固定資産除却損とは?対象となる固定資産や仕訳方法などを解説
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減価償却期間中に使用しなくなった固定資産がある場合、その資産は固定資産台帳から除却することが必要です。除却とは、帳簿上で資産を除く会計処理のことであり、実際に資産を廃棄または使用を中止した場合などに行われます。このとき、まだ簿価(帳簿上の価値)が残っている固定資産を除却すると、残存簿価分は「固定資産除却損」として損失計上されます。会計処理上は「固定資産除却損」という勘定科目が使われ、この除却損も損益計算書に費用として反映されます。除却が適切に行われていないと、不要な固定資産が帳簿に残ってしまい、資産計上が過大になるだけでなく、税務上の負担が増える可能性もあるため注意しましょう。
本記事では、固定資産除却の対象となる固定資産の種類や、廃棄・減損・売却との違い、仕訳方法などについて解説します。
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固定資産除却損とは、有形固定資産を除却した際に発生する損失のこと
固定資産除却損とは、使用しなくなった土地や建物、機械、車両などの有形固定資産を取り壊し・廃棄し、帳簿価額(簿価)を除却する際に発生する損失です。
除却できる固定資産は、現在使用しておらず、今後も使用予定のないものに限られます。すでに価値がなくなっている不動産や耐用年数を超えた設備であっても、事業で使用している限りは除却できません。固定資産除却損として計上するには、固定資産を物理的に取り壊しまたは破棄し、使用不能かつ今後も使用予定がないことが明確である必要があります。
それに対して、無形固定資産は、ソフトウェアなど一部の資産を除いて固定資産除却の対象にはなりません。具体的には、特許権や商標権などの法的な独占権利、施設権利、営業権利(のれん)などの無形固定資産を手放した際に生じた損失を、固定資産除却損として処理されないのが一般的である点に注意しましょう。
固定資産については、こちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
固定資産除却損の対象となる固定資産
固定資産除却損の対象となる固定資産の例として、以下のものがあげられます。
固定資産除却損の対象となる主な固定資産
- 建物
- 建物付属設備
- 機械装置
- 工具器具備品
- 車両運搬具
除却する固定資産に応じて、仕訳帳には「◯◯除却損」と記載するのが一般的です。これは、固定資産除却損という勘定科目に対する補助科目として扱われ、例えば、建物であれば「建物除却損」、車両運搬具であれば「車両運搬具除却損」といったように、除却された固定資産の種類を明確にするために使用されます。これにより、財務データの内訳をより詳細に把握できるようになります。
固定資産除却を証明するための書類と保管のポイント
固定資産除却の際に取得した廃棄証明書や廃車証明書は、除却を証明する資料となるため、適切に保管する必要があります。廃棄証明書は固定資産除却損の計上のための書類であり税務上保管が必要な書類に該当します。そのため、法人の場合7年間、の保管が必要です。
なお、廃棄証明書を取得できない場合は、廃棄後の写真や除却に関連する稟議書・議事録、または費用に関する請求書・領収書などで代用できます。固定資産の廃棄や取り壊しなどが完了していても、除却されたことを証明する書類がなければ、税務調査で指摘を受ける可能性があります。必要書類を準備したうえで、いつでも参照できるように整理して保管することが大切です。
除却と廃棄・減損・売却の違い
固定資産除却と混同されやすい用語に、廃棄や減損、売却があります。それぞれの違いを明確に整理して理解することが大切です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
除却と廃棄の違い
除却と廃棄の違いは、「帳簿上の処理」なのか「実際の廃棄行為」なのかという点です。
廃棄とは、実際に固定資産を捨てる行為そのものを指します。これに対して、除却とは帳簿上で資産を除く会計処理のことです。現在使用しておらず、今後も使用する見込みのない固定資産を廃棄した際は、固定資産除却損として処理されます。
除却と減損の違い
除却と減損では、対象資産の使用状況や会計処理の目的が異なります。
減損とは、固定資産の収益性が低下し、投資額の回収が困難になった場合に行う会計処理のことです。減損処理を行う場合、条件によっては、回収可能と見込んだ金額まで帳簿価額を減額します。その際、該当する固定資産を現在使用しているかどうか、今後も使用する予定かどうかは問われません。これに対して、固定資産除却は資産をすでに使用しておらず、今後も使用しない前提で廃棄や取り壊しを行う点が大きな違いです。
減損については、こちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
除却と売却の違い
除却と売却では、資産の処分方法と収益への影響が異なります。
売却とは、固定資産を有償で譲渡することを意味します。売却によって帳簿価額に変動が生じる点が特徴です。売却額が帳簿価額を下回った場合は「固定資産売却損」として処理され、帳簿価額よりも売却額が高かった場合は「固定資産売却益」として処理されます。固定資産売却益として処理する場合、損失ではなく利益として計上されるため、資産は手元からなくなりますが、企業の当期純利益は増加します。これが固定資産除却との大きな違いです。
固定資産除却損は節税効果が期待できる
固定資産の除却は、その性質上、頻繁に行われるものではありません。企業の経営状態を示す損益計算書では、こうした一時的な損失は「特別損失」として分類されます。固定資産除却損も、臨時的に生じる損失であるため、損益計算書上は特別損失として計上されます。したがって、固定資産除却損の計上によって、残存簿価の分、当期の課税所得が減少するため、節税効果が見込めるケースもあります。
よくあるケースとして、新たな資産の購入に伴い、それまで使用していた設備や機器などが不要になることがあります。このような場合、新しい固定資産と従来の固定資産を重複して所有していることから、従来の固定資産を廃棄する場合や、今後使用する見込みがなく後述の有姿除却に該当するようであれば、固定資産除却の処理を行い、固定資産の合計価額を減らしておくことが望ましいでしょう。耐用年数が10年以上などの固定資産で、残存価額があるものを重点的にチェックしていくと効果的です。
ただし、固定資産を廃棄していない場合、固定資産除却損をその年の損金に算入することは原則として認められていません。廃棄が間に合わないなど何らかの事情があるようなら、固定資産除却損を損金に算入するには、その固定資産が「有姿除却」の要件に該当するかを確認する必要があります。
有姿除却とは、現在および将来にわたって使用しない固定資産について、廃棄していない場合でも、一定の要件を満たせば固定資産除却損として処理できる制度のことを指します。当面は使用しないものの、今後使用する可能性が少しでもある固定資産に関しては、有姿除却の処理を行うことはできません。有姿除却には、この他にも必要書類などの要件があるため、それらを慎重に確認したうえで適用することが大切です。
有姿除却の適用要件
有姿除却に該当する具体例としては、耐用年数内であっても使用されなくなった固定資産や、減損処理の対象とならない固定資産があげられます。いずれもその固定資産が今後の事業に使用されないことが条件です。一時的に使用を停止している固定資産や、将来的に事業で使用される可能性がある固定資産は該当しません。国税庁Webページでは、有姿除却の要件として以下の2点を示しています。
有姿除却の要件
-
1.その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産
-
2.特定の製品の生産のために専用されていた金型等で、当該製品の生産を中止したことにより将来使用される可能性のほとんどないことがその後の状況等からみて明らかなもの
- 出典:国税庁「第1款 除却損失等の損金算入
」
したがって、有姿除却を行う際には該当する固定資産が今後使用される可能性がないことを証明する書類を準備する必要があります。ただし、固定資産の種類や状況に応じて、適用判断は個別に行う必要があるうえ、必要書類に関しても該当する固定資産ごとに異なりますので、有姿除却の適用が可能か不明な場合や判断に迷った場合には、税理士などの専門家に相談しましょう。
固定資産除却損の仕訳方法
固定資産除却損の仕訳は、「一般的な除却」「除却に費用が発生する場合」「廃材に価値が生じる場合」の3つの状況に応じて処理する必要があります。また、自社の会計処理において直接法と間接法のどちらを採用しているかによっても、処理方法が異なります。
直接法とは、減価償却費を固定資産の帳簿価額から直接差し引いて仕訳する方法です。これに対して、間接法では減価償却累計額を用いて簿価を間接的に減額します。それぞれの仕訳方法を状況別に見ていきましょう。
一般的な除却の場合の仕訳例
一般的な除却の場合の仕訳では、期首から除却が行われる日までの減価償却費(減価償却累計額)を計上します。ここでは、固定資産の取得価額120万円、うち40万円を償却済みであり、期首から除却までの減価償却費が20万円の仕訳例を見てみましょう。
固定資産の除却に費用がかからなかった場合、固定資産の取得価額から減価償却累計額および期首から除却までの減価償却費を差し引いて固定資産除却損を求めます。なお、この「期首から除却までの減価償却費」がすでに当期の損益計算書に費用として計上されている場合は、除却損の算出において重複して控除しないよう注意しなければなりません。二重計上すると費用が過大に認識され、損益の正確性が損なわれる可能性があります。
仕訳例:直接法を用いる場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 200,000円 | 固定資産 | 800,000円 |
固定資産除却損 | 600,000円 |
上記のとおり、直接法では固定資産勘定から減価償却費を直接差し引きます。よって、固定資産の貸方金額は、減価償却累計額40万円が引かれた80万円です。固定資産除却損は、固定資産の帳簿価額から減価償却済みの20万円と、減価償却累計額の40万円を差し引いた金額(60万円)を計上します。
仕訳例:間接法を用いる場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 400,000円 | 固定資産 | 1,200,000円 |
減価償却費 | 200,000円 | ||
固定資産除却損 | 600,000円 |
間接法では、減価償却累計額ならびに固定資産の項目に取得時の価額を記載します。固定資産の帳簿価額から減価償却済みの20万円と、減価償却累計額の40万円を差し引いた金額(60万円)が固定資産除却損となる点に関しては、直接法と同様です。
除却に費用が発生する場合の仕訳例
固定資産の除却に際して廃棄や取り壊しのための費用が発生した仕訳では、除却に伴って発生した費用は、除却費用として固定資産除却損に組み込まれます。
ここでは、取得価額120万円の固定資産のうち40万円が償却済みであり、除却に伴い廃棄費用8万円を現金で支払ったケースを見ていきましょう。期首から除却までの減価償却費は、前述の例と同じ20万円としています。
仕訳例:直接法を用いる場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 200,000円 | 固定資産 | 800,000円 |
固定資産除却損 | 680,000円 | 現金 | 80,000円 |
仕訳例:間接法を用いる場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却累計額 | 400,000円 | 固定資産 | 1,200,000円 |
減価償却費 | 200,000円 | 現金 | 80,000円 |
固定資産除却損 | 680,000円 |
減価償却費や固定資産除却損の計上方法は、一般的な除却の場合と変わりません。除却費用がかからなかった場合と異なるのは、除却に伴って発生した費用8万円を現金として計上している点です。この費用は固定資産除却損に含まれるため、一般的な除却の場合と比べて固定資産除却損が8万円増えています。
廃材に価値が認められる場合の仕訳例
固定資産を解体したり、スクラップ処理したりした際に生じた廃材に一定の価値が認められる場合があります。このようなケースの仕訳では、発生した廃材の価値を「貯蔵品」として計上します。前述した2つの例と同じ条件で、廃材に3万円の価値があるとした場合の仕訳例を見ていきましょう。
仕訳例:直接法を用いた場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貯蔵品 | 30,000円 | 固定資産 | 800,000円 |
減価償却費 | 200,000円 | ||
固定資産除却損 | 570,000円 |
仕訳例:間接法を用いた場合
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
貯蔵品 | 30,000円 | 固定資産 | 1,200,000円 |
減価償却累計額 | 400,000円 | ||
減価償却費 | 200,000円 | ||
固定資産除却損 | 570,000円 |
減価償却累計額、減価償却費、固定資産除却損、固定資産の金額は、前述した2つの例と変わりません。一点異なるのは、借方に貯蔵品が計上されていることです。廃材に3万円の価値が認められたことにより、固定資産除却損が3万円少なくなっています。一般的な除却の場合は60万円だった固定資産除却損が、上の例では57万円となっています。
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固定資産除却損は、有形固定資産の取り壊しや破棄などに伴って発生する損失を指します。固定資産除却損の処理が可能な固定資産の条件は、現在および将来にわたって使用される見込みがないことです。一時的に使用を停止している設備・機器や、状況に応じて今後再び使用する可能性がある建物などに関しては、除却処理の対象とならない点に注意しましょう。
本来であれば固定資産除却を行うべき固定資産が帳簿上に残っていると、固定資産の状況を正確に把握できなくなるだけでなく、使用されていない固定資産にも、固定資産税が課される可能性があります。税務調査の際に不備の指摘を受ける可能性もあることから、除却すべき固定資産がある場合には、すみやかに対応することが大切です。
事業の内容や規模によっては、多数の固定資産を管理することになります。固定資産台帳を定期的に確認すると共に、耐用年数が長期にわたる固定資産については、現状使われているか、今後も使い続ける見込みがあるかといった点を注視していくことが大切です。本記事で紹介した固定資産除却に関する会計処理の基本を参考に、固定資産の適切な管理をおすすめします。
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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
