青色申告特別控除とは?65万円控除の条件をわかりやすく解説

2023/08/10更新

この記事の監修税理士法人 MIRAI合同会計事務所

確定申告には「青色申告」と「白色申告」という2種類があり、青色申告には節税につながるさまざまなメリットがあります。青色申告では、30万円未満の減価償却資産や家族への給与を経費として計上できる他、「青色申告特別控除」を受けられます。青色申告特別控除は、所得から最大65万円の控除が受けられるというものです。
ここでは、青色申告特別控除を受けられる条件や節税効果について解説します。

青色申告特別控除とは?

所得税を納めるために所得を税務署へ申告する確定申告は、フリーランスや自営業をはじめとする個人事業主が必ず行わなければならないものです。確定申告には青色申告と白色申告があり、青色申告は白色申告に比べて多少手間がかかりますが、「青色申告特別控除」をはじめとした様々な節税のメリットがあります。

青色申告特別控除とは、最大65万円か55万円、あるいは10万円を所得から控除できる制度のこと。所得とは、事業で得られた売上から、仕入や人件費などの必要経費を引いた儲けのことです。所得税はその儲けから控除額を引いた「課税所得金額」に応じて課税される税金なので、控除額が大きいと課税される所得額を抑えることができ、大きな節税につながるのです。

65万円/55万円の青色申告特別控除を受けられる条件

青色申告をする場合、せっかくならより控除額が高い、最大65万円/55万円の青色申告特別控除を受けたいものです。しかし、この控除を受けるためには、以下に記載する条件を満たす必要があります。

(1)青色申告承認申請書を提出する

まず、青色申告を利用するためには「青色申告承認申請書」を提出しなければなりません。1月16日以降に新規開業した場合は、業務を開始して2か月以内に申請書を提出すると青色申告が利用できるようになります(開業が1月1日~1月15日の場合は3月15日が提出期限』。また、すでに事業を開始していた場合に「今年の収入から青色申告に切り替えたい」という場合は、その年の3月15日までに青色申告承認申請書を提出する必要があります。これから開業する人は、開業届とともに青色申告承認申請書を提出するといいでしょう。なお、期限日が土日祝日の場合は、これらの日の翌日が期限日となります。

青色申告承認申請書の提出期限
提出期限
新規開業 1月15日以前に開業 承認を受けようとする年の3月15日まで
1月16日以後に開業 業務を開始した日から2か月以内
白色申告から青色申告へ切り替え 承認を受けようとする年の3月15日まで
所得税の青色申告承認申請書

(2)事業所得か事業的規模の不動産所得がある

青色申告の対象者は「事業所得」「不動産所得」「山林所得」のいずれかがある個人事業主ですが、最大65万円/55万円の青色申告特別控除は「事業所得」もしくは「不動産所得」のある個人事業主のみが受けられます。「山林所得」の場合は10万円の控除となります。
ただし、不動産所得で青色申告特別控除を受ける場合、その内容が事業と呼べる規模であることが認められれば最大65万円/55万円控除が適用できます。目安としては、10部屋以上の貸与可能な室数があるアパートやマンション、もしくは5棟以上の貸与可能な戸建て物件を有している場合、「事業的規模である」と認められます。この要件を満たさない場合は10万円控除となります。

(3)複式簿記で記帳する

帳簿の記帳には「単式簿記」と「複式簿記」があり、青色申告特別控除を受けるためには複式簿記で記帳する必要があります。単式簿記とは、1回の取引に対し1つの科目に絞って収支を記録する単純な記帳方式です。例えば、科目を「現金」に絞って収支を記録しているおこづかい帳は、単式簿記で記帳されている帳簿です。
複式簿記は、1回の取引を複数の科目で記録する記帳方式です。
取引の流れを詳細に記録できるため、現金などに代表される財産の残高や収支を網羅的に記録することができます。最大65万円/55万円の控除を受けるためには多少手間のかかる記帳を行わなければなりませんが、確定申告ソフトなどを利用すると初心者でも問題なく対応することができます。

複式簿記の記帳例
4月1日にプリンタのインク3,000円を、現金で買った場合
日付 借方 貸方 摘要
20XX.4.1 消耗品費 3,000 現金 3,000 プリンタインク代

(4)現金主義ではないこと

青色申告特別控除を受けるためには、現金の動きがなくても、取引が発生した時点で記帳する発生主義の方式を採用する必要があります。現金の動きがあったタイミングで記帳し、仕訳する現金主義は利用できません。

(5)青色申告決算書(貸借対照表と損益計算書)を添付する

青色申告特別控除を受けるには、確定申告書類の他に「貸借対照表」と「損益計算書」を作成して添付することが求められます。

貸借対照表とは、簡単にいうと「年末などのある時点での事業の財政状態」を見ることができる財産目録のようなものです。資産だけでなく返済しなければならない負債などを記載したもので、事業の財務状況を把握するために用いられます。
損益計算書とは、一定期間の儲けを表す書類です。費用を何に使い、どれだけの売上が上がり、どれだけ儲かったのかが把握できる内容となっています。

これらは、自分自身で事業の状況を客観的に分析できるものなので、作成して損はありません。一見、難しいように見えますが、確定申告ソフトなどを利用すると比較的容易に作成することができます。

貸借対照表と損益計算書の詳細については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。

貸借対照表と損益計算書の違いとは?それぞれの役割と読み方を解説

(6)申告期限内に提出する

当たり前のことではありますが、確定申告の申告期限内に書類一式を提出しなければ、最大65万円/55万円の青色申告特別控除を受けることはできません。
提出期限は原則、毎年3月15日となっています。なお、3月15日が土日の場合は、翌月曜日が期限となります。期限を越えて提出した場合、書類に不備がなかったとしても受け入れられませんので注意が必要です。

(7)e-Taxによる申告(電子申告)または優良な電子帳簿保存を行う

最大55万円の控除を受けるには、上記で説明した要件を満たせば十分です。ただし、最大65万円控除の適用を受けるためには、こうした要件に加えてe-Taxによる申告(電子申告)または優良な電子帳簿保存を行っていることが必要となるためご注意ください。

e-Taxとは、インターネットを利用して国税に関する手続きを行えるシステムです。最大65万円の青色申告特別控除を受けるためには、自宅のパソコンやスマホなどからe-Taxを通して確定申告書や青色申告決算書などのデータを提出することになります。詳しくは「ネットで青色申告を提出するe-Taxのメリットと方法を解説」もご覧ください。

電子帳簿保存とは、一定の要件のもとで帳簿を電子データのまま保存できる制度のことです。2022年1月以降、国税関係帳簿の電子帳簿保存は「その他の電子帳簿」と最大65万円の特別控除を適用できる「優良な電子帳簿保存」の二種類になりました。税務署長の事前承認は不要になりました。

青色申告特別控除65万円控除の適用を受けるためには、優良な電子帳簿の要件を満たして電子データによる備付けおよび保存を行い、一定の事項を記載した届出書を法定申告期限までに提出することが必要です。

事前準備や保存要件を満たす環境などが必要な優良な電子帳簿保存よりもe-Taxでの申告の方が、最大65万円の青色申告特別控除を受けやすいと言えるでしょう。

【参考】
国税庁:[手続名]国税関係帳簿の電磁的記録等による保存等に係る65万円の青色申告特別控除・過少申告加算税の特例の適用を受ける旨の届出手続新規タブで開く

弥生の会計製品の場合、デスクトップアプリの「やよいの青色申告」「弥生会計」は優良な帳簿(一部除く)(※)の電磁的記録による保存に対応しています。クラウドアプリの「やよいの白色申告 オンライン」「やよいの青色申告 オンライン」はその他の帳簿の電磁的記録による保存に対応しています。

  • デスクトップアプリ「やよいの青色申告」「弥生会計」では、固定資産台帳は優良な帳簿の電磁的記録による保存には対応していません。また、過少申告加算税の5%軽減の適用は受けられません。

【参考】
弥生株式会社:電子帳簿保存法でやるべきことがわかる特設サイト

65万円の青色申告特別控除でどれくらい節税できる?

最大65万円の青色申告特別控除は節税につながりますが、具体的にどのくらいの金額を節約できるのでしょうか。税率や控除額は、課税所得金額ごとに変わります。最終的に納税額がどのくらい少なくなるのかは、計算すれば求められます。
課税所得金額は「課税所得金額=(収入-経費-青色申告特別控除)-所得控除額」で求められ、所得税額は課税所得金額に以下の税率を掛けて計算します。

課税所得金額ごとの税率と控除額
課税所得金額 税率 控除額
1,000円から1,949,000円まで 5% 0円
1,950,000円から3,299,000円まで 10% 97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで 20% 427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで 23% 636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで 33% 1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで 40% 2,796,000円
40,000,000円以上 45% 4,796,000円

出典:国税庁「所得税の税率 新規タブで開く

では、以下の条件であるAさんの所得税額が、控除のない白色申告をした場合と各種条件を満たして65万円控除のある青色申告をした場合で、どのくらいの差が生じるのか計算していきます。

Aさん 総収入 600万円 経費 200万円 医療費などの控除 80万円 白色申告の場合(特別控除なし) 課税所得金額 600万円-200万円-80万円=320万円 所得税額 320万円×10%-97,500円=22万2,500円 65万円の青色申告特別控除を受けた場合 課税所得金額 600万円-200万円-80万円-65万円=255万円 所得税額 255万円×10%-97,500円=15万7,500円 納税額を比較すると22万2,500円-15万7,500円青色申告の方が6万5,000円おトク!
  • 上記の図では、わかりやすくするために税額控除などは考慮していません

以上のように、特別控除のない白色申告の場合と、65万円の青色申告特別控除を利用した場合では、所得税額に6万5,000円もの差が発生することがわかります。
また、課税所得金額は、住民税や国民健康保険の算出にも関わるものなので、所得税だけでなく他の税金も節税できるというメリットがあります。個人事業主が青色申告をするとどれくらい納税額が少なくなるのかは、「個人事業主のかんたん税率計算」でシミュレーションできるので、試してみましょう。

10万円の青色申告特別控除を受ける場合

青色申告特別控除には10万円の控除もあり、これは条件を満たせず最大65万円/55万円の控除を受けられなかった場合に適用されます。例えば、単式簿記で記帳したり、貸借対照表を添付しなかったり、申告期限に遅れた場合は、最大10万円の控除となります。

青色申告特別控除で最大65万円か55万円、あるいは10万円のどれを利用するかは、確定申告時に自己申告する形となります。しかし、条件を満たさない内容で最大65万円/55万円の控除を自己申告すると、希望どおり控除を受けられない可能性があります。最大65万円/55万円の特別控除を受けたい場合は、条件に則って正しく申告することが重要です。

青色申告ソフトなら簿記や会計の知識がなくても青色申告できる

青色申告ソフトを使うことで、簿記や会計の知識がなくても青色申告することができます。

今すぐに始められて、初心者でもかんたんに使えるクラウド青色申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」から主な機能をご紹介します。

やよいの青色申告 オンライン」は初年度無料で使い始められ、無料期間中もすべての機能が使用できますので、気軽にお試しいただけます。

初心者にもわかりやすいシンプルで迷わず使えるデザイン

初心者にもわかりやすいシンプルなデザインで迷わず使うことができます。日付や金額などを入力するだけで、青色申告に必要な複式簿記の帳簿と貸借対照表などの書類が作成できます。

取引データの自動取込・自動仕訳で入力の手間を大幅に削減

銀行明細やクレジットカードなどの取引データ、レシートや領収書のスキャンデータやスマホで撮影したデータを取り込めば、AIが自動で仕訳を行います。これにより入力の手間と時間が大幅に削減できます。

確定申告書類を自動作成。e-Taxに対応で最大65万円の青色申告特別控除もスムースに

画面の案内に沿って入力していくだけで、確定申告書等の提出用書類が自動作成されます。青色申告特別控除の最大65万円/55万円の要件を満たした資料の用意もかんたんです。またインターネットを使って直接申告するe-Tax(電子申告)にも対応し、最大65万円の青色申告特別控除もスムースに受けられます。

自動集計されるレポートで経営状態がリアルタイムに把握できる

日々の取引データを入力しておくだけで、レポートが自動で集計されます。確定申告の時期にならなくても、事業に儲けが出ているのかリアルタイムで確認できますので、経営状況を把握して早めの判断を下すことができるようになります。

よくあるご質問

総所得金額等の合計金額が赤字の場合、青色申告の特別控除額はいくらになりますか?

総所得金額等の合計金額が赤字の場合、青色申告の特別控除額は「0円」になります。青色申告特別控除は、利益が生じた場合にのみ適用可能な制度で、赤字の場合にはその節税効果を発揮しません。
確定申告書には、マイナス(△)と記入しましょう。なお、青色申告の場合、3年間赤字の繰越ができます。もし翌年に黒字が出た場合は、赤字と相殺して課税所得を下げられるので節税になります。その場合、確定申告書第四表を使用します。書類は国税庁のホームページでダウンロードできますので、チェックしてみてください。

青色申告特別控除はどこから65万円を引く仕組みなんですか?

青色申告特別控除は事業や不動産などの売り上げから仕入や経費などを差し引いた所得金額から、さらに65万円を引く仕組みになっています。青色申告特別控除を適用することで、最大65万円分所得金額を少なくすることができます。結果的に課税される所得金額が下がるので、節税に繋がります。なお、白色申告には特別控除はありませんので注意しましょう。

青色申告特別控除を受けると住民税も節税できますか?

結論から言うと、青色申告特別控除を適用できると住民税も節税できます。最大65万円の青色申告特別控除を受けた場合、65,000円の住民税が節税できます。住民税も所得税と同様に「課税所得」に応じて計算します。現行の住民税は課税所得の10%なので、青色申告特別控除65万円は、住民税65,000円の節税に繋がるのです。

サラリーマン(会社員)や副業でも青色申告特別控除は適用できますか?

サラリーマン(会社員)や副業でも青色申告特別控除は適用できますが、さまざまな条件があります。申告できる所得の種類は「事業所得」「不動産所得」「山林所得」の3種類のみです。片手間として副業をしている場合、多くのケースで雑所得として認定されるので、青色申告はできません。副業が事業所得として認められるためには「継続性があり相応の人力や設備を投資している」という前提があります。そのため、会社員の副業で得た収入は、基本的に青色申告にも青色申告特別控除の対象にはなりません。ただし、副業としてアパートやマンションの家賃収入などの不動産所得がある会社員は、青色申告を利用することができますので、一度税務署に聞いてみることをおすすめします。

この記事の監修税理士法人 MIRAI合同会計事務所

四谷と国分寺にオフィスのある税理士法人。税理士、社会保険労務士、行政書士等が在籍し確定申告の様々なご相談に対応可能。開業、法人設立の実績多数。
「知りたい!」を最優先に、一緒に問題点を紐解き未来に向けた会計をご提案。

初心者事業のお悩み解決

日々の業務に役立つ弥生のオリジナルコンテンツや、事業を開始・継続するためのサポートツールを無料でお届けします。

  • お役立ち情報

    正しい基礎知識や法令改正の最新情報を専門家がわかりやすくご紹介します。

  • 無料のお役立ちツール

    会社設立や税理士紹介などを弥生が無料でサポートします。

  • 虎の巻

    個人事業主・法人の基本業務をまとめた、シンプルガイドです。

事業のお悩み解決はこちら