繰延税金資産とは?回収可能性や取り崩し、仕訳について解説

2023/03/20更新

この記事の監修税理士法人 MIRAI合同会計事務所

繰延税金資産は税効果会計という会計手法で使用される勘定科目で、いわば税金の前払い分にあたるものです。企業会計と税務会計の認識の違いによって一時的な差異(ズレ)が生じた場合に、繰延税金資産を計上すると、将来的な税負担の軽減につなげることができます。一方で、将来的にその差異が解消されることなどの条件があり、もし将来業績が悪化した場合は、いったん計上した繰延税金資産を取り崩して損失処理をしなければなりません。

ここでは、税効果会計における繰延税金資産の目的や回収可能性、取り崩しの他、計算方法や仕訳例についても解説します。

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繰延税金資産は会計と税務の差異を調整するための勘定科目

繰延税金資産とは、決算業務の税効果会計という会計手法で使用される勘定科目です。会計と税務の認識の違いによって発生する、一時的な差異を調整するために使われます。

企業会計上の資産・負債と、税法上の資産・負債では、その認識や計上できるタイミングに違いがあります。この違いによって、実際は経費として支出している金額でも、税務上は経費扱いにならず、その分税金を多く支払うことになるケースがあります。そのような場合は、税金の支払いが生じた超過額を「繰延税金資産」として計上しておくと、翌年度の課税所得から控除される仕組みになっています。つまり、繰延税金資産とは、税金の前払いと考えることができるのです。

例えば、貸倒引当金は、企業会計上は計上できる金額を計上していても、税法上は損金算入限度額(税務上損失として処理できる限度額)を超えた分は損金として認められません。この場合、税金の支払いが生じた超過額を「繰延税金資産」として計上することで、翌年度の課税所得から控除され、その分だけ法人税額が減少します。

貸借対照表 ○年○月○日現在 単位:円 資産の部:流動資産、固定資産:有形固定資産、無形固定資産、投資その他の資産、繰延税金資産を合わせた資産合計 負債の部:流動負債、固定負債と純資産の部:株主資本:資本金、利益剰余金を合わせた負債純資産合計

繰延税金資産は、このような「前払いした税金がいずれ戻ってくる」という前提のもと、払いすぎた税金相当額を、貸借対照表の「資産の部」に計上するものです。繰延税金資産を計上すると自己資本が増加することになり、財務諸表の数字では利益が確保されます。実質的に税金の前払いになるため、将来的な税金額を減らすことにもつながる手法です。ただし、繰延税金資産は、将来の課税所得が黒字になり、税金を払える状況になることを前提としています。

貸借対照表についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

税効果会計とは?

税効果会計とは、企業会計と税務会計の認識の違いによって生まれる差異を調整するための会計手法です。前述したように、企業会計上の資産・負債と、税法上の資産・負債では認識が異なる部分があります。企業会計は利害関係者への報告が主な目的であるのに対し、税務会計は法人税等の税務申告を目的としており、公平性が前提となるため、資産や負債の捉え方に違いが生まれるのです。このような違いによって、会計上の税金と実際の税金に差異が生じた場合、その差異を調整するために行われるのが税効果会計です。

税効果会計は、主に上場企業を対象に適用され、上場企業や金融商品取引法の適用を受ける非上場企業、会計監査人を設置している企業は、税効果会計の適用が義務付けられています。非上場の中小企業には、税効果会計は義務付けられていません。

税効果会計の会計処理に使用する法定実効税率

税効果会計の会計処理の際には、法定実効税率が使用されます。法定実効税率とは、税務会計上の所得に対する法人税、住民税、事業税の表面税率(法律や条例で定められた税率)を使って、所定の方法で計算される総合的な税率のことです。税効果会計における繰延税金資産は、会計と税務の認識の違いによって発生する一時差異に法定実効税率を乗じて算出されます。なお、使用される法定実行税率は、将来繰延税金資産が解消されると見込まれる期の税率を使用します。

税務と会計の差異には一時差異と永久差異の2種類があります。一時差異は将来的に解消される差異で、例えば貸倒引当金等の引当金の損金不算入額、減価償却費の損金不算入額、資産または負債の評価替えにより生じた評価差損などが挙げられます。一方、永久差異は将来においても解消されない差異で、寄付金の損金不算入額、交際費の損金不算入額などが該当します。

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繰延税金資産の回収可能性とは?

回収可能性とは、「繰延税金資産を将来的に回収できるかどうか」という可能性のことです。繰延税金資産は「税金の前払い」ですから、将来的に会計と税務の差異が解消されることが計上の要件になります。

将来的に繰延税金資産を回収できるだけの課税所得が見込めなければ、たとえ会計と税務の差異が発生しても、繰延税金資産を計上することはできません。そのため、繰延税金資産を計上する際には、その回収可能性について十分検討する必要があります。

回収可能性の判断指針

繰延税金資産の回収可能性を判断する指針となるのが、企業会計基準委員会による「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」です。具体的には、以下の表のように、企業の状態によって回収可能性が認められる範囲が設定されています。

繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針
要件 回収可能性 将来回収見込年度が長期の場合

(1)過去(3年)もしくは当期のすべての事業年度において、期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得がある

(2)当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない

繰延税金資産の全額について回収可能性がある 繰延税金資産の全額について回収可能性がある

(1)過去(3年)および当期のすべての事業年度において、臨時的な原因によって生じたものを除いた課税所得が、期末における将来減算一時差異を下回るものの、安定的に生じている

(2)当期末において、近い将来に経営環境に著しい変化が見込まれない

(3)過去(3年)もしくは当期のすべての事業年度においても、重要な税務上の欠損金が生じていない

スケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合には当該繰延税金資産は回収可能性がある 繰延税金資産の全額について回収可能性がある

(1)過去(3年)もしくは当期のすべての事業年度において、臨時的な原因によって生じたものを除いた課税所得が、大きく増減している

(2)過去(3年)当期のすべての事業年度においても重要な税務上の欠損金が生じていない

将来の合理的な見積もり可能期間(おおむね5年)以内の一時差異等、加減算前課税所得の見積額に基づいて、当該見積可能期間の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合には、当該繰延税金資産は回収可能性がある 合理的な見積もり可能期間(おおむね5年)を超える場合でも、当該将来減算一時差異の最終回収見込み年度までに解消されると見込まれる場合には、回収可能性がある

(1)過去(3年)もしくは当期のすべての事業年度において、重大な税務上の欠損金が生じている

(2)過去(3年)において、重要な税務上の欠損金の繰越期限切れになったことがある

(3)当期において、重要な税務上の欠損金が繰越期限切れになる見込みがある

翌期の一時差異等、加減算前課税所得の見積額に基づいて、翌期の一時差異等のスケジューリングの結果、繰延税金資産を見積もる場合、当該繰延税金資産は回収可能性がある 翌期に解消される将来減算一時差異にかかる繰延税金資産は回収可能性がある

(1)過去(3年)および当期のすべての事業年度において、欠損金が生じている

(2)当期においても重要な税務上の欠損金が生じる見込みがある

繰延税金資産の回収可能性はない 繰延税金資産の回収可能性はない

繰延税金資産を計上するための3つの考え方

繰延税金資産を計上できるか、つまり回収可能性があるかどうかは、次の3つの考え方に基づいて将来の税金負担額を軽減する効果があるかどうかを判断します。1つずつ詳細を確認していきましょう。

1. 収益力に基づく一時差異等加減算前課税所得

将来的に課税所得を減額する効果を持つ将来減算一時差異の解消見込年度や繰越欠損金の繰越期間に、一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかを判断します。過去の業績や納税状況、将来の業績予測などを総合的に勘案し、将来の課税所得を合理的に見積もる必要があります。

2. タックス・プランニングに基づく一時差異等加減算前課税所得

タックス・プランニングとは、将来の税金の発生について計画を行うことです。含み益のある有価証券・固定資産を売却するなど、タックス・プランニングにもとづく一時差異等加減算前課税所得が生じる可能性が高いと見込まれるかを判断します。

固定資産についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。

3. 将来加算一時差異

将来減算一時差異の解消見込年度や繰越欠損金の繰越期間に、将来的に課税所得を増額する効果を持つ将来加算一時差異が解消されると見込まれるかなどを判断します。

回収可能性がなくなった場合の処理

一度計上した繰延税金資産は、一時差異が解消するまで(回収できるまで)そのまま計上できるとは限りません。会社の状況は毎年変わるため、場合によっては回収可能性の見込みがなくなることもあります。

例えば、業績が著しく悪化した場合や、課税所得が見込めなくなった場合などが挙げられます。そのため、繰延税金資産は、計上した後も決算ごとに毎期見直しが必要です。もし回収可能性がなくなったときには、「取り崩し」という処理を行うことになります。

繰延税金資産の取り崩しとは?

繰延税金資産の取り崩しとは、資産として計上された繰延税金資産の全部または一部を、会計上で解消することです。将来の利益を下方修正する場合には繰延税金資産を取り崩します。

ただし、この前払いが成り立つのは、企業の業績が良いときだけです。もし業績が悪化した場合、繰延税金資産は、損失処理で再計算されて取り消されることになります。再計算によって繰延税金資産が消失することを、繰延税金資産の取り崩しと呼びます。

取り崩しが起こる理由

繰延税金資産は、翌期の税額を減少させる効果が期待できる、額面上の資産です。しかし、業績不振などによって将来的な利益を確保できなくなった場合は、前払いとして先に税金を計上していても、そもそも税金の対象になる利益が存在しないことになります。そうなると、繰延税金資産の資産価値はなくなったものとみなされ、取り崩しを行う必要が出てきます。逆に、繰延税金資産を活用するためには、将来にわたって一定以上の利益を確保し続けなければなりません。

取り崩しが起こったときの影響

繰延税金資産の取り崩しは、大きな赤字につながってしまうことがあります。繰延税金資産の取り崩しには、法人税等調整額という費用が必要です。利益を見込んで繰延税金資産を計上したにもかかわらず、思わぬ業績不振によって取り崩しを行うと、法人税等調整額が加わって実際の損益以上の負担が生じる可能性があります。その結果、場合によっては、多額の赤字が計上されてしまうのです。

大企業でも、繰延税金資産の取り崩しによって最終赤字を計上した事例があります。例えば、不祥事による企業イメージの低下によって急激に業績が悪化したケースでは、繰延税金資産を取り崩しせざるを得なくなり多額の赤字計上を余儀なくされました。

繰延税金資産の計算方法

前述したように、繰延税金資産は、一時差異に法定実効税率を乗じて算出されます。繰延税金資産の対象になるのは、利益を課税標準にした税金のみです。具体的には、法人税、均等割を除く住民税、課税標準を利益とする事業税の所得割、地方法人特別税です。

住民税の均等割や課税基準が収入の事業税、事業税の付加価値割と資本割、事業所税などは、繰延税金資産の対象にはなりません。

ここからは、法定実効税率や繰延税金資産の計算式について具体的に見ていきましょう。

法定実効税率とは

繰延税金資産を求めるためには、まず法定実効税率を求める必要があります。法定実効税率とは、課税所得に対する法人税、住民税、事業税の表面税率(法律や条例で定められた税率)を使って、所定の方法で計算される総合的な税率のことです。それぞれの税率は、会社の規模や所在地などによって変わってくるので注意しましょう。計算式にすると、次のようになります。

法定実効税率の計算式

法定実効税率={法人税率×(1+地方法人税率+住民税率)+事業税率}÷(1+事業税率)

繰延税金資産の計算式

繰延税金資産は、法定実効税率と将来減算一時差異を用いて算出します。計算式は下記のようになります。

繰延税金資産の計算式

繰延税金資産=将来減算一時差異×法定実効税率

繰延税金資産の仕訳方法

繰延税金資産の仕訳では、繰延税金資産と法人税等調整額の会計科目を使用します。ここでは、繰延税金資産が発生したときと、解消されたときに分けて、仕訳例を見てみましょう。

発生時は借方に繰延税金資産、貸方に法人税等調整額を計上します。解消時には借方に法人税等調整額、貸方に繰延税金資産を計上します。20万円の繰延税金資産が発生した場合と、その20万円が税務上の損金として認識され、繰延税金資産が解消した場合の仕訳例は下記のとおりです。

発生時の仕訳例
借方 金額 貸方 金額
繰延税金資産 20万円 法人税等調整額 20万円
解消時の仕訳例
借方 金額 貸方 金額
法人税等調整額 20万円 繰延税金資産 20万円

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繰延税金資産の計上には回収可能性の判断が重要

繰延税金資産とは、決算業務の「税効果会計」という会計手法で使用される勘定科目です。企業会計と税務会計の認識の違いによって一時的な差異が生じた場合は、繰延税金資産を計上することによって、将来的な税負担の軽減につなげることができます。

ただし、繰延税金資産を計上するうえでは、回収可能性があるかどうかを十分検討する必要があります。もし業績悪化などによって回収不可能になった場合は、繰延税金資産の取り崩しを行わなければなりません。事業の状況によっては、回収可能性が認められない可能性もあり、処理には注意が必要です。繰延税金資産の計上や回収可能性の判断において不明な点があるときには、税理士など専門家に相談することをおすすめします。

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この記事の監修税理士法人 MIRAI合同会計事務所

四谷と国分寺にオフィスのある税理士法人。税理士、社会保険労務士、行政書士等が在籍し確定申告の様々なご相談に対応可能。開業、法人設立の実績多数。
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