有給休暇を取得した日の給与計算方法は?発生条件や付与日数も解説
監修者: 下川めぐみ(社会保険労務士)
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有給休暇の取得は労働者に保障された権利であり、それを適切に管理することは使用者にとって非常に重要です。しかし、有給休暇の日数計算や付与要件を押さえる必要があるだけでなく、働き方改革に伴う法改正によって新しいルールが追加されたため、管理が複雑化しています。
ここでは、有給休暇に関する疑問を解決するために役立つ基本知識について詳しく解説します。
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有給休暇の付与要件
従業員が有給休暇を取得する権利を得るためには、「雇用から6か月継続勤務しており、出勤率が8割を超えている」という要件をクリアする必要があります。出勤率の計算式は以下のとおりです。
出勤率=(出勤日/全労働日(その期間の総暦数から所定休日や不可抗力による休業日などを除外した日数))×100
上記のとおり、有給休暇は6か月の継続勤務後に取得できるようになるので、4月1日入社の場合は、その年の10月1日から有給休暇が付与されるのが一般的です。ただし一部の企業では、入社から6か月経過しているか否かによらず、全社員に同一のタイミングで有給休暇を付与する場合もあります。有給休暇の付与は出勤率に左右されますが、入社から6か月待たずして有給休暇を付与する場合、短縮した期間の出勤日はすべて出勤したものと見なして計算します。
有給休暇の取得期限と最大保有可能日数
有給休暇の管理においては、取得期限や最大保有可能日数も重要な要素です。これらを適切に把握することで、従業員と企業双方がスムーズに管理できます。
まず、一度付与された有給休暇には時効があり、通常この期限は2年間です。例えば、2023年4月1日に有給休暇が10日付与された場合、2025年3月31日までに取得しなければなりません。取得しなかった場合、その有給休暇は失効します。
また、有給休暇の最大保有可能日数は勤続年数に依存します。労働基準法では、最初の6か月間が経過した時点(1回目の有給休暇の発生)で10日以上付与するのが企業に課せられた義務です。以後は勤続年数が増えるごとに付与日数が増加していきます。例えば、2回目の付与で11日、3回目の付与で12日と付与日数は増えていきます。4回目からこの付与日数の増加は2日ずつになり、付与日数が20日に達した後は固定になります。つまり、7回目からは毎年20日以上の有給休暇が付与されます。
先述のとおり、有給休暇は最長2年間保有できます。したがって、企業が労働基準法に即した最低日数分だけの有給休暇を従業員に付与した場合、その従業員は最大40日分の有給休暇を保有できることになります(6年6か月以上勤務している従業員の場合)。ただし、労働基準法で設定されているのはあくまで下限にすぎないので、企業側の裁量でより多くの有給休暇を付与することも可能です。例えば、1回目の付与から15日分の有給休暇を新入社員に与えることもできます。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「リーフレットシリーズ労働法39条」
有給休暇の付与日数は雇用形態などの条件によって異なる?
有給休暇の付与は雇用形態や特定の状況によって変わります。法令を遵守して有給休暇の管理をするには、これらの諸条件・諸規定をしっかりと把握しておくことが大切です。
正社員など週5日以上勤務している場合
週5日以上のフルタイム勤務者については、先述の付与要件にしたがい、勤続6か月以上経過した時点で最低10日以上の有給休暇が付与されます。また付与日数の増加に関しても同様で、7回目以降は年間で最低20日の有給休暇が付与されるしくみです。
この要件は、雇用形態に関係なく、正社員、派遣社員、契約社員、準社員などすべての従業員に適用されます。週の所定労働日数が5日以上、または週の所定労働時間が30時間以上の場合は、正社員と同様の有給休暇が付与されます。ただし、派遣社員については、有給休暇の管理や付与は派遣元(派遣会社)が行うので注意が必要です。そのため、派遣社員の有給休暇は、派遣先の正社員とは異なる場合があります。
継続勤務年数 | 0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
付与日数 | 10 | 11 | 12 | 14 | 16 | 18 | 20 |
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「リーフレットシリーズ労働法39条」
パート・アルバイトとして勤務している場合
パートやアルバイトの場合でも、要件を満たす場合には、有給休暇の付与が労働基準法で義務づけられています。
有給休暇の付与タイミングは正社員と同様ですが、付与される日数は週の労働時間や年間の労働日数に応じて変動します。パートやアルバイトの有給休暇は、週1日、年間48時間以上の勤務日数から発生します。また、パート・アルバイトでも、勤務年数に応じて付与日数が増加していきます。所定労働日数ごとの付与日数(1回目~7回目以降の付与日数)は以下のとおりです。
- 週1日または年間48~72日の所定労働日数:1日~3日
- 週2日または年間73~120日の所定労働日数:3日~7日
- 週3日または年間121~168日の所定労働日数:5日~11日
- 週4日または年間169~216日の所定労働日数:7日~15日
なお、正社員と同じように週5日以上で働いている場合は、パートやアルバイトであっても勤続年数に応じて10日~20日を付与する必要があります。また、年間で10日以上の有給休暇を付与した場合、企業はその従業員に年間5日分の有給休暇を取得させる義務があります。この点については、労務管理をする際に注意が必要です。
週所定 労働日数 |
1年間の所定労働日数 | 継続勤務年数 | |||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0.5 | 1.5 | 2.5 | 3.5 | 4.5 | 5.5 | 6.5以上 | |||
付与日数 | 4日 | 169日~216日 | 7 | 8 | 9 | 10 | 12 | 13 | 15 |
3日 | 121日~168日 | 5 | 6 | 6 | 8 | 9 | 10 | 11 | |
2日 | 73日~120日 | 3 | 4 | 4 | 5 | 6 | 6 | 7 | |
1日 | 48日~72日 | 1 | 2 | 2 | 2 | 3 | 3 | 3 |
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「リーフレットシリーズ労働法39条」
育休や産休、介護休業を取得している場合
育休、産休、介護休業を取得している期間中に有給休暇を取得することはできません。しかし、休業から復帰した後には、その休業期間を全日出勤したと見なして出勤率を算定し、有給休暇を付与しなければならないので注意が必要です。
有給休暇取得日に支払うべき給与(賃金)の計算方法
有給休暇を従業員が取得した場合の給与計算方法には、以下の3種類があります。
通常どおり勤務したと見なす場合
最も簡単な計算方法は、有給休暇を取得した日も通常どおりに所定労働時間を勤務したと見なす方法です。例えば、ある従業員の日給が2万円である場合、この従業員には通常の勤務日と同様に有給休暇の取得日にも2万円の賃金を支払うことになります。週給、月給などで賃金が支払われる場合も、週給や月給を期間内の所定労働日数で日割り計算して支払う方法です。
平均賃金を支払う場合
有給休暇取得日の賃金を平均賃金で計算する場合、以下の2つの方法から大きいほうを採用します。
-
1.直近3か月の賃金の総額を、休日を含んだ全(暦)日数で割った額
-
2.直近3か月の賃金の総額を、労働日数で割った額の60%(×0.6)
土日祝なども含んで計算するこの方法では、通常どおり勤務したと見なす場合に比べて支払う賃金が低くなる可能性があります。また、通常どおり勤務したと見なす場合と比べて給与計算や処理の手間が増えます。
健康保険の標準報酬月額から算出する方法
健康保険料の計算に用いる標準報酬月額から標準報酬日額を算出し、有給休暇取得日の賃金とする方法もあります。標準報酬日額は、標準報酬月額の30分の1に相当する額です。
この方法の欠点として、有給休暇を取得した従業員に支払う賃金が、通常の賃金よりも少なくなったり多くなったりする点が挙げられます。標準報酬月額は、あくまでも保険料の計算を簡便にするために報酬を区切りのよい幅で区分した等級表に基づく額であり、実際の賃金とは差が生じるからです。この方法で有給休暇中の賃金を計算すると、従業員にとって不利になる場合も有利になる場合もあります。そのためこの方法を採用するには労使協定の締結が必要です。また、健康保険に加入していないアルバイトやパートの場合、わざわざこのために標準報酬日額を算出しなくてはならず手間がかかります。
有給休暇と各種手当の関連性
有給休暇の取得が、皆勤手当や通勤手当といった各種手当にどのような影響を及ぼすのかは、企業と従業員双方にとって重要なことです。以下ではこの点について詳しく解説します。
皆勤手当の取り扱い
有給休暇の取得は従業員にとって当然の権利であり、その権利の行使によって何らかの不利益が出るような事態は避けるべきです。そのため、有給休暇の取得を通常の欠勤と同様に扱って皆勤手当の支給をしない場合、従業員に不当な扱いをしたとして裁判などになる可能性があります。企業としてはこのようなリスクを回避し、従業員が安心して有給休暇を取得できる環境を整えなければいけません。有給休暇の取得をした従業員を皆勤手当の支給対象から外すかどうかは、慎重な判断が必要です。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得」
通勤手当の取り扱い
通勤手当については、有給休暇を取得した日に支払う必要は基本的にありません。これは、通勤手当が、出勤のためにかかる交通費を補填する目的であり、有給休暇の日にはその必要がないためです。
しかし、このような取り扱いが明示されていない場合、従業員からの問い合わせやトラブルが発生する可能性もあります。そのため、就業規則に「出勤した日のみ通勤手当を支払う」といった文言を明記しておくことを推奨します。
有給休暇管理の負担を減らす方法
有給休暇の管理においては、付与日数や取得期限、賃金計算といった複雑な要素が絡むため、業務が煩雑になりがちです。そのため、有給休暇の管理は労務や総務担当者にとって大きな負担になります。以下では、こうした負担を減らすために効果的な方法をご紹介します。
有給休暇付与の基準日を全社で統一させる
有給休暇を付与する基準日を全社で統一することで、管理作業が一括で行えるようになり、効率が大幅に向上します。
例えば、入社日にかかわらずすべての従業員の基準日を4月1日とすることで、まとめて管理が可能になります。このようなしくみを導入する際には、就業規則にこの内容を明記することが必要です。同時に、「就業規則変更届」を管轄の労働基準監督署に提出しなければなりません。また、できるのはあくまでも付与日の前倒しです。基準日を統一するからといって入社から6か月経過日より後に付与することはできません。これは、労働者保護という労働基準法の趣旨と照らして当然のことです。
基準日を統一することで一括管理が可能になりますが、この方法にはデメリットも存在します。例えば、従業員ごとに入社日がバラバラの企業では、基準日を統一することで不公平が生じる可能性があります。つまり、入社時期によって、有給休暇が付与されるまでの期間に差が出てしまうということです。
また、既に述べたとおり、6か月以上の勤務を経ずして有給休暇を付与する場合は、短縮した期間について従業員がすべて出勤した扱いにしないといけません。そのため、実際には「8割以上出勤する」という付与要件を満たせなかった従業員に対しても、有給休暇を付与することになるケースも考えられます。
従業員を入社日に応じた複数のグループに分けて基準日を設けることも可能です。ただし、細かく分けすぎると基準日を統一するメリットが薄れてしまうので、そのバランスは考慮しましょう。
年次有給休暇管理簿を作成する
従業員の有給休暇取得状況などを把握するために、「年次有給休暇管理簿」を作成しましょう。
年次有給休暇管理簿の作成は、労働基準法によって義務づけられています。この作成義務は、2019年度から、有給休暇が年10日以上付与される従業員に対して、年5日以上の有給休暇を取得させる義務が発生したことに関連して設定されました。この2つの義務のうち、履行を怠った場合の罰則が設定されているのは、年に5日以上の有給休暇を取得させなかった場合だけです。この違反には一人当たり30万円以下の罰金が科せられます。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「年5日の年次有給休暇の確実な取得」
年次有給休暇管理簿があれば、各従業員の有給休暇の取得状況がひとめでわかるため、管理が容易になります。従業員自身も自分がこれまでに何日取得したか把握しやすいため、積極的に有給休暇を取得するようになる可能性もあります。
Excelや給与計算ソフトを活用する
有給休暇に関する複雑な計算や管理を正確にするためには、ツールの活用もおすすめです。例えば、有給休暇や給与計算に対応したExcelのテンプレートを活用することで、煩雑な計算を自動化し、時間を節約できます。専門の給与計算ソフトを使うことで、さらに効率的な管理が可能です。
ツールの活用によって計算ミスや付与漏れなどの人的ミスを減らすとともに、担当者の作業負担を軽減し、作業効率を大幅に向上させられます。
有給休暇の計算や管理は給与計算ソフトで効率化しよう
有給休暇の管理は、企業にとって避けては通れない課題です。有給休暇の管理を徹底していないと法的に罰せられる可能性があるうえ、従業員のモチベーションにも悪影響を与えかねません。そのため、効率的かつ正確な管理が求められます。
有給休暇の管理をする際には、賃金台帳や従業員台帳をチェックできる「弥生給与 Next」がおすすめです。自社に合ったサービスをを活用して、業務の効率化を目指しましょう。
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この記事の監修者下川めぐみ(社会保険労務士)
社会保険労務士法人ベスト・パートナーズ所属社労士。
医療機関、年金事務所等での勤務の後、現職にて、社会保険労務士業務に従事。
