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個人事業主の保険は経費にできる?該当する保険の種類や判断基準を解説

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個人事業主が加入する保険には、経費にできるものとできないものがあります。両者の判断基準は、事業を継続するために必要であるかどうかです。

個人事業主の場合、自宅を事務所として使用したり、仕事で自家用車を使用することもあるでしょう。このようなケースでは、経費を事業分とプライベート分に分ける必要があります。これを「家事按分(かじあんぶん)」といい、経費として認められるのは、事業で使用している部分のみです。この家事按分の考え方は、保険料にも適用されます。

ただし、経費にできないものでも、所得控除の対象になる場合があります。以下、経費として認められる保険とそうでないものについて解説します。

個人事業主が経費にできる保険

まずは、保険の中で経費にできるものを見てみましょう。経費として認められるのは、あくまでも事業を継続するために必要な保険に対して支払った保険料です。事業とは無関係の私的な保険に対する保険料は、経費としては扱えません。

例えば、事業の継続に必要な事務所の家賃は原則として全額が経費となりますが、自宅を事務所としている場合には、事業で使用する部分の面積を割り出し、事業分のみを経費に計上できます。これは保険料においても同じです。

どのような保険が経費となるのか、計上の際に注意するべき点も併せて解説します。

自動車保険料

自動車保険料は、事業で自動車を用いているなら経費としての計上が可能です。運送業など事業専用の車両を保有している場合、自動車保険料の全額を経費にできます。勘定科目は「損害保険料」のほか、「車両費」を使用できます。

自動車だけでなく、バイクや自転車も同じで、事業に使用している場合は経費にできます。ただし、自家用車を仕事にも使用するなど、事業とプライベートの利用を兼ねている場合は、事業で使用した分のみ経費にできるため、家事按分する必要があります。自動車保険料の家事按分は、使用回数や走行距離を基に算出するのが合理的です。

扱いとしては、任意保険も自賠責保険も同じですが、任意保険で契約が複数年にわたる場合は、長期費用とみなされて仕訳の方法が少し異なりますので注意が必要です。

火災保険料

事務所や店舗など、事業に関係する建物に対して掛けられた火災保険料は経費となります。自宅兼事務所や店舗兼住宅など、自宅と事業を行う場所が同一である場合は、保険料の一部を経費にすることが可能です。

これも事業で使用した分を算出するために家事按分を行い、経費計上します。火災保険の家事按分には、事業で占有している面積が使われることが多いですが、使用時間に応じての按分も可能です。事業の性質に応じた按分方法を選びましょう。仕訳方法は、火災保険の契約期間が1年以内か、2年以上かで異なります。

原則としてプライベートな部分は経費にならないので注意が必要です。

地震保険料

火災保険とセットで加入する地震保険の保険料も、事業に関連する場合は経費への計上が可能です。火災保険と同様に、自宅の一部を事務所や店舗として使用している場合も、事業での使用部分に関しては、経費に計上できます。経費計上する際の勘定科目は「損害保険料」を使用しましょう。

なお、火災保険料に代わり、地震保険料は2006年度の税制改正によって「所得控除(地震保険料控除)」の対象になりました。プライベートに当たる自宅分の保険料は、一定額控除を受けられます。経費計上はできないものの、控除の利用によって税金の負担を抑えることが可能です。

自宅の一部を事務所や店舗にしており、住居として使用している面積が自宅全体の90%以上である場合、地震保険料の全額が控除の対象となります。控除額の上限は5万円です。ただし、夫婦共有名義の住宅の場合でも、控除の対象となるのは地震保険の保険契約者のみです。

従業員の傷害保険料

従業員を被保険者もしくは受取人とした保険料は、経費として扱えます。傷害保険はケガを対象とした保険であり、普段の生活でケガをした場合だけでなく、仕事中の業務災害や通勤中の事故によってケガをした場合にも使える保険です。経費計上する際は、「福利厚生費」の科目で処理しましょう。また、いったん事業主が受け取った保険金を、見舞金として従業員に支払った場合も、福利厚生費として処理できます。

なお、保険ではありませんが、健康に関するものとして、従業員が受けた人間ドック、健康診断、予防接種などの費用も、福利厚生費で計上可能です。ただし、従業員全員に公平に提供されていることが条件となります。

従業員の生命保険料・社会保険料

会社が従業員のために支払う生命保険料は、福利厚生の一環として経費になります。経費計上する際は、「福利厚生費」を使用しましょう。ただし、生命保険料に伴う税金の仕組みは複雑で、契約内容などによって税務上の取り扱いが異なる場合があり、注意が必要です。

社会保険は、会社が保険料の一部を負担することが法律で定められており、休職中の従業員の分に関しても支払う義務があります。このような事業主の負担が義務となっている保険料は「法定福利費」と呼ばれ、健康保険・介護保険、厚生年金保険などの社会保険の他に、労災保険や雇用保険なども含まれます。これらの保険料は、事業主が負担した分に関しては、経費として計上可能です。「法定福利費」を使用して処理しましょう。

個人事業主が経費にできない保険

それでは、経費にできない保険とは、どのようなものなのかを解説します。

基本的に個人事業主や専従者(家族従業員)など、事業に直接関係ないものへ掛けられた保険料は、経費にはなりません。そもそも事業主が健康でなければ、事業を成り立たせるのは困難ですが、それでも事業主や専従者に掛けられた保険は、事業に直接関係あるとはいえず、あくまで個人的なものとみなされてしまいます。

しかし、経費に計上できない保険料でも、所得控除の対象になるケースもあるので注意しましょう。

事業主や専従者の生命保険料

事業主本人やその家族を対象とする生命保険料は、経費として計上できません。生命保険はあくまで個人のものとして扱われ、事業が対象ではないと考えられています。

ただし、確定申告の際に「生命保険料控除」を活用することができます。生命保険料以外に、介護医療保険料、個人年金保険料も生命保険料控除の対象です。しかし、生命保険料控除を含む所得控除は自分自身がその対象であっても、自動的に適用されるわけではありません。適用条件を自ら確認し、漏れなく申告するようにしましょう。

国税庁:「No.1140 生命保険料控除新規タブで開く

事業主や専従者の国民健康保険料や国民年金保険料

個人事業主や専従者は社会保険に加入できないため、健康保険は国民健康保険に、年金は国民年金に加入します。これらは従業員が加入する社会保険とは異なり、残念ながら経費としては認められません。40歳から国民健康保険に上乗せされる介護保険料も同様に、経費にできません。

会社員や公務員の場合、保険料は企業と折半し、給与から天引きされるのが一般的です。しかし、個人事業主の場合、国民健康保険料や国民年金保険料は全額自己負担となり、自分で納付もしなければなりません。また、国民健康保険には扶養家族という概念がないため、20歳以上の家族はそれぞれ自分で保険料を支払うことになります。

ただし、これらの保険には「社会保険料控除」が適用され、所得税の確定申告で所得控除を受けられます。経費計上はできませんが、全額が控除の対象となるため、一定の節税効果が得られます。世帯主の場合は、家族の社会保険料も控除の対象となります。

国税庁:「No.1130 社会保険料控除新規タブで開く

事業主や専従者の傷害保険料

個人事業主や専従者は、原則として労災保険に加入できません。そのため、必要に応じてケガや不慮の事故などに備える傷害保険に加入するケースがあります。

しかし、個人事業主や専従者の傷害保険料については経費に計上できません。傷害保険は事業をしていない方でも加入でき、普段の生活におけるケガにも適用されるため、必要経費ではなく、プライベートな費用とみなされてしまいます。

また、傷害保険は、生命保険料控除の対象となる保険ではないので、控除が受けられません。経費にすることも控除することもできないため、確定申告の際に間違えないよう注意しましょう。

事業主や専従者の地震保険料

個人事業主や専従者が個人的に加入する地震保険の保険料は、原則経費として認められません。なぜなら、個人的に加入する地震保険は、あくまで個人の財産を守るためのものであり、事業の継続に直接関係しないと考えられるからです。

しかし、経費として認められなくとも、「地震保険料控除」の対象にはなります。その年に支払った地震保険料に応じて、5万円を上限に控除が受けられるため、確定申告の際には申告し忘れないようにしましょう。

また、事業に関連する地震保険料は経費として計上できるため、事業用の建物や設備に対する地震保険料については、その使用割合に応じて経費計上が可能です。自宅の一部を事務所や店舗として使用している場合、事業使用部分の面積比率に応じて経費計上できます。

国税庁:「No.1145 地震保険料控除新規タブで開く

事業主や専従者の火災保険料

火災保険料についても、地震保険料と同様の考え方が適用され、個人的に加入した火災保険の保険料は経費として認められないのが原則です。

ただし、事業用の建物や設備に対する火災保険料は、使用割合に応じて経費として認められます。自宅兼事務所などのケースでは、事業使用部分の面積比率に応じて経費計上しましょう。

一人親方の労災保険

一人親方は本来であれば労災保険に加入できませんが、特別加入制度によって任意で加入できます。ただし、一人親方の労災保険料を経費として計上することは認められていません。

労災保険は本来、雇用形態を問わず一人でも労働者を雇用している場合に、事業主に対して加入が義務付けられている社会保険の制度です。雇用されている人が業務中または通勤途中に事故に遭った場合、保険給付が行われます。一人親方の場合、雇用されている人に対してではなく、本人に対する補償を目的としているため、事業の継続に直接関係しないと考えられることから、経費にはできません。

ただし、確定申告では「社会保険料控除」として申告でき、支払った保険料の全額を所得から控除することが可能です。

また、一人親方が労災保険に加入するには、一人親方団体への加入が条件となっており、入会費、組合費、事務手数料を支払わなければなりません。これらの費用はいずれも経費として計上できます。「支払手数料」や「諸会費」、「雑費」などの勘定科目を使用して処理しましょう。

保険料を経費計上する際の注意点

保険料の経費計上では、適切な勘定科目を選択すること、家事按分を忘れないことの2点に注意しましょう。

確定申告前に必要書類を揃える

まず重要なのは、保険料を経費にするにあたって証拠となる書類を揃えることです。経費計上する際には、経費に該当することを裏付ける証拠書類が不可欠です。事業に関係する支出であることを証明できない場合、経費として申告することはできません。

必要書類は、保険会社から送られてくる保険証券、領収書、口座引き落としの明細書などです。各書類の情報は正確に記録し、税務調査の際に説明したり提示したりできるようにしておく必要があります。

特に、保険料の領収書は金銭のやり取りをした証拠となる重要な書類です。経費計上において、領収書やレシートなどは、最低でも7年間保管するよう義務付けられています。たとえ少額の領収書・レシートであっても、日頃から保管する習慣をつけておきましょう。

領収書を紛失した場合でも、クレジットカードの利用伝票、ATMの振込明細書、電子決済アプリの利用履歴など、客観的に支払いを証明できるものがあれば、経費の証拠として認められる可能性があります。

参照:国税庁|帳簿書類等の保存期間新規タブで開く

契約期間に応じた適切な勘定科目を選択する

保険料を経費計上する際は、契約期間に応じて適切な勘定科目を選択することが重要です。1年以内の短期の保険契約は「保険料」の勘定科目を使用して全額経費計上できますが、1年を超える長期の保険契約は期間按分して計上する必要があるため、使用する勘定科目が異なります。

長期の契約の場合、支払った年度の分のみ「保険料」として計上でき、翌期以降に当たる分は「長期前払費用」で仕訳する必要があります。

事業用とプライベート用を按分する

個人事業主が保険料を経費計上する際、家事按分を忘れてはいけません。これを適切に行わないと、確定申告で問題がなくても、税務調査が入った際に指摘される可能性があります。家事按分の根拠を明確に示せなかった場合や調査官が納得しなかった場合、過少申告加算税や所得税の追加徴税が課されるおそれもあります。

家事按分の割合にはルールがないため、面積、使用時間、走行距離など、根拠に基づいた基準を自分自身で決めなければなりません。事業の実態に即した割合で経費計上できるように、また、税務調査の際に具体的に説明できるように、合理的かつ客観的な基準を決める必要があります。使用日誌や走行距離記録など、按分の根拠となる資料は保管しておくことをおすすめします。

費用となる保険料を理解して節税を

そもそも経費とは、事業に関する費用のことを指します。事業者と専従者には、従業員の福利厚生を目的とする費用である、福利厚生費が認められていません。そのため、従業員であれば経費に計上できる保険でも、事業者や専従者を対象とする場合は、経費とならないことを理解しておきましょう。

個人事業主の場合、事業の経費とプライベートな出費があいまいになってしまうこともありえます。保険料に関しても同じことで、ここが間違っていると経費が過剰になり、税金を少なく申告することになってしまいます。納税額が不足すると、税金の差額を徴収されるだけではなく、ペナルティとして加算税が課される場合もありますので、注意が必要です。

経費に計上できないものでも、所得控除の対象になる場合がありますが、一般的には所得控除より経費として計上した方が、税金を抑えられます。支払う保険料が経費となるのかどうか、しっかりと確認して漏れなく申告しましょう。

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この記事の監修者奥 典久(奥典久税理士事務所)

奥典久税理士事務所 代表

簿記専門学校で税理士講座講師として勤めたのち、会計事務所で勤務。その後独立し、奥典久税理士事務所を開業。相続(贈与)対策や事業承継コンサルティング経営、財務コンサルティングから各種セミナーなど、幅広く税理士業務に従事。

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