ダイエット中でも美味しく楽しい食事改善。食のサブスクを牽引。

起業時の課題
資金調達, 事業計画/収支計画の策定, 仕入先確保, 製品/サービス開発, マーケット・ニーズ調査

自身の「こんなサービスがあったらいいのに」を形にし、起業を成功させた、「株式会社Muscle Deli」代表取締役の西川真梨子さん。「起業して楽しいことも苦しいことも十倍になった」と語る西川さんに、まだまだ世の中にサービスが浸透していなかった中で初回生産分の商品を2日で完売させた秘訣や、組織作りのポイントなどについてお話を伺いました。

会社プロフィール

業種 小売業(食料品・日用品)
起業年 2016年
事業継続年数(取材時) 6年
起業時の年齢 30代
起業地域 東京都
起業時の従業員数 1人
起業時の資本金 50万円

話し手のプロフィール

会社名
株式会社Muscle Deli
代表
西川 真梨子
株式会社Muscle Deli 代表取締役社長 CEO
関西学院大学卒業後、繊維メーカーで大手GMSや化粧品メーカー向けに営業職として衣料品や雑貨の商品企画、生産管理を行う。2013年に株式会社ASOBIBAを創業しエンタメ施設の立ち上げや運営を行う。その後コンサルティング会社に転職し大手企業の新規事業立ち上げや社内ベンチャー制度支援を行う。2016年に株式会社Muscle Deliを創業。

目次

自らの経験から、栄養コントロールに悩む人に役立つサービスを

まずは、現在の事業内容を教えていただけますか?

西川:弊社は2016年に創業し、ダイエットやボディメイクをしている人に最適な栄養バランスの食事をサブスクリプション型で届けるサービスをメインで行っています。

起業のきっかけについて教えてください。

西川:私はもともと運動習慣がなかったのですが、30歳を迎えたときに「ずっと綺麗で健康でいるために何か始めたい」と思い、パーソナルジムに通い始めました。ボディメイクをしていく中で、トレーナーの方から「身体を変えるためには、運動だけではなく食事も変えないとダメだ」と言われ、それをきっかけに食事を見直すようになりました。

最初は、トレーナーの方に教わった通りに食事をコントロールしていたのですが、自分で栄養計算をして料理をするのは本当に大変でした。仕事が忙しかったこともあり、外食やコンビニを利用することも多かったのですが、どうしてもメニューが限られてくるので、食べる楽しみがどんどん失われてしまったんです。

食事改善をしなきゃ身体は変わらないけど、メンタル的にはしんどいと悩んでいたときに、解決策として今の事業を思い付きました。当時、海外では既に弊社のようなサービスがあったので、それを参考にできましたし、最適な栄養の食事が届くサービスがあれば、ダイエットやトレーニング中の方も楽しみながら食事管理ができると思ったんですよね。

「こういうサービスがあるといいな」という思いから起業を決意されたのですね。起業に対しての不安はありませんでしたか?

西川:実は、弊社の事業を始める前に、起業の経験がありまして。友人とお金を出し合って、サバイバルゲームの遊技場を運営する会社を作ったんです。

過去に起業経験があったんですか。

西川:はい。その時は、会社に勤めながら、土日のみ運営を行う形でやっていました。しかし、新しい事業を立ち上げることは楽しいと思いつつも、自分にはまだ経営のスキルが足りないと感じ、会社は友人に任せ、新規事業や社内ベンチャーに力を入れているコンサルティング会社に転職したんですね。ただ、転職後も「いつかは自分で事業を立ち上げたい」という思いがあったので、働きながらやりたい事業を探していたときに、今の事業を思い付きました。

常にアンテナを立てていたからこそ浮かんできたアイデアなのかもしれませんね。

前例の少ない事業へのチャレンジ。可能性の確信に至った地道な準備とは?

現在はコンビニでも低糖質・高タンパク商品が扱われ、メジャーになってきた印象ですが、2017年はまだ一般層まで浸透してなかったように思います。新たな市場へ挑戦された当時の想いをお聞かせください。

西川:フィットネス業界内では、タンパク質が絶対必要であることや摂取が難しいことは当たり前の知識だったのですが、確かに、創業当時は一般層にタンパク質の重要性が全然伝わっていませんでしたね。しかし、フィットネスや健康市場はこれから絶対伸びるし、身体を作るタンパク質の重要性についての認識は広がっていくと予想がついていたので、想像していた通りに広がったなと感じています。

新しい事業領域だと市場規模の把握や予測の立て方にもコツが要りそうですが、どのように予測を立てていったんですか?

西川:起業時は市場調査として、やろうとしている事業の周辺市場の市場規模や、今後どう推移していくか、国や矢野経済研究所新規タブで開くの調査データを見ながら動向を予測していきました。その後は競合調査を行ったのですが、当時は弊社のような栄養価に特化したデリバリーフードサービスはなかったので、同じようなビジネスモデルの宅食企業の動きを調べました。

また、起業前にベンチャーキャピタルやフィットネストレーナー、ダイエットされている一般の方に、プレゼン資料や事業構想を見せて話を聞いていきました。ヒアリングや市場調査を進めていくなかで可能性を感じたため、会社を設立して本格的に事業運営をやっていこうと決心できました。

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サブスクリプション型のサービスにしたのはなぜでしょうか。

西川:もともと、自分と同じように食事管理に困っている人を助けるためのサービスを作りたいと思っていたので、そうすると1回1回買うのはすごく手間だと感じていました。やはりダイエットやボディメイクは続けることが大事なので、継続性を考えると“何も考えなくても、勝手に食事が届く状態”にする必要があると思い、最初からサブスクリプション型のサービスを想定していました。

資金調達についても教えてください。

西川:創業時の資本金は、自己資金の50万円でした。資金調達は、東京都の“女性・若者・シニア創業サポート事業制度新規タブで開く”を利用し、500万円の融資を受けました。

また、創業2年後には、1社目の創業時の仲間から一部出資をしてもらいました。

サービス展開に立ちはだかる壁。根気強く乗り越えた先に見えたのは、全国の顧客だった

御社のプランを頼むと、食事が冷凍でまとめて届き、必要な分だけ温めて食べるというスタイルですよね。デリバリー事業のなかでも、冷凍に絞られた理由は何ですか?

西川:実は、最初は友人が営むバーを昼間だけ場所借りし、自分たちで調理して常温の弁当のみを販売していたんです。バーの周辺地域のフィットネスジムにテレアポして、アポをもらったところに弁当を持って行き、トレーナーの方にヒアリングすると、言われることが全部一緒だったんです。「こういう商品はすごく欲しいと思っていたから取り扱いたいけど、毎日どれくらいの注文がくるか事前に予測するのは難しいし、賞味期限が短いから売れ残った場合の廃棄を考えると取り扱うのは難しい」と。そこから冷凍で販売する方法を検討していき、今の形になりました。

全国に届けられる点も冷凍の強みですね。

西川:そうですね。やはり、ダイエットやボディメイクのために食事の管理をしている方は、全国各地に少しずついる状態なので、地域を絞ってしまうとユーザーになり得る人数が少なくなってしまうんですよね。全国に届けられるものだからこそ、そういったニッチな悩みに対して、解決策を提示できているのかなと思っています。

ただ冷凍となると、工場への依頼も必要になりますよね。

西川:はい。最初は、キッチンで作ったものを自分たちで冷凍して、フィットネスジム向けに数十個単位で販売していたんです。ただ、一般の方向けの販売を考えるとやはり工場が必要なので、工場のリストを作り「こういう商品を作りたいのですが、お願いできませんか?」と片っ端から電話していきました。しかし、事業実績のない創業年の会社の話を聞いてくれるところはなかなかなくて。それでも諦めず、仕様書や今後の計画、私たちの思いを記載した資料を持って直接工場へ赴き交渉し、なんとか初回分を作ってもらえるところを見つけました。

マッチしたタイミングとニーズで理想的なロケットスタート!

初回分はどのぐらい作り、どのようにPRしていったんですか?

西川:初回分は、融資を受けた500万円で払える精一杯のロット数を作りました。ECサイト上で販売するにあたってプレスリリースを書き、各メディア宛てにメールを一斉に送ると、反響がすごく大きく、数千個の商品がなんと2日で完売しまして。

画像:1人ひとりの目的や好みに合わせて
パーソナライズされた食事が届く新サービス
「YOUR MEAL」株式会社Muscle Deliホームページ新規タブで開くより

2日で完売ですか!メディアの影響力はすごいですね。

西川:そうですね。もともと、トレーニングやダイエットの食事管理で困っていたというお客さまがすごく多くて、メディアで取り上げられたプレスリリースを見て、「こういうのを待っていた!」と、購入してくださったんだと思います。しかもサブスクリプション型なので、どんどん商品が売れていきますし、“2日で売り切れました”というプレスリリースを出すと、ECサイトは購入待ちの状態になっているので、さらに口コミが広がっていきました。

実際に利用されたお客さまからの反応はいかがですか。

西川:反響としては、「想定していた以上にすごく便利で助かっている」という声を多くいただきました。栄養が整っているだけでなく、時短になる点も高評価のポイントでした。今まで栄養計算をして、料理をして、片付けて、栄養を記録して……と時間をかけていたことが全部一括ででき、時短になることで「トレーニングをする時間やフリーの時間が増えて、ライフスタイルがよくなった」という声をいただけたのはすごくうれしかったですね。

業務領域がバラバラなチームも「仕事以外の話をする」と団結する?

現在、従業員は何人雇用されているのでしょうか?

西川:フルコミッションの人が十数名で、業務委託やアルバイトを入れると20~30名です。採用に関しては、人手が足りなくなって募集するというより、次の戦略として伸ばしていきたいポジションの人材を募集しています。また、基本的に売上高が伸ばせるメンバーであれば、事業のタイミング問わず採用していますね。

バックオフィス業務もすべて社内で完結しているのですか?

西川:税理士の方とは、創業時に顧問契約をしました。最初は自分たちで会計ソフトに入力していたので、初年度は決算ぐらいでしたが、今は毎月月次の集計もやってもらっています。また現在は、会社のファイナンスを整えているフェーズにいます。前期に初めて株式発行による資金調達をしましたが、今後を見据えてきちんとしたバックオフィス体制を作っていくため、数か月前に初めてコーポレートバックオフィス系のメンバーを雇用しました。

従業員が増えてくると、組織としての仕組み作りも必要になってくると思います。会社の組織運営について、御社で何か工夫されてきたことはありますか?

西川:現在、隔週で1時間半ワークショップをやっているのですが、皆で一緒になってワークをやる時間を作ったことはよかったと思っています。その時々でやることは違うのですが、例えば新しく入ったメンバーが多いタイミングでは、モチベーショングラフを作成して相互理解を深めています。

私たちの事業は役割がたくさんあって、それぞれやっている仕事がバラバラなんですよね。システムの人もいれば、マーケティングの人もいて、製造や品質管理と、それぞれ違う仕事をしていて、キャリアも全然違います。なので、仕事のことだけにとらわれず、定期的に一緒に座っていろんな話をする時間を設けることで、互いの理解を深められますし、それによってコミュニケーションも増えています。

起業したことで得られたものは「生きている実感」

会社を運営される中で、「これはやって良かったな」と感じたことはありますか?

西川:アスリートの方を支援したのはすごくよかったと思っています。この事業を行っていく中で、アスリートの食事管理の煩雑さに関する悩みを聞く機会が増えて、トレーニングや運動、競技の練習はするけど食事までは手が回らず、身体によくないものを食べている方もいることを知ったんですね。何かできないかと考えていたときに、ご縁があって有名なアスリートの方の食事サポートをすることになりました。発信力がある方だったので、その食事の提供をきっかけに一気に評判が広がりましたね。

やはり、アスリートのファンの方には選手を目指している方もたくさんいるので、1競技につき1人発信してくださると、周りにいる人たちやファンの方が「自分も食べてみよう」と思ってくださるようで。弊社としては口コミも広がるし、アスリートの方々の支援をすることによって、日本の競技力の向上に貢献できるので、やっていてよかったと思っています。

現在は、冷凍商品のみを販売されているのでしょうか?

西川:スープなどサブプロダクトの中には冷凍でないものもありますが、メインのお食事は冷凍の商品だけ販売しています。

ただ、コロナ禍に一度、飲食店に弊社のメニューを作ってもらい、それをUber Eatsで届ける試みをやっていました。ユーザーからはずっと「Uber Eatsで商品を販売してほしい」という声をいただいていたのですが、自分たちで店舗を持ち、オペレーションをやるのはすごく大変だなと思っていたんです。そんなタイミングで、コロナ禍で店舗と人員が余っている方々が多くいると知り、飲食店応援の意味合いも含め、一時的に常温商品の販売を行いました。

西川さんにとって、起業の醍醐味は何でしょうか?

西川:起業して1番思うのは、楽しいことも苦しいことも十倍になったということです。やはり、この感覚は会社員の時には味わえなかったことですね。例えば、めちゃくちゃバズって売れるというのも、誰かの指示を受けて、会社の役割の一部としてやったことではなく、自分のことなので、やっぱりすごくうれしいんですよね。逆に失敗したときはそれ以上に凹みますが、そういった感情になれることがすごく人生を謳歌しているようで、“生きているな”と感じています。

今後の展望についてお聞かせください。

西川:私はボディメイクやダイエットがきっかけだったのですが、「食」ってその人の体を作るので、いろいろなきっかけで食事管理が必要になることがあると思うんです。例えば、アレルギーがあったり、身体の調子を整えるために制限が必要になったり。そういった状況であっても、食事を楽しみながらおいしさも栄養も整ったものを食べて、ずっと健康でいられる状況を作っていきたいなと思っています。おいしい食事を通して、体の健康だけじゃなく、心も健康な状態で人生を送っていけるような環境を作っていけたらいいなと思います。

それでは最後に、これから起業される方へ向けてメッセージをお願いします。

西川:“とりあえずやってみる”というのも1つの手だと思います。私がサバイバルゲームの会社を作ったときは、趣味の延長で「ちょっとお金払ったらお店ができるから、その方が楽しいよね」という友人の話に乗っかる判断をしたことがいろんな経験につながりました。なので、もし身近に新しいチャンスがあったら1度やってみると経験につながると思います。

また、事業をやっているとすごくいろんなことがあると思うのですが、粘り強さというか、諦めずに根気よくいろいろ検証しながらやっていくといいと思いますね。大変なことや上手くいかないこと、悩むこと、想定外なこともあると思うんですけど、いろいろ試しながら根気強く努力していれば、道は開けると思います。今は起業しやすく、リカバリーもしやすい環境が整ってきていると思うので、興味があるのであれば、ぜひ起業にチャレンジして、楽しみながらやってほしいと思います。

ありがとうございました!

取材協力:創業手帳
インタビュアー・ライター:稲垣ひろみ

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