労務管理とは?仕事内容や人事管理との違いなどを解説
2023/05/16更新

この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング

企業において、従業員の労働に関するさまざまなことを管理する業務を、労務管理といいます。従業員の能力を最大限に発揮させるには、適切な労務管理が欠かせません。ただ、一口に労務管理といっても多くの業務があり、「具体的にどのような仕事をするのかよくわからない」という方もいるかもしれません。
ここでは、労務管理の仕事内容や目的、労務管理の基本、労務管理と人事管理との違いなどについて解説します。
労務管理は職場環境を管理する業務
労務管理とは、従業員の労働条件や労働環境などを管理する業務です。つまり、従業員が安心して働くための「職場づくり」の仕事だといえるでしょう。
その業務範囲は、就業規則の作成、労働契約の管理、従業員の勤怠や給与計算、福利厚生の管理など多岐にわたります。企業規模の大小にかかわらず、従業員を雇用している全ての企業にとって、労務管理は非常に大切なものです。
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労務管理の目的
企業の経営資源には、ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産などがありますが、そのうち「ヒト」を管理するのが労務管理の役割です。労務管理には、下記に挙げるような2つの目的があります。
効率的な管理による生産性の向上
労務管理の目的の1つは、労働条件や労働環境を効率的に管理することで、生産性の向上を図ることです。労働環境の整備や適切な給与管理、従業員の健康維持などを通じて働きやすい職場づくりを行うと、従業員のモチベーションが上がり、生産性もアップします。結果として企業価値が上昇し、優秀な人材の獲得や顧客満足度の向上にもつながります。
コンプライアンス順守とリスク回避
労務管理の目的のもう1つは、コンプライアンス順守です。企業には社会的責任が求められ、コンプライアンスが重視されます。労働環境や労働条件、就業規則などは、法にのっとって正しく管理しなければなりません。法令違反をしてしまうと罰則を受け、企業の信頼も低下してしまいます。
また、安心・安全な職場環境を維持できなければ従業員の健康に悪影響が出るおそれがあるうえ、社内トラブルを招く可能性もあります。このような事態を避けるためにも、適切な労務管理が必要です。
労務管理と人事管理の違い
労務管理と人事管理はどちらも「ヒト」に関する管理業務であり、明確な線引きがあるわけではありません。ですが、一般的に労務管理と人事管理は下記のように区別されています。
労務管理
労務管理は、就業規則の作成、社会保険の手続きなど、組織単位の事務手続きを行うもの。労使の雇用関係や労働条件に関わる管理を中心に行います。
人事管理
人事管理は、人材の評価や採用、育成など、従業員個人に関わる業務を担当するもの。社内の人材を、より効果的に活用することが目的です。なお、企業によっては、人事担当と労務担当を兼任している場合もあります。
労務管理の仕事内容
労務管理の具体的な仕事内容は、従業員の人数や業務の種類などによって変わります。ここでは、「従業員10~50人未満のサービス業」の事業所を例として、労務管理の仕事内容を解説します。
就業規則の作成・管理
ひとつの事業場において常時10人以上の従業員を雇用する場合、労働基準法の規定により「就業規則」を作成しなければなりません。また、作成した就業規則は管轄の労働基準監督署への届出が義務付けられています。この就業規則には、必ず記載しなければならない「絶対的必要記載事項」と、事業所で制度として定めている場合は必ず記載しなければならない「相対的必要記載事項」があります。
絶対的必要記載事項
- 始業および就業の時刻、休憩時間、休日、休暇ならびに交代制の場合には終業時転換に関する事項
- 賃金の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払いの時期ならびに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む)
相対的必要記載事項
- 退職手当に関する事項
- 臨時の賃金(賞与)、最低賃金額に関する事項
- 食費、作業用品などの負担に関する事項
- 安全衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰、制裁に関する事項
- その他全労働者に適用される事項
これらの事項を漏れがないように記載し、内容を変更した際にも同様に届出が必要です。なお、従業員数が10人未満の事業場において就業規則の作成は必須ではありませんが、作成する方が望ましいでしょう。
労働契約に関する管理
従業員を雇用する際には、会社は従業員に対して「労働契約書の締結」または「労働条件通知書の通知」が必要です。前者は、契約内容を双方が合意することからトラブルは少ないのですが、後者は、一方的な通知であるため、後々になって雇用契約内容を見ていない、というトラブルが起こるケースがあります。労働契約書・労働条件通知書を作成したり、トラブルがないように段取りをしたりするのも、労務管理担当者の仕事です。これらの書類にも、必ず明示しなければならない「絶対的明示事項」と、事業場で規定がある場合には明示しなければならない「相対的明示事項」があります。
絶対的明示事項
- 契約期間に関すること
- 期間の定めがある契約を更新する場合の基準に関すること
- 就業場所、従事する業務に関すること
- 始業・終業時刻、休憩、休日などに関すること
- 賃金の決定方法、支払時期などに関すること
- 退職に関すること(解雇の事由を含む)
- 昇給に関すること
相対的明示事項
- 退職手当に関すること
- 賞与などに関すること
- 食費、作業用品などの負担に関すること
- 安全衛生に関すること
- 職業訓練に関すること
- 災害補償などに関すること
- 表彰や制裁に関すること
- 休職に関すること
勤怠や給与の計算・管理
労務管理では、従業員の勤怠や給与の管理も行います。具体的には、従業員の始業時刻と終業時刻の他、時間外労働(残業)や休日出勤、遅刻、早退、欠勤、有給休暇といった勤怠を記録・管理し、勤怠データや人事考課のデータなどをもとに、給与や各種手当、賞与を計算します。給与計算を行う際には、税金や社会保険料などの控除額を正しく把握しなければなりません。
福利厚生の管理
福利厚生は、法律によって義務付けられている「法定福利厚生」と、法律で義務付けられてはいない各企業独自の「法定外福利厚生」の大きく2つに分けられます。
法定福利厚生は、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険、子ども・子育て拠出金といった各種社会保険が含まれます。例えば、従業員が入社する際には、各種社会保険の加入手続きを行わなければなりません。また、退職や休職、異動の場合も、それぞれ手続きが必要です。
法定外福利厚生は、社宅の提供や育児支援、特別休暇といった、企業が任意で定める福利厚生のことです。こうした福利厚生の管理と整備も労務管理業務のひとつです。
従業員の安全衛生管理
従業員の安全衛生管理や健康管理も、労務管理の重要な役割です。例えば、労働安全衛生法では、雇入時の健康診断や、年に1度従業員に定期健康診断を受けさせることを企業に義務付けています。健康診断の実施にあたっては、従業員への周知や手配、結果の記録などの作業が発生します。
職場環境・業務改善
冒頭で述べたように、労務管理の仕事は、従業員が安心して働くための職場づくりです。現場と連携しながら職場環境や業務の改善を促し、パワハラやセクハラといったハラスメント相談窓口の設置や、長時間労働の是正、育児・介護と仕事の両立支援などを行う必要があります。
労務管理の基本となる法定三帳簿とは?
法定三帳簿とは、従業員を1人でも雇い入れたら必ず作成しなければならない「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」のことです。労務管理の基本となる帳簿であり、それぞれ営業所や店舗、工場といった事業場ごとに作成のうえ、原則として5年間の保存が義務付けられています。
労働者名簿
労働者名簿は、従業員の氏名や生年月日、性別、住所などの個人情報を記録する帳簿です。法令で定められた記載項目の他、会社が従業員を管理するうえで必要な事項を任意で設けることもできます。保存期間は、従業員の退職・解雇・死亡の日から原則5年間です。
労働者名簿についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
賃金台帳
賃金台帳は、従業員一人ひとりの賃金の支払い状況をまとめた帳簿です。従業員の氏名や性別、賃金計算期間、労働日数、労働時間数の他、基本給や手当等の種類と額といった事項を、賃金支払いのたびに記載します。保存期間は、最後の賃金について記入した日から原則5年間です。
なお、賃金台帳などから作成した源泉徴収簿は、7年間の保存が必要です。
出勤簿
出勤簿は、従業員の出退勤に関する状況を記録する帳簿です。記載事項は、出勤日や労働日数、始業・終業時刻、休憩時間、時間外労働を行った日付や労働時間などです。保存期間は、原則5年間です。
なお、従業員の出退勤時刻の記録にタイムカード等を使用している企業もありますが、近年は、クラウド式の勤怠管理が主流になってきています。これは、働き方改革によって勤務時間の管理が厳格化されたことと関係があります。具体的には以下のような理由が挙げられます
クラウド式の勤怠管理が主流となった理由
- 分単位での時間外手当の清算が必要であること
- 時間外労働時間が規制されたことで、賃金期間中にどの程度の時間外労働を行っているか把握する必要性がでてきたこと
- DXにより、全社員の勤怠データを一元管理し、デジタルデータで抽出した後に給与計算システムと連動させるようになったこと など
出勤簿についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
出勤簿の役割とは?記載事項やエクセル等の形式、保存期間などを解説
労務管理に求められるスキル
労務管理の業務範囲は幅広いため、求められる知識や能力も多岐にわたります。中でも、下記のような能力が重要です。
法令に関する理解力
労務管理の業務は、労働基準法をはじめとするさまざまな法令と密接な関わりがあります。法令に関する理解は、労務管理に必要不可欠といえるでしょう。
さらに、各法令は時代の変化に合わせてこまめに改正され、マイナンバー法のように労務管理に関する新たな法律が制定されることもあります。知らないうちに法令違反となってしまわないように、常に最新の情報を収集し、時代に合わせて職場環境などをアップデートしていく必要があります。
労働状況・業務改善への意識
労務管理を行ううえで、労働状況や業務を改善する意識を持つことは重要です。近年では、働き方や価値観の多様化と共に、ワークライフバランスが重視されるようになっています。また、ビジネスのさまざまな場面でデジタル化が進み、仕事の進め方自体が以前とは大きく変化しています。
そのような中で労務管理に求められるのは、以前から続いているやり方をただ繰り返すのではなく、社内の課題を見つけて改善し、職場全体の生産性を高めていくことです。誰もが働きやすく、効率的に業務を進められる職場づくりのために、主体的に取り組む姿勢が求められています。
労務管理に関連する資格・試験
労務管理の仕事をする中でスキルアップを目指すには、資格取得も役立ちます。労務管理に関連する資格や試験としては、下記のようなものがあります。
労務管理士
労務管理士は、企業内で労務管理を行う知識・能力を有することを認定する民間資格です。
社会保険労務士・特定社会保険労務士
社会保険労務士・特定社会保険労務士は、行政機関への提出書類作成や労働関係紛争の解決手続きなどを行う、労働・社会保険問題の専門家としての国家資格です。
衛生管理者・労働衛生コンサルタント・労働安全コンサルタント
衛生管理者・労働衛生コンサルタント・労働安全コンサルタントは、労働環境の安全衛生的改善や疾病の予防処置など、事業場の安全衛生全般の管理を行うための国家資格です。
マイナンバー実務検定、マイナンバー保護士認定試験
マイナンバー実務検定とマイナンバー保護士認定試験は、マイナンバー制度をよく理解し、マイナンバーを安全・適正に取り扱う知識を有することを認定する民間の検定です。マイナンバー保護士認定試験は、マイナンバー実務検定の上位資格となります。
中小企業診断士
中小企業診断士は、中小企業の経営診断の業務に従事し、経営課題に対する助言を行えるようになる国家資格です。
ファイナンシャル・プランニング技能検定
ファイナンシャル・プランニング技能検定(FP技能士検定)は、金融、税制、保険、年金制度といった幅広い知識をもとに、ライフプラン実現に向けた資金計画を立てる、ファイナンシャルプランナーになるための国家資格です。3級、2級、1級の3つのレベルがあります。
AFP、CFP
AFPとCFPは、ファイナンシャルプランナーとしての専門知識や実践的な能力があるかを測る民間の検定です。CFPはAFPの上位資格となり、AFPは2級FP技能士検定、CFPは1級FP技能士検定と同程度の難度とされています。
ビジネス実務法務検定試験
ビジネス実務法務検定試験は、ビジネスに欠かせないコンプライアンス・法令順守のもととなる、実務的な法律知識を有することを認定する民間資格です。
労務管理で注意すべきこと
近年、終身雇用制度や年功序列制度といった日本型の雇用体系から、時代の変化に合った新たな雇用体系への転換が進んでいます。激変する時代の中で労務管理を行うには、下記のようなポイントに特に注意が必要です。
コンプライアンスを順守する
労務管理の仕事には、労働基準法をはじめとする法への理解が必要不可欠です。また、法令に定められていなくても、企業倫理や社会規範を守ることが求められます。法令に対する高い意識を持ち、法改正があった場合は迅速に対応できるように、常に情報を更新し続けましょう。
また、企業の信頼性を高めるため、コンプライアンスの重要性について社内に周知させることも重要です。
多様な働き方への対応
在宅勤務やテレワーク、副業・兼業など、働き方が多様化しています。従来どおりの労務管理では、こうしたさまざまな働き方に対応できない可能性もあります。「就業規則の内容を見直す」「新たな社内規程を策定する」など、働き方に合わせて労働環境を変化させていくことが大切です。
情報管理の徹底
労務管理では、従業員の個人情報をはじめとする重要な情報を扱います。取り扱う情報に関しては、管理体制を徹底し、万が一にも外部に漏れることのないように細心の注意を払わなければなりません。
また、最近は紙ではなくデータでの情報管理が主流になりつつあります。データの取り扱いに関するルールをしっかりと定めると同時に、セキュリティー機能が高い労務管理システムの導入なども検討するといいでしょう。
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この記事の監修税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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