粉飾決算とは?手口や罰則、見抜き方、防止策などを解説
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決算を正確かつ適切に行うことは、企業の重要な責務の1つです。意図的に事実とは異なる決算書を作成する不正行為は「粉飾決算」に当たります。
本記事では、粉飾決算が行われる理由や主な手口、粉飾決算の見抜き方について解説します。粉飾決算の防止策と併せて見ていきましょう。
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粉飾決算とは、不正な会計処理で事実と異なる決算書を作成すること
粉飾決算は、不正な会計処理を行い、実態とは異なる内容の決算書を意図的に作成する行為を指します。そもそも粉飾決算は不正行為のため、決してあってはならないことです。不正行為である粉飾決済には、法的制裁としての罰則があります。
赤字決算の際に、事実と異なる決算書を作成して黒字に見せかけたり、反対に赤字のように見せて税金を免れたりすることは、いずれも粉飾決算に該当する不正行為です。なお、自社の財務状況を実態よりも悪く見せるために、不正な会計処理で収支を偽装する行為を「逆粉飾決算」と呼びます。
粉飾決算の事実が発覚した場合、企業の信頼性を著しく損ない、場合によっては法的制裁を受けなければなりません。結果として上場廃止や社会的信用の低下を招き、今後の営業活動、資金調達が困難な状況に陥ることもあります。
粉飾決算が行われる理由
そもそも粉飾決算は不正行為であるにもかかわらず、なぜ行われるのでしょうか。主な理由として、以下の4つがあげられます。
利害関係者からの信用を失わないため
粉飾決算が行われる理由として、利害関係者からの信用を失いたくないことがあげられます。
企業が赤字決算を公表すると、利害関係者が自社への協力を取りやめる可能性があります。こうした事態を回避するために意図的に不正な会計処理を行い、自社の業績を実態よりも良く見せようとするケースが少なくありません。
法人税の負担を回避するため
法人税の負担を回避することを目的に、粉飾決算が行われることもあります。
赤字決算であれば、法人税の納税義務が発生しません。利益を過小に記載したり、経費を不正に多く記載したりすることで、逆粉飾決算を行うのは納税義務を回避するためです。もちろん、逆粉飾決算は重大な不正であり、脱税に当たります。いわゆる節税とは根本的に異なる点に注意しましょう。
資金調達を有利に行うため
資金調達を有利に行うことも、粉飾決算が行われる理由の1つです。
粉飾決算を行い、自社の経営状態を実際より良く見せることで、資金調達を有利に進められます。銀行などの金融機関は融資の審査を進める際に、必ず融資先企業の決算書を参照します。赤字決算であることを理由に融資を受けられなければ、資金繰りに行き詰まってしまうケースも少なくありません。そこで、不正な会計処理によって自社の経営状態に問題がないかのように見せかけ、融資の審査を通したいという意図で粉飾決算が行われる場合もあります。
入札資格を取得するため
粉飾決算が行われる理由として、入札資格を取得することもあげられます。
建設業の公共工事など、業務を受注するには入札資格を取得する必要があるため、粉飾決算が行われることもあります。入札資格を取得するには、経営事項審査において健全な財務状況にある企業として認定されなければなりません。所定の財務指標を下回っていれば、入札資格そのものが得られなくなります。経営状態を少しでも良く見せようとした結果、粉飾決算を行ってしまうケースも見られるのが実情です。
粉飾決算の主な手口
粉飾決算の主な手口には、「利益の水増し」と「経費の過少計上」があります。具体的にどのような手口が用いられることが多いのか、想定されるケースを見ていきましょう。
架空の在庫を計上する
粉飾決算の主な手口は、架空の在庫を計上することです。
会計上、在庫は棚卸資産として扱われ、貸借対照表において資産に計上されます。つまり、在庫を意図的に多く計上すれば利益も増えて見せることが可能です。そこで、本来は存在しない架空の在庫を計上することにより、利益を水増しする手口が用いられる場合があります。通常、在庫は棚卸によって正確にカウントされ、実態どおりに計上される必要があります。そのため、存在しない在庫があるかのように見せかけるのは明らかに不正行為であり、粉飾決算の典型的な手口といえるでしょう。
子会社の架空売上を計上する
子会社の架空売上を計上することも、粉飾決算の主な手口の1つです。
自社と同グループ内に子会社がある場合、子会社との架空の取引があったかのように見せかけ、売上を計上する手口も考えられます。本来、取引先との取引実態がなければ売上として計上できません。その一方で、同グループ内の子会社であれば必要のない取引を捏造し、業務を受注したかのように見せかけることは比較的容易に行えるでしょう。このように、子会社の架空売上を計上し、利益を意図的に増やすことも粉飾決算の手口です。
循環取引を行う
循環取引を行うことも、粉飾決算の主な手口として用いられます。
循環取引とは、特定の商品の売買を企業間で繰り返すことです。取引ごとに受注側の企業には売上が計上されるものの、実態としては同じ商品がグループ企業内でやりとりされているにすぎず、新たに利益が生み出されているわけではありません。こうした循環取引は、グループ会社や関連企業間で行われるケースが多いといわれています。循環取引は本来必要のない取引であることから、利益の水増しを目的とした粉飾決算の手口の1つといえるでしょう。
経費計上のタイミングを操作する
粉飾決算の主な手口として、経費計上のタイミングを操作することもあげられます。
本来であれば今期に計上すべき経費を、経費計上のタイミングを操作して意図的に来期へと繰り延べる手口です。日本における会計処理の原則は発生主義のため、経費が発生した時点で計上しなければなりません。物品や設備などを購入し、資産を取得したり、サービスを受けたりした段階で計上するのが通常のルールです。例えば、100万円のソフトウェアを購入したケースを例として考えてみましょう。本来、ソフトウェアを購入した月に経費を計上する必要がありますが、経費を来期分に計上することで、今期の経費を100万円分少なく見せかけるという手口です。結果として利益が100万円多くなるため、決算書上では実際よりも利益が出ているように見えます。
逆粉飾決算の主な手口
逆粉飾決算の主な手口としては、粉飾決算とは反対に「利益を少なく見せかける」「経費を水増しする」ことです。具体的な手口について見ていきましょう。
在庫隠しを行う
逆粉飾決算の主な手口の1つが、在庫隠しを行うことです。
在庫隠しは、実際には手元にある在庫を意図的に隠すことにより、利益を少なく見せかける手口を指します。会計上、仕入の後には在庫の管理にかかる費用を売上の分しか計上できません。在庫が大量に残っている場合、課税額が増えるため、在庫の一部または全部をなかったものとして扱うことにより、課税を免れようとする不正行為です。
このような在庫隠しは脱税に該当するだけでなく、在庫の適切な管理を妨げる要因にもなります。本来は存在しない在庫を計上してはならないのと同様に、実際には存在する在庫を意図的に計上しない行為に関しても、決してあってはならないことです。
子会社からの架空仕入を計上する
子会社からの架空仕入を計上することも、逆粉飾決算の主な手口です。
子会社からの架空仕入の計上とは、子会社から実際には仕入を行っていない商品を仕入れたことにし、架空仕入を計上する手口を指します。仕入にかかる費用が水増しされるため、結果として費用が増大し、利益が減少します。実際には取引が行われていないため、損益計算書や貸借対照表に記載される金額が不正であることは明らかです。架空売上を計上する粉飾決算の手口と同様に、実態のない仕入を計上することも決してあってはなりません。
粉飾決算に対する罰則
粉飾決算に対しては、厳しい罰則が設けられています。粉飾決算によって問われる可能性のある刑事・民事責任はそれぞれ以下のとおりです。
刑事責任の罰則
悪質性が高いと認められる場合には、刑事事件となり逮捕に至る可能性も否定できません。粉飾決算は決して行ってはならない行為であり、さまざまな刑事責任を問われる可能性のある事案であることを十分に認識する必要があります。刑事責任における粉飾決算の主な罰則は以下のとおりです。
刑事責任における粉飾決済の主な罰則
- 詐欺罪(刑法246条)
- 違法配当罪(会社法第963条5項2号)
- 特別背任罪(会社法第960条)
民事責任の罰則
粉飾決算によって金融機関から融資を受け、回収不能となった場合には損害賠償責任を問われることも想定されます。粉飾決算は多方面の利害関係者の信頼を失い、社会的制裁を受ける原因となり得ることを理解する必要があるでしょう。民事責任における主な罰則は以下のとおりです。
民事責任における粉飾決済の主な罰則
- 虚偽の報告書に関する関係者における責任(金融商品取引法24条の4)
- 株式会社に対する損害賠償(会社法423条)
- 第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)
粉飾決算の見抜き方
企業が粉飾決算を行っているかを判断するには、どのような点をチェックすればよいのでしょうか。主な粉飾決算の見抜き方として、以下の3つがあげられます。
売掛金を確認する
粉飾決算の見抜き方は、売掛金を確認することです。
売掛金を適切に回収できているかは、その企業の財務状況が健全であるかを判断するうえで有効になります。売掛金を確認する際の具体的なチェックポイントは以下のとおりです。
売掛金を確認する際のチェックポイント
- 長期間入金されていない売掛金はないか
- 売掛債権回収期間(売掛金や受取手形などの売上債権を現金化できるまでの期間)が不自然に増加していないか
- 売掛金の取引先が事業内容と合致しているか
例えば、架空売上が計上されている場合、本来は存在しない取引のため売掛金が未回収の状態が長期間にわたって続く可能性が高いと考えられます。月商に対して売掛金が占める割合が高いようなら粉飾決算が行われていないか注意しましょう。
一般的に、企業の売掛金回収サイトは事前に決定されており、期限内に回収されない売掛金がある場合、異常な状態といえます。売掛金が適切に回収できているか確認することは、企業の事業運営の健全性を見極める意味においても重要なポイントの1つです。
在庫を確認する
在庫を確認することも、粉飾決算の見抜き方の1つです。
在庫を増やすと、売上高に対する原価の割合である原価率や、商品を販売した際に得られた利益の割合である粗利率にも影響が及ぶ可能性があります。これは、在庫を実際よりも多く計上した場合、原価率が下がり、粗利率が上昇するためです。短期間のうちに粗利率が急に改善していないかを確認することは、粉飾決算を見抜くうえで重要なポイントといえます。
よって、粉飾決算を見抜くには単年度の決算書だけでなく、過去の決算書から業績推移を確認することも大切です。期末棚卸高が翌期の期首棚卸高と一致しているか、決算期の間際に粗利率が大きく変動していないか、といった推移をチェックするとよいでしょう。
買掛金や未払金を確認する
買掛金や未払金を確認することも、粉飾決算の見抜き方としてあげられます。
買掛金や未払金が不自然に減少しているようなら、経費や仕入の金額を実際よりも少なく計上して利益を多く見せている可能性が疑われます。これは、買掛金が増えるほど現金の減少を先延ばしにできることから、キャッシュ・フローが改善されているように見えるためです。買掛金や未払金に不自然な変動が見られる場合は、貸借対照表やキャッシュ・フロー計算書を参照して、具体的な現金の流れを確認する必要があるでしょう。
粉飾決算の防止策
自社が粉飾決算によって社会的な信頼を失うのを防ぐには、どのような対策を講じる必要があるのでしょうか。粉飾決算の具体的な防止策は、主に以下の3つです。
監視体制を強化する
粉飾決算の防止策は、社内の監視体制を強化することです。
具体的には、経営者や取締役、経理担当者などが単独で会計を担当するのを避け、複数の部署にわたってチェック機能が働く体制を整えておくことをおすすめします。こうした体制づくりは不正の抑止力となるだけでなく、意図しない会計上の人的ミスが発生するのを防ぐためにも重要なポイントです。特定の役員や従業員に権限が集中することのない監視体制を目指しましょう。
社員教育を徹底する
社員教育を徹底することも、粉飾決算の防止策としてあげられます。
粉飾決算が発覚した場合の罰則や事業への影響などを社員に周知することにより、粉飾決算を厳しく監視し合う社内風土を形成していくことが大切です。決算の健全性や透明性を保つことの重要性を周知するのは、リテラシー教育の面からも重要なポイントといえます。
例えば、ある部署において売上目標の達成が危ぶまれた際、担当者や管理職の一存で実態よりも売上を多く見せかけるといったことは、粉飾決算の直接的な要因となります。こうした行為が組織全体の信頼失墜につながることをしっかり伝えていく必要があるでしょう。
資金の動きを可視化する
粉飾決算の防止策の1つが、資金の動きを可視化することです。
資金の動きを可視化し、財務状況が不透明になるのを防ぐことも重要なポイントになります。具体的には、会計ソフトなどのツールを導入し、不正な操作を行いにくくするほか、不正が行われた際には履歴が残るしくみを構築するとよいでしょう。
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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
