新収益認識基準とは?適用の範囲と必要な5つのステップを解説
監修者: 岡本匡史(税理士)
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「新収益認識基準(収益認識に関する会計基準)」とは、2021年4月1日以後に始まる会計年度から、大企業や上場企業、上場準備企業に適用されるようになった新しい会計基準のことです。
新収益認識基準は、大企業や上場企業において強制適用となりましたが、中小企業は従来どおりの会計処理を継続してもよいことになっています。しかし、中小企業でも、大企業と取引を行う場合には、売上の計上時期や金額といった契約条件を、新収益認識基準に合わせて変更するよう要請されるなど、ビジネスに影響を与える可能性も考えられます。また、将来上場を検討している上場準備企業においては、新収益認識基準が強制適用となるため、中小企業であっても新収益認識基準とは無関係とはいえません。そのため、中小企業の経理担当者などは、新収益認識基準の内容について理解しておくことが大切です。
本記事では、新収益認識基準の適用の範囲のほか、収益を認識するための5つのステップ、新収益認識基準に対応する際の注意点などについて解説します。
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新収益認識基準は企業の売上をいつ、どのように計上するかを明確にした会計基準
新収益認識基準は、2021年4月以降に開始される会計年度から、大企業や上場企業、上場準備企業に強制適用となった新たな会計基準です。
これまで用いられてきた収益認識基準は、どの時点で売上をいくら認識し、それをどのように財務諸表に反映させるかを定めた会計基準です。この従来の基準では、収益認識のタイミングが企業によってバラバラだったため、財務諸表の比較可能性などが担保できないという側面がありました。そこで、日本企業の会計基準を設定する企業会計基準委員会により収益認識に関する会計基準の新収益認識基準が定められ、大企業や上場企業などに適用されることになりました。
なお、中小企業においては新収益認識基準の適用は任意となり、従来どおりの会計処理も認められています。ただし、大企業や上場企業が適用対象となるため、上場を目指す場合は、早い段階から新収益認識基準に対応できるようにしておく必要があるでしょう。
新収益認識基準が導入された理由
新収益認識基準が導入された理由は、今まであいまいだった売上計上(収益認識)のルールを明確にし、取引の実態に合わせた売上計上を行うようにするためです。ここでは、新収益認識基準が導入された理由について詳しく見ていきましょう。
収益認識の会計基準が明確に定められていなかった
新収益認識基準が導入された理由は、収益認識の会計基準が明確に定められていなかったためです。従来、日本では企業の収益認識における包括的な基準が定められておらず、収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとされてきました。この公正妥当と認められる会計処理の基準は、1949年に定められた「企業会計原則」を基にしています。企業会計原則は、企業会計の実務で慣習として発達したものから、一般に公正妥当と認められた部分を要約することによってできたルールです。法的な拘束力は持たないものの、すべての企業が遵守すべき基準として位置付けられています。
企業会計原則には、「売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売または役務の給付によって実現したものに限る」という実現主義の考え方が示されていましたが、収益認識の包括的な会計基準が定められていたわけではありませんでした。そのため、収益認識のタイミングが企業によって異なっており、財務諸表の比較可能性などが担保できないといった問題があったのです。こうした理由から、明確な会計基準を定め、各企業の財務諸表の比較可能性を担保するためにも、新収益認識基準が導入されました。
なお、実現主義とは、収益や費用の認識に関する考え方の1つです。実現主義は、商品の引渡しやサービスの提供が行われ、実際に収益が実現した時点で収益を認識・計上します。収益の認識に関しては、実現主義の他に、現金主義や発生主義という考え方もあります。
こちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。
企業の事業内容が多様化・複雑化している
近年、企業の事業内容が多様化・複雑化していることも、新収益認識基準が導入された理由としてあげられます。新収益認識基準の導入以前は、同じ実現主義でも、「出荷基準」「納品基準」「検収基準」など、各企業がそれぞれ自社に適した基準で収益を計上していました。
しかし、それでは企業ごとに収益認識のタイミングが異なり、企業間の比較可能性を確保できなくなってしまいます。特に、企業の事業内容が多様化・複雑化している近年では、実現主義の収益認識の違いが混乱を招く要因になりかねません。そこで、会計基準のグローバルスタンダードとされる国際会計基準(IFRS)を参考に、収益認識における包括的な基準として、新収益認識基準が定められました。
新収益認識基準の適用範囲
新収益認識基準は、強制適用となる企業が定められています。また、新収益認識基準が適用される企業でも、取引によっては適用範囲外となるものもあります。新収益認識基準の範囲について詳しく見ていきましょう。
新収益認識基準が強制適用となる企業
新収益認識基準が適用されるのは、公認会計士の会計監査を受ける企業です。具体的には、会社法上の大会社(資本金5億円以上または負債200億円以上の企業)および上場企業が強制適用となります。また、現時点で上場していない企業でも、上場準備を進めている場合には新収益認識基準を適用する必要があります。その一方で、上場予定のない中小企業は、新収益認識基準を適用せず、従来どおりの会計処理を継続してもかまいません。
新収益認識基準が適用範囲外となる取引
新収益認識基準は、顧客との契約から生じる収益に関する会計処理および開示について適用されます。ただし、例外として以下の取引については、新収益認識基準の適用範囲外となります。
新収益認識基準の適用範囲外となる取引
- 「金融商品会計基準」の範囲に含まれる金融商品にかかる取引
- 「リース会計基準」の範囲に含まれるリース取引
- 保険法における定義を満たす保険契約
- 同業他社との交換取引
- 金融商品の組成または取得において受け取る手数料
- 「不動産流動化実務指針」の対象となる不動産の譲渡
- 資金決済法における定義を満たす暗号資産および金融商品取引法における定義を満たす電子記録移転権利に関連する取引
収益を認識するための5つのステップ
新収益認識基準には、収益を認識するための5つのステップがあります。商品やサービスの契約ごとに、以下の5つのステップに沿って検討し、収益を計上するタイミングと金額を決定します。
1. 顧客との契約を識別
まず、商品やサービスの提供について、顧客とどのような契約をしたのかを確認します。新収益認識基準の適用対象となるのは、原則として、以下の5つの要件をすべて満たす顧客との契約です。正式な書面で取り交わされた契約だけではなく、口約束や取引慣行による契約も該当します。
新収益認識基準の適用対象となる要件
- 当事者が、書面、口頭、取引慣行等により契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること
- 移転される財またはサービスに関する各当事者の権利を識別できること
- 移転される財またはサービスの支払条件を識別できること
- 契約に経済的実質があること(契約の結果として、企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期または金額が変動すると見込まれること)
- 顧客に移転する財またはサービスと交換に企業が権利を得ることとなる対価を回収する可能性が高いこと
2. 契約における履行義務(収益認識の単位)を識別
次に、識別した契約に含まれる、顧客に対する「履行義務」を把握します。履行義務とは、新収益認識基準で新しく取り入れられた概念で、商品やサービスを顧客に提供する約束のことです。新収益認識基準では、契約における履行義務が収益認識の単位となります。例えば、「商品の販売と保守サービス」という契約内容だった場合、履行義務は「商品の販売」と「保守サービス」の2つと識別されます。
3. 取引価格の算定
続いて、契約全体における取引価格を算定します。このとき、値引きやリベート、返金など、取引の対価を変動させる金額が含まれる場合は、その変動部分を増減して取引価格を算定する必要があります。
4. 契約における履行義務に取引価格を配分
複数の履行義務を識別した場合は、算定した取引価格をそれぞれの履行義務に配分します。取引価格の配分割合は、複数の履行義務を個別に提供した場合に想定される対価の比率に基づいて決定します。
5. 履行義務を充足したとき、または充足するにつれて収益を認識
新収益認識基準では、履行義務を充足したとき、つまり商品やサービスを提供して顧客に対する約束が果たされたときに収益を認識します。識別した履行義務ごとに、それぞれ充足した時点で収益を認識・計上します。
このとき、履行義務が一時点で充足されるか、一定期間にわたって徐々に充足されるかによって、収益の計上方法が変わるため気を付けましょう。例えば、商品の販売であれば、顧客に引き渡した時点で履行義務は果たされます。その一方で、保守サービスなど履行義務が一定期間にわたる場合は、履行義務の充足にかかる進捗度を見積もり、決算ごとに見直しを行います。
新収益認識基準に対応する際の注意点
前述したように、上場予定のない中小企業においては、新収益認識基準の適用は任意です。新収益認識基準を適用すると、それまでの会計処理との相違点に戸惑うことも多いかもしれません。新収益認識基準を適用する際は、以下の点に注意しましょう。
会計処理が複雑になる
新収益認識基準を適用すると、会計処理が非常に複雑になります。会計基準が変わることで、税務処理にも影響を及ぼすこともあります。取引や業務への影響が少なくないため、新収益認識基準を適用する前に、顧問の税理士など専門家に相談するようにしましょう。
契約の履行義務を確認する
新収益認識基準を適用する際には、現状の把握が必要不可欠です。具体的には、自社の商品・サービスの契約内容を見直し、それぞれの契約にどのような履行義務が存在するのかを整理しましょう。新収益認識基準においては、履行義務の単位で収益が認識されます。複数の商品やサービスが「別個の財またはサービス(あるいは、別個の財またはサービスの束)」であれば、それぞれが個別の履行義務と判断され、特性や提供パターンが同じ一連のものなら単一の履行義務として識別されます。履行義務の識別においてはさまざまな要件が定められているため、あらかじめ確認しておくことが大切です。
適用となる取引を絞り込む
新収益認識基準は、顧客との個々の契約を対象として適用します。グループ内に複数の企業がある場合や、企業内に複数の商流がある場合は、必ずしもすべての取引に新収益認識基準を適用しなくてもかまいません。どの契約を新収益認識基準に適用させるのか、重要度の高い取引に絞り込んで取捨選択を行いましょう。
決定した方針を実行する
新収益認識基準の適用によって、業務フローや会計システムなどの変更が必要になる可能性があります。新収益認識基準の適用にあたって必要な労力と費用を算出し、人員の確保やスケジュールの調整などを行いましょう。決定した方針が確実に実行されるように、しっかりと準備を進めることが重要です。
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新収益認識基準と従来の会計基準との違いを知っておこう
新収益認識基準は、2021年4月以降の会計年度から適用となった新しい会計基準です。大企業や上場企業、上場準備企業は強制適用ですが、上場予定のない中小企業においては適用が任意なので、従来どおりの会計処理を継続しても問題はありません。しかし、中小企業でも、大企業や上場企業と取引をしている場合は、影響が出てくることもあり得ます。例えば、大企業から仕事を受注している場合、新収益認識基準に合わせて、売上の計上時期や金額といった契約条件の変更を要請されることがあるかもしれません。また、将来的に上場を目指す場合は、早い段階から新収益認識基準を適用しておいた方がいいでしょう。
新収益認識基準には、履行義務など従来の会計基準にはなかった概念もあり、会計処理が非常に複雑になります。新収益認識基準の適用を検討する際には、税理士など専門家に相談の上、従来の会計基準との違いをきちんと確認しておくことが大切です。
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この記事の監修者岡本匡史(税理士)
「岡本匡史税理士事務所」の代表税理士。
1979年和歌山県生まれ。滋賀県立膳所高校、横浜国立大学経営学部卒業。城南信用金庫、公認会計士事務所勤務を経て、2012年に豊島区池袋にて岡本匡史税理士事務所を設立。
低価格で手厚いサポートを行うことを目標としており、特に開業前~開業5年目の法人・個人事業主の税務会計が得意。
毎年、市販の確定申告本や雑誌の監修にも携わっている。