教員が起業!?安定した収入を得ながらできる“副業起業”の秘訣とは?

起業時の課題
集客、顧客獲得, マーケット・ニーズ調査

徳島県の私立高校で教員として働きながら、プログラミング教室とWeb制作事業を立ち上げた妻鹿正裕さん。「自分の得意なことで起業をしよう」と副業でフランチャイズに挑戦し、リスクを最小限に抑えながらも積極的に事業展開しています。

「私にもできるかも」と思わせる親近感と、随所に見られる決断力。妻鹿さんの歩みは、起業を迷っている方の背中を優しく押してくれるはずです。

会社プロフィール

業種 IT関連(webサイト制作), 教育・学習
事業継続年数(取材時) 2年
起業時の年齢 30代
起業地域 徳島県
起業時の従業員数 0人
起業時の資本金 -

話し手のプロフィール

妻鹿正裕
Masa’s WEB&デザイン 代表
大学在学中、映画俳優としてVシネマを中心に多くの作品に出演。引退後、営業職やSEを経て、高校教員になる。営業職時代の仲間がどんどん独立する中、自分もチャレンジしたい気持ちが芽生え、子ども向けのプログラミング教室FC(フランチャイズ)に参加。ホームページ制作にも魅力を感じ、「Masa’s WEB&デザイン」を創業。

目次

安定を手に入れても起業の夢は消えなかった。

起業に至るまでのキャリアについてお聞かせください。

妻鹿さん:大学卒業後、広告代理店やソフトウェア会社で短期間働き、その後、大手人材サービス企業の営業として1年ほど勤めました。その会社は、体調を崩して退職することになったのですが、その後、思いがけない転機が訪れました。母校の高校から「数学を教えられると思うから、ちょっと帰ってきてくれへんか」と声をかけていただいたんです。その当時、学校側で教員が足りない状況だったようで、急きょ私に白羽の矢が立ったようです。

10年ほど正規雇用の教員として働きました。数学と、情報の免許も取得して、主に情報を教えていました。

教員として安定した職を得られたわけですね。そこからなぜ起業を考えるようになったんでしょうか?

妻鹿さん:きっかけは、会社員時代の同期たちの影響が大きかったですね。彼らがどんどん独立して自分で事業をやっている話を聞いて、「悔しい、私もやりたい」という思いが強くなっていきました。

時期、ネイルサロンの開業を考えたこともあったんですが、妻から「今までの知識や経験と全然関係ないじゃない」と指摘され、はっと気づかされたんです。

妻鹿さん:そこで改めて、まずは自分の経験や適性を活かせる方法を考えました。「人に教えるのは苦手じゃないし、嫌いじゃない」という自覚があったので、塾や教室事業を考えるようになり、さらに小中学校でプログラミングが必修化されるという流れもあって、プログラミング教室を始めることにしたんです。

「リスク回避」にこだわった起業の始め方。

プログラミング教室を始めるにあたって、どのような準備をされたのでしょうか?

妻鹿さん:起業にあたって、最も重視したのはリスク管理です。まず、教員の仕事を完全に辞めるのではなく、非常勤講師に変更しました。これにより、ある程度の収入を維持しながら新しい事業にチャレンジできる環境を作りました。

具体的には、月曜日から金曜日までの情報や数学の授業のときだけ学校に行くという形にしました。以前は担任も務めていましたが、それをやめて、授業だけを受け持つ非常勤の立場に切り替えたんです。これによって、教員としての経験や収入を維持しながら、起業に必要な時間を確保できました。

安定と挑戦を両立させる戦略だったわけですね。

妻鹿さん:そうです。さらに、プログラミング教室の立ち上げについては、フランチャイズを活用することにしました。教材やノウハウがすでに整っているフランチャイズなら、すぐに始められると考えたんです。初めて事業を始める身としては大きな利点でした。

リスクを抑えながら、スピード感を持って可能性を広げる戦略だったわけですね。具体的にはどのような場所で教室を開いたんでしょうか?

妻鹿さん:徳島県内の異なる3つのエリアでそれぞれ教室を開校しました。各教室は、固定費を抑えるためにレンタルスペースを利用しました。公共施設やコワーキングスペースなどを使うことで、初期投資を最小限に抑えられますし、需要に応じて柔軟に対応できるんです。

例えば、生徒が集まらない日は予約をキャンセルできる場合もあるので、無駄な支出を避けられます。また、地域によって異なる需要に合わせて、開催頻度や時間を調整することも可能です。ここでも極力リスクを抑えることに注力しました。

集客に苦戦した起業初期。自分に合った集客スタイルを見つけるまで。

集客や事業拡大の取り組みについて、お聞かせください。

妻鹿さん:集客については、最初はいろいろな方法を試してみました。最も効果があったのは、小学校の正門前でのビラ配りでしたね。直接保護者の方や子供たちに声をかけることで、一定の成果が得られました。

ただ、これには課題もありました。同じ子供に何度もチラシを渡すわけにもいきませんし、頻繁にはできません。そこで、他の方法も並行して試しました。

他にはどのような集客方法を試されたんでしょうか?

妻鹿さん:新聞の折り込みチラシを試してみました。徳島県は地元紙の購読率が高いので、ある程度の反応はありました。しかし、費用対効果を考えると十分とは言えなかったかもしれません。

それから、Web広告にも挑戦しました。リスティング広告やディスプレイ広告などを利用しましたが、正直なところ、効果は薄かったですね。広告費用に見合う集客には繋がらなかった印象です。正直、集客は現在も大きな課題の1つです。

なるほど。試行錯誤の連続だったんですね。

“売上が伸びない”からこそ発見できた、新たなビジネスチャンス。

妻鹿さんはプログラミング教室だけでなくWeb制作事業も手掛けていらっしゃいますよね。こちらを始めたきっかけを教えていただけますか?

妻鹿さん:プログラミング教室を始めて約1年経ったころ、思うように売上が伸びなくて悩んでいました。「このままでは独立した意味がないな」と感じるようになったんです。そこで、自分のスキルを活かせる新たな事業を模索し始めました。

もともと、教室のホームページは自分で作っていましたし、過去には知人のブログ運営をお手伝いしていたこともあり、これらの経験から、「Web制作の需要があるのではないか」と考えたんです。

プログラミング教室の経験がWeb制作事業のアイデアにつながったんですね。Web制作事業を始めるにあたって、どのような戦略を立てられたんでしょうか?

妻鹿さん:まず、収益モデルにこだわりました。「とにかくストック型で収益を作りたい」という思いがあったんです。そこで、単にホームページを制作して終わりではなく、運用サポートを重視したビジネスモデルを構築しました。

具体的には、運用サポート込みのプランに比べて、ホームページ制作だけのプランの価格を高めに設定しています。継続的なサポートを通じて顧客との長期的な関係を築きたいという思いから、できるだけ運用サポート込みのプランを選んでいただきるような料金体系にしているんです。

Web制作の仕事はどのように獲得していったのでしょうか?

妻鹿さん:プログラミング教室で築いた人脈が大きな助けになりました。最初の仕事は、教室に来てくれた生徒の祖父母からいただいたんです。「孫の様子を見ていて、先生の教え方がとても良かった。実は私もホームページを作りたいんです」と相談してくださったんです。

また、徳島県が実施している「あったかビジネス認定制度」という、地域に貢献する新しいビジネスを応援する制度があるんですが、私の教室もこの認定を受けていたんですね。そのおかげで、ビジネスメッセの創業支援枠で出展する機会を得たんです。そしてこの展示会で、同じように創業したばかりの方々と出会えたことが大きかったですね。話をしていくうちに、「ホームページを作ってほしい」という依頼を2社からいただきました。

それ以外にも、学校時代の繋がりを活かして仕事をいただいたこともあります。例えば、あるNPO法人のホームページを制作させていただきました。やはり、人柄を知ってもらえているからこそ、仕事を任せてもらえるんだと実感しています。

つながりを大切にしながら事業運営されているのが伝わります。ちなみに、会計処理や確定申告などはご自身でやっていらっしゃいますか?

妻鹿さん:はい。基本的には自分で行なっています。会計ソフトは、「やよいの青色申告」を利用しています。妻が以前、会計士事務所で勤務していた経験があり、「弥生会計がいいんじゃないか」とおすすめしてくれたのが導入のきっかけでした。

最初は妻に会計処理を任せる予定でしたが、現在は仕訳なども自分で行なっていて、わからないことがあれば、地元の商工会に相談するなどして対応しています。

共働きだからこそできた挑戦。家計を圧迫しない起業の工夫とは?

起業されてからの生活面での変化や、ご家族との関係についてお聞かせください。

妻鹿さん:起業してからは、家族、特に妻の理解と支援が本当に大きかったですね。妻も働いているので、共働きの環境が起業のバックアップになっています。

実は、教員時代にストレスで体調を崩していた時期がありました。その時、妻は私の状況を見て、「別の道もあるんじゃない?」と背中を押してくれたんです。

奥様の理解があったからこそ、一歩を踏み出せたんですね。起業後の家庭での関係性に変化はありましたか?

妻鹿さん:起業後は、家庭での関係性にも気を配るようになりました。例えば、家では仕事の話をしないようにしています。

妻は私の仕事の話を聞きたがることもありますが、仕事の話は家庭に持ち込まない方が、お互いにとっていいと感じています。

仕事とプライベートの線引きを意識されているんですね。お金の管理や家計のやりくりについては、どのような工夫をされていますか?

妻鹿さん:起業する際は、家計を圧迫しないことを最優先に考えました。妻とはお互いの収入から家計にいくら入れるか決めているので、「今までと同じ分を家計に入れられるなら」と背中を押してもらったんです。

私もその約束を守れる見込みがあったので起業に踏み切れました。1年目は事業としては赤字でしたが、教員の給与で補える程度の赤字だったので、生活に支障をきたすことはありませんでした。

万が一失敗しても、日々の生活には影響が出ない状態を保つことが自分にとっては大切だったんです。家族に負担をかけずに、かつ自分の挑戦も続けられる。そんなバランスを常に意識しています。

“完璧な準備”より“小さな一歩”。ミニマムスタートで叶える起業の夢。

今後の展望をお聞かせください。

妻鹿さん:まず、1人で運営する現状に限界を感じていて、人材の雇用を視野に入れています。特にプログラミング教室の方で人を雇いたいと考えています。プログラミング教室はフランチャイズなので、運営自体は他の人に任せやすいんですね。人を雇って、教室運営を任せられるようになれば、私自身はWeb関連の事業により注力できる。そのことが事業拡大につながると思うんです。

そして、ゆくゆくは法人化を検討しています。単なる節税目的ではなく、事業の成長戦略としてです。法人化することで信用力が上がり、より大きな案件も受注しやすくなると考えています。

最後に、これから起業を考えている人へ向けたアドバイスをいただけますか?

妻鹿さん:私がおすすめしたいのは「ミニマムスタート」です。具体的には、まず副業として始めるのがいいと思います。現在の仕事を続けながら、空き時間を使って起業の準備を始めるのです。例えば、Web制作なら、友人や知人のサイトを無料で作ってみるなど、実績作りから始めるのもいいでしょう。

ある程度の顧客や実績ができたら、次のステップとして、本業の勤務時間を減らすなどして、より多くの時間を自分のビジネスに充てます。例えば、週1日だけ起業の仕事に専念する日を作るなどです。そして最終的に、十分な収入の見通しが立ったら、既存の仕事から完全に独立します。

全てを投げ打って起業するのは、それなりの覚悟や度胸が必要でしょう。でも、今の時代は副業が認められている会社も増えていますし、少しずつチャレンジしていける環境が整ってきています。

自分でやると時間がかかってしまうことや、苦手な作業は外注も検討してみてください。そうすることで、自分の強みに集中できますし、時間の有効活用にもつながります。

最後に、起業を迷っている人へメッセージをお願いします。

妻鹿さん:起業に完璧な準備というものはありません。大切なのは、まず小さな一歩を踏み出すことです。私自身、教員という安定した仕事があったからこそ、新しいチャレンジができました。

現在の仕事を続けながら、少しずつ新しいことに挑戦していく。そうすることで、自分に合った事業のかたちが見えてくるんじゃないでしょうか。失敗を恐れずに、でもリスクは最小限に。そんなバランスを取りながら、ぜひ自分らしい起業のかたちを探してみてください。

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:間宮 まさかず

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