【電子帳簿保存法】電子保存義務化の猶予は2023年12月!
2023/03/15更新

この記事の監修辻・本郷 税理士法人/辻・本郷ITコンサルティング
2022年1月より施行された改正電子帳簿保存法によって、電子化の要件が大幅に緩和されると同時に、電子取引における電子データ保存が義務化されました。ただし、このうち電子取引の電子データ保存に関しては、2023年12月までの猶予期間が設けられています。事業規模を問わず、電子取引を行っているすべての事業者は、2年間の猶予期間が終わるまでに必要な対策をとらなければなりません。
ここでは、電子帳簿保存法の改正内容と「電子取引の電子保存」が何を指すのか、猶予期間の間に事業者がとるべき対策について解説します。
電子帳簿保存法の猶予とは?
電子帳簿保存法は、国税関係(法人税法や所得税法)の帳簿や書類を電磁的記録(電子データ)で保存することを認める法律です。2022年1月に電子帳簿保存法の改正が施行され、書類の電子保存を進めるための抜本的な要件緩和が行われました。
特に改正電子帳簿保存法の大きなポイントの一つは、電子取引における電子データ保存の義務化です。これは、2022年1月からは、「電子取引でやりとりした書類は、データのまま保存しなければならない」とする制度で、電子メールやオンライン上で受け取った領収書や請求書などを紙で保存することを禁止するものです。
例えば、メール添付で請求書などのPDFファイルを受け取ったり、クレジットカードや交通系IC系カードの利用明細をインターネット上でダウンロードしたり、インターネットショッピングで備品を購入したりすることも、電子取引に該当します。これらの電子取引に伴って電子発行された書類は、一定の要件を満たした電子データで保存しなければなりません。
ただし、この電子保存に関しては、経過措置として、2023年12月末までは従来どおり紙での保存も認められます。つまり、改正電子帳簿保存法のうち、電子取引のデータ保存についてのみ、施行から2年間の猶予期間が設けられたということです。
本記事で解説する電子保存義務化の猶予(宥恕)は、この電子取引における電子保存に関するものです。この電子帳簿保存法の猶予は、正確には「猶予」ではなく「宥恕(ゆうじょ)」です。猶予とは実行時期を先に延ばすことですが、宥恕は「大目に見て許す」といった意味になります。「電子保存への対応が難しい場合は2年間に限り大目に見てもらえる」というだけで、義務そのものは2022年1月1日の改正法施行と共に発生している点に注意しましょう。
なお、令和5年度税制改正大綱において、電子帳簿保存法での電子取引の電子データ保存に関して、二つの改正が示されています。
- ①
電子取引の電子データを電子帳簿保存法の要件に従って保存できなかったことについて「相当の理由がある」場合には、電子データの出力書面を保存しておくなどの条件を満たしたうえで、他の要件を満たさずに電子データを保存することができる
- ②
電子取引の電子データの出力書面を取引年月日等及び取引先ごとに整理・保存するなどの要件を満たしたうえで、検索機能なしに電子データの保存を可能とする。※電子帳簿保存法の他の要件を満たす必要はあります。
いずれも2024年(平成6年)1月1日以後に保存が行われる電子取引に関してのものです。②の条件は示されております。①は、条件は明示されているものの「相当の理由がある」がどのような場合が該当するかについては、現時点では、必ずしも明らかではありません。そのため、税制改正が可決され、詳細情報が公開された段階で、本記事を更新予定です。
いずれにしろ、法人・個人事業主にかかわらず、電子データで受領した領収書や請求書は、電子データとして保存することが必須になります。
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電子帳簿保存法の宥恕の背景
電子取引における電子データ保存の義務化によって、それまでデータで受け取った請求書や領収書などを紙に出力して保存していた事業者は、書類管理体制の大幅な見直しを迫られました。さらに、電子データを保存する際には、さまざまな要件を満たす必要があります。そのため、特に中小企業や個人事業主などから「準備が間に合わない」との声が多くあがり、「令和4年度税制改正」で電子発行の書類保存についての宥恕措置が盛り込まれました。
宥恕が認められるのは、「税務署が認めるやむを得ない事情がある」かつ「保存すべき電子データを書面で出力し、税務調査等の際に提示できるようにしておく」という2つの条件を満たした場合です。なお、やむを得ない事情や出力された書面については、必要に応じて税務調査などで確認することになっており、税務署への事前申請は不要です。
この宥恕は、あくまで2023年12月31日までの経過措置です。2024年1月1日以降は認められないため、すべての事業者が電子取引情報の電子保存に対応する必要があります。
改正電子帳簿保存法の目的
電子帳簿保存法が改正され、会計帳簿や証憑類を紙ではなく、電子データとして保存することが認められるようになりました。電子データとは、メールで取引情報を送受信するだけではなく、Web上での領収書などの発行、FAX、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換サービス)による取引など、さまざまな方法が含まれます。
電子取引の保存要件
電子帳簿等保存の区分では、電子データの保存について下記の5つの保存要件を満たすことが求められています。
- 訂正・削除履歴の確保
- 相互関連性の確保
- 関係書類等の備付け
- 見読可視性の確保
- 検索機能の確保
電子帳簿の保存要件の概要は、下記のとおりです。
電子帳簿の保存要件の概要

- ※ 国税庁「電子帳簿保存法が改正されました
」
電子帳簿保存法の改正には、主に次のような目的があります。
経理業務のペーパーレス化
紙による書類の保存は、整理・ファイリングの手間や保管スペースのコスト負担などを伴います。改正電子帳簿保存法では、書類の電子保存を進めるための大幅な要件緩和が行われました。これまで以上に経理業務のペーパーレス化が進み、紙や保存スペースの削減につながります。
セキュリティ強化
改正電子帳簿保存法によってペーパーレス化が進むと、書類の紛失や盗難といったリスクが軽減します。セキュリティレベルの高いクラウドサービスなどを活用することで、情報漏洩を防ぐこともできるでしょう。さらに、電子化に伴って社内ルールの設定やセキュリティ教育の実施などを行うことで、自ずとセキュリティが強化されます。
働き方改革、DX化の推進
近年では、テレワークやフレックスタイム制など働き方が多様化しています。いわゆるはんこ文化からの脱却や、企業活動のDX化を後押しすることも、改正電子帳簿保存法の目的の1つです。
また、書類の電子化によって人的ミスが減少し、税務調査や会計監査などの時間短縮にもつながります。
電子帳簿保存法の改正点
改正電子帳簿保存法では、前述した電子取引情報の電子保存以外にも、さまざまな変更点がありました。改正されたポイントは次のとおりです。
事前承認制度の廃止
帳簿や証票書類を電子的に保存するには、原則的に保存しようとする時期の3か月前までに税務署に所定の書類を届け出る必要がありましたが、改正によって、2022年1月から事前承認制度が廃止されました。事前準備や申請の必要がなくなって作業時間や手間が削減され、電子帳簿保存を導入しやすくなりました。
タイムスタンプ要件の緩和
タイムスタンプとは、その電子データがある時刻に存在していたこと、それ以降改ざんされていないことを証明する仕組みのことです。これまでは国税関係書類をスキャナ保存する場合、受領者の自署と3営業日以内のタイムスタンプ付与が必要でしたが、法改正によってタイムスタンプの付与期間が最長約2か月まで延長され、自署も不要になりました。
また、データの訂正や削除の履歴が残る(または訂正や削除ができない)システムに保存していれば、タイムスタンプの付与も必要ありません。
検索要件の緩和
これまでは、取引年月日や勘定科目、取引金額など、国税関係書類の種類に応じた主要な項目を検索要件として設定する必要のほか、「2つ以上の任意の項目を組み合わせて検索できる」などの条件もありました。
しかし、今回の改正によって、検索要件の記録項目は取引年月日・取引金額・取引先のみに。また、税務職員による電磁的記録のダウンロードの求めに応じられる場合には、範囲指定と項目を組み合わせて条件を設定できる機能を確保する必要がなくなりました。
適正事務処理要件の廃止
国税関係書類をスキャナ保存する場合は、不正防止の観点から、事務処理を2人以上で行うなどの相互牽制や定期的な検査のほか、定期検査でのスキャンデータと紙の照合、検査完了まで紙の原本保管が必要でした。
改正後は、このような相互チェックや定期検査を廃止し、スキャナ保存が行いやすくなっています。
電子取引における書面による保存の廃止
電子取引に該当するデータについてはこれまでも原則として電子データ保存が必要とされていましたが、書面出力での保存も認められていました。しかし、改正電子帳簿保存法が施行された2022年1月1日以降に行われる電子取引については、紙での保存が禁止され、すべての事業者に電子データによる保存が義務付けられました。
ただし、2023年12月末までは宥恕期間となり、一定の要件下で、これまでどおり出力した書面での保存も認められます。
不正に対する罰則の強化
要件緩和によって電子帳簿保存を導入しやすくなる一方で、不正に対する罰則は強化されます。電子データの記録に改ざん等があった場合、通常課される重加算税の額に、さらに10%の金額が加算されます。
また、猶予期間を超えても電子取引の電子データ保存義務化に対応していない場合、青色申告の承認が取り消される可能性があります。
電子帳簿保存法の対象文書
電子帳簿保存法の対象となるのは、「国税関係帳簿」「国税関係書類」「電子取引」の3種類です。これらの書類のうち、電子取引の電子保存が改正電子帳簿保存法によって義務化されます。それぞれの書類がどのようなものなのかを確認しておきましょう。
電子帳簿保存法の対象となる文書

国税関係帳簿
国税関係帳簿とは、法人税法や所得税法など、国税に関わる法律によって保存が義務付けられている帳簿のことをいいます。仕訳帳や総勘定元帳、売掛帳、買掛帳、現金出納帳、固定資産台帳などが該当します。
国税関係書類
決算関係書類と取引関係書類を、まとめて国税関係書類と呼びます。決算関係書類には貸借対照表や損益計算書、試算表、棚卸表などが、取引関係書類には請求書、見積書、納品書、注文書、領収書などが挙げられます。請求書などの取引関係書類は、相手先から受領したものと自身が発行した控えの両方が対象となります。
電子取引
電子取引とは、書面ではなく電子データでやりとりされる取引情報の記載事項すべてのことです。取引に関する請求書、見積書、納品書、注文書、領収書などの書類を、電子メールやEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換サービス)、クラウドサービス等によって受け取ったり送付したりすることが電子取引にあたります。
電子帳簿保存法の電子取引の宥恕期間中に行うべきことは?
電子取引における電子データ保存義務化の宥恕期間は、2023年12月までです。たとえ準備不足でも、2024年1月1日からは、すべての事業者が電子取引の保存に対応しなければなりません。宥恕期間のうちにとるべき対策を、順番に見ていきましょう。
1. 自社の現状を確認する
まずは、自社が現在どのような形で書類を保存しているかを把握することが大切です。各種書類を紙とデータのどちらで保存しているか、データならどのような形式かといった現状を整理します。そのうえで、自社における電子取引を確認します。特に、立替経費や交通費のICカードによる支払データなどには注意が必要です。
2. データの保存方法を確定する
電子取引に該当するデータを把握したら、それぞれに適したデータの保存方法を検討します。電子取引を保存するうえでは、「真実性の確保」と「可視性の確保」という2つの要件を満たす必要があります。
2つの要件には、それぞれ下記の目的があります。
- 真実性の確保:保存されたデータが改ざんされていないことを証明できること
- 可視性の確保:保存されたデータを検索・表示できること
データの訂正・削除の履歴が残るシステムや検索機能に対応したソフトの導入など、真実性の確保と可視性の確保を備えた保存方法を決めましょう。
3. データの保存場所を確定する
保存した電子データは、必要に応じていつでも内容の参照や印刷ができるように整理されていなければなりません。部署ごとに違う場所や方法で保管することのないように、データの保存場所をきちんと決めると同時に、万が一のデータ破損などを防ぐため、バックアップ体制を構築しておくことも大切です。
4. 承認や業務のフローを確定する
要件を満たした電子保存を確実に行うには、業務フローの見直しも必要です。データの保存方法ばかりに着目して承認や業務フローのデジタル化が遅れると、改正電子帳簿保存法への対応が難しくなってしまう可能性があります。電子帳簿保存に伴う社内ルールを設定し、適切に運用していくようにしましょう。
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Webサイト:https://www.ht-tax.or.jp

この記事の監修辻・本郷ITコンサルティング
国内最大級の税理士法人である辻・本郷 税理士法人のグループ会社として2014年に創業。実践した数多くのDX化ノウハウをグループ内外に展開。バックオフィスに課題を抱える組織のコンサルティングから導入までをワンストップで行う。電子帳簿保存法やインボイス制度対応等、最新のコンサルティング事例にも精通。「無数の選択肢から、より良い決断に導く」をミッションとし、情報が多すぎる現代において、お客様にとっての「より良い」を見つけるパートナーを目指す。
