社会保険とは?種類や加入条件、手続き方法について解説
2022/12/09更新

この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

社会保険とは、病気やケガ、失業、障害、老齢などに対して必要な保険給付を行う公的な保険のことを指します。ここでは、会社や個人事業主に雇用されて働く従業員が加入する社会保険について、基本知識と手続き方法を説明します。従業員の社会保険の加入手続きや保険料の徴収などは、事業主が主体となって行います。社会保険の種類や、加入対象になる従業員の条件も併せて解説しますので、社会保険関連業務を行う際の参考にしてください。
社会保険とは、従業員の生活を保障する保険
社会保険とは、会社などに雇用されて働く従業員の病気やケガ、老後、失職などに備えるための公的な保険の総称です。
従業員を雇う際に手続きが必要な社会保険には、「厚生年金保険」「健康保険」「介護保険」「雇用保険」「労災保険」の5つの種類があります。厚生年金保険、健康保険、介護保険の3つを、狭義の「社会保険」と呼ぶこともあります。その場合、残りの雇用保険と労災保険を合わせて「労働保険」と呼びます。
社会保険への加入は、従業員の安定的な生活を守ることにつながります。それぞれの保険の役割について見ていきましょう。
厚生年金保険
厚生年金保険は、会社などに雇用される従業員が加入できる年金制度です。厚生年金保険に加入していた従業員は、将来、国民年金に上乗せする形で厚生年金保険の給付を受けることができます。
健康保険
健康保険は、病気やケガで病院にかかる際の自己負担額を減らすための保険です。健康保険の保険者は、主に下記の5種類に分けられます。
- 協会けんぽ
- 健康保険組合
- 国民健康保険
- 国民健康保険組合
- 後期高齢者医療制度(75歳以降)
会社などに雇用されている従業員は、上記のうち、協会けんぽまたは健康保険組合に加入します。健康保険組合とは、一定以上の規模の事業所や、同一業種の事業所の集まりなどで構成される保険者です。
協会けんぽや健康保険組合は、国民健康保険などに比べて手厚い給付を行っている場合が多くなっています。特に大きな特徴は、「扶養制度の有無」と「傷病手当金の有無」「出産手当金の有無」です。これらは、国民健康保険にはありません。
扶養制度の有無 | 協会けんぽや健康保険組合では、収入が一定以下の扶養している配偶者や子供、親などを扶養に入れることができます。扶養者が増えても保険料は変わりません。具体的な条件は、加入している健康保険ごとに規定されています。 |
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傷病手当金の有無 | 傷病手当金は、病気やケガなどの私傷病で4日以上連続して働けなくなった際(労務不能期間)に支給される手当金です。給与の約3分の2相当の金額が、最長1年半支給されます。 |
出産手当金の有無 | 出産手当金は、産前産後休業期間に仕事を休んだ際に支給される手当金です。給与の約3分の2相当の金額が支給されます。 |
介護保険
介護保険は、要介護や要支援認定を受けた方の介護にかかる費用負担を軽減するための保険です。健康保険に加入している従業員のうち、40歳以上の方が加入します。
なお、65歳未満で介護保険サービスを利用できるのは、特定の16疾患によって介護が必要になった場合のみです。
雇用保険
雇用保険は、従業員が失業した際の求職者給付、教育訓練給付などを受けられる保険です。
また、育児休業を取った際の育児休業給付金や、介護休業を取った際の介護休業給付金なども、雇用保険から支払われます。
労災保険
労災保険は、労働災害が起こった際に備えるための保険です。労災が発生すると、労災保険から治療費や休業補償などが支払われます。
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社会保険料の負担について
厚生年金保険、健康保険、介護保険の保険料は、従業員と事業主が半額ずつ負担します。
一方、雇用保険料は事業主の負担割合が大きく設定されていますが、具体的な負担額は事業内容によって異なります。また、労災保険料は全額が事業主負担です。
社会保険料についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
社会保険の対象事業者
社会保険の対象となる事業者は、法律によって決められています。対象事業者になっている場合は、必要な手続きを取りましょう。
厚生年金保険・健康保険・介護保険の対象事業者
厚生年金保険、健康保険および介護保険の対象事業者は、「適用事業所」と呼ばれます。適用事業所に該当するのは、下記のいずれかの事業所です。
適用事業所
- 従業員数を問わず、すべての法人(株式会社など)
- 5人以上の従業員を雇用している個人事業主(一部業種を除く)
個人事業主の場合、農林漁業やサービス業などは適用になりません。また、5人以上の法律や会計関連の士業も適用外ですが、2022年10月以降は適用となります。
ただし、上記にあてはまらない事業主でも、従業員の半数以上が同意したうえで事業主が申請、認可を受けることで適用事業所になることが可能です。
適用事業所になった場合の手続き方法については後述します。
雇用保険・労災保険の対象事業者
雇用保険と労災保険は、原則として従業員を雇用するすべての事業主が対象です(農林水産業の一部を除く)。従業員を雇用している場合は、規模や業種にかかわらず対象事業所になります。
初めて従業員を雇用した事業主は、所轄の労働基準監督署に、労働保険の「保険関係成立届」と「概算保険料申告書」など、所轄のハローワークに「雇用保険適用事業所設置届 」と「雇用保険被保険者資格取得届
」などを提出し保険の手続きを行います。
社会保険に加入しなければならない従業員
社会保険に加入しなければならない従業員は、法律によって規定されています。条件を満たす従業員は社会保険に加入しなければなりません。
加入条件は、厚生年金保険・健康保険・介護保険と、雇用保険、労災保険でそれぞれ異なります。条件を把握しておくとともに、該当する従業員を見落とさないように気を付けましょう。
厚生年金保険・健康保険・介護保険に加入しなければならない従業員
厚生年金保険と健康保険は、加入しなければならない従業員の条件が共通です。どちらかにだけ加入するということは基本的にありません。勤務時間ごとの加入条件を見ていきましょう。
なお、介護保険は、健康保険に加入している従業員のうち40歳以上の方が加入します。そのため、ここでは健康保険とまとめてご説明します。
- 1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の従業員
1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上の従業員は、厚生年金保険と健康保険に加入します。
なお、派遣社員は派遣元である派遣会社の社会保険に加入します。派遣先の事業主が手続きなどをする必要はありません。 - 1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3未満の従業員
1週の所定労働時間および1か月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3未満の従業員でも、下記の条件をすべて満たす場合は厚生年金保険と健康保険に加入します。
厚生年金保険・健康保険の加入条件
- 1.
常時500人を超える従業員を雇用している事業所で働いている、または労使合意にもとづいて社会保険の適用拡大をした事業所で働いている
- 2.
週の所定労働時間が20時間以上
- 3.
給与が月額8万8,000円以上
- 4.
継続して1年以上雇用される見込み
- 5.
学生ではない
ただし、1と4は、今後、下記のように条件が変わり、対象者が増える予定になっています。
2022年10月1日以降の厚生年金保険・健康保険の加入条件
- 1.
常時100人を超える従業員を雇用している事業所に勤務している【変更】
- 2.
週の所定労働時間が20時間以上
- 3.
給与が月額8万8,000円以上
- 4.
継続して2か月を超えて雇用される見込み【変更】
- 5.
学生ではない
2024年10月以降の厚生年金保険・健康保険の加入条件
- 1.
常時50人を超える従業員を雇用している事業所に勤務している【変更】
- 2.
週の所定労働時間が20時間以上
- 3.
給与が月額8万8,000円以上
- 4.
継続して2か月を超えて雇用される見込み
- 5.
学生ではない
雇用保険に加入しなければならない従業員
雇用保険に加入する従業員の条件は、下記の2点です。すべてを満たす従業員は、雇用保険に加入しなければいけません。厚生年金保険や健康保険よりも対象が広いため、間違えないようにしましょう。
雇用保険の加入条件
- 1.
継続して31日以上雇用される見込み
- 2.
1週間の所定労働時間が20時間以上
労災保険に加入しなければならない従業員
労災保険は、すべての従業員が加入対象です。1日だけの日雇いバイトや、繁忙期だけの臨時バイトなどもすべて対象になる点に注意しましょう。
ただし、派遣社員については、派遣元である派遣会社の労災保険に加入します。
厚生年金保険・健康保険・介護保険に関する各種手続き方法
厚生年金保険や、健康保険・介護保険に関する手続きは、必要なタイミングで事業主が行わなければならないものです。手続きが必要になる主なシーンと手続き方法をまとめました。
社会保険対象事業所になったとき
法人や5人以上の従業員を雇用する個人事業主は、社会保険の適用事業所に該当します。新たに適用事業所になった際は、5日以内に所轄の年金事務所宛に「健康保険・厚生年金保険 新規適用届 」を提出します。

なお、提出時に法人は「法人登記簿謄本(商業登記簿謄本)」、個人事業主は「事業主の世帯全員の住民票(マイナンバーか書いていないもの)」を添付してください。ほかに年金機構が指定した書類などがあります。
従業員を雇用したとき
従業員を雇用したときは、5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届 」を所轄の年金事務所宛に提出してください。

従業員が退職したとき
従業員が退職したときは、社会保険からの喪失手続きをとらなければいけません。退職から5日以内に「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届 」を所轄の年金事務所に提出します。
なお、書類には退職した従業員の健康保険証を添付する必要があります。退職日までに従業員から健康保険証を受け取りましょう。家族を扶養に入れている場合は、家族の分の健康保険証も回収して返却します。
従業員が急に出社しなくなったなど、特殊な事情で健康保険証を回収できない場合は「健康保険 被保険者証回収不能届 」を添付してください。

従業員の家族を被扶養者にするとき(または被扶養者から外れるとき)
従業員の配偶者や子供などの家族が扶養に入るときや、就職などの理由で扶養から外れるときは、5日以内に「健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金 第3号被保険者関係届) 」を所轄の年金事務所に提出します。

なお、扶養に入る届出をする際は、下記の書類の添付が必要です。
扶養に入る届出に必要な添付書類
- 住民票の写しか、扶養に入る人の戸籍謄本(続柄の確認のため)
- 退職証明書や離職票、課税(非課税)証明書など収入が130万円以下であることを示す書類(所得税法上の扶養対象になっている配偶者や親族は不要)
- 別居親族の場合は、通帳など仕送りの事実がわかる書類
- 内縁関係の場合は、内縁であることがわかる住民票や戸籍謄本などの書類
社会保険の手続きを見落とさないようにしましょう
社会保険は、小規模な事業所であっても加入しなければならないもの。必要な手続きをうっかり見逃さないように注意が必要です。特に、手続きが遅延した場合には、健康保険証の納品が遅れ、病院に行けない、または10割負担になるということが起きます。また、一定以上の規模の事業者は、今後の適用範囲拡大による影響を受ける可能性があります。主にパートやアルバイトの社会保険加入対象者が増えることもあるので、気を付けてください。
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この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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