資産除去債務とは?会計基準や仕訳方法、注意点などを解説
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固定資産を取得するとき、「資産除去債務」という費用が発生することがあります。資産除去債務とは、固定資産を将来除去する際に必要になる費用を見積もり、あらかじめ計上しておくものです。なお、中小企業には、資産除去債務の計上は義務付けられていません。しかし、上場企業には資産除去債務の計上が義務付けられている他、会計に関するルールが今後変更になる可能性もあります。そのため、固定資産の取得にあたって、資産除去債務の意味や会計処理を知っておくことは大切です。
本記事では、資産除去債務の会計基準や仕訳方法の他、税務上の注意点についても解説します。
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資産除去債務は、有形固定資産を除去するときにかかる費用を事前に計上しておくもの
資産除去債務とは、有形固定資産の取得、建設、開発、または通常の使用に伴い、将来除去するときに見込まれる費用を見積もって計上するもので、貸借対照表上の負債に表示されます。
例えば、ある作業のために機械装置を購入した場合、いずれは撤去する必要があります。資産除去債務とは、この撤去費用を購入時点であらかじめ見積もり、計上しておくものです。資産除去債務を財務諸表に計上しておくことで、企業の財務状況がより正確に反映され、投資家にとって有益な投資情報となります。なお、上場企業や上場企業の連結決算に関連する子会社などは、資産除去債務の計上が義務付けられていますが、中小企業は義務付けられていません。
資産除去債務が導入された背景
資産除去債務が導入された背景は、日本の会計基準を、現在グローバルスタンダードとされている国際会計基準(IFRS)に近づけるためです。
元々、資産除去債務の計上は、国際会計基準(IFRS)などの国際的な会計基準で用いられていた会計処理のことを指します。従来の日本の会計基準では、電力業界で原子力発電施設の解体費用について解体引当金を計上するような特定の事例を除き、資産除去債務にあたる会計処理は行われていませんでした。しかし、有形固定資産の除去に関する将来の負担を財務諸表に反映させることは、投資家にとっては有益な投資情報として役立ちます。そこで、企業会計基準委員会により「資産除去債務に関する会計基準」および「資産除去債務に関する会計基準の適用指針」が公表され、2010年4月1日以降に開始される事業年度から資産除去債務の基準が適用されるようになりました。
こちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。
資産除去債務の会計基準
企業会計基準委員会が公表している資産除去債務に関する会計基準によれば、資産除去債務は「有形固定資産の取得、建設、開発又は通常の使用によって生じ、当該有形固定資産の除去に関して法令または契約で要求される法律上の義務およびそれに準ずるもの」と定義されています。また、具体的な有形固定資産の除去方法としては、「売却、廃棄、リサイクルその他の方法による処分等」とされています。
ここからは、資産除去債務の対象となる資産と除去方法について、具体的に見ていきましょう。
対象となる資産
資産除去債務の対象となる資産は、有形固定資産です。固定資産とは、流通や販売を目的とせず企業が長期間保有する資産や、1年を超えて現金化・費用化される資産のことで、このうち形があって目に見えるものを有形固定資産といいます。具体的には、事業に用いられる土地や建物、車、機械設備などが有形固定資産に該当します。また、貸借対照表の有形固定資産の区分に計上されているもの以外に、有形固定資産に準じる有形の資産として、投資不動産、建設仮勘定、リース資産も資産除去債務の対象です。
その一方で、のれん(営業権)や特許といった無形固定資産、1年以内に現金化できる流動資産、販売目的で所有する不動産などは、資産除去債務の対象にはなりません。
具体的な除去費用
有形固定資産の除去とは、その有形固定資産を用役提供から除外することです。つまり、有形固定資産の使用をやめて処分することで、具体的には、売却、廃棄、リサイクルなどによる処分を指します。
有形固定資産の除去費用の例としては、不動産の賃貸契約が終了したときの原状回復費用、借りていた土地を更地に戻すための建物撤去費用、建物等のアスベストの除去費用などがあげられます。土地や建物の転用、用途変更、遊休状態になった場合は、除去には含まれません。また、有形固定資産の使用期間中の修復・修繕にかかる費用や自発的な計画による除去費用も、資産除去債務の対象外です。
資産除去債務の仕訳例
資産除去債務を計上するのは、有形固定資産の取得時です。また、決算時や資産を除去したときにも、それぞれ会計処理が必要になります。ここからは、資産除去債務の仕訳例を、ケース別に紹介していきます。
有形固定資産を購入したとき
有形固定資産を取得したときには、将来必要にある除去費用を見積もり、資産除去債務として計上します。また、計上する除去費用と同額を、該当する有形固定資産の帳簿価額に加えます。
このとき気を付けなければいけないのが、見積もった除去費用をそのまま計上するわけではないということです。有形固定資産の取得時と除去時では、貨幣価値が異なる可能性があります。そのため、見積もり額に一定の割引率を適用して現在の価値に直す「割引計算」を行うことが必要です。
割引率は、将来の価値を現在価値に割り引く(換算する)ときの、1年あたりの割合を示したもので、例えば、n年後の除去費用を求める計算式は、以下のようになります。
除去費用の計算式
n年後の除去費用(割引現在価値)=除去費用の見積もり額÷(1+割引率)n
資産除去債務に関する会計基準では、割引率は「貨幣の時間価値を反映した無リスクの税引前の利率」とされています。なお、実務上は、国債の利回りなどを参考に割引率を決めることが多いでしょう。
ここでは、耐用年数3年の機械Aを現金100万円で購入し、機械の除去費用の見積もり額は10万円、割引率を5%とした場合の計算例をご紹介します。
仕訳にあたっては、まず割引計算を行い、除去費用を現在の価値に戻すことが必要です。この例では除去費用の見積もり額が10万円、割引率が5%、耐用年数が3年のため、以下のように計算を行います。なお、1円未満の端数は四捨五入としています。
100,000円÷(1+0.05)3=86,384円
割引率が5%の場合、3年後の10万円は現在価値で8万6,384円となり、この金額を資産除去債務として計上し、同額を有形固定資産の帳簿価額にも加えることが必要です。
購入時の仕訳例
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
機械 | 1,086,384円 | 現金 | 1,000,000円 |
資産除去債務 | 86,384円 |
決算を迎えたとき
固定資産は、期末ごとに減価償却が必要になります。減価償却とは、固定資産の耐用年数に応じて取得価額を分割し、経費計上する会計処理のことです。減価償却の計算方法には、毎年一定額の減価償却費を計上していく「定額法」と、毎年一定割合ずつ減価償却費を計上する「定率法」の2種類があります。また、減価償却の仕訳にあたっては、「直接法」と「間接法」の2種類の方法があります。直接法は、減価償却費について、直接固定資産の額から差し引いていく方法です。その一方で、間接法は減価償却の額を固定資産から減じるのではなく、減価償却累計額として計上します。
前出の例では、108万6,384円の機械を、耐用年数の3年で減価償却することになるため、これを定額法および間接法で仕訳すると、以下のようになります。
1年目の決算時の仕訳例
前出の機械Aについて、決算を迎え、減価償却を行った。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 362,128円 | 減価償却累計額 | 362,128円 |
耐用年数が3年なので、「108万6,384円÷3年=36万2,128円」を減価償却費として計上します。(機中で購入した場合は月割する必要があります。)
また、資産除去債務は、固定資産の取得から時間が経過する分だけ、利息費用が増加していくため、決算時には、この利息費用を資産除去債務に追加計上することが必要です。利息費用は、以下の計算式で求めます。
利息費用の計算式
利息費用=資産除去債務の残高×割引率
1年目の決算時の仕訳例
決算を迎え、時の経過による資産除去債務の調整を行った。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
利息費用 | 4,319円 | 資産除去債務 | 4,319円 |
前出の例では、資産除去債務の残高は8万6,384円、割引率は5%です。これを上の計算式に当てはめると「8万6,384円×5%=4,319円」で、利息費用は4,319円になります。
2年目の決算時の仕訳例
2年目の決算を迎え、減価償却費の計上と資産除去債務の調整を行った。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 362,128円 | 減価償却累計額 | 362,128円 |
利息費用 | 4,535円 | 資産除去債務 | 4,535円 |
2年目以降の決算時も、同じように仕訳をしていきます。ただし、利息費用を計算する際には、元の資産除去債務に前期までの利息費用を加えるのを忘れないようにしましょう。2年目の決算時における利息費用は、「(8万6,384円+4,319円)×5%=4,535円」となります。減価償却費は定額法を採用しているので、1年目の決算時と同額です。
3年目の決算時の仕訳例
3年目の決算を迎え、減価償却費の計上と資産除去債務の調整を行った。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
減価償却費 | 362,128円 | 減価償却累計額 | 362,128円 |
利息費用 | 4,762円 | 資産除去債務 | 4,762円 |
3年目の利息費用は「(8万6,384円+4,319円+4,535円)×5%=4,762円」になります。
資産を除去したとき
資産を除去したときには、実際にかかった費用を計上します。ただし、資産の取得時点で見積もった除去費用と、実際にかかった金額が、1円の相違もなく一致するケースはほぼありません。そのため、見積もり額と実際の除去費用に差額が生じた場合は、「履行差額」の勘定科目で処理します。
資産を除去したときの仕訳例
機械Aを除去した。除去費用は10万円と見積もっていたが、実際には11万円かかった。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
資産除去債務 | 100,000円 | 現金 | 110,000円 |
履行差額 | 10,000円 |
資産除去債務の履行(固定資産の除去)時には、実際にかかった除去費用と、資産除去債務の残高との差額を「履行差額」として計上します。資産除去債務残高は、資産の取得時に割引計算をした資産除去債務に、決算ごとの利息費用を加算した額です。今回の例では、8万6,384円+1年目の利息費用4,319円+2年目4,535円+3年目4,762円で、資産除去債務残高は10万円となります。
敷金を支出しているとき(簡便法)
賃貸物件の敷金を支出している場合は、「簡便法」と呼ばれる簡易な会計処理方法が認められます。
賃貸物件の契約を行い、敷金20万円を現金で支払って、入居期間は5年間、原状回復費用は10万円と見積もられた場合の簡便法による仕訳例は、以下のとおりです。
賃貸借契約の締結時の仕訳例
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
敷金 | 200,000円 | 現金 | 200,000円 |
決算時(償却時)の仕訳例
決算時には、原状回復費用の見積もり額10万円を入居期間の5年で配分した額(2万円)を計上した。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
敷金償却 | 20,000円 | 敷金 | 20,000円 |
なお、簡便法を適用できるのは、支払った敷金よりも原状回復費用(除去費用)の方が少ない場合に限られます。原状回復費用が敷金を上回る場合は、資産除去債務による会計処理が必要です。
資産除去債務の仕訳における税務上の注意点
資産除去債務は、他の一般的な勘定科目とは、税務上の取り扱いが異なります。資産除去債務を計上する際には、以下の点に注意しましょう。
損金として計上できない
資産除去債務は、会計上は費用ですが、税務上は損金として計上することはできません。資産除去債務はあくまで会計上の見積もりであり、債務が確定しているわけではないからです。資産除去債務の適用によって、会計上と税務上の処理に差異が生じるため、調整するには「税効果会計」の導入が必要になります。
税効果会計とは、企業会計と税務会計のずれを調整し、一会計期間における損益を適切に算定する手続きのことです。税効果会計では「法人税等調整額」という勘定科目を用いて、会計上と税務上のずれを解消し、正確な当期純利益を把握できるようにします。
こちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。
消費税の課税対象にならない
資産除去債務は会計上の見積もりのため、消費税の課税対象にはなりません。その一方で、有形固定資産の取得にあたっては、土地の場合を除き消費税がかかります。また、有形固定資産を除去する際の撤去費や処分費なども消費税の課税対象です。資産除去債務を適用する場合は、消費税の課税対象になるものとならないものをしっかり把握しておきましょう。
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資産除去債務を計上する場合は仕訳方法をしっかり理解しよう
資産除去債務とは、将来見込まれる有形固定資産の除去費用を見積もり、計上する費用のことで、貸借対照表上の負債に表示されるものです。中小企業は資産除去債務の適用が義務付けられていませんが、上場企業では資産除去債務の会計処理が義務付けられています。
資産除去債務を計上することで、有形固定資産の除去に関する将来の負担が財務諸表に反映され、投資家にとって有益な投資情報となります。ただし、資産除去債務を適用すると複雑な会計処理が必要になるため、仕訳方法などをしっかりと理解しておくことが大切です。中小企業にとっては聞き慣れない言葉かもしれませんが、会計に関するルールは今後変更になる可能性も考えられるため、資産除去債務がどういうものかを正しく知っておきましょう。
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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
