個人事業主の医療費は経費にできる? 経費にできる条件や医療費控除を解説
監修者: 奥 典久(奥典久税理士事務所)
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フリーランスなどの個人事業主が帳簿をつける際に悩むのが、医療費の扱いです。基本的に医療費は経費とは認められません。しかし、一定の要件を満たすことで医療費控除の対象になります。また、従業員を雇っている個人事業主の場合、従業員のために払った健康診断費などは経費になります。
この記事では、医療費が経費になるケースや医療費控除の要件、経費として認められる場合の仕訳方法などについて解説します。
原則として個人事業主の医療費は経費にできない
個人事業主が自分のために使った医療費は、原則として経費とは認められません。経費とは事業を営むうえで必要なお金のことです。例えば、業務で使用した交通費、アルバイトなどの人件費、事務所代、業務で使用した通信費、事務用消耗品、広告費などが含まれます。そのため、プライベートで通院や入院をした場合の医療費は経費にできません。ただし、従業員を雇用しているケースでは、従業員の医療費を経費にできる場合もあります。
個人事業主が従業員を雇用している場合は経費になる
個人事業主でも、アルバイトやパートなどを雇用し、従業員のために医療費を支払った場合、経費になるケースもあります。
例えば、従業員の健康診断にかかる費用です。事業の規模に関係なく、雇用主は年に1度、従業員に健康診断を受けさせなければならないと労働安全衛生法第66条に定められています。個人事業主も従業員を常時雇用している場合には、その義務が発生します。
従業員が受けた健康診断の費用は、「福利厚生費」として経費計上が可能です。人間ドックも福利厚生費として計上できますが、一部の人しか受けられない場合は認められません。また、オプションは経費にはならない可能性があります。ほかにも、インフルエンザなどの予防接種など従業員全員が平等に受けられるのであれば、経費の扱いとなりますが、個人事業主本人の健康診断費用、予防接種費用は経費にならないので注意してください。
経費にはならないが「医療費控除」が認められる場合もある
個人事業主本人の医療費は経費とはなりませんが、一定額を超えていれば確定申告で医療費控除の対象になります。医療費控除とは、所得控除の一種であり、1年間に支払った医療費が一定額を上回っていた場合に、所得税を算出する際に総所得から一定の金額を差し引ける制度です。
医療費控除として申告できる条件は、1年間(1月1日~12月31日)に支払った個人事業主(および生計を一にする家族)の通院や入院、手術などの合計額が10万円を超える場合です(保険金などから補てんされた場合はその金額を差し引きます)。また、年間の総所得額が200万円未満の場合は、総所得額の「5%」を超えると適用になります。ただし、通院や入院、治療などに使った費用でも、認められるものとそうでないものがあります。
医療費控除の対象になるもの
病院などで支払った金額をすべて足し算すればよいわけではありません。医療費控除の対象となる項目には以下があります。
- 歯科・医科の治療の対価
- 治療または療養に必要な処方薬代
- 治療または療養に必要な市販薬代
- 入院費(食費を含む)
- 妊娠時の定期健診費および検査費
- 不妊治療費
- 治療に使う松葉杖やコルセットなどの購入費
- 通院に使った公共交通機関の交通費(緊急性がない場合の自家用車のガソリン代、タクシー代は対象外)
- 歯科矯正費(審美の場合は除外)
- 治療に必要な鍼灸・柔道整復師などの施術費(体調を整える、癒しを得るなどの場合は含まれない)
- 介護保険適用の居宅介護サービス事業者等から提供を受ける居宅サービス
など
1回1回の費用は高くはなくても、歯科医で治療を受けたり、ドラッグストアや薬局で医薬品を購入したりしたものを合算すると、10万円を超える可能性はあります(ここで言う「医薬品」とは薬機法で定められた医薬品のことです。ビタミン剤など予防のものなどは含まれません)。経費としては認められませんが、必ず領収書を捨てずにとっておいてください。確定申告で医療費控除の適用を受ける際に、領収書を基に「医療費控除の明細書」を作成しなければなりません。また、領収書は5年間、保存することが必要です。
参照:国税庁|No.1122 医療費控除の対象となる医療費
医療費控除の対象外のもの
医療費控除の対象にならないものを紹介します。
- 健康増進のためのサプリメント代
- 美容目的の医療費、美容整形代
- リラクゼーションのためのマッサージ代
- 入院時の自己都合による差額ベッド代
- 入院時のパジャマやスリッパ、衛生用品代
- 異常が見つからなかった場合の人間ドックや健康診断の費用(異常が見つかって治療を行った場合は医療費控除の対象)※
- 予防接種代※
- 治療目的ではないメガネやコンタクトレンズ代(白内障、緑内障などの手術後に、視力回復のために購入したメガネは「治療」に含まれるため、医療費控除の対象)
- 通院時に使用した自家用車のガソリン代や駐車場代
※納税者本人の人間ドックや健康診断の費用、予防接種代は、医療費控除の対象にはなりませんが、セルフメディケーション税制の「疾病予防の取り組み」の対象になります。セルフメディケーション税制を利用する可能性がある場合は領収書や受診結果などは保管しておくとよいでしょう。
ちなみに、人間ドックや健康診断を受診するなどの条件を満たせば「セルフメディケーション税制」が受けられます(2024年1月現在では2026年まで)。セルフメディケーション税制の控除額は購入費から1万2,000円を差し引いた金額で、上限は8万8,000円です。気を付けなければならないのは、通常の医療費控除との併用ができないという点があります。計算をしてお得なほうを選択してください。
経費になる従業員の健康診断費用は「福利厚生費」
雇用している全従業員の健康診断、人間ドック、予防接種の費用は経費として計上できますが、その際の勘定科目は福利厚生費です。
福利厚生とは雇用主が従業員やその家族に対し、給与以外に提供するものを指します。福利厚生には雇用保険や労災保険のような法律で定められている「法定福利厚生」と、事業主が独自に用意する「法定外福利厚生」がありますが、健康診断費用は後者にあたり、仕訳の際は福利厚生費となります。
健康診断費用として1人2万円を、全従業員5人分支払った場合は以下の通り記載します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
福利厚生費 | 100,000円 | 現金 | 100,000円 | 健康診断費用 |
その他、福利厚生の一環として、全従業員にインフルエンザの予防接種を受けさせたり、事業所などに置くための常備薬、マスク、消毒液などを購入したりした際の費用も経費として認められます。
ただし、福利厚生費として認められるには「全従業員が平等に使用できる」ことが条件であり、一部の従業員だけのために支払った場合は計上できないので注意してください。
経費にはならない医療費関連の会計処理の方法
経費にできる医療費については福利厚生費の「勘定科目」を使用すればよいですが、それ以外の医療費にどのような勘定科目を使用すればよいのか、以下のようなパターン別に適切な会計処理の方法について解説します。
- 従業員が業務時間中にけがをして、労働災害保険を使って治療を受けた場合。
- 従業員が業務時間中にけがをしたものの労働災害保険を使わなかった場合。
- 個人事業主が自身の医療費を払った場合。
同じような医療費でも、帳簿に記載する勘定科目は異なります。確認をして間違いのない記載を心がけてください。
労災などで治療費を立て替える場合は「立替金」
雇用している従業員が業務中にけがをした場合、一般的には労働災害保険が適用されます。労災保険は業務上の事由や通勤による傷病が対象であり、1人でも労働者を雇用していると、アルバイトでもパートでも加入が必要です。
しかし、従業員が労災指定医療機関以外で受診した場合、治療費を全額、一時的に自己負担することになり、雇用主(ここでは個人事業主)が立て替えるということがあります。立て替えですので経費にはなりませんが、会計処理はしなくてはいけません。
この場合、従業員に支払った治療費は「立替金」の勘定科目を使用します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
立替金 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 | 〇〇〇〇(従業員名)の診察代 |
雇用主が立て替えた治療費や入院費は、後に労災が認められた場合は労災保険が、労働基準監督署から従業員に支給されます。雇用主は従業員から、支給された労災保険金を返還してもらうことになります。
労災を申請する場合は健康保険を使うことはできず、自己負担金は10割となり、立て替える金額も大きくなります。労災保険の還付手続きのためには病院から受け取った領収書やレシートが必要となるので、従業員に伝えるのを忘れないでください。
従業員の医療費の自己負担額を会社が補助した場合は「見舞金」
福利厚生の一環として、従業員が病気などで医療費がかかった場合、会社が一部を負担することは考えられますし、実際にそうした制度を設けている企業もあります。例えば上限1万円、などと社会通念上で少額の場合は、労働の対価ではない「見舞金」として「福利厚生費」として計上できます。なお、受け取った従業員側も非課税扱いとなります。
従業員に自己負担額の5,000円を会社が補助した場合、以下のように記載します。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
福利厚生費 | 5,000円 | 現金 | 5,000円 | 〇〇〇〇(従業員名)の見舞金 |
個人事業主が自身の治療費を支払った場合は「事業主貸」
個人事業主の場合、事業用とプライベート用の口座が一緒になっているケースも多いでしょう。事業用にも使っている口座から、個人事業主の治療費や健康診断の費用を出した場合、帳簿に記載する勘定科目は「事業主貸(じぎょうぬしかし)」です。
事業主貸とは、個人事業主が事業用の現金を家計費などのプライベートで使った場合に使用する勘定科目です。プライベートで使ったお金と事業用で使用したお金が、帳簿上で明確に分かれるように記載するのに使います。
例えば、通院費用10,000円を事業用の資金から捻出した場合の仕訳例は以下の通りです。
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 | 摘要 |
---|---|---|---|---|
事業主貸 | 10,000円 | 現金 | 10,000円 | 治療代 |
個人事業主の医療費は経費にはなりませんが、医療費控除の対象です。以上のように会計処理をしてください。
個人事業主本人の医療費は経費にはならないので注意しよう
個人事業主自身の医療費は経費にならないので注意が必要です。ただし、経費としては認められませんが医療費控除の対象です。要件を満たせる場合には確定申告時に忘れずに申告してください。また、従業員の健康診断に関する費用や、従業員のために仕事場に常備する薬などは福利厚生費として経費にできます。
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この記事の監修者奥 典久(奥典久税理士事務所)
奥典久税理士事務所 代表
簿記専門学校で税理士講座講師として勤めたのち、会計事務所で勤務。その後独立し、奥典久税理士事務所を開業。相続(贈与)対策や事業承継コンサルティング経営、財務コンサルティングから各種セミナーなど、幅広く税理士業務に従事。