インボイス制度、免税事業者はどうすべき?仕入税額控除と経過措置について
2023/10/06更新

この記事の監修辻・本郷 税理士法人

この記事の監修辻・本郷 ITコンサルティング

2023年10月1日より、「インボイス制度」が導入されます。インボイス制度は消費税の仕入税額控除に関わる制度ですが、消費税の申告義務がない免税事業者にも大きな影響を及ぼす可能性があります。ところが、免税事業者の中には、「インボイス制度によって何が変わるのかわからない」「インボイス制度開始までにどのような対応をとれば良いのだろうか」と、戸惑う方も少なくないことでしょう。
本記事では、インボイス制度が免税事業者に与える影響や、インボイス制度導入後に免税事業者のままでいるケースと課税事業者になるケースのメリット・デメリットについて解説。併せて、免税事業者が課税事業者になるために必要な手続きなどについてもご紹介します。
そもそもインボイス制度とは?
インボイス制度は正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、請求書などの交付や保存に関する新たな制度です。インボイス制度が始まると、課税事業者が仕入税額控除を受けるためには、登録番号や適用税率、消費税額といった定められた項目が記載された適格請求書(インボイス)が必要になります。
仕入税額控除とは、売上にかかった消費税額から仕入にかかった消費税額を差し引いて、実際に納付する消費税額を求める仕組みのことです。例えば、年間の売上額が2,200万円(うち消費税200万円)、仕入額が1,100万円(うち消費税100万円)の企業があったとしましょう。この場合、仕入税額控除が適用されると、売上にかかる消費税額200万円から仕入にかかる消費税額100万円を引き、差額の100万円を申告・納付することになります。
仕入税額控除が受けられない条件
インボイス制度導入以降、課税事業者は仕入先からのインボイスがないと、原則としてこの仕入税額控除を受けられなくなります。そして、インボイスを交付できるのは、適格請求書発行事業者の登録を受けた課税事業者のみです。つまり、免税事業者は適格請求書発行事業者の登録ができず、インボイスも交付できないということになります。
自身が免税事業者で、取引先が課税事業者だった場合、インボイス制度が導入されると取引先は仕入税額控除が受けられなくなります(実際には段階的な経過措置がありますが、経過措置については後述します)。
仕入税額控除が受けられないため、免税事業者との取引は打ち切られる可能性が
前述の例でいえば、仕入税額控除が適用されると100万円だった消費税の納税額が200万円になり、その分利益が減少します。そのため、課税事業者(買手側)は、仕入先の事業者(売手側)にインボイスの交付を要請するでしょう。
ところが、仕入先の免税事業者は要請されてもインボイスを交付することができません。もし、取引先が仕入税額控除を重視するのであれば、他の課税事業者との取引に切り替える可能性があります。
インボイス制度が免税事業者に影響を与えるといわれているのが、まさにこの点です。課税事業者と取引のある免税事業者の多くは、インボイス制度導入後も免税事業者のままでいるか、インボイスを交付できる課税事業者になるか、検討と選択を行う必要があるでしょう。
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インボイス導入で記載すべき7項目
課税事業者が仕入税額控除を受けるために必要なインボイスとは、どのようなものなのでしょうか。
インボイスは、従来の請求書に比べて記載しなければならない項目が増えます。インボイスに記載が必要な項目は、下記のとおりです。
インボイスに記載すべき項目
- インボイス発行事業者の氏名または名称(1)
- 取引年月日(2)
- 取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨)(3)
- 交付先の相手方(売上先)の氏名または名称)(4)
- 登録番号(5)
- 税抜価額または税込価額を税率ごとに区分した合計額及び適用税率(6)
- 税率ごとに区分して合計した消費税額等(7)
インボイスの例

消費税の免税事業者のままでいるメリット・デメリット
インボイス制度導入後も免税事業者のままでいると、どのような影響があるのでしょうか。メリットとデメリットに分けて考えてみましょう。
免税事業者のままでいるメリット
免税事業者のままでいれば、これまでと同様に消費税の納付が免除されます。消費税の確定申告を行う必要もありません。
免税事業者のままでいるデメリット
前述したとおり、インボイス制度導入後は、インボイスがないと原則として仕入税額控除を受けることができません。そのため、取引先が課税事業者の場合、インボイスを交付できない免税事業者は、取引金額の値下げを求められたり取引自体を打ち切られてしまったりする可能性があります(ただし、後述のとおり激変緩和の観点から、インボイス制度導入後の一定期間について、免税事業者からの課税仕入であっても一定割合を仕入税額控除できる経過措置が設けられています)。
商品などを販売する相手が一般消費者である場合や、取引先が免税事業者である場合は、売手側が免税事業者であっても取引に影響はありません。なぜなら、一般消費者や免税事業者は仕入税額控除を行わないので、インボイスがなくても問題ないからです。
また、買手側の取引先が課税事業者でも、簡易課税制度を選択して消費税の計算をしている場合は、インボイスがなくても仕入税額控除が受けられるため、取引に影響はないでしょう。
- ※取引先が適格請求発行事業者ではないことを理由に、取引対価の引き下げや取引停止などを行うと独占禁止法などに違反する可能性があります。そのため、取引先の対応内容によっては、上記のデメリットが解消される場合があります。
免税事業者が消費税の課税事業者になるメリット・デメリット
免税事業者が課税事業者になり、適格請求書発行事業者の登録を受けた場合には、次のようなメリットとデメリットが考えられます。
課税事業者になるメリット
免税事業者から課税事業者になり、インボイスを交付できるようになれば、課税事業者との取引が継続する可能性が高いでしょう。仕入先(売手側)からインボイスが交付されると、買手側は仕入税額控除が問題なく受けられます。ですから、インボイス制度が導入されたとしても、仕入先に値下げを求めたり取引自体を見直したりする必要がありません。場合によっては、適格請求書発行事業者になることで取引の拡大につながるかもしれません。
課税事業者になるデメリット
課税事業者になると、それまで納付を免除されていた消費税を納めなければならなくなります。そのため、消費税額を計算して確定申告をする手間や、納税の負担が発生します。また、従来の請求書に一定の記載項目が追加されたインボイスを作成して、取引先に交付しなければなりません。インボイス制度に対応した請求書発行システムの導入なども検討する必要があるでしょう。
なお、前述したとおり、販売先が一般消費者などの場合はインボイス制度による影響はありません。取引先の状況なども見極めた上で、課税事業者になるかどうかを決めるといいでしょう。
インボイス制度導入後の経過措置
インボイス制度導入後の6年間は、激変緩和の観点から、仕入税額控除についての段階的な経過措置があります。具体的には、2023年10月1日~2026年9月30日までは、免税事業者等からの課税仕入であっても、仕入税額相当額の80%、2026年10月1日~2029年9月30日までは50%の控除が可能です。
前述したメリットとデメリットを理解した上で、経過措置の間に課税事業者になるかどうかを検討するのも1つの方法です。
消費税の免税事業者が課税事業者になるために必要な手続き
免税事業者がインボイス制度に対応するには、課税事業者となるための「消費税課税事業者選択届出書」と、適格請求書発行事業者となるための「登録申請書」を、納税地を所轄する税務署長に提出する必要があります。ただし、2023年10月1日から2029年9月30日まで日の属する課税期間中に登録事業者として登録を受ける場合、免税事業者は、消費税課税事業者選択届出書を提出する必要はなく、登録申請書のみで課税事業者となる経過措置が設けられています。
2023年10月1日のインボイス制度開始から適格請求書発行事業者になりたい場合には、原則として2023年3月31日までに届出をする必要があります。登録には、税務署の一定の審査期間を要するため、余裕を持って提出しましょう。
適格請求書発行事業者の登録申請書の提出
適格請求書発行事業者の登録を受けるには、適格請求書発行事業者の登録申請書を記入し、納税地を所轄する税務署に提出します。たとえ課税事業者であっても、税務署から適格請求書発行事業者の登録を受けなければインボイスの交付はできないので注意しましょう。
登録手続きは2021年10月1日より既に開始されています。また、2023年10月1日のインボイス制度開始から適格請求書発行事業者になるには、原則として2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録申請書の提出が必要です。
適格請求書発行事業者の登録申請書(国内事業者用)

- ※ 国税庁「[手続名]適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)
」
消費税課税事業者選択届出書の提出
消費税課税事業者選択届出書は、免税事業者が自らの意志で課税事業者になるときに提出する書類です。基本的には、適用を受けようとする課税期間の初日の前日(事業年度の最終日)までに、納税地を所轄する税務署長に提出します。
ただし、インボイス制度導入に伴い、2029年9月30日までは、前述したとおり適格請求書発行事業者の登録申請書を提出した場合、消費税課税事業者選択届出書を提出しなくても自動的に課税事業者になります。また、2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録申請書を提出すれば、インボイス制度が開始される2023年10月1日から課税事業者かつ適格請求書発行事業者として適用が受けられます。
なお、令和5年度税制改正大綱において、インボイス制度について、いくつかの見直しが示されております。
それにより、2023年3月31日の期限を過ぎても、2023年4月1日から2023年9月30日までの登録申請は、特に追記なしでインボイス制度開始の2023年10月1日を登録開始日として登録されます。
しかし、インボイス制度への対応には申請者の各種準備が必要となるほか、登録通知が届くまで一定の期間を要することに変わりはありません。そのため、インボイス制度への対応で登録判断をされた事業者の方は、お早めの申請をおすすめします。
また、税制改正大綱をもとに作成された税制改正法案の国会での可決・成立後に公布と施行となりますので、決定事項ではありませんので、ご注意ください。
なお、免税事業者から課税事業者に切り替えるには、消費税課税事業者選択届出書を提出して、自ら課税事業者になる場合か、あるいは基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円を超えて消費税の申告義務が発生する場合になります。なお、課税売上高に代えて、特定期間中に支払った給与等の金額により判定することもできますので、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えていても、給与等支払額が1,000万円を超えていなければ、給与等支払額により免税事業者と判定することができます。
ちなみに、基準期間とは前々年の事業年度(個人事業主は前々年の1月1日~12月31日)、特定期間とは前年の事業年度開始の日以後6か月間(個人事業主は前年の1月1日~6月30日)を指します。
この場合は、消費税課税事業者届出書(基準期間用または特定期間用)を所轄の税務署長に速やかに提出し、課税事業者になる手続きを行わなくてはなりません。自ら課税事業者になる場合とは提出書類が異なるので注意が必要です。
消費税課税事業者選択届出書

- ※ 国税庁「[手続名]消費税課税事業者選択届出手続
」
簡易課税方式を選択すれば、納税の事務作業負担が軽減できる
基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、消費税の計算において「簡易課税方式」を選択することができます。簡易課税方式とは、課税売上高にかかる消費税額に業種ごとに定められた「みなし仕入率」を掛け、その金額を仕入などにかかった消費税額としみなして計算する方法です。売上にかかる消費税額を基礎として仕入にかかる消費税額を算出することができるので、納税にかかる事務作業を軽減できるというメリットがあります。
この簡易課税方式を選択するためには、原則として、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに消費税簡易課税制度選択届出書を税務署に提出する必要があります。
ただし、2023年10月1日から2029年9月30日までに適格請求書発行事業者の登録を受けて免税事業者から課税事業者になった場合は、その課税期間から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を提出すれば、課税期間の開始と同時に簡易課税制度を適用することができます。
例えば、免税事業者である個人事業主が2023年3月31日までに適格請求書発行事業者の登録申請書を提出して、2023年10月1日のインボイス制度開始から課税事業者かつ適格請求書発行事業者になったとします。この場合は、課税期間末日である2023年12月31日までに、2023年から適用する旨を記載した消費税簡易課税制度選択届出書を税務署に提出すれば、2023年10月1日から簡易課税方式が適用されます。簡易課税方式を選択したいと考えている場合は、手続きを忘れないようにしましょう。
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この記事の監修辻・本郷 税理士法人
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この記事の監修辻・本郷 ITコンサルティング
国内最大級の税理士法人である辻・本郷 税理士法人のグループ会社として2014年に創業。実践した数多くのDX化ノウハウをグループ内外に展開。バックオフィスに課題を抱える組織のコンサルティングから導入までをワンストップで行う。電子帳簿保存法やインボイス制度対応等、最新のコンサルティング事例にも精通。「無数の選択肢から、より良い決断に導く」をミッションとし、情報が多すぎる現代において、お客様にとっての「より良い」を見つけるパートナーを目指す。

よくあるご質問
インボイス制度とは?
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