会社設立が節税につながる理由|個人事業主や会社員が法人化を検討するタイミングを解説
監修者: 高崎 文秀(税理士)
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自分の事業を持って独立したいと考える会社員や、売上が安定して増えてきた個人事業主のなかには、会社を設立しようと考えている人もいるでしょう。会社を設立するメリットはさまざまですが、大きなメリットは節税につながる点です。
本記事では、会社設立が節税につながる理由や法人化を目指すタイミングを解説します。会社を設立して税負担を抑え、資金繰りを楽にしたい人はぜひ参考にしてください。
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会社設立が節税につながる理由
会社設立が節税につながる理由は、以下のとおりです。
- 法人税の適用により納税額を抑えられる
- 役員報酬に給与所得控除が適用される
- 家族への給与の支払いに手間がかからなくなる
- 個人事業主より経費にできる項目が増える
- 事業の赤字を最大10年間繰り越せる
- 資本金1,000万円未満なら設立から2年間消費税の支払い義務が免除される免税事業者となる
- 自分の退職金を用意できる
- 相続税・贈与税を抑えられる
会社を設立すると、給与の取り扱いや赤字の繰越など、さまざまな面で個人事業との扱いが異なります。こうした点は税金面でメリットになりやすく、節税につながるのです。それぞれの理由をおさえて、法人化を検討しましょう。
法人税の適用により納税額を抑えられる
会社を設立すると所得税ではなく法人税が適用されるため、納税額を抑えられる可能性があります。法人税は所得税より税率の幅が狭いため、所得金額によっては会社を設立すると税額が安くなります。
所得税と法人税の税率の幅は、以下のとおりです。
所得税 |
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---|---|
法人税 |
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所得税は累進課税となっており、課税所得金額が増えるほど税率が高くなります。個人事業主の場合、所得税に加えて住民税も徴収されます。
その一方で、会社設立後の収入については会社のものとなるため、適用されるのは所得税や住民税ではなく、法人税や法人住民税、法人事業税です。法人税は年間所得が800万円以下であれば原則15%となります。例えば、所得が600万円の場合、所得税は20%ですが、法人税は15%です。
法人の場合、役員報酬に所得税と住民税が適用されます。役員報酬をいくらに設定するかによって会社の所得額が決まるため、金額を調整すれば税負担の緩和が可能です。
所得が330〜800万円を超えるようになった個人事業主は、会社を設立したほうが節税できる可能性が高いでしょう。
役員報酬に給与所得控除が適用される
会社を設立すると、役員報酬に給与所得控除を適用できます。会社を設立した際、事業主が会社から毎月受け取るお金は役員報酬に分類されます。役員報酬は給与所得に該当するため、給与所得控除が適用されて税負担を抑えられるのです。
個人事業主には青色申告特別控除で最大65万円が適用されます。しかし、本業で得た売上は事業所得に分類され、給与所得控除が適用されません。給与所得控除であれば最大で195万円を控除できるため、所得を減らせて税額を下げられます。
家族への給与の支払いに手間がかからなくなる
会社を設立すると、家族への給与支払いも楽になります。個人事業主・法人どちらも家族へ支払う給与は経費算入が可能です。しかし、個人事業主は事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を提出しなければならず、手間がかかります。
その一方で、法人は届出不要で家族を従業員として雇用できます。ただし、不当に高額な給与の支払いは経費として認められない可能性があるため、給与は適切な金額に設定しましょう。家族経営で事業をしている人にとっては、給与の支払いがスムーズにできるのはメリットといえるでしょう。
個人事業主より経費にできる項目が増える
会社を設立すると、経費にできる項目が個人事業主よりも増えます。課税所得は総所得金額から経費を差し引くため、経費に計上できれば所得額を減らせて税負担を抑えられます。
例えば、個人事業主のときには経費にならなかった生活費は、役員報酬として受け取れば経費計上が可能です。また、出張旅費規程を作成すれば、出張時の日当を旅費交通費として経費計上できます。このほか、ロータリークラブの会費なども、法人であれば経費にできます。ただし、法人税や法人住民税は経費算入の対象外です。
事業の赤字を最大10年間繰り越せる
会社を設立すると、最大で10年間赤字を繰り越せます。翌年度以降に黒字となった場合は、赤字と合算可能です。課税所得が低くなり、納付税額が少なくなるため結果的に節税につながります。
個人事業主の青色申告でも赤字の繰越は可能です。ただし期間は3年間までで、法人よりも短くなっています。
消費税の支払い義務が免除される免税事業者となる
会社を設立すれば、免税事業者となり消費税の支払いをせずに済みます。個人事業主で2年前の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者に切り替わってしまいます。
しかし、新しく設立した会社には、前年度の会社としての売上は存在しません。そのため、再び免税事業者となるのです。ただし、資本金が1,000万円以上である場合やインボイス制度で適格請求書発行事業者に登録している場合は、設立初年度から課税事業者とみなされます。
自分の退職金を用意できる
法人では事業主である自分にも退職金を支給できるため、適切な金額設定をすれば節税が可能です。個人事業主の場合、従業員へは退職金を支払えますが、自分自身には支払えません。
また、退職金は退職所得となるため、会社を退職した後の納税額も減らせます。退職所得控除の控除額は勤続年数によって変わり、以下のように算出されます。
- 20年以下:40万円 × 勤続年数(80万円に満たない場合は80万円)
- 20年超:800万円+70万円 × (勤続年数 – 20年)
ただし、退職金が必要以上に多くならないよう、適切な金額設定をしましょう。
相続税・贈与税を抑えられる
会社を設立しておけば、相続税や贈与税も抑えられます。事業を親族や第三者に引き継ぐ際、預金や設備、不動産などの資産は相続税や贈与税の対象です。個人事業主はこれらすべてを後継に渡すため、多額の相続税や贈与税が発生します。
その一方で、会社を設立しておけば、相続税や贈与税は自社の株式評価額で決まります。株式は複数の方法で評価したうえで評価額が決定し、預貯金に比べて資産価値が下がりやすいです。また、経営権を渡す際も自社株の引き継ぎで済みます。
株式は1株単位で贈与ができます。贈与税がかからない年間110万円までの範囲内で毎年株式を贈与すれば、計画的に贈与や相続を進められるでしょう。自分の代で事業を畳まないのであれば、会社の設立を検討してみましょう。
個人事業主と法人化したときの税金比較をシミュレーション
個人事業主の場合と法人化した場合とで、納める税額を比較してみましょう。個人事業主、法人の利益等の条件は以下のとおりです。
-
- 個人事業主:利益800万円(青色申告)
- 法人:利益400万円・役員報酬400万円
- 社会保険料については除いて計算する
- 令和6年度税制に基づき計算する
実際の税負担額を確かめて、法人化を進めるかどうかの参考としてください。
はじめに、個人事業主の所得税・住民税を計算します。利益が800万円のため、事業所得は800万円から青色申告特別控除(65万円)を控除した735万円です。適用できる控除は基礎控除(48万円)のみと仮定すると、課税所得金額は以下のようになります。
- 800万円-65万円-48万円=687万円
課税所得金額687万円の税率は20%ですので、所得税額は以下のように計算します。
- 687万円×20%-427,500円=946,500円
よって、所得税は946,500円です。
住民税は、基礎控除額が43万円となるため、課税所得金額は692万円となります。税率は一律10%で、最後に均等割を足しあわせます。均等割が5,000円だとすると、金額は以下のとおりです。
- (692万円×10%)+5,000円=697,000円
住民税は697,000円で、所得税との合計は164万3,500円です。
次に、法人の法人税・所得税・住民税を計算します。
法人利益は400万円のため、税率は15%です。この他に地方法人税(法人税の10.3%)や、法人住民税(標準税率の場合、法人税の7%)、法人事業税(標準税率で所得400万円の場合、所得の3.5%)、特別法人事業税(法人事業税の37%)を考慮した実効税率はおよそ21%となります。よって、法人税等は以下の金額です。
- 400万円×21%=840,000円
役員報酬は400万円のため、これに対して所得税や住民税がかかります。給与は400万円のため、給与所得控除「給与×20%+42.75万円」が適用されます。基礎控除48万円をあわせて適用すると、課税所得金額は以下のとおりです。
- 400万円-(400万円×20%+42.75万円)-48万円=229.25万円
課税所得228万円の所得税率は10%のため、所得税は以下のようになります。
- 229.25万円×10%-97,500円=131,750円
住民税の基礎控除は43万円のため、課税所得は234.25万円です。よって、住民税額は以下のとおりです。
- (234.25万円×10%)+5,000円=239,250円
すべての金額を足すと1,211,000円となります。法人化することで、約43万円節税できました。
個人事業主と法人の納付税額は、役員報酬の設定によって異なります。以上のシミュレーションを参考に、適切な金額を設定しましょう。
節税を考えて会社を設立する前に知っておきたい注意点
会社を設立する際におさえたい注意点は、以下のとおりです。
- 会社のお金を自由に使えなくなる
- 会社を設立するのにコストがかかる
- 決算書作成の準備や作成に手間がかかる
- 予想より節税につながらない可能性がある
会社の設立には、手間やコストがかかります。また、メリットを最大限に受けられず節税額が想定よりも少なくなってしまう可能性もあるでしょう。設立前に注意点を理解し、法人化するかどうか決定しましょう。
会社のお金を自由に使えなくなる
法人化すると、個人事業主とは異なり事業で得た収入を自由に使えなくなります。法人では個人の収入と会社の財産を明確に分けなければなりません。たとえ従業員がおらず自分ひとりだけが勤める会社であっても、会社のお金は自由に使えません。会社のお金はあくまでも事業に関連するものにしか使用できないのです。
法人をつくる際は、生活に必要なお金を予測して自身の役員報酬を設定する必要があります。金額の決定時期は、起業1年目の3ヶ月目までです。2期目以降は事業年度開始の3ヶ月以内となっています。
会社を設立するのにコストがかかる
会社の設立にはコストがかかります。主な費用は定款の認証や登記費用、登録免許税などです。設立する会社の形態によりコストは異なりますが、基本的に株式会社は初期費用が高くなります。
会社設立時の登録免許税の金額は、以下のとおりです。
- 株式会社:15万円〜
- 合同会社:6万円〜
また、株式会社の設立書類を紙で提出した際は、印紙税4万円がかかります。印紙税は定款認証の完了後に支払うため、別途資金を用意しておかなければなりません。
なお、会社設立を司法書士などに依頼すると、司法書士へ報酬を支払う必要があります。その分手間は省けるため、司法書士事務所などで見積もりを取ったうえで、依頼するかどうか決めましょう。
決算書作成の準備や作成に手間がかかる
会社の決算は個人事業主の確定申告に比べて書類作成や準備に手間がかかります。簿記・会計の知識を有していないと、誤った内容を記入してしまい、税務署から指摘される可能性があります。利益計上額が少ない場合、追徴課税となるケースもあるでしょう。
決算書の作成は税理士に依頼できます。依頼にはコストが発生しますが、正確な決算書を作成してくれるでしょう。
予想より節税につながらない可能性がある
会社の設立や運用にはさまざまなコストがかかるため、事業収入が低いと節税にならない可能性があります。株式会社をつくる場合、資本金や登録免許税、定款認証などで20万円以上を準備しなければなりません。
また、社会保険に加入する必要があり、会社として労働者と折半して保険料を納める必要があります。このほか、事業が赤字だったとしても法人住民税の支払いが必要です。
会社設立でコストが高くなれば、節税できた分の利益は減少し、節税効果を実感しにくくなります。個人事業主のまま続けるか会社を立ち上げるかは、税理士など専門家に相談してみましょう。
節税を考えて会社設立を検討するタイミング
会社設立のタイミングは、個人事業主とすでに副業していたりこれから独立を考えていたりする会社員とでは異なります。現状にあわせたタイミングで法人化を検討し、税負担などが重くならないよう注意しましょう。
個人事業主の場合
個人事業主が法人成りするタイミングはいくつか考えられます。最初に検討するタイミングは、事業所得金額が一定額を超えたときです。
個人事業主としての課税所得が695万円を超えると、所得税率が20%から23%にアップします。住民税とあわせると33%もの税金を納めなければなりません。
法人税は課税所得が695万円の場合、15%で済みます。課税所得が695万円を超えるのであれば、会社設立を検討してもよいでしょう。
ただし、節税効果は個人の所得に応じて変わります。法人化を検討するなら、税理士に相談してみるとよいでしょう。
副業している会社員・サラリーマンの場合
副業している会社員が会社を立ち上げる場合、副業収入が一定額を超えるなら、会社を設立したほうが節税につながります。収入を法人としての所得とすれば、納付税額を抑えられる可能性があるためです。
ただし、所得税と住民税については本業の給与と自分で設立した会社の役員給与を合算して算出するため、会社を設立した結果、納付税額が増えるケースもあります。
副業収入が低い場合は、会社設立の経費の支払いで赤字となる可能性が高くなります。会社を設立する手間なども考慮し、引き続き会社員兼個人事業主として活動するかどうか慎重に判断しましょう。節税額については、税理士などに相談してシミュレーションしてみるとよいでしょう。
会社設立の節税に関するよくある質問と回答
会社設立時の節税に関する質問や疑問をまとめました。設立検討時の参考にしてください。
会社員・サラリーマンのまま副業で会社を設立すると本業の会社に知られる?
会社員のまま新たな会社を設立した場合、勤務先に知られる可能性はあります。自分で会社を設立した場合、自身に対して役員報酬の設定が必要です。本業と副業の会社2箇所から給与を受け取ることになるため、勤務先に届く住民税や社会保険料の通知から、副業していることがわかる場合があるでしょう。ただし、税金や社会保険料の徴収額は人によって異なるため、金額について会社から問い合わせをされるケースは少ないです。
役員報酬を設定しなければ勤務先に会社設立を知られませんが、個人で自由に使えるお金がなくなってしまいます。また、副業禁止の会社で副業をすると社内規定違反となります。事前に確認の上、会社設立しましょう。
税金対策に2つ会社を設立するのは効果がある?
税金を減らすために子会社や別会社を立ち上げると、節税につながる可能性があるでしょう。法人税率は所得800万円超が23.2%、800万円以下が15%です。複数の事業に携わりそれぞれの所得が800万円以下なのであれば、会社を分けると節税できます。
ただし、節税目的だけで複数の会社を設立すると、税務署から指摘され利益操作を疑われる可能性があります。また、会社の設立のたびに費用がかかったり、決算の準備を会社ごとに行ったりとコストや手間も多いです。節税メリットが大きいと判断した場合は、複数の会社設立も検討してみましょう。
会社設立による節税のメリットを理解して法人化するか検討しよう
会社を設立すると経費算入できる項目が増えたり赤字の繰越が長期間になったりと、所得額を減らしやすくなります。節税できれば資金繰りも楽になり、さらなる設備投資や事業展開が可能です。ただし、所得額によっては法人化したほうがコストや税負担が増える場合もあります。メリットと同時に注意点もおさえたうえで、法人化するかどうか決めていきましょう。
この記事の監修者高崎 文秀(税理士)
高崎文秀税理士事務所 代表税理士/株式会社マネーリンク 代表取締役。早稲田大学理工学部応用化学科卒。
都内税理士事務所に税理士として勤務し、さまざまな規模の法人・個人のお客様を幅広く担当。2019年に独立開業。現在は法人・個人事業者の税務顧問・節税サポート、個人の税務相談・サポート、企業買収支援、税務記事の監修など幅広く活動中。また一般社団法人CSVOICE協会の認定経営支援責任者として、業績に悩む顧問先の経営改善を積極的に行う。
