提に行われた価格の交渉に買い手が応じず、一方的に従来どおりの価格に据え置いて発注する行為は、下請法で禁止されている「買いたたき」に該当します。
免税事業者からの仕入に対する経過措置がある
課税事業者にとって、免税事業者からの仕入は、仕入税額控除が適用できず税負担が増します。そこで、インボイス制度においては、免税事業者からの仕入については経過措置が設けられています。
経過措置の期間や割合、仕訳例についても確認しておきましょう。
経過措置の概要
インボイス制度開始後、免税事業者との取引については、経過措置の適用が可能です。経過措置とは、インボイス制度の導入から6年間、現行の「区分記載請求書等」でも一定割合の仕入税額控除が経過措置として認められる仕組みです。
経過措置の期間と割合は、下記のとおりです。
仕入税額控除についての段階的な経過措置と適用期間
- 2023年10月1日~2026年9月30日:仕入税額相当額の80%
- 2026年10月1日~2029年9月30日:仕入税額相当額の50%
ただし、2029年10月1日以降は、免税事業者との取引については完全に仕入税額控除が不可能となるため注意が必要です。
経過措置が適用されるには、「免税事業者から受領する区分記載請求書等と同じ事項が記載された請求書」と「インボイス制度の経過措置適用を受ける旨を記載した帳簿」を保存する必要があります。
経過措置を適用した際の帳簿への記載事項例
- 課税仕入の相手方の氏名または名称
- 課税仕入を行った年月日
- 課税仕入にかかる資産または役務の内容(課税仕入れが他の者から受けた軽減対象資 産の譲渡等にかかるものである場合には、資産の内容および軽減対象資産の譲渡等にかかるものである旨)及び経過措置の適用を受ける課税仕入である旨
- 課税仕入にかかる支払い対価の額
「経過措置の適用を受ける課税仕入である旨」の記載については、 個々の取引ごとに「80%控除対象」、「免税事業者からの仕入」などと記載します。「※」や 「☆」といった記号・番号等を表示し、かつ、これらの記号・番号等が「経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨」を別途「※(☆)は80%控除対象」などと表示する方法も認められます。
経過措置を適用した場合の仕訳例
続いては、インボイス制度開始後に仕入税額控除の経過措置を適用した場合の仕訳例をご紹介します。
仕訳例
免税事業者から本体価格1万円、消費税率10%の商品を現金で仕入た場合
上記の場合、経過措置を適用して仕入税額相当額の80%で処理する際は、仕訳は以下の2通りのいずれかで行います。
- 該当費用に上乗せする方法
- 取引時(支払い時)に仕訳を完結させる場合は、該当費用に上乗せする形で仕訳します。1万円の課税仕入にかかった消費税額は1,000円です。しかし、経過措置を適用した場合、一定期間は消費税額の80%分が仕入税額控除を適用できます。残りの金額は、事業者負担として計上することになります。
経過措置を受けられる期間と割合
- 2023年10月1日~2026年9月30日:仕入税額相当額の80%
- 2026年10月1日~2029年9月30日:仕入税額相当額の50%
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仕入 | 10,200円 | 現金預金 | 11,000円 |
仮払消費税等 | 800円 |
- 雑損失で処理する方法
- 決算時に改めて仕訳する場合は、雑損失での処理が可能です。前述した該当費用に上乗せする仕訳とは異なり、取引時(支払い時)は現行どおりに計上し、決算時に改めて「雑損失」という形で仕入税額控除を受けられない分(20%)を仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仕入 | 10,000円 | 現金預金 | 11,000円 |
仮払消費税等 | 1,000円 |
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
雑損失 | 200円 | 仮払消費税等 | 200円 |
なお、仕入と経費のいずれも、免税事業者へ支払った金額は摘要欄に「免税事業者」などの記入が必要です。課税事業者との取引と同様に税抜仕訳を行い、決算時に「免税事業者」で仕訳を抽出することになります。その支払総額に対して控除されない税額(20%)を掛けて、決算仕訳を行います。
インボイス制度における免税事業者からの仕入に対応できるようにしよう
インボイス制度では、免税事業者からの仕入については、仕入税額控除を受けるために保存が必要な適格請求書の交付を受けられないため仕入税額控除も行うことができません。しかし、インボイス制度開始後も一定期間は経過措置が設けられています。取引先の免税事業者と今後の取引について相談や交渉も行いながら、経過措置を有効活用していきましょう。
なお、免税事業者と今後の取引や課税事業者への転換などについて相談する際は、下請法や独占禁止法などの法律に抵触しないよう、慎重に進めることも大切です。
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