インボイス制度が貿易業者に与える影響とは?輸入・輸出のケース別に解説
2024/02/02更新
貿易業者はインボイス制度に対応する必要があるのか、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。輸入取引・輸出取引のそれぞれで影響が異なるため、違いを理解しておくことが大切です。ここではインボイス制度導入による貿易業者への影響について、具体例を交えて解説します。
インボイス制度とは?
インボイス(適格請求書、以下インボイスで統一)とは、一定の記載要件を満たした請求書や領収書などを指します。現行の区分記載請求書等保存方式に基づく請求書や領収書に追記が必要な情報は、以下のとおりです。
- 適格請求書発行事業者の登録番号
- 税率ごとに区分した合計額および適用税率(税抜もしくは税込)
- 税率ごとに合計した消費税額等
インボイス制度導入の目的は、事業者が行う取引における消費税率と消費税額を正しく計算することです。商品やサービスを提供する事業者(売手側)は、インボイス制度のしくみや影響についてよく理解したうえで、どのように対応するか検討しなければなりません。
インボイス制度の基本的なしくみについて、こちらの記事で解説しています。
インボイス制度は2023年(令和5年)10月1日から導入されました。2023年12月時点において登録完了の通知を受け取れるまでにかかる期間の目安は、以下のとおりです。
- e-Taxによる提出:約1か月
- 書面による提出:約1.5か月
インボイス制度の開始にあわせて知っておきたい消費税の知識について、こちらの記事で解説しています。
免税事業者と課税事業者の違い
免税事業者と課税事業者には、以下のような違いがあります。
区分 | 納税の有無 | 要件 |
---|---|---|
課税事業者 | 消費税を納める必要がある |
|
免税事業者 | 消費税の納税義務が免除されている | 上記の課税事業者の条件に当てはまらない場合 |
基準期間・特定期間における課税売上高が1,000万円以下の事業者は「免税事業者」です。一方、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える事業者は「課税事業者」となります。課税事業者は消費税の確定申告と納税が必要となるため、金銭的なコストや事務作業の負担が増加します。
貿易業者はインボイス制度への対応が必要?
インボイス制度導入の目的は、事業者が行う取引における消費税率と消費税額を正しく計算することです。事業者はインボイス制度導入の影響について把握しておく必要があります。なお、適格請求書発行事業者の登録は任意です。自社が受ける影響を踏まえて、インボイス制度への対応を検討しましょう。
貿易業者へのインボイス制度導入の影響
インボイス制度が貿易業者(売手側)に与える主な影響は、以下の3つです。
- 開業したばかりでも適格請求書発行事業者であれば納税義務あり
- インボイスを交付する場合は適格請求書発行事業者への登録が必要
- 免税事業者の貿易業者(売手側)と取引すると事業者(買手側)は仕入税額控除ができない
それぞれ順番に解説します。
インボイス制度に関する会計や請求書のシステムについて、こちらの記事で解説しています。
開業したばかりでも適格請求書発行事業者であれば納税義務あり
以下の条件を満たす事業者は、原則として1期目の消費税が免除されます。
- 新たに開業したばかりの個人事業主
- 資本金1,000万円未満で新規の法人設立
- 資本金1,000万円未満で個人事業主から法人化
しかし、適格請求書発行事業者の登録を受けられるのは、消費税の課税事業者のみです。適格請求書発行事業者に登録することで、基準期間・特定期間の課税売上高にかかわらず1期目から納税が必要となるため、消費税分の収入が減少します。消費税の納税によって事業の資金繰りにどれくらいの影響があるか、事前に計算しておくことが重要です。
インボイスを交付する場合は適格請求書発行事業者への登録が必要
インボイスを交付できるのは、適格請求書発行事業者の登録を受けた事業者のみです。事前の登録が必要で、どのような事業者でも自由に発行できる書類ではありません。適格請求書発行事業者の登録を受けるためには、所定の方法で登録申請書を提出します。
適格請求書発行事業者に登録する手順について、こちらの記事で解説しています。
免税事業者の貿易業者(売手側)と取引すると事業者(買手側)は仕入税額控除ができない
免税事業者の貿易業者(売手側)と取引すると、事業者(買手側)は仕入税額控除ができず納税額が増加します。貿易業者(売手側)は免税事業者のままでも事業を継続できる一方、事業者(買手側)から取引条件の見直しを打診される可能性もあるでしょう。
ただし、買手側の立場を利用した取引条件の一方的な変更は、独占禁止法に違反する可能性があります。政府や関係機関は、法令違反にあたる交渉を持ちかけないよう、買手側にアナウンスしています。
【具体例】インボイス制度導入による貿易業者の仕事への影響|海外との違いは?
貿易業者の仕事には、以下のような例が考えられます。
- 海外事業者(買手側)への輸出取引(輸出免税制度の取引を含む)
- 海外事業者(売手側)からの輸入取引(例:海外仕入れなど)
仕入税額控除には「課税仕入れに係る消費税額」と「課税貨物に係る消費税額(輸入消費税)」の2つがあります。インボイス制度との関連はそれぞれ以下のとおりです。
課税仕入れに係る消費税額 | 課税貨物に係る消費税額(輸入消費税) | |
---|---|---|
インボイス制度との関連 | 仕入税額控除の適用を受けるためにインボイスが必要 | 仕入税額控除にインボイスは必要なし |
この章では、具体例ごとにインボイス制度導入による影響について解説します。なお貿易に関する消費税の取り扱いの詳細は、個別の案件ごとに確認してください。
海外事業者(買手側)への輸出取引(輸出免税制度の取引を含む)
海外事業者(買手側)へ自社(売手側)から商品を輸出するケースです。輸出取引では、原則として自社(売手側)にインボイスを交付する義務はありません。ただし、国外事業者との取引であっても輸出取引等に該当しない場合には、インボイスの交付義務が発生するケースがあります。
海外事業者(売手側)からの輸入取引(例:海外仕入れなど)
国外取引での輸入であれば消費税が課税されないため、自社(買手側)はインボイスの交付を受ける必要がありません。一方、国内取引に該当する場合は原則として消費税が課税されるため、仕入税額控除の適用を受けるには取引先(売手側)からインボイスの交付を受ける必要があります。
ただし、上記の取引とは別に保税地域から貨物を引き取る「輸入取引」に該当する場合は、インボイスと同等の役割をもつのが「輸入許可通知書」です。自社(買手側)は輸入許可通知書を用いて仕入税額控除の適用を受けられます。
貿易業者がインボイス制度に対応する際によくある質問
インボイス制度導入によって海外事業者(買手側)に送付する請求書に変更点はある?
海外事業者(買手側)に輸出するときは、自社(売手側)から請求書を発行します。原則として輸出取引では、自社(売手側)から事業者(買手側)にインボイスを交付する義務はありません。
インボイス制度の導入国は?
アメリカを除くOECD諸国では、原則としてインボイス制度が導入されています。ただし共通の制度ではないため、海外のインボイス制度と日本の仕入税額控除に関連はありません。
インボイス制度に特例措置はある?
インボイス制度には「2割特例」と呼ばれる特例制度が設けられています。免税事業者から適格請求書発行事業者になった場合の税負担や事務負担を軽減するため、消費税の納税額を売上税額の2割にできます。2割特例を適用できる期間は、以下の範囲に属する各課税期間です。
- 開始:2023年(令和5年)10月1日
- 終了:2026年(令和8年)9月30日
2割特例の適用を受けるために事前登録や申請は必要なく、消費税の確定申告の際に追記するのみで手続きが完了します。ただし貿易業の場合は業態によって原則課税で申告するほうが得になるケースがあるため、個別の事例ごとに判断が必要です。
貿易業者としての収入が1,000万円以下でも適格請求書発行事業者登録が必要?
基準期間と特定期間の両方で課税売上高1,000万円以下の場合は原則として免税事業者のため、本来であれば消費税の納付義務はありません。しかし適格請求書発行事業者への登録は、課税売上高にかかわらず事業者(買手側)との取引条件を踏まえて、慎重に検討することが大切です。
貿易業者はインボイス制度導入による影響をしっかりと理解しよう
貿易業者はインボイス制度導入の影響を受けます。輸出取引・輸入取引のそれぞれで影響についてしっかりと確認しておきましょう。インボイス制度に登録するメリット・デメリットを比較して、自社の方向性を慎重に検討してみてください。
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