無期転換ルールとは? 概要・条件・メリットとデメリットなどを解説
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無期転換ルールとは、同じ企業で一定期間以上働いた有期契約労働者が、無期雇用への転換を申し込める制度です。このルールは契約社員、パート・アルバイトにとって、職の安定と生活の向上を支えるものです。その一方で、企業にとっては、人事戦略に大きな影響を及ぼす要素となります。
本記事では、無期転換ルールの概要や適用条件、企業側のメリット・デメリットについてわかりやすく解説します。
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無期転換ルールとは?
無期転換ルールとは、同じ企業で通算5年を超えて有期労働契約を続けた労働者が申し出ることで、契約期間に制限のない無期労働契約に切り替えられる制度です。改正労働契約法に基づき、2013年に導入されました。
無期転換ルールは、企業の規模を問わず、すべての企業に適用され、条件を満たした労働者の無期転換の申し出を企業は拒否できません。このルールは、有期雇用労働者が雇い止めや不利な扱いを受けることを防ぎ、雇用の安定を図ることを目的としています。
有期契約労働者と無期契約労働者
労働者は大きく分けて、有期契約労働者と無期契約労働者に分類されます。有期契約労働者とは、1年や6か月など、具体的な契約期間を定めて労働契約を結んで働く労働者のことです。契約期間が終了すると契約が切れる(雇い止め)か、更新されて働き続けるのが一般的です。有期契約労働者の例としては、契約社員、準社員、パートタイマー、アルバイトなどが挙げられます。
無期契約労働者は多くの場合、正社員を指します。ただし、「無期契約労働者=正社員」となるかは企業によって異なります。例えば、パートやアルバイトであっても、契約期間が定められていなければ無期契約労働者とみなされます。
無期転換ルールの対象は有期契約労働者です。企業によっては「有期契約労働者」という名称を使っていなくても、契約の内容が有期契約であればルールの適用対象となります。
無期転換ルールの条件
無期転換ルールを適用されるのは、有期契約労働者が次の条件を満たした場合です。
- 同じ雇用主の下で有期労働契約を通算して5年以上続けていること(ただし、契約と契約の間に6か月以上の空白期間がある場合、その期間はクーリング期間とみなされ、通算期間に含まれません)
- 契約を1回以上更新していること
- 以上の条件を満たした労働者が契約期間中に無期転換を申し出ること
有期契約の最長期間は、労働基準法で3年と定められています(特定の職種やプロジェクトを除く)。その一方で、無期雇用契約は期間を定めずに雇用が続くもので、一定期間を定めた無期契約は法律上できません。
また、無期転換ルールは条件を満たしても自動的に適用されるわけではなく、労働者からの申し出が必要です。
無期転換申し込みのタイミング
無期転換の申請権が発生する時期は、契約期間の長さに応じて変わります。例えば、最初の契約が令和元年4月だった場合の申し込みタイミングは、それぞれ以下のとおりです。
-
A.契約期間が1年の場合:令和6年4月の契約更新のとき
-
B.契約期間が3年の場合:令和4年4月の契約更新のとき
Aはその企業で働き始めて6年目に、Bは4年目に無期転換の申込権が発生します。Bが先に申し込みできる理由は、次回の契約更新時に労働契約期間が5年を超えることが予測できるためです。契約期間によっては、契約開始から5年が経過していなくても申請できることを覚えておきましょう。
なお、2024年4月1日施行の改正では、無期転換ルールの運用がさらに明確化されました。改正内容には、無期転換申込権が発生するタイミングの説明義務が追加されることに加え、無期転換後の労働条件を明示する義務などが含まれます。これにより、労働者の権利保護が強化されるとともに、企業には透明性の高い運用が求められるようになります。
参照:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
無期転換ルールの特例
無期転換ルールには特例があり、特定の職種や状況によっては制度の対象外になったり、無期転換の申し込みができるまでの期間が延長されたりする場合があります。条件を満たすと、無期転換ルールの期限が延長されることもあります。
これらの特例は、主に専門職や特定の労働条件に基づいて適用されますが、詳細は各種関連法により定められています。
無期転換ルールのクーリング期間
無期転換の申込権は、契約期間が「通算」で5年を超えると得られます。しかし、契約の合間に一定以上の長さにわたるクーリング期間があると、それ以前の契約期間は通算の計算から除外される点に注意が必要です。
通算をリセットするためのクーリング期間の目安は、以下の表に示されています。一般的な目安としては、無契約期間がそれまでの通算契約期間の半分以上である場合、通算の計算がリセットされます。
無契約期間以前の通算契約期間 | 無契約期間 |
---|---|
2か月以下 | 1か月以上 |
2か月超~4か月以下 | 2か月以上 |
4か月超~6か月以下 | 3か月以上 |
6か月超~8か月以下 | 4か月以上 |
8か月超~10か月以下 | 5か月以上 |
10か月超 | 6か月以上 |
企業にとっての無期転換のメリットとデメリット
企業側としては、有期契約労働者の無期転換にはメリットとデメリット両方の側面があります。総合的に考えたうえで、どのように対応すべきかを検討しましょう。
企業にとってのメリット
無期転換により、労働者は安定した雇用を得られる一方、企業側にとっても長期的な人材確保や労働力の安定化が期待できます。
まず、長期間にわたって契約を更新してきた労働者は、その能力や人柄が社内で一定の評価を受けている可能性が高いと考えられます。このような人材を無期雇用に転換することで、企業は優秀な人材を長期的に確保し、責任ある業務を任せたり、長期的な育成を行ったりしやすくなります。
また、無期転換は従業員のモチベーション向上にも寄与します。有期契約の立場では雇い止めの不安から、組織への帰属意識や忠誠心が低下する可能性がありますが、無期雇用に転換されることで雇用の安定が確保され、仕事への意欲や責任感が高まることが期待されます。さらに、無期転換の可能性があることは、まだ転換条件を満たしていない有期契約労働者にも将来への期待を持たせ、モチベーションの向上につながります。この結果、生産性の向上や職場の活性化にも寄与します。
さらに、無期転換後は契約更新の手続きが不要になるため、管理部門の事務作業が軽減されます。有期契約では更新のたびに条件の通知や面談が必要ですが、無期雇用に移行すればこうした手間が削減できます。加えて、長期間働き続けている労働者を無期転換することは、新たな採用や育成を行うよりも失敗のリスクが低く、効率的です。
企業にとってのデメリット
無期転換には人件費の増加や雇用調整の柔軟性低下といったデメリットがあります。また、制度の整備が企業にとって負担になることも考えられます。
無期契約労働者が増えると人件費の増加が懸念されます。無期雇用に転換する際には、正社員と同等の待遇を求められるケースもあり、場合によっては給与や福利厚生の見直しが必要になることがあります。こうしたコストは長期的に発生し、人件費の抑制を図っていた企業にとっては大きな問題です。
また、無期契約労働者の増加は雇用調整の柔軟性を低下させます。有期契約労働者の場合、期間満了時に契約が終了することがありますが(ただし、自動更新や契約内容が明確化されていない場合は例外です)、無期転換後は法的に解雇が厳しく制限されるため、経済状況や事業環境の変化に応じた人員調整が難しくなる場合があります。
さらに、無期転換後の正社員との待遇格差をどう調整するかも課題です。有期契約時の待遇をそのまま維持すると、場合によっては不公平感を生むことがあります。例えば、有期契約労働者が無期契約に転換した場合、同じ業務を行っている正社員との間で給与や福利厚生に差があると不満が出ることがあります。このため、正社員との待遇バランスを考慮した労働条件の見直しが求められます。これにより、企業は新たな制度に対応するためのルール作りに時間と労力を費やすことになります。
加えて、無期転換ルールでは、条件を満たした有期契約労働者が無期転換を申し出た場合、企業は原則として断ることができません。そのため、労働者に能力や人柄の問題がある場合でも無期転換を受け入れなければならない場合があります。特に、長期にわたり有期契約労働者を雇用する際は、慎重に対応する必要があります。
無期転換するときの注意点
以上のように、無期転換には一定のデメリットまたはリスクがあります。したがって、無期転換へ対応するために、企業は適切な対策を考えておくことが大切です。とりわけ注意すべきポイントとしては、以下が挙げられます。
- 更新は慎重に検討する
- 雇用契約書や就業規則を見直す
無期転換ルールへの対応を明確にするため、契約内容や就業規則を整備する必要があります。 - 更新回数や通算契約期間の上限が必要か検討する
有期契約の更新が繰り返されると、通算で5年を超える場合に無期転換の申し出が可能となるため、更新回数や通算契約期間の上限を設定することがリスク管理として重要です。 - 雇い止めが無効になる場合がある
有期契約労働者は、契約期間満了時の雇い止めが可能ですが、自動更新が前提とされている場合や契約更新の合理的期待が認められる場合には、雇い止めが無効と判断されることがあります。さらに、無期転換後の労働者に対しては、労働契約法によって「解雇権の乱用」が禁止されており、解雇が正当な理由なく行えないため、人員調整がより困難になる可能性があります。
それぞれの注意点を以下で詳しく解説します。
更新は慎重に検討する
無期転換ルールがある以上、有期契約労働者の契約更新は従来よりも慎重に判断することが重要です。契約期間が通算5年を超える有期契約労働者が無期転換を求めてきた場合、原則として企業は断れません。
したがって、企業としては有期契約労働者の職務遂行能力や職場への適応性などをしっかり確認し、問題がないか見極めたうえで更新の可否を判断することが大切です。通算5年を超えて有期雇用契約を更新するのは、将来的に無期転換しても良い人材に絞ることをおすすめします。
雇用契約書や就業規則を見直しする
無期転換を実施するにあたって、企業は現行の雇用契約書や就業規則の内容を見直す必要があります。特に2024年4月からは労働条件明示のルールが改正され、有期雇用契約の更新回数の上限や通算契約期間の上限、無期転換後の労働条件などを明示する義務が生じました。したがって、現在の労働条件通知書や雇用契約書などが新しい法令に適合しているかどうか再確認しなければいけません。
さらに、無期転換者を含む労働者全体の多様なニーズに対応した新しい働き方を考慮し、就業規則や労働条件に反映させることも検討すべきポイントです。例えば、育児や介護などの都合でこれまで有期契約労働者(パートタイマー)として働いていた場合、「無期転換はしたいけれど長時間は働けない」「転勤はできない」といったジレンマが生じることが考えられます。
こうした悩みを解決するために、「短時間正社員」や転勤のない「限定正社員」といった雇用形態を取り入れることは非常に有効です。「無期転換後は、一律で正社員と同条件で働くこと」と定めるのもありですが、柔軟な働き方が可能であることは企業の魅力にもつながります。必要に応じて、労働法に詳しい弁護士や社労士に相談してみるのもおすすめです。
詳しくはこちらの記事もご覧ください。
更新回数の上限が必要か検討する
無期転換への対応の一環として、契約更新回数の上限も検討する必要があります。先述のように、2024年4月以降、労働条件の明示ルールが変更されたことで、労働条件通知書には更新回数の上限を明示する義務が生じたため、あらかじめ契約更新の回数に上限を設けておくことも検討しましょう。
なお、通算期間の上限については、無期転換ルールによって契約開始から通算5年を超えた場合に無期転換権が発生するため、上限の設定が不要かどうかを別途、確認する必要があります。
あるいは、優秀な有期契約労働者のみを正社員登用するための道筋をしっかり整備する取り組みも検討に値します。例えば、1年契約であれば更新は2回までに限定し、3年目の段階で正社員登用の可否を判断するなど、無期転換ルールを見据えた人材戦略を構築するのも有効です。
雇い止めが無効になる場合がある
最後の注意点は、雇い止めのリスクです。無期転換の適用を避ける目的で雇い止め(更新拒否)をすると、法的に無効とされる場合があります。無期転換の申し込みを受けての雇い止め、あるいは申込権が発生する直前での雇い止めは労使トラブルを招きかねません。無期転換を防ぐために雇い止めすることは、雇用の安定を目的に設置された無期転換ルールの理念と真っ向から対立する行為です。
特に、これまで契約が自動更新だった場合、労働者側としては今後の更新も当然に期待される状況であり、雇い止めするのは無期雇用契約における解雇と同等の難易度となることもあります。
無期転換ルールについて正しく把握しよう
無期転換ルールとは、通算して5年以上有期雇用契約を続けた労働者が申し出ることで、無期雇用に転換できる制度ですが、人件費の増加や雇用調整が難しくなるといった課題も伴います。また、労働条件通知書において契約更新の上限や無期転換ルールの記載が義務付けられているため、企業は早急に対応を進める必要があります。無期転換の申し出は基本的に拒否できないため、企業はそれを踏まえた対応策を考えることが求められます。
- ※2024年11月時点の情報を基に制作しています。
photo:Thinkstock / Getty Images
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この記事の監修者税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人古田土人事労務
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