電子帳簿保存法の「検索機能の確保」とは?正しい保存方法を解説
監修者:小林祐士(税理士法人フォース)
2024/05/08更新
電子帳簿保存法では、国税関係の帳簿や書類を電子データとして保存する際、一定の検索機能を持たせるよう定められています。具体的には、保存したデータを「取引年月日その他の日付」「取引金額」「取引先」で検索できる状態にすることを指します。
ここでは、特に電子帳簿保存法において完全義務化されている「電子取引のデータ保存」の検索機能について、詳しい要件や対応するための方法を解説します。
電子取引のデータ保存は、2024年1月1日から完全義務化されているため、検索機能についても対応しなくてはなりません。本記事を参考に、自社に合った方法で書類の保存を行ってください。
電子取引のデータ保存とは?
電子帳簿保存法では、2024年1月1日以後は電子取引を通じて授受した取引書類のデータ保存が完全義務化されました。
電子帳簿保存法には「国税関係帳簿書類の電磁的記録による保存(電子帳簿等保存)」「スキャナ保存」「電子取引のデータ保存」の3つの区分があり、それぞれ対象となる書類や保存要件が異なります。このうち、完全義務化されているのは電子取引のデータ保存のみで、電子帳簿等保存とスキャナ保存への対応は任意です。
そのため、ここでは特に電子取引のデータ保存を行う際の検索要件について解説していきます。
電子帳簿保存法の対象となる書類・データ
上記は、電子帳簿保存法の対象となる書類・データの一覧です。この中で、右の赤枠で囲んだ部分が電子取引のデータ保存の対象書類です。
「電子取引」とは、請求書や見積書、領収書などの取引関係書類をデータでやりとりすることです。例えば、メールにPDFの請求書が添付されて送られてきた場合などが該当します。データで受け取った取引関係書類は、電子帳簿保存法が定める電子取引のデータ保存の要件を満たす形で、データのまま保存しなければなりません。
なお、電子メールの本文に通常請求書や領収書などの取引関係書類に記載される内容が書かれていた場合も、電子取引に該当します。要件を満たす形で、メールを保存してください。
電子帳簿保存法の対象者
電子帳簿保存法の対象者は、国税関係書類を保存しなければならないほぼすべての事業者です。法人も個人事業主も、事業規模を問わず対応しなければなりません。
なお、2022年以後、前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える人も、請求書や領収書といった現金預金取引等関係書類の保存が必要です。電子取引の場合はデータで保存する必要があります。紙で受け取った請求書や領収書などは、紙のままファイリングして保存してかまいません。
検索機能の確保は電子取引のデータ保存の要件の1つ
電子取引のデータ保存をする際は、「真実性の確保」と「可視性の確保」の2つの要件を満たさなければなりません。検索機能は、可視性を確保するための要件の1つです。
電子データの真実性・可視性を確保する要件
検索機能を確保する3つの要件
電子帳簿保存法では、保存する電子データのファイル名に規則性を持たせることが定められています。具体的には下記の3つの要件が設けられており、「検索機能の確保」と呼ばれています。
検索機能を確保するための3つの要件
これらの要件を満たすには、下記の3つの方法が有効です。自社に合った方法で対応しましょう。
規則的なファイル名を付ける
ファイル名に「取引年月日」「取引金額」「取引先名」を含めると、検索条件を満たせるようになります。名付けルールは社内で統一する必要があるため、ルールを定めて社員に周知してください。
なお、取引年月日は、和暦でも西暦でもかまいません。また、取引金額は帳簿に記した金額と揃えます。
なお、必須ではありませんが、書類の種類もファイル名に含めておくと、ひとめでどのような書類かがわかって便利です。
記入項目 | ファイル名の例 |
---|---|
取引年月日_取引先名_取引金額_書類の種類 |
|
Excelなどで検索簿を作成する
Excelなどの表計算ソフトで索引簿を作ると、ファイル名の検索がしやすくなります。表計算ソフトの機能をうまく活用すれば、範囲指定検索や2つ以上の項目を組み合わせた検索も可能です。
さまざまな方法で検索ができるようにしておきたい場合は、検索簿の作成を検討してみましょう。
下記のような表を作成して、連番をファイル名に指定して保存します。
連番 | 取引年月日 | 取引先名 | 取引金額 | 書類 |
---|---|---|---|---|
1 | 2024年1月30日 | 株式会社弥生工務店 | 420,000円 | 見積書 |
2 | 2024年2月2日 | 弥生文具店 | 12,000円 | 領収書 |
3 | 2024年3月15日 | 弥生商事株式会社 | 250,000円 | 領収書 |
ただし、索引簿は手入力などで作成することになるため、連番と内容がずれてしまったり、入力ミスがあったりすると、正しい検索ができません。
また、件数が多い場合、ファイルが重くなってしまったり、検索に時間がかかったりする可能性があります。入力自体にも一定の手間がかかります。この方法は、処理する書類の数があまり多くない事業者向きの方法です。
検索機能があるシステムを利用する
検索機能があるシステムを利用して書類を保存すると、日付や金額、取引先などのほか、範囲指定検索や複数項目での検索などにも容易に対応できます。電子帳簿保存法の要件を満たせるだけでなく、検索したい項目で検索をかけることも可能です。システム的に書類を管理することで、業務効率化も図れるでしょう。
真実性の確保
真実性の確保とは、保存した電子データが改ざんされていないことを証明するために満たさなければならない要件です。
故意やミスによってデータが改変されてしまうと、保存した書類の信用が失われてしまいます。真実性の確保のために、事業者は以下のいずれかの要件を満たさなければなりません。
電子データの真実性を確保する要件
-
(1)タイムスタンプを付した後で授受する
-
(2)授受後、速やかにタイムスタンプを付す
-
(3)訂正や削除を確認できるシステム、または訂正や削除ができないシステムの導入
-
(4)訂正や削除の防止に関する事務処理規程を定めて備え付け、それに沿った運用を行う
真実性の確保の要件は、上記の4つのうちどれか1つのみ満たせばよいとされています。
例えば、(4)の事務処理規程の作成と備え付け・運用は、システム導入なしで社内で対応できる方法です。国税庁の「参考資料(各種規程等のサンプル)」を参考に、自社の業務フローに合った規程を作成して、それに沿って業務を進めてください。弥生製品をお使いであれば、「スマート証憑管理」というサービスを利用することで(3)の措置に該当し、真実性の確保が満たせます。
システムの導入と社内での対応のどちらが良いかは、事業規模や保存する書類の量などによって変わるでしょう。
可視性の確保
可視性の確保は、データで保存した書類をいつでも必要に応じて閲覧できるようにするための要件です。可視性を確保するためには、原則として下記の要件をすべて満たさなければなりません。真実性の確保はどれか1つを選択できますが、可視性の確保はすべてに対応する点に注意してください。
検索機能の確保も「可視性の確保」要件の一つです。
電子データの可視性を確保する要件
- 保存場所に、電子計算機(パソコンなど)、プログラム、ディスプレイ、プリンターおよびこれらの操作マニュアルを備え付け、画面・書式に整然とした形式および明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと
- 電子計算機処理システムの概要書を備え付けること
- 検索機能を確保すること
ただし、システムの概要書の備え付けは、自社で開発したシステムなどを利用して書類を保存する場合にのみ該当します。それ以外の場合は必要ありません。
電子取引のデータ保存の要件を満たさなくてもよい場合
電子取引のデータ保存は、一定の条件を満たす事業者であればすべての要件を満たさなくてもよい場合があります。電子取引のデータ保存の要件が不要になる条件は下記のとおりです。
ダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合に「検索機能」のすべてが不要 | (下記のいずれかに該当する事業者)
|
---|---|
電子データの保存時に満たすべきすべての要件が不要 | (下記のすべてに該当する事業者)
|
検索機能のすべてが不要になる事業者は、前々年(前々事業年度)の売上高が5,000万円以下、または、電子取引の書類を印刷して、整理された状態で提示・提出できる事業者です。どちらか1つを満たせば、検索要件は満たさなくても問題ありません。
ただし、印刷して整理した状態で保管してあったとしても、データを破棄してよいわけではありません。ダウンロードの求めに応じられるように、データ自体も管理・保存しておく必要があります。また、真実性の確保やディスプレイ、プリンターの備え付けなどは必要です。
一方、電子取引のデータ保存に関するすべての要件が免除されるのは、要件を満たした保存ができない相当の理由があると税務署長に認められることと、ダウンロードの求めおよび印刷書面の提示・提出に応じられることの両方を満たす事業者です。
なお、相当の理由は、「電子帳簿保存法の改正に対応するための人手が不足している」「対応できるシステムの選定に時間がかかり対応できていない」といったケースが考えられます。
とはいえ、すべての要件の免除はあくまでも猶予措置ですから、早めに対応できるように体制を整えていく必要があるでしょう。
また、検索性の確保は書類の管理という意味で重要な意味を持ちます。必要な書類を必要なときにすぐに検索して見つけられるようにしておくことで、書類を探す時間をなくし、効率良く業務を進められます。検索機能のあるシステムの導入や、検索しやすいファイル名の付け方のルールを定めるといった対応をとっておくことが大切です。
下記の図は、電子取引のデータ保存の猶予措置について、自社が対象となるかどうかを確かめることができるチャートです。自社がどのケースに当てはまるかを確認してみてください。
電子取引のデータ保存の猶予措置に関するチャート
電子帳簿保存法に則って電子データを保存する際のフォルダ分けの方法
電子帳簿保存法に則って電子データを保存する際の保存場所やフォルダ分けについては、特に決まりはありません。ただし、電子取引のデータ保存では、電子データを必要に応じてすぐに取り出せるようにしておく必要があります。そのため、適宜フォルダ分けを行ってファイルを整理しておくとよいでしょう。
一例として、下記のように取引先別に書類のフォルダを作成して保存するといった方法が考えられます。
フォルダ分けの例
1つの案件のフォルダを1年分まとめておくことで、書類の保存期間が経過したかどうかがひとめでわかります。一般的な法人は基本的に取引関係書類を7年間保存する必要があるため、年別のフォルダを作成して、年ごとに管理できるようにしておくのがおすすめです。
上記の例では、さらに、取引先、書類の種類別にフォルダを作成しています。取引先別のフォルダを作ることで、それぞれの企業の取引状況をまとめて確認が可能となります。先方から受け取った書類と、自社から発行した書類の控え、それぞれについてフォルダを作成して管理しましょう。
なお、電子取引を通じて授受した電子データは、紙の書類と同様、一定期間保存する必要があります。
書類の保存期間についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
電子取引のデータ保存に則った書類保存を楽にするにはシステムの導入がおすすめ
電子取引のデータ保存では、要件の「可視性の確保」の中で検索機能を持たせなければならないと定めています。
検索機能の確保は、ファイル名などを工夫して対応することが可能です。なお、その場合はしっかり運用ルールを定めましょう。
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この記事の監修者小林祐士(税理士法人フォース)
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