注文書に印鑑は不要|押印の注意点
監修者:市川 裕子(ビジネスマナー監修)
2024/06/18更新
「注文書に押印は必須なの?」
「取引先との関係で、注文書に押印をした方がいいのかな?」
このような疑問やお悩みをお持ちではないでしょうか?
結論から申し上げますと、注文書に押印は手続き上必須ではありません。
また、取引先との関係でも、通常は注文書に押印されていないことは問題になりません。
注文書は、取引先に対して「〇〇を発注したい」という意思を伝えるものであり、当事者間で注文書のみで契約が成立すると合意する場合を除き、その行為で契約が成立することはなく義務が生じるわけではありません。
そのため、押印をしたことで「注文は自社が正式に決定した内容だ」ということを取引先に伝えることでトラブルを防ぐ効力は低く、手続き上でも必須ではないのです。
しかしながら、押印をすることはメリットもあり、業界の慣行や会社が置かれている状況に応じて、押印することが望ましいケースもあります。
そこで本記事では、押印について網羅的に解説し、「注文書に印鑑を押すかどうか?」を判断いただくお手伝いをします。以下を参照ください。
この記事でわかること
- 注文書に押印することが手続き上必須ではない理由
- 注文書に押印するメリット
- 注文書に押印をすべきか
以上に加えて、押印する場合の注意点などについても紹介していきます。
- 印鑑の種類や押す場所などの注意点
- 押印業務の労力を削減する方法
注文書に押印することは手続き上必須ではない
冒頭でもお伝えした通り、注文書に押印することは手続き上必須ではありません。
業界や企業によっては、注文書に押印することが慣行になっているケースもありますが、法令で「注文書に押印しなければならない」と定められているわけではありません。
そのため、注文書に押印がないことで注文が無効になることはなく、有効なものとして扱われます。
ではなぜ、注文書に押印は必須ではないのでしょうか。
そもそも、法人取引において押印は、「文書で記載している内容は、会社として適切な意思決定プロセスを経た上で決定している」ことを示すためのものです。
取引の相手方としては、会社として意思決定しているかどうかわからないと、「従業員が勝手に決めているかもしれない、取引後にトラブルになってしまうかもしれない」などのリスクが拭えず、安心して取引ができなくなってしまいます。
そのため、不動産取引など会社の財産を揺るがすような金銭的に高額な契約の場合には、押印することが必須になる一方、「注文書」は「〇〇を発注したいと思っている」と取引先に一方的に伝える内容であり、契約にもとづく権利義務を確定させる文書ではないため、押印することが求められていないのです。
以上の理由から、注文書に押印しなくても手続き上問題ではないのです。
注文書に押印することのメリット3つ
注文書に押印しなくても問題ありませんが、メリットとしては以下の3つがあります。
注文書に押印するメリット3つ
-
① 業界上押印が慣行である場合、取引先に対して信頼を示すことができる
-
② 取引先との将来的なトラブルを防ぐことができる
-
③ 社内の発注プロセス権限を管理することができる
それぞれのメリットについて本章で具体的に確認していただき、押印するか否か判断していきましょう。
注文書に押印するメリット①|取引先に対して信頼を示すことができる
業界の取引上、注文書に押印することが慣行である場合、押印することで取引先に信頼を示すことができるというメリットがあります。
例えば、建築業界の場合、注文書に押印することが一般的です。このような場合、押印することで、取引先に業界の慣行を理解していることを示し、信頼できる会社であることを伝えることができます。
特に、業界での取引実績がなく新規で取引を始めるような場合、取引先との信頼構築が重要になってきます。よってその場合は押印のメリットが大きいです。
注文書に押印するメリット②|取引先との将来的なトラブルを防ぐことができる
次に、注文書に押印することは、取引の相手方にとって、将来的なトラブルを防ぐことができるというメリットがあります。
例えば、A社の従業員の誰かが押印なしで勝手に注文書を発行しB社に送付しました。その従業員が退職後に、B社から商品と請求書が送られてきたとします。
この場合、A社とB社で「注文していない」「注文された」と意見が食い違いトラブルになるケースがあります。
ここで、注文書に押印があれば、たとえ従業員の勝手な判断であったとしても「誤って注文したのはA社の責任である」ことの立証となるため、トラブルになるリスクを抑えることができます。
このメリットは、特に注文を受ける取引の相手方にとって重要ですが、発注する側の企業としてもトラブル予防は取引先との長期的な信頼構築の上で重要となります。
注文書に押印するメリット③|社内の発注プロセスを管理することができる
印鑑を管理している責任者が注文書を最終チェックし、その上で印鑑を押す体制にすることで、発注のミスや不正を防ぐことができるメリットがあります。
注文書において、注文する商品・サービス内容や個数などを間違えてしまうと、取引先との間でトラブルになりますし、自社にとっても大きな損失になりかねません。
従業員の誰でも注文書が発行できる体制にするのではなく、最終工程として責任者がチェックし、発注をかけるというプロセスにすることで、そうしたミスを防ぐことができます。
印鑑がなくてもそのようなプロセスを構築することはできますが、印鑑を押す社内ルールにすることで、ルールを確実に実行することができます。
業界慣行がない場合、注文書への押印は廃止がおすすめ
以上のように、注文書に押印する場合のメリットを3つお伝えしていきました。ただし、業界上の慣行がある場合などの例外をのぞいては、基本的には注文書への押印は廃止がおすすめです。
押印することで取引先からの信頼を得たり、トラブルを防いだり、発注プロセスを管理するメリットがありますが、それらは「印鑑を押す」以外の方法でも実現できるからです。
印鑑を押す業務は時間がかかります。「印鑑を押す」行為だけに時間がかかるだけではありません。注文書には、担当者印ではなく社印を押すことが一般的ですが、この場合、以下のようなプロセスが必要になるため時間を要します。
押印プロセス例
- 印鑑を管理している場所から印鑑を取り出す
- 押印できる責任者に注文書を提出し、内容を確認いただき押印を依頼する
- 押印できる責任者が押印する(不在時は時間がかかる)
- 押印された文書が、注文書送付担当の元に戻る
発注先が多数の企業にまたがる場合や、押印できる責任者が不在がちな場合は特に時間がかかります。
そのため、
- 業界慣行上、注文書に押印することが求められる場合
- その中でも、取引実績のない会社が新規で取引する場合
- 高額な取引の場合
以上のような場合をのぞいては、注文書への押印の廃止がおすすめです。
注文書に押印する場合に知っておくべきこと
注文書への押印は廃止がおすすめですが、それでも押印が必要な場合は印鑑の種類や押印場所が気になるのではないでしょうか。
印鑑の種類については、どのような印鑑でも問題ありません。ただし、シャチハタ印を使用することは避けましょう。
また、押す場所については、自社の会社名・住所の箇所が一般的です。
印鑑の種類や押印場所について具体的に解説していきます。
印鑑の種類は何でも問題ない
法人の印鑑には、日常業務で頻繁に利用される「角印」と重要な手続きで利用される「実印」「銀行印」を含む「丸印」があります。
注文書においては、丸印・角印のうちどちらでも問題なく、印鑑によって効力の違いが生じるわけではありません。
注文書は重要な手続きではないため、「角印」を押すのが良いでしょう。
押す場所は自社の会社名・住所の箇所が一般的
印鑑を押す場所については基本的にはどの位置でも問題ありませんが、会社名・住所の箇所に押すことが一般的です。
収入印紙を貼る場合は割印する
注文書には原則収入印紙を貼る必要はありません。
しかしながら、例外的に収入印紙を貼る必要がある場合は収入印紙に割印をする必要があります。
収入印紙を貼る必要がある例外的な場合とは以下のようなケースです。
- 基本契約書上で、注文書の発行で契約が成立すると定めている場合
- 注文書上で、注文書で契約が成立すると定めている場合
通常、注文書の発行では契約が成立しませんが、このように注文書が契約書としての役割を果たす場合は収入印紙が必要になってきます。
また、以上のケースであっても電子契約である場合は収入印紙を貼る必要はありません。
印紙を貼る必要がある場合は以下のように割印をします。
まとめ
この記事では、注文書に印鑑を押すことが必要か?についてご説明しました。
最後に、本記事の内容をまとめます。
◎注文書に押印することは手続き上必須ではない
◎手続き上必須ではないが、注文書に押印することは3つのメリットがある
-
① 業界慣行上押印が一般的である場合、取引先に対して信頼を示すことができる
-
② 取引先との将来的なトラブルを防ぐことができる
-
③ 社内の発注プロセス権限を管理することができる
◎メリットはありますが、業界慣行がない場合は注文書への押印は廃止がおすすめ
本記事を参考にしていただきながら、ご自身の事業にとってベストな注文書作成方法をご判断ください。
この記事の監修者市川 裕子(ビジネスマナー監修)
マナーアドバイザー上級、秘書検定1級、ビジネス実務マナー、硬筆書写検定3級、毛筆書写検定2級、収納アドバイザー1級、など。 出版社や人材サービス会社での業務を経験。秘書業務経験よりビジネスマナーとコミュニケーションの重要性に着目し、資格・スキルを活かし、ビジネスマナーをはじめとする各種マナー研修や収納アドバイザー講師として活動。