建設仮勘定とは?仕訳例や知っておくべきポイントなどを解説
2024/04/24更新
この記事の監修齋藤一生(税理士)
建設仮勘定とは、建物や機械設備などの建設や製作の際に使用する勘定科目です。建設仮勘定は、日常の取引ではあまり目にしない勘定科目なので、「どのように処理すればいいのだろうか」と戸惑ってしまう経理担当者も少なくないでしょう。
ここでは、建設仮勘定の意味や建設仮勘定を計上するタイミング、仕訳例、建設仮勘定に関する注意点を解説します。
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建設仮勘定とは、有形固定資産の建設費・制作費を計上するための勘定科目
建設仮勘定とは、建設中の建物や機械装置などの有形固定資産を建設・制作した際の費用を計上する勘定科目です。
「有形固定資産の取得にかかる費用は、固定資産勘定になるのでは?」と考える方もいるかもしれません。しかし、固定資産は、完成や取得までにさまざまな費用がかかります。例えば、工場や自社ビルを建設することになれば、業者に手付金や内金、中間金を支払ったり、材料費が発生したりすることになるでしょう。これらの費用は、建物が完成する前に支払わなければならないものです。
しかし、実際には建物ができていないので、固定資産として計上するわけにはいきません。そこで、未完成の期間に支払った分の金額は、建設仮勘定として計上しておき、その有形固定資産が完成して事業に使えるようになったら、正しい固定資産の勘定科目に振り替えます。
建設仮勘定は、名称に「仮」とついているとおり、一時的に使用する勘定科目です。ただし、有形固定資産の取得にかかった費用を正しく把握するためには、建設仮勘定の適切な計上が非常に重要になります。
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建設仮勘定の対象は有形固定資産
建設仮勘定の対象になるのは、有形固定資産です。有形固定資産とは、形があって目に見える固定資産のことで、具体的には、建物、建物付属設備、機械装置、工具器具備品、船舶、車両運搬具、土地等が挙げられます。
代表的な有形固定資産は、下記のとおりです。
有形固定資産の範囲
有形固定資産の種類 | 具体例 |
---|---|
建物(付属設備含む) | 工場・事務所などの建物と冷暖房・照明・通風等の付属設備 |
構築物 | 橋、貯水池、トンネル、煙突等の土地に定着する土木設備または工作物 |
機械および装置(付属設備含む) | コンベヤー・起重機等の搬送設備や加工設備、作業機械など |
船舶(水上運搬具含む) | 漁船や貨物船など |
車両その他陸上運搬具 | 自動車や鉄道車両など |
工具や器具、備品 | 耐用年数が1年以上の工具や備品など |
土地 | 経営上所有する土地 |
なお、有形固定資産にあたるものは、自社の事業に用いられるものに限られます。例えば、販売目的で所有する建物や機械設備などは、商品なので、固定資産には該当しません。
建設仮勘定と間違いやすい項目
建設仮勘定と間違われやすい勘定科目に、「前払金」、「未成工事支出金」、「ソフトウェア仮勘定」「仮払金」という勘定科目があります。正しく仕訳を行うために、それぞれの違いを把握しておきましょう。
前払金
前払金とは、事業に必要な商品などの購入時に前払いをした費用のことです。商品やサービスを注文するとき、代金の一部を手付金(内金)として先に支払うことがあります。また、取引によっては、商品の納品より前に代金の支払いが必要なケースもあります。このような、商品やサービスを受ける前に支払った費用に使用する勘定科目が前払金です。会社によっては、前払金を「前渡金」と呼ぶ場合もありますが、前渡金は前払金と異なり、商品や原材料等の仕入のために支払ったものにのみ使われる勘定科目です。
同じ着手金や手付金等でも、建物や機械装置といった有形固定資産に対するものは「建設仮勘定」、流動資産である商品やサービスへの前払いに使用するのは「前払金」になるので、間違えないようにしましょう。
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未成工事支出金
未成工事支出金は、建設業特有の会計処理で用いられる勘定科目で、まだ完成していない工事にかかった費用や支出を指します。
建設業で売上と経費が計上されるのは、基本的には工事が完成した後です。しかし、建設工事は長期間にわたることも多く、着工から完成まで期をまたぐケースも珍しくありません。そのため、期末時点で工事が完成していない場合の材料費や施工費、設備費、廃材処分費などの費用は、決算時に未成工事支出金として計上しておき、完成してから工事原価へと振り替えられます。製造業における仕掛品と同じ意味を持つと考えると、わかりやすいかもしれません。
建設仮勘定と未成工事支出金は、どちらも「未完成の工事等にかかった費用」ですが、工事完成後の用途が違います。建設仮勘定は自社の事業に使うもの、未成工事支出金は販売するものが対象となるため、混同しないように注意が必要です。
ソフトウェア仮勘定
ソフトウェア仮勘定とは、ソフトウェアの制作途中にかかった費用を計上する勘定科目です。制作途中のソフトウェアにかかる費用は、ソフトウェア仮勘定に計上しておき、完成したらソフトウェアの勘定科目に振り替えます。建設仮勘定のソフトウェア版と考えるとイメージしやすいでしょう。
会計上、ソフトウェアは、形のない無形固定資産とみなされます。建設仮勘定は有形固定資産を対象とする勘定科目なので、違いを把握しておくことが大切です。
仮払金
仮払金とは、経費の用途や金額が決まっていない場合に、概算で会社が一時的に支払うお金のことです。使い道や金額は定かでないものの、一定のお金が必要になることは確定しているものに対して事前に支払いをしたときには、仮払金の勘定科目で処理します。
例えば、従業員が海外出張をする際、交通費や宿泊費などがいくらかかるのかは、出張が終わってみないとわかりません。しかし、高額になると予想される経費を、すべて従業員に立て替えさせるのは無理があるでしょう。そのため、出張にかかる金額を大まかに計算して事前に従業員に渡しておきます。このような支払いを処理する勘定科目が仮払金です。
仮払金は、「先払いをする」という意味では、建設仮勘定と似ています。しかし、用途や金額が決まっていない仮払金に対して、建設仮勘定は、建設中・製作中の有形固定資産にかかる費用ということがはっきりしています。それぞれ性質が異なる勘定科目なので、混同しないよう注意が必要です。
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建設仮勘定の仕訳例
建設仮勘定を計上するタイミングは、対象となる有形固定資産のためにお金を支払ったときと、その固定資産が完成して引き渡しを受けたときです。完成までに複数回にわたって支払いを行った場合は、その都度、建設仮勘定を計上します。そして、完成時に、建設仮勘定を適切な固定資産勘定へ振り替えます。
ここでは、具体的な仕訳例をみていきましょう。
工場の建設のため、工事業者に手付金を支払った場合
手付金をはじめ、完成前の支出はすべて建設仮勘定で処理する必要があります。なお、現金で支払った場合は、貸方科目を現金に変更して仕訳します。
例えば、工場の建設のために工事業者へ200万円の手付金を支払った場合の仕訳例は、下記のとおりです。
工事業者へ手付金を支払った場合の仕訳例
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方科目 |
---|---|---|---|
建設仮勘定 | 2,000,000 | 普通預金 | 2,000,000 |
建設にかかる追加費用を支払った場合
建設中に追加費用を支払った場合は、支払いのたびに建設仮勘定に計上します。
例えば、工場建設の追加費用として500万円を支払った場合の仕訳例は、下記のとおりです。
建設にかかる追加費用を支払った場合の仕訳例
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方科目 |
---|---|---|---|
建設仮勘定 | 5,000,000 | 普通預金 | 5,000,000 |
工場が完成し、残りの費用を支払った場合
建設仮勘定は、完成引き渡し時に固定資産勘定へ振り替える勘定科目です。建設物が完成した際に残りの費用を支払った場合、建物の勘定科目へ振り替えることになります。
例えば、工場が完成した際に残りの費用200万円を支払い、引き渡しを受けた場合の仕訳例は、下記のとおりです。
工場が完成した際に残りの費用を支払った場合の仕訳例
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方科目 |
---|---|---|---|
建物 | 10,000,000 | 建設仮勘定 | 8,000,000 |
普通預金 | 2,000,000 |
工場が完成し、引き渡しを受けた場合
建設物の完成前にすべての費用が支払い済で、引き渡しの際に支払いがない場合は、建設仮勘定の残高を固定資産勘定に振り替える仕訳を行います。
例えば、工場が完成して引き渡しを受けた際、当該工場の建設仮勘定残高は1,000万円だった場合の仕訳例は、下記のとおりです。
工場が完成して引き渡しを受けた場合の仕訳例
借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方科目 |
---|---|---|---|
建物 | 10,000,000 | 建設仮勘定 | 10,000,000 |
建設仮勘定について知っておくべきポイント
建設仮勘定を計上する際には、知っておきたいいくつかのポイントがあります。建設仮勘定は普段あまり使用しない勘定科目なので、誤った認識で仕訳をするとミスにつながってしまいます。
建設仮勘定の仕訳に際しては、下記の点に注意しましょう。
減価償却の対象にできない
建設仮勘定は、減価償却の対象にならない点に注意しましょう。減価償却とは、使用することで価値が減少する固定資産を、耐用年数に応じて経費にすることです。ただし、減価償却費を計上できるのは、事業の用に供している固定資産です。建設仮勘定は、未完成の固定資産であるため、まだ事業のために使うことができません。
例えば、使い始める前の未完成の工場や機械は、製品を製造できず、収益を生み出しません。そのため、建設仮勘定を減価償却することは不可能です。減価償却費を計上できるのは、固定資産の引き渡しを受け、事業の用に供した日からです。
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固定資産税はかからない
建設仮勘定は、固定資産税の対象になりません。固定資産税とは、その名のとおり固定資産にかかる税金で、土地や建物に課される固定資産税と、それ以外の事業用の器具・備品、建物の附属設備などに対して課される償却資産税に分けられます。建設仮勘定には、固定資産税と償却資産税のどちらもかかりません。
固定資産税は、毎年1月1日に固定資産を所有している人が、その固定資産が所在する市区町村に対して支払う税金です。土地や建物については、取得の際に登記をすることで、固定資産税の対象となります。
また、償却資産税については、毎年各自治体から送付されてくる償却資産申告書に、1月1日現在の状況を記入して提出することになっています。建設仮勘定は未完成の固定資産なので、まだ登記も申告も必要ありません。そのため、固定資産税および償却資産税の課税対象にはならないのです。
減損の対象になる
建設仮勘定は減損の対象になります。減損とは、固定資産などの価値が低下し、投資額の回収が見込めなくなった場合に、帳簿上の価額を回収可能な額まで減額する会計処理のことです。例えば、「建物を建設中だが、計画の中止や延期によって事業に用いる見通しがたたない」「経営環境の悪化や市場価格の大幅な下落により、建設中の工場で製造予定の商品からの収益が望めない」というような場合は、減損の対象となる可能性があります。
ただし、減損処理を行うには所定の条件があるため、判断に迷う場合は税理士など専門家に相談するとよいでしょう。
仕訳を誤った場合、取得費用の減少につながる
建設仮勘定で計上すべき金額を、誤って他の勘定科目で仕訳してしまうと、固定資産の取得費用の減少につながるため注意が必要です。特に間違いやすいのが、「仮払金」、「前払金」、「仕入」、「消耗品費」などの勘定科目です。
固定資産の建設中・製作中にかかった費用をこれらの勘定科目で処理してしまうと、完成時に固定資産勘定に振り替え忘れてしまう可能性があります。結果として、固定資産の取得費用や減価償却費が小さくなってしまいます。
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建設仮勘定の対象になる有形固定資産には、自社ビルや工場といった建物をはじめ、構造物や機械・装置などが含まれます。これらの有形固定資産を建設・製作する際には、手付金や内金、材料費など、完成前に支払う費用が多々発生します。適切な会計処理を行うためには、どのような場合に建設仮勘定計上が必要になるかをしっかりと確認することが大切です。
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この記事の監修者齋藤一生(税理士)
東京税理士会渋谷支部所属。1981年、神奈川県厚木市生まれ。明治大学商学部卒。
決算書作成、確定申告から、起業(独立開業・会社設立)、創業融資(制度融資など)、税務調査までサポート。特に副業関連の税務相談を得意としており、副業の確定申告、税金について解説した「副業起業塾 」も運営しています。