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基本給とは?手取りや月給との違い、決め方と残業代の計算方法を解説

基本給は、給与計算のベースとなるものです。時間外手当や賞与、社会保険料などは、基本給をもとに算出されます。給与計算の担当者は、基本給と月給の違いや社会保険料の種類など、基本的な知識を正しく理解しなければなりません。

本記事では、企業の給与計算担当者に向けて、基本給の意味と決め方、給与の支払いに関係する手当の種類と具体的な計算方法、基本給の設計方法について詳しく解説します。

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基本給とは

基本給とは、給与のベースとなる基本賃金のことであり、会社から支払われる給与の基礎となる部分です。会社が支払う給与(総支給額)は、基本給に以下の要素を加えて算定します。

  • 時間外労働手当(いわゆる残業代):所定労働時間を超えた労働に対して追加の賃金
  • 手当:通勤手当、住宅手当、役職手当、資格手当、家族手当など、特定の条件に基づいて支払われる追加の賃金
  • 賞与(ボーナス):業績や成果に応じて支払われる一時金

また、基本給は企業によって異なるものの、一般的には職務の難易度や責任の重さ、さらにはその職務を遂行するために求められる能力や経験に応じて決定されます。

なお、年齢や勤続年数は、年功序列型賃金体系を採用している企業で考慮されるケースがありますが、近年では成果主義型の賃金体系を採用する企業も増えています。

基本給と手取り、額面給与の違い

手取りは、実際に従業員が受け取れる給与を指します。基本給に各種手当やインセンティブなどが足された総支給額は額面給与と呼ばれ、給与明細の総支給額欄に記載するのが一般的です。その一方で、手取りは、給与から各種税金や社会保険料などを控除した金額を指します。

つまり、額面給与は「基本給+各種手当(残業代やインセンティブなど)」であり、手取りは「額面給与-控除(社会保険料や税金)」となるため、手取りは額面給与よりも少なくなります。

基本給と月給、月収の違い

月給とは、毎月決まって支払う賃金を指し、基本給に固定手当のみを足した賃金を指すことが一般的です。固定手当の例として、役職手当や住宅手当が挙げられます。月収と混同しやすいかもしれませんが、月収は変動手当を含むため、額面給与と同じ意味で使われることが多いでしょう。

このように、基本給は各種手当を除いた基本的な賃金を指し、月給は基本給に固定手当を加えた金額、月収と額面給与は基本給に固定手当と変動手当を含む額といった違いで表されることが多いです。給与を従業員に支払う際は、まず、これらの違いを正しく把握しましょう。

基本給が影響する手当と控除

基本給を基準に設定される賞与、手当や控除を解説します。

賞与(ボーナス)

賞与とは、企業が従業員に対して支給する特別な賃金であり、基本給に連動させるケースがあります。賞与を支給するかどうかは企業によって異なり、支給する企業は、夏と冬の年2回とするケースや、決算賞与などを追加して年3回とする場合もあるようです。なお、賞与の支給は法律で義務付けられたものではありません。そのため、支給しない企業もあります。

賞与の計算方法は企業によって異なりますが、業績などを考慮したうえで1つの例として、「基本給×〇か月分」という計算式を採用する企業が多いでしょう。例えば、基本給が20万円で、賞与を基本給の2か月分と設定した場合の賞与は40万円です。

時間外手当・深夜手当・休日手当

時間外手当は、所定労働時間を超えて働いた場合や、法定労働時間(通常は1日8時間、週40時間)を超えて働いた場合に支給される賃金です。なお、所定労働時間を超えた労働が法定労働時間内である場合(いわゆる「法定内残業」)についても、企業の規程により時間外手当が支給されることがあります。割増賃金の適用や支給額は、各企業の給与規程により異なります。

時間外手当や深夜手当、休日手当は、所定内給与を基に算出されるため、所定内給与が高いほど支払う手当の金額も高くなります。割増賃金は、所定内給与をベースにした1時間当たりの基礎賃金として計算されます。

1時間当たりの基礎賃金を求める計算式として、以下のような方法が一般的に用いられています。ただし、具体的な計算方法や条件は各企業の給与規程に準じるため、詳細は個別の規程をご確認ください。

計算式の例:

所定労働日数 = (365日 − 年間所定休日数) ÷ 12か月

時間外手当の割増率は25%以上(ただし月60時間を超えた分の時間外労働は50%)です。深夜(午後10時から午前5時まで)の時間帯に働いた場合には深夜労働となるため、割増率は25%以上となります。なお法定休日(週1日)に働いた場合に支給する賃金の割増率は35%です。

これらの割増率は重複する場合もあります。例えば、時間外労働かつ深夜労働になった場合は、時間外労働の25%と深夜労働の25%を合計した50%の割増率が適用されます。なお、企業によっては固定残業代制度を採用しているケースもあり、計算方法が異なることも覚えておきましょう。

割増賃金について、こちらの記事で解説しています。

残業代の計算方法

残業代を計算するには、まず基礎時給を計算します。

基礎時給の計算式は、以下のとおりです。なお、計算方法は各企業の給与規程に準じます。以下の計算式は、一般的によく用いられる例です。

  • 基礎時給=月給÷(月の所定労働日数×1日の所定労働時間)

残業代は、1時間当たりの賃金に対して25%増しで計算します。

  • 残業代=基礎時給×1.25×残業時間

法定休日に働いた場合の割増率は35%です。

  • 休日労働の賃金=基礎時給×1.35×休日労働時間

先述したように、法定労働時間(通常は週40時間)を超える残業には25%の割増率が適用され、月60時間を超える残業については、50%の割増率が適用されます。この場合の計算式は以下のようになります。

  • 月60時間を超える残業代=基礎時給×1.5×(月60時間を超える残業時間)

退職金

退職金も賞与と同じように、支給するか否かは企業に委ねられています。退職金の支給に法的な義務はありませんが、多くの企業が就業規則や労働協約、雇用契約で退職金の支給を明記しています。

企業によって退職金の計算方法は異なりますが、賞与と同じく基本給に連動させるという方法があります。多くの企業で用いられているのは、基本給に勤続年数に応じた支給率を乗じる計算方法です。例えば、基本給が25万円で支給率が3%、勤続20年の場合、退職金は「25万円×0.03×240か月」で180万円になります。

また、一定期間ごとに基本給に応じた割合を積み立てている企業もあります。例えば、毎月基本給の2%を積み立てる場合、基本給が25万円であれば「25万円×0.02」で、毎月の積み立ては5,000円になります。

近年では、基本給をベースにしない退職金制度を採用する企業も増えています。この場合、業績や勤続年数に応じたポイント制や、確定拠出年金制度などを導入している企業が多くなっているようです。

社会保険料

社会保険料とは、広義には労働保険や雇用保険などを含む、公的保険料の総称です。狭義には健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料を指します。これらの保険料は、社会保険制度に基づいて支払うものであり、基本給だけでなく諸手当を含む報酬により金額が変わります。

社会保険料は、標準報酬月額を基に算出します。標準報酬月額は年に1度、4月から6月までの3か月間の報酬(基本給や諸手当を含む)の平均額を基に決定するものです。この手続きは「定時決定」と呼ばれています。また、昇給や降給などにより報酬に大きな変動があった場合には「随時改定」として見直しを行います。入社時には、最初の給与支払いを基準として標準報酬月額が決定され、この方法は「資格取得時決定」と呼ばれます。

この標準報酬月額を基に算出されるのが、健康保険料と厚生年金保険料です。介護保険料も同様ですが、介護保険料の対象となるのは、40歳以上65歳未満の被保険者です。

基本給の決め方の種類

基本給の決め方について解説します。

仕事給型

仕事給型では、個人の年齢や勤続年数よりも職務の性質が優先されます。仕事給型で重視するポイントは以下のとおりです。

  • 職務の内容:具体的な仕事内容や業務範囲
  • 難易度:業務の複雑さや専門知識の必要性
  • 責任の大きさ:業務に伴う責任の範囲や影響力
  • 業績:業務の成果や達成度
  • 職務遂行能力:業務を遂行するためのスキルや能力

仕事給型は、日本よりも欧米で多く採用されている方式です。スキルや経験が評価されるため、従業員のモチベーションアップが期待できます。また、従業員の自己成長を促進する環境を整備できるなどの利点もあります。

属人給型

属人給型は、学歴(最終学歴や取得した資格)・年齢・勤続年数などの情報を基に基本給を決める方式です。本人給と呼ばれることもあり、これまで日本の企業が多く採用していた年功序列型も属人給型に含まれます。属人給型は、長期間働くことで給与が上がるため、従業員が企業への帰属意識を持ちやすくなるなどのメリットがあります。

総合給型

業務と個人といった両方の要素を併せて考慮し、基本給を決める方式が総合給型です。業務要素に該当するのは、担当している職務の内容や難易度、責任の大きさなどの要素です。個人要素には年齢や勤続年数、能力などが該当します。

年齢や勤続年数に応じて等級が上がり、業績や成果を号給で評価するのが総合給型の特徴であり、日本の給与体系で多く採用されています。従業員の成長や成果が評価されるため、モチベーションアップが期待できる方式です。

基本給のしくみを設計する流れ

基本給のしくみをつくる流れについて解説します。

1. 人事戦略を策定する

まず、人事戦略を策定します。人事戦略とは、企業の目標やビジョンを達成するために、どのような人材を求める人材像を明確にし、基本給や評価制度をどのように設計するかを計画することです。

人事戦略の策定には、等級制度や役割基準を設定し、従業員の職務やスキルに応じて段階を決めることが含まれます。これにより、各職位や役割に応じた基本給を適切に設定することが可能になります。また、評価制度として、業績や能力、貢献度といった要素に基づいて従業員を評価し、それを基本給に反映させるしくみを整えることが重要です。

2. 基本給の根拠となる要素や水準を決める

人事戦略を策定したのちに、基本給の根拠となる要素や水準を決定します。根拠となる要素とは、年齢や勤続年数、能力、業績などを指しますが、どの要素を採用するかは企業によって異なります。企業の方針や業界の特性に応じて、適切な要素を選定しなければなりません。

基本給の水準を決めるときは、業界や地域での水準が参考になるので、必要な情報を集めて競争力のある給与体系を構築しましょう。業界や地域の水準を見ながら、必要に応じた引き上げや引き下げを行いましょう。さらに、新卒採用を行っている企業では、初任給を決めることも重要です。初任給を設定し、モデルとなる昇格年数を設定することで、従業員が理解しやすい給与体系を構築するようにしましょう。

3. 等級ごとの賃金レンジを決める

賃金レンジとは、給与の上限と下限を指します。等級ごとに区分して基本給を設定し、それぞれの等級に賃金レンジを設定します。

等級ごとの賃金レンジを決めるにあたり、まず等級の定義を行います。等級は、職務の内容や責任の大きさに基づいて設定するのが一般的です。等級を定めたら、各等級に対して賃金レンジを設定し、従業員がその等級内でどの程度の給与を受け取れるかを示します。賃金レンジを設定するメリットは、透明性と公平性の確保です。昇進や昇給の目標が明確になるため、従業員のモチベーションが高まります。

4. 昇給ルールを策定する

昇給ルールを策定することで、従業員がどのように賃金レンジの中で昇給していくかが明確になります。かつては賃金を改定するたびに昇給するパターンが一般的となっていましたが、近年では、賃金改定による降給も見られるようになっています。

明確な昇給ルールを策定するポイントは、昇給の基準と昇給のタイミング、昇給の幅です。業績や能力、勤続年数など、どの要素を基準に昇給を決定するかが明確になっていなければ、透明性や公平性は担保できません。また、年に一度の賃金改定時や特定の業績評価のタイミングなど、どのタイミングで評価するかも明示しておきましょう。

賃金レンジの中でどの程度の昇給が可能か明記することにより、従業員は目指すべき目標を見出しやすくなります。具体的な昇給のパターンは以下のとおりです。

定期昇給方式

定期昇給方式とは、賃金改定時に従業員の給与が定期的に昇給していく方式であり、年齢・勤続年数・評価に応じて昇給額が決まります。

定期昇給方式には、年齢や勤続年数に応じて固定給が上がるパターンと、評価によって昇給する額が変動するパターンがあります。年齢や勤続年数に応じて固定給が上がるパターンは、年功序列型の給与体系に近く、定期的な昇給があります。また、長期間働くことで給与が上がる形態は、従業員の帰属意識を高める要素になります。その一方で、評価によって昇給額が変動するパターンでは、従業員の業績や能力に基づいて昇給額が決まるため、評価が高い従業員ほど昇給額は大きくなります。

公平性を確保するという面では、評価によって昇給額が変動するパターンのほうが望ましいと考えられます。業績や能力に応じた適切な評価が行われることで、従業員の納得感も高まるはずです。

ゾーン昇給方式

ゾーン昇給方式は、定期昇給型の変形となる昇給方式です。この方式では、同じ等級や同じ評価の場合も、基本給レンジ内の金額がどこに位置するかで昇給額が変わります。

例えば、基本給レンジの下限に近い場合は昇給額が大きく、上限に近い場合は昇給額が小さくなります。そのため、ゾーン昇給方式は、従業員のモチベーションを維持するだけでなく、昇進やスキルアップの促進にも有効です。また、公平性の向上もメリットです。基本給レンジ内のどこに位置するかで昇給額が変わるため、同じ等級や評価でも個々の状況に応じた公平な昇給が実現できます。

洗い替え方式

洗い替え方式は、前年の支給額に関わらず、評価を基に基本給を決める方式です。この方式では、前年の支給額に関係なく、直近の評価が基本給に直接反映されるため、基本給が毎年変動することも珍しくありません。

洗い替え方式のメリットは、従業員の現在のパフォーマンスや成果が給与に反映されやすくなる点です。また、成果主義を強化できるのもポイントです。営業職などの成果給には、この方式が多く採用されています。成果や業績が直接給与に結びつくため、モチベーションを高める効果が見込めます。

基本給の決め方における注意点

基本給を決める際に留意するべき注意点について解説します。

平均値を確認する

企業が基本給を決めるにあたり、業界や地域での平均値を確認しておくことは非常に重要です。賃金統計データを参照し、業界や地域の平均賃金を把握しておきましょう。

平均値を把握する理由は主に2つです。まず、人材の確保が挙げられます。業界や地域での平均値に比べ、低い基本給を設定している企業には人材が集まりにくくなるというデメリットがあります。次に、企業が優秀な人材を確保するためには、競争力のある基本給を設定しなければなりません。基本給が平均値より低かった場合、残業手当や賞与なども平均値より低くなり、従業員が転職してしまうリスクが高まります。

従業員の満足度を高め、離職率を低く保つためにも、適切な基本給を設定するようにしましょう。

基本給の最低ラインを下回らない

基本給を決める際は、最低賃金をしっかり把握しておくことも大切です。

最低賃金には、地域別最低賃金と特定最低賃金の2種類があります。地域別最低賃金とは、地域ごとに定められた最低賃金であり、毎年10月に改定されます。そのため、企業は最新の地域別最低賃金を確認し、基本給がこれを下回らないよう注意しなければなりません。特定最低賃金とは、特定の産業や職種に対して定められるものであり、これが地域別最低賃金を上回る場合もあります。

ただし、最低賃金には、減額特例(最低賃金の適用外)があり、厚生労働省が提示している「最低賃金の適用される労働者の範囲」では、以下に該当する労働者に対して、使用者が都道府県労働局長の許可を受けることで最低賃金を減額できるものとしています。

  • 精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い方
  • 試の使用期間中の方
  • 基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受けている方のうち厚生労働省令で定める方
  • 軽易な業務に従事する方
  • 断続的労働に従事する方

減額特例を活用する際は、まずは最寄りの労働基準監督署に問い合わせ、詳細を確認するようにしましょう。

基本給のしくみを正しく理解しよう

基本給は、給与のベースとなる基本賃金です。実際に支払われる給与は、基本給に残業代や手当などを足し、税金や社会保険料を控除した額です。基本給の決め方は、仕事給型や属人給型、総合給型などがあります。それぞれメリットが異なるため、自社に適した方式を選ぶようにしましょう。

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この記事の監修者税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

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