休業手当とは?計算方法や休業補償との違いを解説

2023/05/16更新

この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

「休業手当」は労働基準法で定められた制度で、会社側の都合によって労働者を休ませたときに支払う手当のことです。しかし、経営者や人事担当者の中には「会社側の都合とはどのようなケースを指すのだろう」「休業手当はいくら支払えばいいのだろう」などの疑問を持つ方もいるかもしれません。また、休業手当と混同されやすいものに「休業補償」があり、両者の違いをきちんと把握しておく必要があります。

ここでは、休業手当の概要と計算方法の他、休業手当と休業補償の違いなどについて解説します。

休業手当とは会社の都合で労働者を休業させたときの手当のこと

休業手当とは、使用者(会社・事業主)側の責任にもとづいて労働者を休業させた場合に、支給する手当です。まずは、休業手当の概要と共に、その目的や対象者などを確認しておきましょう。

休業手当の目的

労働基準法によって休業手当制度が定められている目的は、労働者の最低限の生活の保障を図るためです。労働基準法第26条では、「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない」と定めています。

会社都合の休業によって従業員の収入が減少してしまうと、従業員の生活に重大な支障が出てしまいます。もし、会社側が自由に従業員を休ませることができ、「働いていないから給料を支払わない」と何の保障もしなかったなら、従業員は安心して働くことができないでしょう。そうした事態を防ぎ、一定程度の給料を保障するために、法律によって規定されているのが休業手当です。

なお、労働基準法第26条にある「使用者の責に帰すべき事由」には、下記のような例が該当します。いずれも、会社側の都合によって労働者が就業できなくなるケースです。

使用者の責に帰すべき事由の例

  • 経営不振による休業
  • 設備や機械の不備
  • 工場設備の検査による休業
  • 原料となる資材不足による休業
  • 電力や燃料不足に伴う休業
  • 作業に必要な労働者不足による休業
  • 監督官庁の行政指導による休業 等

休業手当の対象者

休業手当は、全ての労働者が支給対象となります。正社員、パート、アルバイト、契約社員など、雇用形態を問いません。

また、休業手当の対象となる休業期間は時間単位で算定され、会社都合で所定労働時間内の一部を休ませた場合には、原則として休業手当の対象となります。そのため、やむを得ぬ使用者の責に帰すべき理由によって1日のうち一部を休業したときでも、実際の就労時間に対して支払う賃金(平均賃金の60%以上)を支払っていれば、休業手当の支給義務は法律上ありません。

休業手当は「給与所得」として扱われる

休業手当は賃金として支払われ、毎月の給与と同じ「給与所得」として扱われます。そのため、所得税の課税対象になる点に注意が必要です。

また、毎月の給与と同様に、社会保険料や雇用保険料の対象にもなります。

無料お役立ち資料【「弥生のクラウド給与サービス」がよくわかる資料】をダウンロードする

休業手当支給額の算出方法

休業手当の1日あたりの支給金額は「平均賃金の60%以上」です。この1日あたりの金額を、休業期間の日数に応じて支払います。実際には、会社の就業規則・給与規程で定めた計算式で、支給金額が決定します。

なお、休業手当を算出するベースとなる平均賃金は、基本給のことではありません。平均賃金は、下記の計算式によって算出されます。

平均賃金の計算式

平均賃金=事由の発生した日以前の3か月間の賃金総額÷その3か月間の総日数(暦日数)

平均賃金を算出するには、まず、休業開始直前3か月間の賃金総額を求める必要があります。この期間は、賃金締切日がある場合は直近の賃金締切日、ない場合は「事由の発生した日(休業開始日)」の前日から起算します。

また、賃金総額には、基本給の他、通勤手当や精勤・皆勤手当、年次有給休暇分の賃金、時間外手当なども含まれます。ただし、下記のような手当・賃金は、賃金総額から除外されます。

賃金総額に含まれない手当・賃金

  • 結婚手当、傷病手当、加療見舞金、退職金など臨時で支払われる賃金
  • 3か月以上の間隔で支払われる賃金(3か月ごとに支払う賞与などは賃金総額に含みます)

休業手当を計算する際の注意点

月給制の労働者に対する休業手当は、上記の計算で算出した平均賃金の60%以上となる金額を、休業期間の日数に応じて支払うことになります。ですが、日給制や時間給制の労働者の場合、休業手当の計算で違った対応が必要になることがあります。

算定期間の労働日数が少ない場合、最低保障金額を使う

日給制や時間給制の労働者などで、休業開始日以前の3か月間における労働日数が少なかった場合、前述した計算式では、賃金総額を3か月間の総日数(暦日数)で割るため、平均賃金が低くなってしまいます。そのような場合は、「最低保障金額」の計算が必要となります。

最低保障金額の計算式

最低保障金額=(事由の発生した日以前の3か月間の賃金総額÷その3か月間の総労働日数)×60%

計算式によって求めた平均賃金が最低保障金額を下回る場合は、最低保障金額を平均賃金として扱います。

労働義務のない日は休業手当の対象としない

休業手当は、使用者の責任にもとづいて休業させた日を対象に支払うものです。労働者の労働義務がない日に対しては、休業手当は発生しません。例えば、もともと労働義務のない休日については、休業手当を支給する必要はありません。

また、天災などのような不可抗力による休業の場合も、使用者の責任にはあたらないため、休業手当の支払い義務は発生しません。

休業手当と休業補償の違い

休業手当と混同されやすいものに、休業補償があります。休業補償とは、労働基準法第76条で定められている労働災害に対する補償制度です。業務中や通勤中に発生した負傷・疾病などによって働けない労働者に対して、休業を余儀なくされることになった日の4日目以降、労災保険から休業補償が支払われます。なお、賃金ではなく補償なので、所得税や社会保険料はかかりません。

休業補償の算出方法

休業補償の金額は、下記の計算式によって算出されます。

休業補償の計算式

休業補償=給付基礎日額の60%×休業日数

労働者に対しては、これに休業特別支給金20%を足した、1日あたり給付基礎日額の80%に相当する金額が支給されます。なお、給付基礎日額とは原則として、休業手当における平均賃金に相当する金額を指します。

また前述したように、休業補償が支給されるのは休業開始4日目からです。休業3日目までは、会社が3日分の休業補償(平均賃金の60%以上)を支払う必要があります。

休業手当と有給休暇の違い

休業手当と同じく、労働基準法で定められた制度として有給休暇(年次有給休暇)があります。有給休暇は、労働基準法第39条に記載されています。休業手当は会社の責任にもとづく休業に対して支給されるものですが、有給休暇は一定の条件を満たせば取得できる、労働者の権利です。

法律で定められている休業制度

休業手当の対象となる「使用者の責に帰すべき事由」による休業の他にも、休業制度が法律で定められています。その代表的なものをご紹介します。

産前産後休業

産前産後休業は、労働基準法第65条で定められている休業制度です。使用者は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性が休業を請求した場合、その労働者を就業させてはいけません。また、原則として、産後8週間を経過していない女性を就業させることはできません。

産前産後休業期間は、基本的に給与を支払う必要はありません。ただし、労働者本人が健康保険の被保険者であれば、出産手当金を受け取ることが可能です。なお、産前産後休業保険料免除制度により、産前産後休業期間は条件により労働者本人の社会保険料の支払いが免除されます。

育児休業

育児休業は、育児・介護休業法(育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)で定められている制度です。労働者は、養育する子が1歳未満の場合、事業主に申し出ることで育児休業を取得できます。父親でも母親でも取得でき、一定の条件を満たせば1歳を超えて延長も可能です。

育児休業を取得する労働者が雇用保険に加入しており、要件を満たす場合は、育児休業給付金を受け取ることができます。また、社会保険に加入している場合は、産前産後休業期間中と同様に、育児休業期間中の社会保険料は条件により免除となります。

介護休業

介護休業は、育児休業と同じく育児・介護休業法で定められている制度で、家族などを介護するために取得できる休業です。労働者本人が雇用保険に加入していれば、介護休業給付金を受けることが可能です。また、労働者から介護休業の申し出があったとき、事業者がそれを拒むことはできません。なお、産前産後休業、育児休業とは異なり、介護休業期間中の社会保険料は免除されません。

休業手当の計算や管理は給与計算ソフトで効率化しよう

休業手当は、会社側の都合によって労働者を休業させた場合に支給しなければならない手当です。休業手当の支給金額を算出するには、まず、基本給や各種手当などから賃金総額を求め、そのうえで平均賃金を計算しなければなりません。また、休業手当は賃金として扱うため、所得税や社会保険料が発生します。

休業手当をはじめとする、給与計算・管理に伴う煩雑な業務におすすめなのが、「やよいの給与明細 オンライン」のようなクラウド給与計算ソフトです。

クラウド給与計算ソフトは、支給、控除、差し引き支給額を自動計算できるので、給与計算の手間やミスを軽減してくれます。さらに、税金や保険料率の変更にも自動で対応するため、給与計算のたびに最新の料率や法令をチェックする必要がありません。きれいで見栄えの良い給与明細書を手軽に作成でき、入力したデータは賃金台帳や従業員台帳にも自動で反映されます。

便利な給与計算ソフトを活用して、従業員に支給する給与計算にかかる手間を削減してみてはいかがでしょうか。

無料お役立ち資料【「弥生のクラウド給与サービス」がよくわかる資料】をダウンロードする

弥生のクラウド給与サービスなら給与計算・年末調整がスムーズに

弥生のクラウド給与サービスは、初心者でも給与・賞与計算から年末調整まで、"かんたん" に行えるソフトです。
従業員規模や利用目的など、お客さまに最適な「給与計算ソフト」をお選びいただけます。
今なら初年度無償で使えるキャンペーンを実施中です!
まずはお気軽にお試しください。

年末調整までご自身で行いたい方におすすめな「弥生給与 Next」

弥生給与 Nextは、毎月の給与計算から年末調整業務を効率化するクラウド給与ソフトです。
勤怠情報を入力すれば残業代や社会保険料などは自動計算で、給与明細書の作成はラクラク。
また作成した給与明細書は、Web配信で従業員のスマホ・PCに配付することができます。
さらに年末調整に必要な控除申告書の回収、法定調書の作成、源泉徴収票の従業員への配付もオンラインでスムーズです。

年末調整の法定調書作成を委託されている方向けの「やよいの給与明細 Next」

やよいの給与明細 Nextは、年末調整を会計事務所に委託している方にピッタリのソフトです。
給与・賞与明細書の作成から配付はオンラインでスムーズ。
年末調整は控除申告書のWeb回収まで可能です。

  • 年末調整の法定調書作成を自社で対応したい方は弥生給与 Nextをお申し込みください。

また、外部委託先へデータ連携の共有がかんたんだから、データの転記や控除申告書のPDF化などの手間が大幅に削減されます。

この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

中小企業を経営する上で代表的なお悩みを「魅せる会計事務所グループ」として自ら実践してきた経験と、約3,000社の指導実績で培ったノウハウでお手伝いさせて頂いております。
「日本で一番喜ばれる数の多い会計事務所グループになる」
この夢の実現に向けて、全力でご支援しております。
解決できない経営課題がありましたら、ぜひ私たちにお声掛けください。必ず力になります。

初心者事業のお悩み解決

日々の業務に役立つ弥生のオリジナルコンテンツや、事業を開始・継続するためのサポートツールを無料でお届けします。

  • お役立ち情報

    正しい基礎知識や法令改正の最新情報を専門家がわかりやすくご紹介します。

  • 無料のお役立ちツール

    会社設立や税理士紹介などを弥生が無料でサポートします。

  • 虎の巻

    個人事業主・法人の基本業務をまとめた、シンプルガイドです。

事業のお悩み解決はこちら