労務費とは?人件費との違いや計算方法、労務費管理でできることを解説
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製造業をはじめとする多くの企業にとって、労務費を正しく算出することは、原価の正確な把握と健全な経営判断に欠かせません。しかし、「労務費」と「人件費」の違いが曖昧なまま管理されているケースも多く見られます。
本記事では、労務費の定義や人件費との違い、労務費の算出方法、管理のポイントについて解説します。
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労務費とは、製品やサービスを提供するための労働にかかる費用のこと
労務費は、製品やサービスを提供するために行った労働に対して支払う費用を指します。例えば、製造業における製造原価は、大きく「材料費」「経費」「労務費」の3つに大別され、このうち製品の製造に携わる従業員の人件費が労務費です。また、システム開発やソフトウェア開発によってサービス提供を行う企業であれば、開発に携わるエンジニアの人件費などが労務費となり、売上原価に計上されます。
製造原価、売上原価についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
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人件費と労務費の違い
人件費と労務費は、どちらも従業員に対する支出であるため混同されがちですが、会計上の扱いが異なります。
人件費は、企業が雇用する従業員に支払う費用全体を指しますが、労務費はその中でも製造に関わる従業員に支払う費用に限定されます。製造業などでは製品の原価を正確に把握するため、製造に関する人件費を「労務費」として区別して集計するのです。製品やサービスを提供する企業では、従業員の人件費が販管費なのか、それとも労務費なのかを正しく見極めることで、正しい原価を把握します。
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労務費の内訳
労務費として計上される項目は、以下の5つです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
賃金
賃金とは、正社員や契約社員など、製造部門で常時雇用される従業員に支払われる給与のことです。製造部門の管理者や事務スタッフ、現場のリーダーや工程管理者の給与なども労務費の対象となります。また、基本給だけでなく、時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金も含まれます。
雑給
雑給とは、臨時的に雇用される従業員に支払われる給与のことです。具体的には、パートやアルバイト、日雇い労働者などへの給与が該当します。賃金と同様に、時間外労働や休日労働、深夜労働に対する割増賃金も含まれます。このうち、製造に関わる従業員に対応する部分が労務費に計上されます。
従業員賞与手当
従業員賞与手当には、製造部門で働く従業員に支払う賞与(ボーナス)や各種手当が該当します。手当の種類は企業によって異なりますが、例えば住宅手当や家族手当、役職手当、資格手当などです。非課税の通勤手当も、従業員賞与手当に含まれます。
退職給付費用
退職給付費用とは従業員の退職に備えて積み立てる費用のことです。企業は、従業員が退職するときに退職金を支払うため、在職期間中にあらかじめその見込額を各期の費用として会計処理します。このうち、製造に関わる従業員に対応する部分が労務費に計上されます。
法定福利費
法定福利費とは、従業員を雇っている事業者に負担が義務付けられている保険料などのことです。具体的には、健康保険料および介護保険料、厚生年金保険料、雇用保険料の事業主負担分や、労災保険料などが該当します。これらの法定福利費のうち、製造部門の従業員にかかるものが労務費に計上されます。
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労務費は「直接労務費」と「間接労務費」で分けられる
労務費は、「直接労務費」と「間接労務費」の2つに分けられます。
直接労務費とは、製品の製造作業に直接関わる従業員に支払われる労務費です。例えば、製品の加工や組み立て、溶接など、実際に手を動かして製造を行う従業員の給与や賞与が該当します。
それに対して、間接労務費とは、製品の製造には直接関わらないものの、製造工程を支える業務に従事する従業員に対する労務費です。具体的には、生産管理や品質管理、製造部門の管理職の給与・賞与などは、間接労務費として扱われます。間接労務費に含まれるこれらの費用は、どの製品にどれだけ使われたかを直接把握するのが難しいため、「製造間接費」という勘定科目にまとめて処理するのが一般的です。
製造間接費には、間接労務費のほかに、複数の製品に共通して使う塗料や工具などの費用も含まれます。これらは製品ごとに分けて計算できないため、「配賦(はいふ)」と呼ばれる方法で、一定のルールにしたがって各製品に割り振ります。
直接労務費と間接労務費の会計上の扱いと具体例を、以下の表にまとめました。
直接労務費と間接労務費の会計上の扱いと具体例
区分 | 会計上の扱い | 具体例 |
---|---|---|
直接労務費 | 直接費 製造原価に個別配賦 |
工場で組み立て作業をしている作業員の給与 |
生産ラインの直接作業に従事しているパートの時給 | ||
製造現場で発生する残業手当、深夜手当、など | ||
間接労務費 | 間接費 製造間接費として配賦 |
製造部門の管理者の給与 |
製造現場の事務スタッフの給与 | ||
工場内の福利厚生費(通勤手当、制服支給など) |
配賦についてはこちらの記事で解説しているので、参考にしてください。
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労務費に含まれない人件費や外注費の扱い
労務費は、あくまで製造に関わる従業員への支出に限定されます。そのため、営業部門や販売部門、総務、経理といった製造以外の部署の人件費は、労務費ではなく販売費及び一般管理費(販管費)として扱います。
また、外注費や業務委託費は、雇用契約に基づく支出ではないため、人件費にはあたりません。さらに外注費や業務委託費は、委託内容によって会計上の処理方法が異なります。これらの労務費に含まれない主な例と処理方法は以下のとおりです。
労務費に含まれない主な例と処理方法
種別 | 分類 | 処理方法 |
---|---|---|
製造以外の部署の従業員の人件費 | 人件費 | 販売費及び一般管理費(販管費)に計上 |
全社的な管理業務に関する外注費 (例:広告宣伝費など) |
外注費 | 販管費に計上 |
製造工程の一部を委託した場合の外注費 | 外注費 | 原価に含めて計上 ※労務費ではなく経費として扱う |
販管費についてはこちらの記事で解説しているので、参考にしてください。
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労務費の算出方法
労務費を算出する際には、直接労務費と間接労務費を分けて計算します。それぞれの計算方法は以下のとおりです。
直接労務費
直接労務費を算出するには、まず、製造に直接携わる従業員(直接工)の賃金をその月の総就業時間で割り、1時間あたりの単価である「賃率」を求めます。この賃率に、製品ごとの製造にかかった時間を掛けることで、直接労務費を求めることができます。製造時間は、作業日報やシフト表、機械の稼働記録などから集計すると良いでしょう。
計算式にすると、以下のようになります。
直接労務費の計算式
賃率=直接工の賃金÷総就業時間
直接労務費=賃率×製品の製造にかかった時間
直接労務費の計算例
- 割増賃金を含めた賃金:28万円
- 月の総就業時間:140時間
- 製品の製造にかかった時間:100時間
この場合、直接労務費の計算は以下のようになります。
賃率=280,000円÷140時間=2,000円
直接労務費=2,000円×100時間=200,000円
間接労務費
間接労務費は、製造に直接関わらない従業員への支出を合算することで算出できます。具体的には、生産管理や品質管理、製造部門の事務スタッフや管理職の給与・手当などが該当します。
ただし、実務上は「労務費の総額」から「直接労務費」を差し引くことで、間接労務費を算出するのが一般的です。この方法であれば、個別の費用項目をすべて洗い出す必要がないため効率的です。
計算式にすると、以下のとおりです。
間接労務費の計算式
間接労務費=労務費総額-直接労務費
間接労務費の計算例
- 労務費の総額:50万円
- 直接労務費:20万円
この場合、間接労務費の計算は以下のようになります。
間接労務費=500,000円-200,000円=300,000円
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労務費管理でできること
労務費は企業の支出の中でも大きな割合を占めるため、適切な管理が欠かせません。過剰な労務費は利益を圧迫してしまいますし、反対に労務費が少なすぎても、従業員のモチベーション低下を招く可能性があります。労務費を適切に管理することによって、主に次のような効果が期待できます。
コスト削減
労務費の適切な管理は、人件費の無駄を見直し、コスト削減につなげる有効な手段です。過剰な人件費や非効率な業務を把握できれば、配置転換や業務の再設計といった具体的な改善策が打てるようになります。業務の一部を外部に委託し、労務費を削減するのもひとつの方法です。
生産性向上
労務費の適切な管理は、生産性の向上にも欠かせません。例えば、従業員ごとの稼働時間や業務ごとの工数を正確に把握すれば、非効率な業務や無駄な工程を見つけやすくなり、業務改善につなげることができます。結果として、労働時間に対する成果を高めることができるでしょう。
こうした業務改善の取り組みは、従業員の負担を軽減したり、重複作業を減らしたりする効果も期待できます。業務内容に応じて適材適所の人材配置を行えば、組織全体のパフォーマンス向上にもつながるでしょう。
経営効率化
労務費の適切な管理は、経営の効率化を図るうえで重要な手段の1つです。上述したようなコスト削減と生産性向上が同時に進めば、企業全体の利益率が高まり、収益性の改善につながります。さらに、収益に対する人件費の割合や部門別の労働コストを的確に分析できるようになるでしょう。
労務費の管理によってコスト管理の精度が向上すれば、過剰な支出を抑えるだけでなく、必要な分野への適切なリソース配分も可能になります。労務費に関する正確な情報は、経営者が合理的な判断を下すうえで有効な材料となり、直感や経験に頼らない意思決定を可能にするのです。
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労務費から見える経営課題と改善のヒント
労務費に関する情報は、経営判断にどのように活かせるのでしょうか。ここからは、労務費管理を経営課題の改善に活用するための具体的な視点を紹介します。
部門別の直接労務費を分析
直接労務費を部門別に分けて集計・分析することで、各部門の生産性や採算性を客観的に比較できます。例えば、売上や利益に対して直接労務費の割合が高すぎる部門は、人員が過剰になっていたり、作業効率が低下していたりする可能性があります。そのような非効率なラインを特定できれば、人員配置や業務フローを見直し、生産性の向上やコスト削減につなげることができるでしょう。
労務費を月次でモニタリング
労務費を月次でモニタリングすることによって、経営状況の変化をいち早く察知できます。月ごとの労務費を記録し、可視化していれば、突発的な増減や傾向の変化に気付きやすくなり、早期に対策を打てるようになります。例えば、残業や休日出勤の増加によって労務費が想定以上に膨らんでいた場合、その要因を分析し、改善策を検討するきっかけになるでしょう。また、原価率の上昇や利益率の低下など、業績への大きな影響が出る前に問題を発見しやすくなるため、経営のリスクを軽減できます。日々の業務では見逃されがちな変化を数字で捉えることができ、より正確かつタイムリーな経営判断が可能になります。
間接労務費の割合をチェック
間接労務費とは、生産管理や品質管理など、製品の製造には直接関わらないものの、製造に必要な工程で働いている従業員の労務費を指します。企業経営においては、この間接労務費が、労務費全体の中でどれほどの割合を占めているかを定期的にチェックすることが重要です。本来は製造にあてるべき労務費が、過度に間接業務に割かれていた場合、直接利益を生まない業務に人件費が偏っていることになります。間接労務費の割合をチェックし、必要に応じて業務のアウトソーシングや人員の再配置、業務効率化に向けた見直しなど、適切な改善策を検討する必要があるでしょう。
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労務費を適切に管理して経営判断に役立てよう
労務費とは、製品やサービスを生産するために行った労働に対して支払う費用のことです。労務費は人件費に含まれるものの、単なる「人件費の一部」ではなく、企業の原価管理や利益改善に直結する重要な情報となります。労務費には、従業員の給与や賞与のほか、各種手当、社会保険料の事業主負担分、退職金なども含まれ、企業の支出の中でも大きな割合を占めます。そのため、特に中小企業では、労務費をどう管理するかが重要です。
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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
