売価還元法とは?棚卸資産の評価方法や手順などを解説
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売価還元法は、棚卸資産の評価方法の一種です。企業が保有する商品や製品などの棚卸資産は、決算時に「いくらの価値があるか(評価額)」を算定する必要があります。これは「棚卸資産の評価」と呼ばれ、売上原価や当期純利益を正しく算出するために不可欠な会計処理です。棚卸資産の評価方法は複数あり、その1つが売価還元法です。
棚卸資産を適切に評価しなければ売上原価を正確に算定できず、当期純利益の算出にも影響を及ぼします。そのため、企業の経理担当者や経営者は、棚卸資産の評価方法を正しく知っておくことが重要です。
本記事では、売価還元法による棚卸資産の評価方法や手順などについて解説します。
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売価還元法とは、棚卸資産の評価方法の一種
売価還元法は、営業目的で保有する資産または資産化の過程にあるもの(在庫)である棚卸資産の評価方法の一種です。小売業の場合は販売するために仕入れた商品、製造業の場合は製品を作るために仕入れた原材料などが、棚卸資産に該当します。
企業は、これら在庫の数量や状態を確認し、帳簿と実地の差異を確認する「棚卸」を行います。決算時には、棚卸によって確認された在庫を「棚卸資産」として貸借対照表に計上することが必要です。その際、単に在庫の数を把握するだけでなく、いくらの価値があるか(評価額)を適正に算定しなければ、企業の資産総額や利益の計算に誤差が生じてしまいます。棚卸資産の評価は、貸借対照表だけでなく、売上原価や当期純利益の算出にも大きく影響するため、正確な評価が求められます。
売価還元法の特徴は、在庫の「売価(販売価格)」に基づいて評価額を算出する点です。通常、棚卸資産の評価には「原価法(先入先出法・移動平均法など)」のように仕入価格や製造原価を基に直接評価する方法が用いられます。しかし、小売業や卸売業のように品目数が膨大で、一品ずつ原価を把握するのが困難な場合、これらの方法を適用するには非常に手間がかかります。そこで用いられるのが売価還元法です。
売価還元法では、日常的に把握しやすい「売価(販売価格)」に原価率を掛けることで間接的に原価を見積もるため、品目数が多くても効率的に棚卸資産を評価することができます。
売価還元法は、他の評価方法と比べて実務上の負担が少なくなることに加え、期末時点での販売価格に基づいて原価を計算するため、価格変動の影響を反映しやすいことも特徴です。
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売価還元法が適した業種
企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」では、「売価還元法は、取扱品種が極めて多い小売業等の業種において棚卸資産の評価に適用される」と規定されています。
小売業では、コンビニエンスストアやスーパーマーケット、百貨店、ホームセンターなどをはじめとして、数千~数万点にのぼる多種多様な商品を日常的に取り扱っています。これらの商品は、単価・サイズ・ブランド・仕入先など多岐にわたり、すべての在庫について個別に原価を追跡・管理するのは現実的に困難です。こうした状況において、売価還元法は、「売価(販売価格)」を基準として間接的に原価を算定できるため、実務上の大きな負担軽減につながります。
売価還元法が適用される業種・業態の例
- 多種多様な商品を取り扱い、個別の原価管理が困難または非効率なコンビニエンスストアやスーパーマーケット、百貨店、ホームセンター
- 価格変動やプロモーションが頻繁で、個別原価の追跡が困難なドラッグストア、ディスカウントストア
など
なお、売価還元法のメリットの1つに、棚卸資産を品目単位ではなく、グループごとにまとめて効率良く評価できることが挙げられます。
棚卸資産をグループ分けして評価できれば、仕入価格を個別に管理・計算する手間が省けます。取り扱う商品や製品の種類が多く、仕入価格の変動が起こりやすい業種であっても、棚卸資産の評価作業を効率化できるでしょう。
ただし、棚卸資産のグループ分けは、値入率や回転率などの類似性に基づいて行いますが、この類似性には明確な基準が設けられていません。そのため、グループ分けの判断に主観が入りやすく、同じ業種や商品・製品でも基準にバラつきが生じる可能性があります。また、売価還元法は、業種や業態によって向き・不向きがあります。例えば、商品・製品ごとの流行や回転率が大きく異なる業種では、売価還元法による一括評価が、かえって誤差を生じさせる要因になりかねません。宝飾品や時計といった高級品を販売する業種も、商品・製品ごとの原価管理が重要になるため、売価還元法は適さないとされています。
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棚卸資産の評価方法
棚卸資産の評価方法は、大きくは「原価法」と「低価法」の2種類に分類されます。原価法はさらに6つの評価方法に分かれており、売価還元法もその中に含まれます。棚卸資産の評価にあたり、どの方法を採用するかは任意ですが、選択した評価方法については事前に税務署へ届出が必要です。届出をしなければ最終仕入原価法が適用されることになります。
棚卸資産の評価方法については、こちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
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売価還元法による評価方法の手順
売価還元法による棚卸資産の評価は、「評価対象のグループ分け」「原価率の算出」「期末評価額の計算」の3つの手順で実施します。期末時点の在庫について、「売価(販売価格)」と原価率がわかれば、そこから逆算して評価額を求められるのが売価還元法の大きな特徴であり、小売業などの実務で活用しやすい理由でもあります。それぞれの手順を詳しく見ていきましょう。
1. 評価対象をグループ分けする
売価還元法では、棚卸資産の評価額をグループ単位で算出するため、まずグループ分けを行う必要があります。このときポイントになるのが、値入率や回転率が「似ている(近い)」商品・製品同士でグループ分けすることです。ここでいう「似ている(近い)」とは、粗利益の割合や在庫の動き方(売れ方)が似ていることを意味し、品目ごとのグループ分けではありません。例えば、値入率に基づくグループ分けでは、販売価格に対する粗利益の割合が同程度の商品・製品を同一グループに分類します。なお、値入率とは、販売価額に対する粗利益の割合を示す指標です。また、回転率とは、一定期間内に在庫が何回入れ替わったかを示します。
具体的には、家電量販店において、スマートフォンのアクセサリー類は値入率が高めであることが多いですが、冷蔵庫やテレビなどの家電は低めに設定されることが一般的です。値入率に大きな違いがある商品を同じグループにすると、評価の精度が下がるため、値入率が同程度の商品・製品同士でグループ化することが大切になります。
2. 原価率を算出する
棚卸資産をグループ分けした後、グループごとの原価率を算出します。売価還元法では、グループごとの期末時点の販売価額に原価率を掛け、評価額を算出します。ここでいう「期末時点の販売価額」とは、期末棚卸により把握された在庫数量に、それぞれの「売価(販売価格)」を掛けて合計した金額のことです。あくまで売価ベースでの在庫総額であり、商品ごとの仕入原価ではなく、販売時の価格で見積もった在庫の金額を指します。原価率の計算式は以下のとおりです。
原価率の計算式
原価率=(期首の棚卸資産の取得価額+期中の仕入棚卸資産の取得価額)÷(期首の棚卸資産の販売額+期中に販売した棚卸資産の販売価額)
3. 期末評価額を算出する
グループごとの期末時点における販売価額に、上で算出した原価率を掛けます。この計算によって、グループ単位の棚卸資産評価額が求められます。
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売価還元法と原価計算
売価還元法は、小売業や卸売業の他、部品・製品の品目数が多い製造業において適用される場合もあります。しかし、売価還元法は、原価率を用いて簡易に棚卸資産を評価する方法であり、厳密な意味での原価計算とは異なります。売価還元法によって算出された原価は、販売価額(売価)を基に逆算されたものであり、「材料費」「労務費」「経費」といった要素を詳細に集計して算出された原価ではありません。
企業会計基準においても、売価還元法が適用される業種について「品種の極めて多い小売業等」としています。製造業などで売価還元法の適用が禁止されているわけではありませんが、基本的には正式な原価計算の実施が求められると考えておいた方がいいでしょう。原価計算が正しく行われていない場合、製品の採算性を正確に把握できず、適切な価格設定による収益確保が難しくなります。
なお、「材料費」「労務費」「経費」によって構成される製造原価は、自社で製品の製造・加工をしている製造業において発生する費用です。小売業や卸売業などでは製造原価は発生せず、期首棚卸高(期首時点の棚卸資産)に当期の仕入高を加え、期末棚卸高(期末の棚卸資産)を差し引いて売上原価を算出します。また、サービス業の場合は商品・製品の仕入や製造を行うことがないため、モノの仕入れに伴う原価はほとんど発生しません。
このように、原価計算が必要かどうか、どの方法を採用すべきかは、企業の業種や事業形態によって異なります。売価還元法の適用を検討する際にも、自社の特性に応じた適切な判断が求められます。
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売価還元法における税理士の役割と必要性
評価方法の選定を行う際は、自社だけで判断せず、税理士に相談すると安心です。
棚卸資産を評価するにはさまざまな方法があり、選択した評価方法については税務署へ事前に届出をする必要があります。どの評価方法を採用するかは企業の任意ですが、評価方法によって算出される金額が異なるため、自社に合った方法を選ぶことが大切です。例えば、単に「計算が楽だから」という理由のみで売価還元法を選択すると、自社の実情と合致せず、正確な評価が難しくなる場合があります。税理士に相談することで、事業内容に応じた適切な評価方法や税務署への届出、計算手順などの専門的なアドバイスを受けられます。
また、税務会計と財務会計では、売価還元法の原価率の計算方法が異なります。税務会計とは、企業が納める税金を計算するために行う会計処理のことで、課税の公平性が重視されます。一方、財務会計は、外部の利害関係者に対して、企業の財務状況や経営状態を報告するために行う会計です。すべての企業は、財務会計によって会計期間ごとの損益をまとめ、決算書(財務諸表)を作成する必要があります。
課税所得を算出する際の益金や損金の範囲は、法人税法をはじめとする税法で規定されており、財務会計における収益や費用とは必ずしも一致しません。このような税務と会計のずれを調整する手続きを「税効果会計」と呼びます。上場企業などには税効果会計の適用が義務付けられていますが、非上場の中小企業などは、原則として税効果会計の適用義務は課されていません。そのため、中小企業では税務会計のルールに従って会計処理を行い、差異の発生を抑えることもあります。
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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
