個人事業主のスーツは経費になる? 難しい理由や注意点を解説
監修者: 奥 典久(奥典久税理士事務所)
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スーツ代を経費にできるのか否かは、多くの個人事業主が悩むポイントです。スーツ代は基本的に生活費に該当し、経費計上は難しいと考えられています。ただし、業務を行ううえで必要であり、私的利用と明確に区別できる場合には、経費として計上できる可能性があります。
本記事では、スーツを経費で落とすのが難しい理由や、経費として認められる要件、具体的な計上方法、経費にするときの注意事項などについて解説します。さらに、個人事業主が経費にできないものについても触れます。税務上の注意点を知りたい方に役立つ内容ですので、ぜひ参考にしてください。
個人事業主のスーツは経費になる?
スーツは一般的に「衣食住」に分類され、生活費の一部と見なされるため、原則としては経費と認められません。ただし、絶対に認められないというわけではなく、一定の要件を満たせば、スーツ代は経費(家事関連費)として計上できます。要件は主に2つあり、当該スーツが業務を遂行するうえで必須であること、そして私的な用途と明確に区別できることです。職業という観点からは、例えば以下のような人が該当します。
- 打ち合わせでスーツの着用が多い人など
- 講演会やセミナーなどでスーツを着用する講演者など
これらの人は、スーツ代を経費にしやすいと考えて差し支えありません。
スーツを経費で落とすのが難しい理由
スーツを経費で落とすのが難しい理由としては、主に2つ挙げられます。
- プライベートとの区別がつきづらいから
- 経費性が否認された裁判例があるから
以下で詳しく解説します。
プライベートとの区別がつきづらいから
スーツは、制服や作業着とは異なり、プライベートで用いる生活用の衣服と明確に区別することが容易ではありません。
制服や作業着であれば、デザインや用途から明確に業務のために利用するのだと判断できます。例えば、会社のロゴが入った制服や特定の作業に適した作業着は、業務以外での使用はほぼ考えられません。
一方、スーツは一般的なデザインであり、ビジネスシーンだけでなく、冠婚葬祭やその他のプライベートな場面で着用されたとしてもなじみます。そのため、税務署はスーツを「生活用の衣服」として見なす傾向があります。
経費性が否認された裁判例があるから
経費性が否認された裁判例として、1974年(昭和49年)5月30日に下された判決があります。この判決では以下のように述べています。
「被服はひとり給与所得者に限らず、誰もが必要とし、その種類、品質、数量等は個人の趣味嗜好によつてかなりの差異があり、耐用年数についてもかなりの個人差が存するものであるから、被服費は、一般的には、個人的な家事消費たる家事費に属すると解するのが相当である。」
引用:裁判所「昭和41(行ウ)10 所得税決定処分取消請求事件 昭和49年5月30日 京都地方裁判所 租税」※P18
すなわち、スーツなどの被服費が個人的な消費と見なされるため、経費として認められにくいことを示しています。
ただし、本判決では一方で次のようにも述べています。
「勤務上必要とした部分を、他の部分と明瞭に区分することができるときは、当該部分の支出は必要経費になると認める余地がある。」
引用:裁判所「昭和41(行ウ)10 所得税決定処分取消請求事件 昭和49年5月30日 京都地方裁判所 租税」※P18
つまり、スーツが業務を遂行するうえで必須であり、私的な用途と明確に区別できる場合には、経費として認められる可能性があるわけです。
スーツを経費で計上する場合の勘定科目
スーツ代を経費で計上する際、勘定科目としては、金額が大きいときには「消耗品費」を、また金額が小さいときには「雑費」を使用します。
個人事業主が事業用と個人用との支出を分けるために、スーツの購入費用を家事按分する場合には、家事費の部分は「事業主貸」を使用します。例えば、スーツの購入費用が10万円で、業務使用割合が70%の場合には、次のとおりです。
- 消耗品費(業務使用部分):70,000円
- 事業主貸(家事費部分):30,000円
購入時の仕訳は、次のようにします。
- 借方:消耗品費 70,000円
- 借方:事業主貸 30,000円
- 貸方:現金 100,000円
個人事業主がスーツを経費にするときの注意点
個人事業主がスーツ代を経費にするときには、いくつかの点に注意しなければなりません。具体的には、以下の3つが挙げられます。
- 業務での利用であることを明らかにする
- 高額なスーツは経費として認められない可能性がある
- 家事按分を行う
業務での利用であることを明らかにする
プライベートで利用するものと明確に分けることで、スーツ代も経費として認められやすくなります。業務での利用だという事実を明らかにするには、以下のような方法が考えられます。
- プライベートのスーツと分ける
- 業務用スーツとプライベート用とを明確に区別します。例えば、業務用のスーツには特定のタグを付けるなどして、どちらが業務用かをひとめでわかるようにします。
- 業務用スーツを事務所に保管する
- 保管場所を分けることで、用途を区別できるようにします。これにより、業務専用であることを証明しやすくなります。
- 業務利用している写真を残す
- スーツを着用して業務を行っている写真を定期的に撮影しておくことも有効です。利用実態を具体的に示せます。
高額なスーツは経費として認められない可能性がある
スーツや靴は業務上、必要な場合には経費として認められることがありますが、高額すぎると経費として認められない可能性が高くなります。個人の趣味や嗜好が反映されていると見なされるためです。また、スーツとセットで捉えられがちな腕時計も、高額なものは経費として認められにくくなります。
家事按分を行う
家事按分とは、個人事業主が業務と私生活の両方で使用する費用を、合理的な基準に基づいて業務用と私生活用に分けることを指します。スーツ代も家事按分の対象です。
スーツは業務だけでなく、私生活でも使用する可能性があるため、全額を経費として計上することは難しく、業務で使用する割合を見積もって按分する必要があります。例えば、1週間のうち5日間を業務で使用する場合、代金の7分の5を経費として計上することは合理的であると考えられます。
按分の方法や経費計上に迷った場合は、税理士に相談してみてください。税理士は最新の税法に基づいて適切なアドバイスを提供してくれます。
家事按分について詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
個人事業主が経費にできないもの
スーツ代以外に目を向けた場合、個人事業主が経費にできないものとしては、以下があります。
- 私的な買い物
- 生計を一にする家族への給料
- 個人の税金や年金
- 借入金の返済
次項以降で詳しく解説します。
なお、個人事業主が経費にできないもの・できるものについて詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
私的な買い物
私的な買い物とは、個人の生活や趣味に関連する支出を指します。具体的には以下のような支出のことです。
- 飲食費:プライベートでの食事や飲み物の費用
- 書籍代:趣味や個人的な興味で購入した本・雑誌などの購入費用
- 衣類代:仕事とは関係のない衣服の購入費用
- 交通費:プライベートな旅行や移動にかかる交通費
これらは、事業の運営や収益に直接寄与しないため、経費として計上できません。
生計を一にする家族への給料
「生計を一にする」とは、同じ家計で生活していることを指します。具体的には、同居している家族や、生活費を共有している別居の家族などのことです。このような家族に対して支払われる給与は、事業の経費として計上できません。実質的に同じ財布の中でお金が動いているだけと見なされるためです。
ただし、家族を青色事業専従者として届け出れば、経費として計上できるようになります。青色事業専従者給与として認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 青色事業専従者給与に関する届出書を税務署に提出する
- その年の12月31日時点で15歳以上の親族である
- 年間を通じて6か月以上、当該事業に専ら従事している
参照:国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」
個人の税金や年金
個人の税金や年金は、事業の運営に直接関係しないため、税務上の経費として認められません。個人事業主が負担する個人の税金や年金には、以下のようなものがあります。
- 所得税:個人事業主の所得に対して課される税金
- 住民税:居住地の自治体に納める税金
- 国民年金:個人事業主が加入する公的年金制度
一方で、事業に直接関連する税金や費用は経費として計上することが可能です。具体的には以下のようなものがあります。
- 事業用の印紙税:契約書や領収書に貼る印紙代
- 個人事業税:事業を行う個人に課される地方税
借入金の返済
借入金の返済とは、金融機関などから借りたお金を元本として返済することです。例えば、事業資金として借りたお金を毎月返済する場合、その元本部分の返済は経費として計上できません。
ただし、借入金の返済にかかる利息は「利子割引料」として経費に計上することが可能です。これは、事業を行うためにお金を借りる際にかかった費用であり、事業の運営に直接関連する支出と見なされるためです。
例えば、事業資金として100万円を借り、その返済として毎月1万円を返済し、そのうち利息が1,000円であった場合、元本の返済部分である9,000円は経費にできませんが、利息の1,000円は経費として計上できます。
経費で迷うときは税理士に相談しよう
スーツは私生活でも使用されるため、個人事業主がスーツ代を経費として計上するのは困難です。しかし、業務専用と明確に区別できる場合であれば、経費として認められる余地があります。業務用スーツと認められるには、按分計算や使用の証拠を残すことが重要です。家事按分は合理的な基準で行うことが求められます。経費で迷うことがある場合には、税理士に相談してみてください。
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この記事の監修者奥 典久(奥典久税理士事務所)
奥典久税理士事務所 代表
簿記専門学校で税理士講座講師として勤めたのち、会計事務所で勤務。その後独立し、奥典久税理士事務所を開業。相続(贈与)対策や事業承継コンサルティング経営、財務コンサルティングから各種セミナーなど、幅広く税理士業務に従事。