雇用契約書とは?労働条件通知書との違いや記載事項、注意点を解説
監修者: 川口 正倫(社会保険労務士)
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一般的に、会社が従業員を雇用する際には、雇用契約書を取り交わします。また、従業員を雇う際に発行する労働条件通知書という書類も存在しますが、これら2つの書類は兼用することも可能です。
本記事では、雇用契約書の役割や労働条件通知書との違いを詳しく解説します。また、雇用契約書(労働条件通知書 兼 雇用契約書)の記載事項や作成時の注意点も紹介します。
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雇用契約書とは雇用契約の内容を確認する書類のこと
雇用契約書とは、会社(雇用主)と労働者(雇用される側)の間で、雇用契約の内容を明確にするために取り交わす書類です。
給与(賃金)・就業場所・時間・業務内容・昇給・退職などの、労働条件に関する重要事項を取り決め、書面化します。そして、会社と労働者の双方が署名捺印または記名押印をして締結します。
署名捺印とは、氏名などを手書きして印を押すことです。また、記名押印とは、スタンプや印刷など手書き以外の方法で、氏名や会社名を記載して印を押すことです。捺印や押印は必ずしも必要なものではありませんが、書類の証拠能力を高める効果があります。
雇用契約(労働契約)について、労働契約法第6条は以下のとおりに定めています。
労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する
引用:e-GOV「民法 第六百二十三条」
雇用契約自体は、会社と従業員双方の合意さえあれば口頭だけでも成立します。雇用契約書は、法的に発行を義務付けられているわけではありません。
しかし、口約束だけでは、入社してからトラブルが起こりかねません。そのため、多くの会社が従業員と雇用契約書を取り交わしています。
雇用契約書と労働条件通知書の3つの違い
雇用契約書と混同されやすいのが、労働条件通知書です。雇用契約書と労働条件通知書は、どちらも従業員を雇う際に使用される書類ですが、それぞれの役割や法的な位置づけには大きな違いがあります。ここでは、両者の主な違いを3つのポイントに分けて解説します。
1. 法的な作成義務の有無
前述したように、雇用契約書には法的な作成義務はありません。雇用契約自体は、会社と従業員が口頭で合意するだけでも成立するため、必ずしも書面で取り交わす必要はありません。
その一方で、労働条件通知書は、従業員に対して労働条件を明示することが労働基準法第15条1項で義務付けられています。賃金や労働時間などの基本的な労働条件は、会社が労働者に書面で通知しなければならないため、労働条件通知書の作成・交付は必須です。
参照:e-GOV「労働基準法 第十五条 労働条件の明示」
労働条件通知書についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
2. 署名捺印・記名押印の有無
雇用契約は、会社と労働者の双方による「契約」です。会社と従業員の双方が同意の上で、雇用契約書を取り交わすことで、正式に締結されます。
その一方で、労働条件通知書は会社から労働者に対する「通知」です。そのため、署名捺印や記名押印の必要はなく、会社が一方的に作成し、労働者に交付します。
3. 記載事項に関する決まりの有無
雇用契約書は法的な作成義務のない書類のため、記載内容についても法令等で定められた事項はありません。したがって、内容は会社と従業員が自由に決められます。
その一方で、労働条件通知書には、労働基準法第15条第1項と同法施行規則第5条によって、記載すべき事項が定められています。労働条件通知書を作成しても、法令で定められた必要事項が記載されていなければ違法です。
参照:e-GOV「労働基準法 第十五条 労働条件の明示」
参照:e-GOV「労働基準法施行規則 第五条 」
雇用契約書を作成した方がよいケース
前述したように、雇用契約書の作成は必須ではありませんが、職場環境や業務内容によっては、作成した方が良い場合があります。特に、労働条件通知書だけでは従業員に誤解を招くような複雑な労働条件がある場合、雇用契約書を作成することでトラブルを未然に防げます。
たとえば、「残業発生の可能性」、「休日が変則的」、「在職中の転勤や人事異動の可能性」、「試用期間を設けている」などの場合です。これらを雇用契約書で明確に示しておくことで、従業員との認識のズレを防げます。
ただし、会社によっては、法的に義務である労働条件通知書と雇用契約書を両方作成する手間を避けたい場合もあるかと思います。その解決策として「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の作成という方法があります。
雇用契約書は、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」で代用できる
※参照:厚⽣労働省「東京事務局」
雇用契約書と労働条件通知書は、必ずしも別々に作成する必要はありません。多くの会社では、重複する内容を避けるため、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」という形でひとつの書類にまとめています。
労働条件通知書に必要な事項は、労働基準法第15条で定められていますが、書式に関しては決まりがありません。そのため、雇用契約書に労働条件通知書の必要事項を含めて作成し、双方が合意して書面を取り交わすことで、両方の役割を果たすことが可能です。
この「労働条件通知書 兼 雇用契約書」をどのように作成するかは、次項で詳しく解説します。
雇用契約書(労働条件通知書 兼 雇用契約書)に記載するべき事項
労働条件通知書と雇用契約書の役割を兼ねた「労働条件通知書 兼 雇用契約書」では、法令で定められた労働条件通知書の記載事項を網羅する必要があります。以下では、その記載事項について詳しく解説します。
絶対的記載事項
雇用契約書(労働条件通知書 兼 雇用契約書)を作成する場合、労働条件通知書の記載事項を守らなくてはなりません。そして、記載事項には「絶対的記載事項」が存在します。絶対的記載事項は法令で明示が義務づけられており、省略することは認められていません。絶対的記載事項は、以下のとおりです。
- 絶対的記載事項の内容
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- 労働契約の期間
- 就業場所、業務内容
- 就業場所、業務の変更の範囲
- 始業、終業時刻
- 休憩時間
- 所定労働時間を超える労働の有無
- 休日、休暇
- 交代制のルール(労働者を2つ以上のグループに分ける場合)
- 基本賃金、計算方法、割増賃金率
- 賃金の締切日、支払日、支払方法
- 退職や解雇に関する規定
- 更新上限の有無およびその内容(有期契約労働者)
- 無期転換の申し込み機会(有期契約労働者)
- 無期転換後の労働条件(有期契約労働者)
法改正により2024年4月1日以降、労働条件通知書は「就業場所、業務の変更の範囲」の明示が必要です。さらに有期雇用労働者を雇い入れる際には、「更新上限の有無およびその内容」無期転換の申し込み機会」「無期転換後の労働条件」の記載が必要になりました。
さらに、パート・アルバイトなどの短時間労働者や、契約社員などの有期雇用労働者を雇う場合は、以上の事項に加えて、昇給・賞与・退職手当の有無、雇用関連の相談窓口についても記載しなければなりません。
相対的記載事項
相対的記載事項とは、必ずしも記載する必要はありませんが、その会社が該当する制度を設けていれば労働条件通知書に記載が必要な事項です。したがって、雇用契約書(労働条件通知書 兼 雇用契約書)において、該当制度があれば必ず記載しなければなりません。具体的には、以下のような事項が該当します。
- 相対的記載事項の内容
-
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲
- 退職手当の決定、計算方法、支払方法、支払時期
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く)、賞与、精勤手当、奨励加給、能率手当について
- 最低賃金額
- 労働者に負担させる食費、作業用品など
- 安全、衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- 休職に関する事項
就業規則の重要事項
トラブルを未然に防ぐという観点から、社内ルールである就業規則の重要事項を記載することも推奨します。
たとえば、人事異動や転勤に関する規定、従業員の過失による損害に対する罰則、会社の都合で休業が発生した場合の扱いについてなどです。こうした規則を雇用契約書(労働条件通知書 兼 雇用契約書)に明示しておくことで、従業員にとって安心して働ける労働環境が整います。
雇用契約書(労働条件通知書 兼 雇用契約書)を作成する際の注意点
雇用契約書(労働条件通知書 兼 雇用契約書)を作成する際の、主な注意点を紹介します。作成前にきちんと確認しておきましょう。
雇用形態による内容をそれぞれ明示する
会社によっては、正社員だけではなく、契約社員やパート、アルバイトなど、雇用形態の異なる従業員を雇い入れるケースもあるでしょう。その場合は、雇用契約書の内容も、それぞれの雇用形態に適用される制度に沿って記載する必要があります。
また、雇用契約書と労働条件通知書を兼ねる場合、契約社員をはじめとする有期雇用労働者や、パート・アルバイトなどの短時間労働者は、正社員よりも記載事項が多くなります。雇用形態ごとに記載すべき内容を確認し、漏れのないように注意してください。
人事異動、転勤、職種変更の有無を明示する
入社後に人事異動や転勤、職種変更の可能性がある場合、雇用契約書に明示しておきましょう。たとえ就業規則に人事異動や転勤などの記載があったとしても、雇用契約書に明示されていなければ、転勤命令を出した場合に労務トラブルとなるリスクが発生します。
これは、就業規則と雇用契約書の内容が異なる場合は、労働者保護の観点から、労働者に有利な方が優先されるためです。不要なトラブルを防ぐためにも、人事異動、転勤、職種変更の有無について、きちんと雇用契約書に記載しておかなければなりません。
労働時間制を明示する
労働時間制度には、通常の労働時間制(固定労働時間制度)以外にも、変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制、みなし労働時間制、固定残業制など、さまざまな種類があります。業種や職種などによって、通常とは異なる労働時間制度を導入する場合は、その旨を雇用契約書に明示する必要があります。
試用期間を明示する
試用期間を設けている場合は、必ず雇用契約書に記載しておきましょう。会社によって、試用期間中と本採用時の雇用条件が変わらない場合もあれば、給与や待遇などに違いがある場合もあります。これらの条件を明示しないまま試用期間を適用すると、トラブルに発展してしまうこともあります。
ひな形は修正する
雇用契約書を作成する際に、「ひな形」や「テンプレート」を使用すると大変便利です。ただし、ひな型をそのまま使用すると問題が生じる恐れがあります。
ひな形は一般的な内容に基づいており、特に正社員向けに作成されています。そのため、フレックスタイム制や契約社員、パートタイム労働者には内容をアレンジしなければなりません。記載漏れなどがあると、違法になってしまう恐れも生じます。必ず自社の状況に合わせた修正が必要です。
雇用契約書を交付するタイミング
雇用契約書を交付するタイミングは、通常の雇用契約書の場合と、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の場合とでそれぞれ異なります。
通常の雇用契約書の場合
通常の雇用契約書を取り交わすタイミングについては、法的な定めはありません。実務上は、内定日や内定後の入社手続き時、入社日に締結するケースが多いでしょう。
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の場合
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を交付するタイミングは、労働条件通知書の交付と同様、労働契約(雇用契約)の締結時と決まっています。双方が雇用契約について同意した時点で、労働条件通知書の発行が必要です。
雇用契約書の交付方法
雇用契約書の交付方法も、通常の雇用契約書の場合と、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の場合とでそれぞれ異なります。
通常の雇用契約書の場合
通常の雇用契約書は、紙での交付に限らず、電子交付も可能です。すなわち、FAXやメール、LINEなどのSNSなどによる交付が認められています。これにより契約書の管理や発行がより効率的になります。
ただし、これらの交付は電子帳簿保存法の電子取引に該当します。したがって、一定期間適切に保存され、必要に応じてすぐに確認できる状態になっていなければなりません。不適切な保存方法が発覚した場合は、罰則が適用される恐れがあるので注意してください。労働基準法上の法定保存期間は5年間(経過措置で3年間)となっていますが、電子帳簿保存法上は7年となります。
参照:国税庁「電子取引関係におけるお問合せの多いご質問(令和6年3月)」
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」の場合
「労働条件通知書 兼 雇用契約書」は、従業員が希望する場合に限り、電子交付が認められます。電子化する際には、書類の末尾に「電子交付を希望する」という項目を設け、従業員に記名押印してもらうと良いでしょう。書類を交付したら、従業員に書類が届いたかを確認し、なるべく出力して保存するよう促しましょう。
もし、従業員が電子交付を希望していないにもかかわらず電磁的方式で交付すると、労働基準法・同法施行規則に違反し罰則が課せられる可能性があります。
参照:厚生労働省「平成31年4月から、労働条件の明示が FAX・メール・SNS等でもできるようになります」
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雇用契約書は、雇用契約の内容を明確にするために、会社と労働者の双方で取り交わす書類です。法的には作成の義務はありませんが、入社後のトラブルを防ぐため、多くの会社が雇用契約書を締結しています。また、実務上は雇用契約書と労働条件通知書を兼用するケースも多くあります。この場合、記載事項を遵守することが大事です。従業員が希望すれば電子交付も可能ですが、適切に保存するよう注意してください。
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この記事の監修者川口 正倫(社会保険労務士)
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ所属社労士。
総務・人事の分野で零細企業から上場企業まで勤務後、社会保険労務士に転身。平成19年社会保険労務士試験合格、その後平成31年に特定社会保険労務士の付記登録。『労務事情令和4年3月15日号』(産労総合研究所)に「年4回賞与の取扱いについて」を記事寄稿・『年金復活プランがよくわかる本』(Kindle本)を出版。