インボイス制度が自動車販売業者に与える影響とは|注意点についても解説
2024/01/23更新
自動車販売業者はインボイス制度に対応する必要があるのか、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。車の売買や車検など、自動車販売業者の仕事はインボイス制度による影響を受けます。ここではインボイス制度導入による自動車販売業者への影響について、具体例を交えて解説します。
インボイス制度とは?
インボイス(適格請求書、以下インボイスで統一)とは、一定の記載要件を満たした請求書や領収書などを指します。現行の区分記載請求書等保存方式に基づく請求書や領収書に追記が必要な情報は、以下のとおりです。
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 税率ごとに区分した合計額および適用税率(税抜もしくは税込)
- 税率ごとに合計した消費税額等
インボイス制度導入の目的は、事業者が行う取引における消費税率と消費税額を正しく計算することです。商品やサービスを提供する事業者(売手側)は、インボイス制度のしくみや影響についてよく理解したうえで、どのように対応するか検討しなければなりません。
インボイス制度の基本的なしくみについて、こちらの記事で解説しています。
インボイス制度は2023年(令和5年)10月1日から導入されました。2023年12月時点において登録完了の通知を受け取れるまでにかかる期間の目安は、以下のとおりです。
- e-Taxによる提出:約1か月
- 書面による提出:約1.5か月
インボイス制度の開始にあわせて知っておきたい消費税の知識について、こちらの記事で解説しています。
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者と課税事業者には、以下のような違いがあります。
区分 | 納税の有無 | 要件 |
---|---|---|
課税事業者 |
消費税を納める必要がある |
|
免税事業者 |
消費税の納税義務が免除されている | 上記の課税事業者の条件に当てはまらない場合 |
基準期間・特定期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は「免税事業者」です。一方、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者は「課税事業者」となります。課税事業者は消費税の確定申告と納税が必要となるため、金銭的なコストや事務作業の負担が増加します。
自動車販売業者は適格請求書発行事業者への登録が必要なのか?
適格請求書発行事業者への登録は任意であり、未登録でも事業を継続できます。自動車販売業者に限らず、あらゆる事業者はインボイス制度の影響を理解したうえで、方針を決める必要があります。インボイス制度導入の目的は、事業者が行う取引の消費税率と消費税額を正しく把握することです。自動車販売業者は、売手側・買手側のどちらの立場にもなり得る業種のため、制度のしくみをしっかりと把握しておきましょう。
インボイス制度について自動車販売業者が知っておきたい古物商の特例
自動車販売業者は「古物商特例」の適用を受けられる業種です。インボイス対応に関連する特例措置のため、あらかじめ理解しておきましょう。この章では、古物商特例の概要と適用を受けるための注意点について解説します。
古物商特例の概要
古物商や質屋が実施する一定の取引には、帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を受けられる特例(古物商特例・質屋特例)が設けられています。古物商特例を利用することで、インボイスなどの保存が不要になります。自動車販売店(買手側)が該当するのは、免税事業者や一般消費者(売手側)から自動車を仕入れるケースです。特例の適用を受けるためには、以下4つの要件があります。
- 古物商または質屋であること
- 適格請求書発行事業者でない者から仕入れた古物・質物であること
- 仕入れた古物・質物が、当該古物商・質屋にとって棚卸資産(消耗品を除く)であること
- 一定の事項が記載された帳簿を保存すること
古物商特例の適用を受けることで、免税事業者や一般消費者(売手側)から仕入れた車に支払った消費税について、仕入税額控除が認められます。
帳簿の記載要件
帳簿に記載が求められる「一定の事項」とは以下の項目を指します。
- 取引の相手方(売手側)の氏名(名称)および住所(所在地)
- 取引した年月日
- 取引内容
- 対価として支払った金額
- 古物商特例または質屋特例の対象となる旨
1万円以下の古物の仕入れのように「取引の相手方(売手側)の氏名(名称)および住所(所在地)」の記載が古物台帳に不要とされているケースがあります。古物台帳への記載が必要ないケースでは、消費税法上の帳簿も同様に記載不要です。
適用を受けるための注意点
古物商特例を適用するためには「取引相手(売手側)が適格請求書発行事業者以外」でなければなりません。自動車の売主(売手側)が適格請求書発行事業者ではないと、客観的に明らかにする必要があります。例えば、買取りや下取りの際に売主(売手側)に記載してもらう書類において、適格請求書発行事業者か否かのチェック欄を設ける方法が考えられます。事業の実態に応じた方法で、売主(売手側)のインボイス対応状況の判別が必要です。
自動車販売業者・中古車販売業者にインボイス制度が与える影響
インボイス制度が自動車販売業者や中古車販売業者に与える影響は、主に以下の2つです。
- インボイスを交付するためには適格請求書発行事業者への登録が必要
- 免税事業者の自動車販売業者(売手側)と取引すると事業者(買手側)は仕入税額控除ができない
順番に見ていきましょう。
インボイスを交付するためには適格請求書発行事業者への登録が必要
インボイスを交付できるのは「適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者」に限られます。事前登録が必要で、だれでも自由に発行できる書類ではありません。適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、登録申請書に必要事項を記入し、所定の方法で提出します。
免税事業者の自動車販売業者(売手側)と取引すると事業者(買手側)は仕入税額控除ができない
事業者(買手側)は免税事業者の自動車販売業者(売手側)と取引すると、原則として仕入税額控除の適用を受けられず、消費税の納税額が増加します。納税額の増加を理由として、免税事業者の自動車販売業者(売手側)は、取引先(買手側)から消費税分の値下げを打診されるケースもあるでしょう。ただし、買手側による立場を利用した一方的な取引条件の変更は、独占禁止法に違反する可能性があります。政府や関係機関は、法令違反とみなされる取引条件を持ちかけないようアナウンスしています。
自動車販売に関する仕事別にインボイス制度による影響を解説
自動車販売における仕事の種類には、以下の例が想定されます。
- 自動車の対面・ネット販売
- 車検
- 個人からの仕入れ(車の下取り含む)
- オートオークション会場での仕入れ(車購入)
インボイス制度による影響を仕事別に解説します。
自動車の対面・ネット販売
一般消費者に自動車を販売して得た売上は、インボイス制度の影響を受けません。ただし、事業者(買手側)との取引がある免税事業者の自動車販売店(売手側)は、注意が必要です。税負担の増加を避けるため、事業者(買手側)から取引条件の見直しを求められる可能性があります。適格請求書発行事業者への登録を検討する際は、顧客のうち事業者(買手側)の利用がどれくらいあるか理解しておきましょう。
車検
自動車販売と同様に、一般消費者(売手側)向けに提供した車検サービスの売上はインボイス制度の影響を受けません。一方、社用車の車検を扱う自動車販売業者(売手側)は、事業者(買手側)からインボイスの交付を求められるケースが想定されます。定期的に事業者(買手側)から車検の依頼を受けている自動車販売業者(売手側)は留意しておきましょう。
個人からの仕入れ(車の下取り含む)
「古物商特例」により、一般消費者(売手側)から自動車を仕入れる際は、一定の事項を記載した帳簿を保存することで仕入税額控除を認められます。そのため古物商特例の適用を受ける場合、自動車販売業者(買手側)が一般消費者(売手側)から個別にインボイスの交付を受ける必要はありません。
オートオークション会場での仕入れ(車購入)
オークション会場にて車を仕入れる場合は、媒介者交付特例を利用できます。媒介交付特例は、出品者(委託者)に代わりオークション事業者(受託者)の名前で買手側にインボイスを交付できる特例です。媒介者交付特例の適用を受けるためには、以下2つの要件を満たす必要があります。
- 出品者(委託者)とオークション事業者(受託者)が適格請求書発行事業者であること
- 取引前に、出品者(委託者)がオークション事業者(受託者)に対して、自己が適格請求書発行事業者であると通知していること
オートオークションを利用して車を仕入れている自動車販売業者(買手側)は、オークション事業者(受託者)を通じて、出品者(委託者)のインボイス対応状況について事前に確認しておきましょう。
インボイス制度が自動車販売店に勤務する自動車整備士の収入に与える影響
報酬を給与として受け取っている自動車整備士(給与所得者)の収入は、インボイス制度導入による影響を受けません。給与所得者に該当する働き方の例は、以下のとおりです。
- 正社員
- アルバイト
- パート
一方、業務委託契約で自動車整備士をしている個人事業主(売手側)は、インボイス制度の影響を受けます。免税事業者から課税事業者になった場合、消費税の納税義務が生じその分の収入が減少します。
自動車販売業者がインボイス制度に対応する際の注意点
自動車販売業者がインボイス制度に対応する際に注意するべきポイントは、以下の2つです。
- 課税事業者になると消費税の納税が必要
- 事務作業の煩雑化
順番に見ていきましょう。
課税事業者になると消費税の納税が必要
免税事業者の場合、原則として消費税を納める必要はありません。しかし、インボイス対応を目的として消費税の課税事業者になると、消費税の納税義務が発生します。今まで納めていなかった消費税分の収入が減るため、事業資金への影響に注意しましょう。
インボイス対応で免税事業者が取るべき対策については、こちらの記事で解説しています。
事務作業の煩雑化
請求書や領収書の書式変更をはじめ、インボイス制度に対応すると事務作業の手間が増加します。負担の増える事務作業の例は、以下のとおりです。
- 受け取った請求書がインボイスに対応しているかの確認作業
- 消費税の確定申告
- 領収書やレシートの書式変更
- 請求書発行・会計ソフトの対応
事務作業の手間が増えると、本来の業務に使える時間が減少する原因になります。事務作業を効率化するためには、専門家への代行依頼やシステムの導入が効果的です。
自動車販売業者がインボイス制度に対応する際によくある質問
自動車販売業者がインボイス制度に対応する際によくある質問は、以下の2つです。
- 自動車販売の収入が1,000万円以下でも適格請求書発行事業者登録が必要?
- インボイス制度において国税庁が認める古物商の特例は?
それぞれ順番に見ていきましょう。
自動車販売の収入が1,000万円以下でも適格請求書発行事業者登録が必要?
課税売上高1,000万円以下の事業者は原則として消費税が免除されるため、本来であれば納付義務はありません。しかし事業者(買手側)との取引による売上は、インボイス制度の影響を受けます。
インボイス制度において国税庁が認める古物商の特例は?
国税庁は古物商に対して、一定の事項が記載された帳簿の保存のみで仕入税額控除の適用を認める特例(古物商特例)を設けています。概要や要件については「インボイス制度について自動車販売業者が知っておきたい古物商の特例」を参考にしてみてください。
自動車販売業者はインボイス制度導入による影響をしっかりと理解しよう
自動車販売業者は古物商特例の適用を受けられます。一般消費者との取引における事務負担を軽減できるため、積極的に活用しましょう。売手側としては、事業者(買手側)との取引においてインボイス制度導入の影響を受けます。適格請求書発行事業者の登録を受けるメリット・デメリットを比較して、自身(自社)の方針を決めましょう。
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