事業専従者控除とは?白色申告者が適用できる控除について解説
監修者: 税理士法人 MIRAI合同会計事務所
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事業専従者控除は、白色申告をしている事業主のみに適用される控除です。白色申告の場合、家族や親族に支払う給与は原則として経費にはなりません。
しかし、この事業専従者控除を利用すれば、白色申告の場合でも家族や親族に支払う給与のうち一定の金額は必要経費としてみなされ、所得から控除することができます。家族などが事業に従事している場合、事業専従者控除を活用することで節税対策につながるでしょう。
白色申告者が事業専従者控除を利用するには、どのような条件や手続きがあるのでしょうか。また、事業専従者控除に似た言葉に、青色事業専従者給与というものがありますが、両者にはどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、白色申告者にとって節税メリットの大きい事業専従者控除について、詳しく解説していきます。
事業専従者控除とは親族への給与を経費にできる控除のこと
事業専従者控除とは、個人事業主などの納税者が、生計を一にする親族に給与を支払うとき、給与の一部を経費としてみなすことのできる控除のことです。
事業を営むうえで、事業主の配偶者などの親族が仕事を手伝うケースはよく見られます。その対価として給与を支払ったとしても、親族に対する給与は、原則として経費に計上することができません。しかし、この事業専従者控除の条件を満たせば、親族に支払ったうちの一定額が経費とみなされ、所得から控除できるようになります。
事業主と生計を一にしている状態で同じ事業に従事している親族を「専従者」と呼ぶため、この控除の特例を「事業専従者控除」といいます。
事業専従者控除と青色事業従者給与の違い
所得税の確定申告には「白色申告」と「青色申告」という2つの方法があり、事業専従者控除は白色申告者だけに適用される控除です。
事業専従者控除に似た言葉に「青色事業専従者給与」がありますが、これは青色申告者に適用される特例です。白色申告の事業専従者控除と青色事業専従者給与は、どちらも事業専従者の給与を経費にできる特例ですが、その対象範囲が異なります。
白色申告の事業専従者控除で経費とみなすことができるのは、実際に支払った給与のうち、定められた一部のみです。しかし、青色事業専従者給与の場合は、事前に「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していれば、業務の対価として適切に支払った給与を全額必要経費にすることができます。
事業専従者控除と青色事業専従者給与の主な違いは、下記の表のとおりです。
事業専従者控除 | 青色事業専従者給与 | |
---|---|---|
対象事業主 | 白色申告をする個人事業主 | 青色申告をする個人事業主 |
必要経費にできる範囲 | 一部 | 業務の対価として適切に支払った全額 |
事前申請の有無 | 必要なし | 「青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書」の提出が必要 |
- ※国税庁「[手続名]青色事業専従者給与に関する届出手続 」
事業専従者となるための要件
白色申告の事業専従者控除も青色事業専従者給与も、事業専従者として認められるにはいくつかの要件を満たす必要があります。事業専従者の要件は、白色申告と青色申告で異なります。
事業専従者控除の適用要件
事業専従者控除の対象となる専従者は、以下すべてに該当する人です。
- 個人事業主と生計を一にする配偶者その他の親族である
- その年の12月31日に15歳以上である
- その年を通じて6か月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事している
青色事業専従者給与の適用要件
青色事業専従者給与の対象となる事業専従者は、以下すべてに該当する人です。
- 個人事業主と生計を一にする配偶者その他の親族である
- その年の12月31日に15歳以上である
- その年を通じて6か月を超える期間(年の中途での開業など、一定の場合には事業に従事することができる期間の1/2を超える期間)、その事業者の営む事業に専ら従事している
青色事業専従者給与については別の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
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事業専従者控除を適用できる金額
前述のとおり、事業専従者控除で必要経費とみなされるのは、親族に支払った給与のうち一部の金額です。具体的には、下記に挙げた1・2のそれぞれの方法で算出した金額のうち、低いほうが適用されます。
事業専従者控除の適用額
-
1事業専従者が事業主の配偶者であれば86万円、配偶者でなければ専従者1人につき50万円
-
2事業専従者控除を適用する前の事業所得等の金額を、専従者の数に1を足した数で割った金額
専従者控除をする前の事業所得が600万円で、専従者が配偶者とその他1人だった場合の事業専従者控除の算出例は下記のとおりです。
「1」の算出方法
86万円+50万円=136万円
「2」の算出方法
600万円÷(2人+1)=200万円
この例では、1の136万円のほうが低いので、事業専従者控除の金額は136万円になります。
事業専従者控除の手続きの手順
事業専従者控除を受けるには、青色事業専従者給与のように税務署への事前届出はいりません。確定申告の際に、確定申告書と収支内訳書に必要事項を記載して提出しましょう。記載する項目は以下のとおりです。
-
1.確定申告書第二表の「事業専従者に関する事項(55)」
-
2.確定申告書第一表「その他」欄の「専従者給与(控除)額の合計額(55)」
-
3.収支内訳書の「専従者控除(20)」と「事業専従者の氏名等」
それぞれ順番に見ていきましょう。
1. 確定申告書第二表の「事業専従者に関する事項(55)」
まず、確定申告書第二表「事業専従者に関する事項(55)」に、専従者の氏名、マイナンバー、続柄、生年月日、従事月数・程度・仕事の内容、事業専従者控除額を記入します。
- ※国税庁「所得税の確定申告 」
2. 確定申告書第一表「その他」欄の「専従者給与(控除)額の合計額(57)」
1で第二表に記載した専従者控除額を合計し、確定申告書第一表の「その他」欄の中にある「専従者給与(控除)額の合計額(57)」に記入します。
- ※国税庁「所得税の確定申告 」(今後変更する場合があります)
3. 収支内訳書の「専従者控除(20)」と「事業専従者の氏名等」
収支内訳書への記載は、1ページ目に2か所あります。「専従者控除(20)」の欄には、2と同様に専従者控除額の合計額を記入します。また、「事業専従者の氏名等」の欄に、専従者の氏名、年齢、続柄、従事月数、延べ従事月数を記載します。
- ※国税庁「所得税の確定申告 」
事業専従者控除を適用する際の注意点
事業専従者控除は白色申告者にとって節税メリットのある特例です。しかし、利用する際には次の点に注意が必要です。
配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除と同時適用できない
専従者控除は、配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除といった控除と併用することはできません。それぞれの控除の内容を把握したうえで、どれを選べば節税効果が高いかを慎重に検討しましょう。
配偶者控除
控除を受けようとする配偶者の合計所得金額が年間48万円以下(2019年分以前は38万円以下)である場合に、最大38万円(配偶者が70歳以上なら最大48万円)が控除されます。
控除額は納税者の所得金額によって変わり、納税者の合計所得金額が900万円以下なら満額の48万円を控除できますが、900万円を超えると段階的に減額され、1,000万円を超えると配偶者控除は受けられません。
配偶者特別控除
配偶者特別控除は、配偶者に48万円以上の所得があって配偶者控除の対象にならない場合でも、段階的に控除を可能とする所得控除制度です。
配偶者の合計所得金額が年間48万円を超え133万円以下(2018年分から2019年分までは38万円を超え123万円以下)の場合に、配偶者と納税者の合計所得金額によって、段階的に38万円から1万円の控除が受けられます。
なお、配偶者控除と同様に、納税者の所得金額が1,000万円を超えると配偶者特別控除は受けられません。
扶養控除
扶養控除は、生計を一にする配偶者以外の親族(子どもや親など)を扶養している場合に適用される控除で、扶養する親族の合計所得金額が年間48万円以下(2019年分以前は38万円以下)である場合に適用可能です。控除額は、扶養親族の年齢や同居の有無などによって38万円から58万円まで定められています。
事業専従者の年齢や従事月数に注意する
事業専従者控除の対象になる親族には、年齢や従事月数(6か月以上)などに条件があります。また、「その白色申告者の営む事業に専ら従事している」ことが条件になるため、他に仕事をしている人は事業専従者にはなれません。
いくら事業に従事している親族でも、事業専従者の条件を満たさなければ事業専従者控除は適用できないので注意しましょう。なお、たとえ15歳以上でも、義務教育を受けている中学生は、専従者控除の要件の1つである「その年を通じて6か月を超える期間、その白色申告者の営む事業に専ら従事している」に該当しないと考えられるため、事業専従者とすることができません。
事業専従者が受け取った金額は給与収入となる
事業専従者控除を適用すると、納税者本人にとっては所得金額が減るため節税につながります。一方、事業専従者である親族にとっては給与収入が発生するため、場合によっては確定申告などを行って所得税を納めることになる可能性があります。これは、納税者が事業専従者に給与を支払う際に、所得税を源泉徴収しないためです。
前述の他の所得控除(配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除)とも比較しながら、どの方法が家計にとってメリットが大きいのかよく検討しましょう。
なお、青色事業専従者給与の場合は、事業主は専従者に支給する給与から所得税を源泉徴収し、年末調整を行う必要があります。
節税対策には、白色申告より青色申告がおすすめ
事業専従者控除は白色申告者のみ利用できる所得控除ですが、より高い節税効果を狙うなら、白色申告より青色申告のほうがおすすめです。ここからは、青色申告をすることで得られる主な節税メリットをご紹介しましょう。
なお、青色申告を行う場合は、原則として青色申告しようとする年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出する必要があります。なお、1月16日以降に開業した場合は、事業を開始した日から2か月以内に申請します。
期限内に青色申告承認申請書の提出を行わないと、その年は白色申告しかできないので注意しましょう。
青色申告なら、事業専従者に支払った給与を全額経費にできる
青色申告で、所定の期限までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を税務署に提出していれば、事業専従者に、業務対価として適切に支払った給与を全額必要経費にすることができます。
これまで述べてきたように、白色申告の事業専従者控除で経費とみなされるのは、支払った給与の一部のみです。青色申告なら事業専従者への給与をすべて経費計上できるので、その分節税メリットも大きくなります。
青色申告特別控除で最大65万円の控除を受けられる
青色申告で、期限内申告かつ複式簿記による記帳などの所定の要件を満たせば、55万円の控除が受けられます。さらにe-Taxでの申告または、優良な電子帳簿保存を行えば、控除額が10万円増え、最大で65万円の控除が受けられます。これを、青色申告特別控除といいます。
青色申告特別控除を受けるとその分、課税所得が少なくなるので、所得税額を抑えることができ、大きな節税につながるでしょう。ただし、複式簿記ではなく単式簿記で記帳した場合は、青色申告特別控除は10万円となります。
白色申告は簡易帳簿でも問題ないものの、青色申告特別控除のような節税メリットがありません。複式簿記は難しそうだと感じる方もいるかもしれませんが、会計ソフトを使えば記帳や確定申告書の作成もかんたんです。
青色申告特別控除については別の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
専従者控除を活用してしっかり節税対策しよう
事業専従者控除は、白色申告者のみに適用される所得控除です。白色申告で、専従者の要件を満たす親族が事業に従事している場合は、事前の届出なども不要で手軽に控除が可能です。また、より効果的な節税対策を目指すなら、青色申告を検討することをおすすめします。
青色申告には、事業専従者への給与を原則、全額経費にできる「青色事業専従者給与」や、最大65万円が控除できる「青色申告特別控除」など、白色申告にはない多くのメリットがあります。ハードルが高そうに感じる複式簿記での記帳も、確定申告ソフトを利用すればスムースに行えるでしょう。
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よくあるご質問
専従者から外れる際に何か手続きは必要ですか?
専従者から外れる際に手続きをする必要はありません。事業専従者としての扱いをしなければとくに問題はないです。
専従者がパートに出る場合は事業専従者控除を適用できなくなりますか?
専従者がパートに出る場合、パートの勤務日数や時間によっては、税務署から後々事業専従者控除を否認される可能性があります。なぜなら、専従者(事業専従者)は、その年を通じて6か月を超える期間、事業者が営む事業に専ら従事する家族従業員のことをさすからです。原則として、パートに出ると「他の職業を有する者」になります。不安な方は、税務署や税理士などの専門家に一度相談してみることをおすすめします。
専従者給与はいくらまで払っても大丈夫ですか?
青色申告の青色申告事業専従者給与は、金額が労働に見合っていれば、上限はありません。一方、白色申告の事業専従者控除には上限があります。事業専従者が、事業主の配偶者は86万円、それ以外の家族従業員は専従者一人につき50万円が上限です。
専従者給与とパートはどっちがお得ですか?
専従者控除とパートのどちらがお得かというのは、節税目的なのか家計を増やす目的なのかによって異なります。
専従者控除は、配偶者控除や配偶者特別控除、扶養控除といった控除と併用することはできません。一方でパートは給料をもらう額によっては、配偶者控除や配偶者特別控除などと併用できます。それぞれの控除の内容を把握したうえで、どれを選べば節税効果が高いか?手元のお金が増えるのか?という視点でを慎重に検討しましょう。悩む場合は、税理士などの専門家に一度相談してみることをおすすめします。
この記事の監修者税理士法人 MIRAI合同会計事務所
四谷と国分寺にオフィスのある税理士法人。税理士、社会保険労務士、行政書士等が在籍し確定申告の様々なご相談に対応可能。開業、法人設立の実績多数。
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