前払費用とは?前払金との違いや長期・短期前払費用について解説
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前払費用とは、一定期間発生するサービスに対して使用する勘定科目のことです。前払費用には、短期前払費用や長期前払費用があるため、これらを適切に使い分けることが求められます。
本記事では、前払費用と前払金・仮払金との違いについてわかりやすく解説しています。長期前払費用や短期前払費用、前払費用の仕訳例、短期前払費用の税務上の特例にもふれていますので、ぜひ参考にしてください。
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前払費用は提供前のサービスに対して支払われた費用
前払費用とは、一定の契約に従い継続してサービスの提供を受ける際、まだ提供されていないサービスに対して支払った費用のことです。例えば、決算時点で未経過の支払利息や保険料(火災保険、経営者保険など)、地代家賃、リース料、システム利用料などは、前払費用に該当します。
なお、会計には「ワンイヤールール(one year rule:1年基準)」と呼ばれるルールがあり、前払費用にも適用されます。ワンイヤールールとは、決済日の翌日から1年以内に現金化または消費される資産や、1年以内に支払期限が到来する負債を「流動資産および流動負債」に、1年を超えるものを「固定資産および固定負債」に分類するというものです。
このルールに従い、回収や決済期限が1年以内のものを前払費用、前払費用のうち一定の要件を満たしたものを「短期前払費用」、1年を超えるものを「長期前払費用」として扱います。
前払費用の分類
前述のとおり、前払費用のうち一定の要件を満たしたものは短期前払費用となる他、条件によっては長期前払費用として扱われるものもあります。前払費用の分類とそれぞれの具体的な内容を押さえておきましょう。
短期前払費用
前払費用とは、一定のサービス契約においてまだ提供されていないサービスに支払われた費用のうち、ワンイヤールールに従って流動資産の部に計上される勘定科目のことです。ただし、一定の要件を満たす前払費用については、「短期前払費用」ということでワンイヤールールの例外として支払時に費用として計上することが認められます。短期前払費用は、あくまでも特例として設けられている勘定科目のため、短期前払費用として計上するには、以下の条件を満たしている必要があります。
短期前払費用として計上するための条件
- 支払った事業年度にサービス提供が開始していること
- 支払が事業年度内に完了していること
- 支払から1年以内にサービス提供が終了する予定であること
- 契約期間中は同じサービスを受け続ける予定であること
- 収益に対する費用ではないこと
- 今後も短期前払費用として計上する費用であること
上の条件に該当しない場合は、短期前払費用として計上できない点に注意しなくてはなりません。実際には、即座にサービス提供が開始されるか判断が難しいケースや、今後も同じサービスを利用し続けるかどうか見通せないケースもあります。短期前払費用に該当するか明確でない場合、通常の前払費用として処理するのが適切です。
また、後述するとおり、短期前払費用として処理する場合、仕訳は支払時1回のみで完了します。費用全額を対象年度の損金に算入できる点が、短期前払費用の特例を活用する大きなメリットです。
長期前払費用
長期前払費用とは、1年以上にわたる契約に基づいて支払われた費用のうち、契約開始から1年を超える部分を計上する勘定科目のことです。例えば、契約期間が1年を超える車両保険の保険料などは、長期前払費用に該当します。なお、法人の場合、法人税法の規定により、既に支払が完了している支出のうち、年度をまたいで費用化が認められる「繰延資産」が、長期前払費用として扱われることもあります。
前払費用・短期前払費用・長期前払費用の違い
前払費用・短期前払費用・長期前払費用は、該当する費用によって違いがあります。それぞれの違いは以下のとおりです。
前払費用・短期前払費用・長期前払費用の違い
勘定科目 | 概要 |
---|---|
前払費用 | 回収や決済期限が決算日の翌日から1年以内のもの |
短期前払費用 | 前払費用のうち、ワンイヤールールの例外として費用計上できるもの |
長期前払費用 | 年度の途中で1年超にわたる契約に基づいて支払われた費用のうち、1年を超える部分 |
このように、前払費用・短期前払費用・長期前払費用はそれぞれ該当する費用が異なります。それぞれの勘定科目を混同することのないよう、適切に使い分けていくことが大切です。なお、勘定科目を判断する際には以下の手順で考えていくとよいでしょう。
勘定科目を判断する手順
-
(1)契約期間が1年を超える費用は、長期前払費用(固定資産)として計上する
-
(2)(1)以外の費用は、前払費用(流動資産)として計上する
-
(3)(2)のうち一定の要件を満たす費用は、短期前払費用として損益計算書に計上する
前払金や仮払金との違い
前払費用と混同しやすい勘定科目として「前払金」や「仮払金」があげられます。それぞれ前払費用とは明確に異なる勘定科目のため、具体的な違いを整理しておきましょう。
前払金との違い
前払金とは、継続的ではないサービスの提供を受けるために生じた支払のことです。前払費用が継続的なサービスの提供を受けるための費用であるのに対して、前払金は提供されるサービスに継続性がない点が異なります。
また、前払費用は費用と見なされるため、会計処理上の勘定科目においても前払費用が用いられます。その一方で、前払金に関しては将来サービスを受けるための権利を購入することを意味し、費用ではなく資産と見なされ、会計処理上の勘定科目においても前払金が用いられる点も大きな違いです。保険契約や賃貸契約のように継続性のあるサービスに関する支払は前払費用、単発で利用するサービスや一時的な利用にとどまるサービスの利用のために先払いするお金(予約金、手付金など)は前払金として処理することになります。
こちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。
仮払金との違い
仮払金は、用途が不明であったり、金額が定まっていなかったりする業務上の支払に用いられる勘定科目です。仮払金は、概算で一時的に現金を支払った際に用いられますが、前払費用は支払った時点で金額や使途が確定している費用に用いられます。つまり、支払時点で金額や使途が確定している費用は前払費用、確定していない費用は仮払金として処理する点が違いです。
例えば、出張旅費として従業員にあらかじめ渡す現金は、出張中にかかる費用を見越して概算するケースが多いでしょう。出張中に利用する交通機関や宿泊先などによって、費用が変動することを前提としているからです。このような費用は仮払金として処理します。その一方で、保険契約や賃貸契約のように契約内容から費用が明らかになっている場合は、前払費用として処理する点が大きな違いです。
前払費用・前払金・仮払金の違い
勘定科目 | 概要 |
---|---|
前払費用 | 継続的なサービス提供を受けるために生じた支払 |
前払金 | 継続的ではないサービスの提供を受けるために生じた支払 |
仮払金 | 用途が不明だったり金額が定まっていなかったりする業務上の費用 |
こちらの記事でも解説していますので、参考にしてください。
前払費用を計上するタイミング
前払費用を計上するタイミングには、大きく分けて「支払時」「決算時」「翌期首」の3つがあります。前払費用を計上する際の基本的な流れは以下のとおりです。
前払費用を計上する流れ
-
1.支払時:当期の費用として全額を計上する
-
2.決算時:翌期分の費用を前払費用に振り替える
-
3.翌期首:前払費用から費用へ再振替を行う
つまり、決算時にはサービス未提供部分を当期費用として計上せず、翌期首にはサービスの提供が予定される分を前払費用として計上することが大切です。これは「経過勘定項目」に則った処理で、企業会計原則には下記のように記載されています。
(1)前払費用
前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。
-
出典:企業会計審議会「企業会計原則・同注解
」(注5)経過勘定項目について(損益計算書原則一のAの2項)
前払費用の仕訳例
次に、企業会計原則に則った前払費用の仕訳例を、支払時、決算時、翌期首に分けて紹介します。保険料200万円を支払ったケースについてのそれぞれの仕訳例は以下のとおりです。
支払時の仕訳例
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
保険料 | 2,000,000円 | 普通預金 | 2,000,000円 |
支払時は、支払った保険料200万円を、当期費用として全額計上します。貸方科目は「普通預金」を用います。
決算時の仕訳例
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
前払費用 | 1,500,000円 | 保険料 | 1,500,000円 |
決算時、当期分の保険料が50万円に相当する場合、残りの150万円を前払費用として資産に計上します。貸方科目は「保険料」です。
翌期首の仕訳例
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
保険料 | 1,500,000円 | 前払費用 | 1,500,000円 |
翌期首は、決算時に資産計上した前払費用を再振替し、翌期分の経費として処理します。このように、翌期首の時点でサービスの提供を受けていない部分について、前払費用として処理するのがポイントです。
なお、消費税に関しては前払をした時点ではなく、費用として振り替えた時点で計上する点に注意しましょう。消費税法によると、国内取引においては「資産の譲渡やサービスの提供をした時点で消費税の納税義務が成立する」と定められています。よって、たとえ前払をしていたとしても実際にサービスの提供を受けていないのであれば、消費税を計上するべきではありません。支払の時点で税込の金額を計上しないようにすることが重要です。
短期前払費用の特例
前払費用は、一定の条件を満たす場合は短期前払費用として処理できる場合があります。条件は、サービスの提供を受けるために支出した費用であることと、支払日から1年以内に提供を受けるサービスであることです。このようなケースでは、資産として計上することなく支払時に全額費用として計上することができます。したがって、支払時のみ仕訳を行います。通常の前払費用のように、決算時の費用の振替や翌期首の再振替処理は不要です。さらに、仕訳に関しても支払時の1回のみで済む点が大きなメリットです。なお、短期前払費用に計上できる経費にはさまざまな条件があります。条件を満たすかどうか判断が難しい場合や、事情が変わる可能性があるような場合には、通常の前払費用として処理するのが得策です。
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前払費用とは、継続してサービスの提供を受けるにあたって、未提供分のサービスに対して支払われた費用のことです。前払費用は決算日の後、資産や負債を回収・決済期限によって「流動資産および流動負債」と「固定資産および固定負債」に分類する、会計上のワンイヤールールに則って処理しなくてはなりません。
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この記事の監修者渋田貴正(税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士)
税理士、司法書士、社会保険労務士、行政書士、起業コンサルタント®。
1984年富山県生まれ。東京大学経済学部卒。
大学卒業後、大手食品メーカーや外資系専門商社にて財務・経理担当として勤務。
在職中に税理士、司法書士、社会保険労務士の資格を取得。2012年独立し、司法書士事務所開設。
2013年にV-Spiritsグループに合流し税理士登録。現在は、税理士・司法書士・社会保険労務士として、税務・人事労務全般の業務を行う。
