ラーメン屋はインボイス制度への対応が必要?制度開始後の影響を解説
2023/12/18更新
インボイス制度はラーメン屋の仕入れやレシート・領収書の扱いに大きく影響する制度変更です。ここではインボイス制度の概要と、ラーメン屋の仕事への影響について具体例を交えて解説します。
インボイス制度とは?
インボイス(適格請求書、以下インボイスで統一)とは、一定の記載要件を満たした請求書や領収書などを指します。現行の区分記載請求書等保存方式に基づく請求書や領収書に追記が必要な情報は、以下のとおりです。
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 税率ごとに区分した合計額および適用税率(税抜もしくは税込)
- 税率ごとに合計した消費税額等
インボイス制度導入の目的は、事業者が行う取引における消費税率と消費税額を正しく計算することです。商品やサービスを提供する事業者(売手側)は、インボイス制度のしくみや影響についてよく理解したうえで、どのように対応するか検討しなければなりません。
インボイス制度の基本的なしくみについて、こちらの記事で解説しています。
インボイス制度とは?対象者や目的、対応方法をわかりやすく簡単に図解で解説
インボイス制度は2023年(令和5年)10月1日から導入されました。2023年11月時点において登録完了の通知を受け取れるまでにかかる期間の目安は、以下のとおりです。
- e-Taxによる提出:約1か月
- 書面による提出:約1か月
インボイス制度の開始にあわせて知っておきたい消費税の知識について、こちらの記事で解説しています。
個人事業主の消費税、いつから払う?納税義務と免除要件、税額の計算方法
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者と課税事業者の主な違いは、以下のとおりです。
区分 | 納税の有無 | 要件 |
---|---|---|
課税事業者 | 消費税を納める必要がある |
|
免税事業者 | 消費税の納税義務が免除されている | 上記の課税事業者の条件に当てはまらない場合 |
「課税事業者」に区分される条件は、基準期間または特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合です。課税事業者の要件に当てはまらない事業者は「免税事業者」となります。課税事業者には消費税の納税義務が発生し、消費税の確定申告を求められます。
ラーメン屋はインボイス制度への対応が必要なのか?
インボイス制度導入の目的は、事業者が行う取引に関する消費税額と消費税率を正しく把握することです。現時点では適格請求書発行事業者の登録は任意となっており、事業者自身で判断できます。ラーメン屋を営む方は、インボイス制度導入で自身にどのような影響があるのかを踏まえて対応を検討する必要があります。
インボイス制度導入はラーメン屋にどう影響がある?
インボイス制度導入がラーメン屋に与える影響は、以下の3つです。
- インボイスを交付する場合は適格請求書発行事業者への登録が必要になる
- 開業したばかりのラーメン屋でも適格請求書発行事業者は納税義務が発生する
- 免税事業者のラーメン屋(売手側)を利用すると事業者(買手側)は仕入税額控除ができない
それぞれ順番に見ていきましょう。
インボイス制度導入に関するシステムの変更点については、こちらの記事で解説しています。
インボイス制度に対応したシステムとは?導入・改修のポイントを解説
インボイスを交付する場合は適格請求書発行事業者への登録が必要になる
インボイスを交付できるのは、適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者のみです。適格請求書発行事業者になるためには、登録申請書に必要事項を記入し、納税地を所管する税務署長への提出が必要です。
適格請求書発行事業者への登録方法は、こちらの記事で詳しく解説しています。
適格請求書発行事業者とは?登録方法と申請書の提出先、期限について解説
開業したばかりのラーメン屋でも適格請求書発行事業者は納税義務が発生する
新しく開業したばかりの個人や、設立当初の資本金が1,000万円未満の法人は、原則として免税事業者になります。しかし、個人事業主として開業する際や法人設立と同時に適格請求書発行事業者の登録を受けると、資本金の額にかかわらず設立1期目から課税事業者になり消費税の納税義務が発生します。納税によって事業の資金繰りにどのような影響があるか、事前に計算しておくことが重要です。
免税事業者のラーメン屋(売手側)を利用すると事業者(買手側)は仕入税額控除ができない
ラーメン屋(売手側)が免税事業者の場合、インボイス制度が導入されると事業者(買手側)は仕入税額控除ができず納税額が増加します。ラーメン屋(売手側)の食事代に含まれる消費税を経費計上したい事業者(買手側)はインボイスが必要です。そのため、仕入税額控除できる課税事業者の店舗を優先的に利用する可能性があります。免税事業者のまま営業を続けることはできるものの、売り上げへの影響を慎重に検討しなければなりません。
ラーメン屋がインボイス制度に対応する際にレジ・領収書はどうなる?
インボイス制度に対応したレシートを発行するためには、レジの買い替えもしくはシステムの改修が必要です。
ラーメン屋のように不特定多数を相手に販売などを行う飲食店は、インボイスの代わりに簡易インボイス(適格簡易請求書)の発行が可能です。レシートに必要事項を記載して発行すると、簡易インボイスの扱いとなります。買手側は簡易インボイスを受け取ることで、インボイスと同様に仕入税額控除の適用を受けられます。簡易インボイスの要件を満たすためには、レシートに以下の記載が必要です。
- 適格請求書発行事業者(売手側)の氏名または名称
- 登録番号
- 取引した年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した金額(税抜または税込)
- 税率ごとに区分した消費税額等※または適用税率
- ※「税率ごとに区分した消費税額等」の端数処理は、1つの適格請求書につき税率ごとに1回ずつ
インボイス制度導入に関するラーメン屋の注意点
インボイス制度導入に関するラーメン屋の注意点は、以下のとおりです。
- 課税事業者になると消費税の納税が必要になる
- 適格請求書発行事業者未登録だと顧客(買手側)が減る可能性がある
- 仕入れ先(売手側)が適格請求書発行事業者未登録だと納税額が増える
- 事務作業が煩雑になる
それぞれ順番に解説します。
課税事業者になると消費税の納税が必要になる
免税事業者の場合、消費税を納める必要はありません。しかしインボイスを発行できるのは「適格請求書発行事業者に登録した事業者」です。インボイス制度に対応するため課税事業者になると、消費税の納税義務が生じます。従来は納めていなかった消費税分の収入が減るため、事業の資金計画にどれくらいの影響があるかしっかりと把握しておく必要があります。
適格請求書発行事業者登録だと顧客(買手側)が減る可能性がある
制度導入後は適格請求書発行事業者登録している店舗(売手側)に顧客が流れる可能性があります。ラーメン屋(売手側)が適格請求書発行事業者登録していないと、事業者(買手側)は支払った食事代に含まれる消費税を仕入税額控除できないケースがあるからです。利用客のうちインボイスの発行を求める事業者の割合や売り上げへの影響、課税事業者となった場合のレジ改修コストなどを考慮して、インボイス制度への対応を慎重に検討する必要があります。
仕入れ先(売手側)が適格請求書発行事業者未登録だと納税額が増える
麺やスープの仕入れ先(売手側)が免税事業者の場合、ラーメン屋は仕入税額控除ができず納税額が増えます。そのため、仕入れ先(売手側)とどのような条件で取引するか交渉する必要があります。ただし、買手側の立場を利用した一方的な取引条件の変更は下請法や独占禁止法により問題となるケースがあるため、違反のないよう注意しましょう。
事務作業が煩雑になる
インボイス制度に対応する場合、以下のように事務作業にかかる手間の増加が見込まれます。
- 帳簿の作成方法の変更
- 消費税の確定申告が必要(免税事業者から課税事業者になる場合)
- 仕入れ先(売手側)から受け取った請求書が適格請求書か確認が必要
- 領収書やレシートの書式変更
- 会計ソフトやレジのシステム変更
ラーメン屋を営む方はそれぞれの作業の変更点について、しっかりと理解しておく必要があります。
ラーメン屋がインボイス制度に対応する際によくある質問
ラーメン屋のインボイス制度に特例措置は?
インボイス制度には特例措置として「2割特例」が設けられています。免税事業者から適格請求書発行事業者になった場合の税負担や事務負担を軽減するため、売上税額から8割を差し引いて納付税額を計算できる特例です。2割特例は消費税の確定申告時に追記するだけで適用を受けられ、事前申請や登録は必要ありません。以下の範囲に属する各課税期間で適用できるため、積極的に活用しましょう。
- 開始:2023年(令和5年)10月1日
- 終了:2026年(令和8年)9月30日
飲食店の収入が1,000万円以下でも適格請求書発行事業者録は必要?
課税売上高が1,000万円以下の事業者は原則として免税事業者のため、本来であれば消費税の納税義務はありません。ただしお客さん(買手側)からインボイスもしくは簡易インボイスの発行を求められた場合、ラーメン屋(売手側)は適格請求書発行事業者への登録可否について検討し、対応する必要が出てくるでしょう。
ラーメン屋はインボイス制度による影響をしっかりと理解しよう
ラーメン屋はインボイス制度による影響を受けます。経費を使って利用している顧客(買手側)がどれくらいの割合を占めているかによって、制度導入による影響の大きさは変わるでしょう。買手側としては、仕入れ先(売手側)が課税事業者か免税事業者かを確認することが必要です。インボイス制度導入による影響をしっかりと理解し、対応について検討を進めましょう。
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