薬局はインボイス制度に対応する必要がある?影響や領収書の書式を解説
2024/09/20更新
2023年(令和5年)10月1日から始まったインボイス制度で、薬局を営む事業者の方たちにはどのような影響があるでしょうか。薬局は他の業種と異なり、非課税売上の診療報酬が含まれますので、インボイス制度への正しい知識が必要です。
そこで本記事ではインボイス制度の概要を説明しつつ、免税事業者・課税事業者の薬局に対する影響や適格請求書(インボイス)の記載方法を解説します。インボイス制度への対応方法がわからずに困っている方は、本記事を参考にしてみてください。
インボイス制度とは?
2023年(令和5年)10月1日から始まった「インボイス制度」とは、正式名称を「適格請求書等保存方式」といい、消費税の仕入税額控除の金額を正しく計算するための制度です。インボイスとは、一定の記載要件を満たした請求書や領収書などの証憑書類を指し、正式名称を「適格請求書」といいます。
インボイス制度開始での特徴は、消費税の「仕入税額控除」があります。「仕入税額控除」は、消費税の二重課税を解消するために、課税売上げに係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を差し引いて納税する仕組みのことです。
仕入税額控除は、インボイス制度開始前から消費税納税額を算出する仕組みとしてありましたが、インボイス制度開始では、買手側は適格請求書(インボイス)がないと原則的に消費税の仕入税額控除の対象にできず、納税負担が増えてしまいます。
適格請求書を発行できるのは「適格請求書発行事業者」だけです。「適格請求書発行事業者」に登録しなければいけませんが、請求書発行事業者に登録すると、これまで免税事業者だった事業者も課税事業者になります。そのため、ご自身の事業や取引先への影響を見越して適格請求書発行事業者になるか判断が必要となります。
インボイス制度の概要については、以下の記事もあわせてご覧ください。
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者と課税事業者の違いについて、以下の表にまとめました。
区分 | 納税の有無 | 要件 |
---|---|---|
課税事業者 | 消費税を納める必要がある |
|
免税事業者 | 消費税の納税義務が免除されている |
|
例えば、個人で薬局を営んでいて、基準期間や特定期間の課税売上高が1,000万円以下の事業者は「免税事業者」となります。ただし、これまで免税事業者だった方でも適格請求書発行事業者に登録すると課税事業者となり、消費税の納税義務が発生します。
一方、基準期間における課税売上高が1,000万円を超える事業者は「課税事業者」です。ドラッグストアや大型の薬局の場合、インボイス制度開始前からすでに課税事業者に該当する場合は多いでしょう。
免税事業者と課税事業者の違いについては、以下の記事で詳しく解説しています。
薬局はインボイス制度への対応が必要なのか?
薬局はBtoC(患者・家族・一般消費者)の販売がメインであり、医療用医薬品に消費税はかからないので、インボイス制度による影響が少ない業種です。ほかにも塾講師やゲームセンター、八百屋などで、最終消費者だけに販売する業種は、適格請求書の発行を必要としません。
インボイス制度の導入目的は、取引における正確な消費税額と消費税率を把握することにあり、あらゆる業種が消費税を適切に納めるための制度です。現時点ではインボイス制度の登録は任意であるため、事業者の意思で登録するかどうかを決められます。
自事業や販売先・仕入先の影響を見極めて対応するか判断しましょう。
免税事業者への影響
医療機関から処方箋をもらって出す医療用医薬品の場合、消費税がかからないので、適格請求書の発行を求められるケースは少ないと言えるでしょう。また、OTC医薬品やマスク、サプリメントの販売はについてもBtoC向けの取引に該当するので、インボイス制度の影響は少ないでしょう。
ただし、他薬局やクリニックに薬を販売するケースや事業所にマスクや手指消毒薬などの衛生用品を販売するケースなどでは、買手側から適格請求書の発行を求められることがあります。課税事業者である買手側から消費税負担が増えた分の価格交渉をされる場合、適格請求書発行事業者への登録を検討する必要があります。
課税事業者への影響
すでに課税事業者の薬局がインボイス制度によって受ける影響については、以下の3つがあります。
- 適格請求書発行事業者へ登録する必要がある
- 卸売業者(売手側)がインボイス制度に対応していないと消費税の納税負担が増える
こちらを参考に、インボイス制度への対応を検討してみてください。
適格請求書発行事業者へ登録する必要がある
適格請求書を交付できるのは、消費税の課税事業者であり、適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者に限られます。したがって、適格請求書発行事業者へ登録するなら、申請書を提出する必要があります。国税庁の公式サイトから申請用紙をダウンロードできるため、必要書類を準備して、インボイス登録センターへ提出しましょう。
適格請求書発行事業者になるための手順は、以下の記事で詳細を解説しています。
卸売業者(売手側)がインボイス制度に対応していないと消費税の納税負担が増える
インボイス制度が開始されたあとに注意しなければいけないのが、自身が適格請求書登録事業者で買手側の場合に卸売業者(売手側)が適格請求書を発行できないと自事業では、消費税の仕入税額控除ができなくなることです。前述したように仕入税額控除とは、売上の際に受け取った消費税から仕入や経費の支払い消費税を差し引いた差額を申告・納税することをいいます。
つまり、インボイス制度では卸売業者(売手側)が免税事業者のままだと、支払った消費税を薬局(買手側)が納税しなければいけません。納税した消費税分の収益が減ってしまうため、インボイス制度下では免税事業者(売手側)との取引は、慎重に判断しましょう。
ただし、インボイス制度開始による仕入税額控除には6年間の経過措置期間があります。免税事業者からの取引でも一定期間は、一定割合を仕入税額控除ができます。2023年10月1日~2026年9月30日までは80%、2026年10月1日~2029年9月30日までは50%が控除可能です。
なお、売手側が適格請求発行事業者ではないことを理由に、買手側が取引対価の引き下げや取引停止などを行うと独占禁止法などに抵触する可能性があります。絶対にしないようにしましょう。
また、買手側である薬局が、消費税の簡易課税制度を選択している場合は、免税事業者からの仕入れに関わらず、仕入税額控除ができます。簡易課税制度では、課税売上にかかった消費税額から、みなし仕入率によって、納める消費税額を算出するため、請求書や領収書が適格請求書(インボイス)である必要はありません。
薬局のイートインスペースの消費税率は?
薬局では飲食物を販売する店舗もあります。食品表示法に定められた飲食物は、軽減税率対象なので消費税率は8%です。
ただし、イートインスペースは店内で飲食物を食べるスペースであるため、軽減税率の対象外です。カウンターなどの簡易設備であっても、消費税率は10%が適用されるので、今のうちに税率の区分を確認しましょう。
薬局のほかにインボイス制度の影響を受ける医療機関
薬局以外の医療機関において、消費税を抜いた年間の課税売上高1,000万円を超えるクリニックや病院ついても、インボイス制度の影響を受けます。具体的には、健康診断や予防接種などの自費診療分の売り上げが多い医療機関が該当します。
一方で、免税事業者で企業の健康診断を多く受注している場合、買手側である企業は消費税の仕入税額控除が使えません。企業(買手側)の消費税の納税額が増えるケースでは、価格交渉を持ちかけられる可能性があります。
インボイス制度の対応後に薬局が発行する領収書の記載項目や保存について
適格請求書を発行するためには、一定の記載要件と保存義務を守らなければいけません。領収書の発行方法や保存期間について詳しく解説します。
適格請求書の書き方については、以下の記事もあわせて参照してみてください。
領収書の発行方法・記載事項
薬局の場合、不特定多数の人へ領収書を発行する可能性が高い取引に該当するため、適格簡易請求書(簡易インボイス)を使用できます。適格簡易請求書では、受け取り者の氏名の省略が可能です。インボイス制度に対応したレシートについては、以下の項目を記載しましょう。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)
- 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率
-
※参考(画像引用元)
国税庁:適格請求書等保存法式の概要
OTC医薬品やサプリメントは10%の税率が適用されますが、飲食料品は軽減税率の対象品です(イートイン除く)。領収書に載せる品目は、税率ごとに区分して記載する必要があります。
適格請求書の保存義務
適格請求書を発行した場合、交付した日の属する課税期間の末日から2ヶ月を経過した7年間は、その控えを保存しなければいけません。また、適格請求書を受け取る場合、受け取った請求書の原本は7年間保管の義務が発生します。
薬局がインボイス制度で知っておきたい支援制度
インボイス制度に対応する予定の薬局経営者に向けて、知っておきたい支援制度を3つ紹介します。
- 1万円未満の取引は適格請求書がなくても仕入税額控除が使える
- インボイス制度の対応にかかった費用は補助金を申請できる
支援制度の対象か、確認してみてください。
1万円未満の取引は適格請求書がなくても仕入税額控除が使える
インボイス制度開始後も、1万円未満の少額取引は適格請求書がなくても消費税の仕入税額控除が使えます。1万円未満の少額取引に適格請求書の交付が免除されるのは、2023年(令和5年)10月1日〜2029年(令和11年)9月30日までです。
ただし、1万円を超える取引において、消費税の仕入税額控除を使いたいなら適格請求書を受け取る必要があります。
インボイス制度の対応にかかった費用は補助金を申請できる
インボイス制度に対応するため、会計システムやパソコンを導入したり、税理士に相談したりしたケースでは補助金を申請できます。補助金の概要について、以下の表にまとめました。次の補助金制度は、2024年(令和6年)8月現在の情報です。補助金事業は年度ごとに内容や要件が変わることもあるため、検討する際は最新の情報をよく確認してください。
制度 | 対象 | 補助額 | 補助対象 |
---|---|---|---|
持続化補助金 | 小規模事業者 | 100〜250万円 |
|
IT導入補助金(インボイス枠・インボイス対応類型) | 中小企業・小規模事業者等 |
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IT導入補助金(インボイス枠・電子取引類型) | 中小企業・小規模事業者等 その他の事業者等 |
~350万円以下 中小企業・小規模事業者等 2/3以内 その他の事業者等 1/2以内 |
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安価な会計ソフトを導入した場合も、補助金の対象になるので、インボイス制度への対応にかかる費用は忘れずに申請しましょう。
- ※参照:小規模事業者持続化補助金
- ※参照:IT導入補助金
薬局はインボイス制度に対応するか判断して準備しよう
本記事ではインボイス制度の概要について説明し、免税事業者と課税事業者それぞれの立場から、インボイス制度の影響を解説しました。
免税事業者の場合、販売先が患者・家族・最終消費者に限定されるなら、インボイス制度へ対応する必要性は低くなります。そうではない場合は、インボイス制度に対応することも視野に入れましょう。課税事業者の場合、インボイス制度に対応しない税制上のデメリットがないので、適格請求書発行事業者への登録を進めましょう。
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