事業開始等申告書とは?個人事業の開業時に併せて提出したい書類も解説
監修者: 森 健太郎(税理士)
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「事業開始等申告書」は、個人事業主として開業する際に提出が必要な書類の1つです。事業開始等申告書は開業届とは提出先が異なり、提出期限も定められているため注意が必要です。
さらに、開業する際には、事業開始等申告書や開業届の他にも、さまざまな提出書類があります。スムーズに事業をスタートできるよう、提出書類の準備を進めましょう。
ここでは、事業開始等申告書の書き方や提出先などに加え、開業時に併せて提出したい他の書類についても解説します。
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事業開始等申告書とは都道府県事務所に個人事業の開業を申告する書類
事業開始等申告書は、都道府県税事務所に個人事業の開始を知らせるために必要な書類です。個人事業主が支払わなければならない個人事業税の課税主体は都道府県なので、都道府県税事務所に届ける必要があります。地域によって正式名称が異なり、「個人事業開業届出書」「事業開始届」などとも呼ばれます。
事業開始等申告書と開業届には違いがある
開業時に必要な書類は、事業開始等申告書以外に「開業届(個人事業の開業・廃止等届出書)」があります。どちらも個人事業主の税金にかかわる書類という点では同じですが、開業届は開業して所得税(国税)を納める意思を示すための書類であるのに対し、事業開始等申告書は個人事業税(地方税)に関する書類である点が異なります。そのため、開業届を出したから事業開始等申告書は出さなくてもいい、ということにはならないので注意しなければなりません。
個人事業税は、特定の事業を営む個人事業主が納める地方税です。個人事業税の対象になるのは、個人が営む事業のうち、地方税法等で定められた業種(法定業種)です。法定業種は全部で70種あり、第1~3業種に分かれ、3~5%とそれぞれ税率が異なります。例えば、この70種に含まれないプログラマーや作曲家、通訳といった職種の事業者である場合には、個人事業税は課税されません。自分が開業しようと考えている業種に個人事業税が課せられるかどうかは資金繰りに影響があるため、あらかじめチェックしておきましょう。
個人事業税の対象になる法定業種と税率は、以下のとおりです。
個人事業税が課税される法定業種と税率
分類 | 税率 | 業種 |
---|---|---|
第1種事業 (37業種) |
5% | 物品販売業、保険業、金銭貸付業、物品貸付業、不動産貸付業、製造業、電気供給業、土石採取業、電気通信事業、運送業、運送取扱業、船舶定係場業、倉庫業、駐車場業、請負業、印刷業、出版業、写真業、席貸業、旅館業、料理店業、飲食店業、周旋業、代理業、仲立業、問屋業、両替業、公衆浴場業(むし風呂等)、演劇興行業、遊技場業、遊覧所業、商品取引業、不動産売買業、広告業、興信所業、案内業、冠婚葬祭業 |
第2種事業 (3業種) |
4% | 畜産業、水産業、薪炭製造業 |
第3種事業 (30業種) |
5% | 医業、歯科医業、薬剤師業、獣医業、弁護士業、司法書士業、行政書士業、公証人業、弁理士業、税理士業、公認会計士業、計理士業、社会保険労務士業、コンサルタント業、設計監督者業、不動産鑑定業、デザイン業、諸芸師匠業、理容業、美容業、クリーニング業、公衆浴場業(銭湯)、歯科衛生士業、歯科技工士業、測量士業、土地家屋調査士業、海事代理士業、印刷製版業 |
3% | あんま・マッサージ又は指圧・はり・きゅう・ 柔道整復その他医業に類する事業、装蹄師業 |
-
※東京都主税局「個人事業税
」
なお、個人事業税には290万円の事業主控除があるため、1年間の所得金額が290万円以下なら、法定業種であっても個人事業税は課税されません。年の途中での開業など、事業期間が1年未満の場合は、月数に応じて控除額が決まります。
なお、個人事業税が非課税の場合であっても、事業を開始した際には事業開始等申告書の提出が必要なので、忘れないように注意しましょう。
事業開始等申告書の提出先や提出期限は地域によって異なる
事業開始等申告書の提出先は、基本的には都道府県税事務所です。ただし、地域によっては市区町村への提出が必要な場合があるので、各自治体のWebページで確認してください。
また、提出期限も地域によって異なります。例えば、東京都であれば事業の開始の日から15日以内が期限ですが、大阪府は開業日または事業所(事務所)を設けた日から2か月以内が期限となっています。提出先と併せて、各地域の提出期限についても確認しておきましょう。
事業開始等申告書以外にも開業時はさまざまな書類の提出が必要
開業時には、事業開始等申告書をはじめ、以下のようなさまざまな書類の提出が必要です。開業時に提出する書類には、すべての人が提出しなければいけない書類と、例えば青色申告を考えている場合には「青色申告承認申請書」を提出するというように、必要に応じて提出する書類があります。
自分の事業の規模や内容に応じて、自社が提出の必要がある書類かどうかを検討しましょう。
開業するすべての人が提出する書類
- 開業届(個人事業の開業・廃止等届出書)
- 事業開始等申告書
必要に応じて提出する書類
- 青色申告承認申請書
- 青色事業専従者給与に関する届出書
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
- 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
- 適格請求書発行事業者の登録申請書
※フリーランスなどの個人事業主が開業時に提出すべき書類については、以下の記事を併せてご覧ください
事業開始等申告書は項目ごとに書き方がある
事業開始等申告書の書式は、自治体によって異なります。ここでは、東京都の「事業開始等申告書」を例にあげて、項目ごとの書き方を解説していきます。

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※東京都主税局「事業開始等申告書(個人事業税)
」
①事務所(事業所)の所在地
「所在地」欄には、事務所(事業所)の住所と電話番号を記載します。自宅を事務所とする場合は、自宅住所でかまいません。「新(変更後)」と「旧(変更前)」の2つの記入欄がありますが、開業時に記入するのは、「新(変更後)」のみです。これは、以下にある「事務所(事業所)の名称・屋号」や「事務所(事業所)の事業の種類」、「事業主の住所」、「事業主の氏名」といった項目も同様です。
なお、事務所と自宅の住所が異なり、かつ事務所を納税地として税務署に届け出た(開業届を提出した)場合は、「所在地」の欄に丸をつけます。
②事務所(事業所)の名称・屋号
「名称・屋号」欄には、事務所(事業所)の名称・屋号を記入します。屋号がなければ、空欄のままにしておきます。
③事務所(事業所)の事業の種類
「事業の種類」欄には、開業後に営む具体的な事業を記載します。「飲食業」「デザイン業」「コンサルタント業」など、客観的に見てわかる内容であれば、記載方法に明確な定めはありません。ただし、税務署へ提出する開業届の「職業」欄と揃えるようにしましょう。
また、前述のとおり、この「事業の種類」欄に記載する業種によって、個人事業税の有無や税率が変わってくるため注意が必要です。
④事業主の住所
「住所」欄には、事業主本人の住所(自宅住所)を記載します。上記の事務所所在地と同じ場合は、「同上」とします。
⑤事業主の氏名
「氏名」欄には、事業主本人の氏名を記載します。フリガナも忘れないようにします。
⑥開始・廃止・変更等の年月日
「開始・廃止・変更等の年月日」欄には、事業を開始した日、つまり開業日を記載します。
店舗がある場合はオープン日を記載することが一般的ですが、オープン前の準備段階から開業という扱いにしても問題ありません。ただし、自治体ごとに提出期限が定められているため、開始の年月日は提出期限までの間を超えない日程に設定して提出しましょう。
また、開業日は、開業届の「開業・廃業日等」欄に記載する日付と同一にします。
⑦事由等
「事由等」欄には、事業開始等申告書を提出する理由に印を付けます。開業の場合は「開始」を丸で囲みます。もしここに記載のない理由である場合には、「その他」に詳細を記載します。
⑧提出日
事業開始等申告書を提出する日付を記載します。もし事業開始等申告書を記載する日と提出する日が違う場合には、記載日を記入しないように注意しましょう。
⑨事業主の署名
提出日の下の「氏名」とある部分に、事業主のフルネームを記載します。押印は不要です。
併せて、署名欄の下に、提出先がある事務所名を記載しましょう。東京都の場合は、「新宿」というように、納税地を所轄する都税事務所名を記載します。所轄の事務所名は、各自治体のWebページで確認できます。
開業時に併せて提出したい書類の一覧チェックリスト
以下に、個人事業主として開業する際に、併せて提出したい書類のチェックリストをご紹介します。「要提出」の欄では自分がその書類を提出する必要があるかどうかを、「提出済」の欄には自分が提出したかどうかを、記載してチェックできるようになっています。
開業時の提出書類の一覧チェックリスト
書類名 | 提出先 | 提出期限 | 提出が必要になる状況 | 要提出 | 提出済 |
---|---|---|---|---|---|
開業届(個人事業の開業・廃止等届出書) | 税務署 | 開業日から1か月以内 | 開業の際は必ず提出 | ||
青色申告承認申請書 | 税務署 | 青色申告をしようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合は開業日から2か月以内) | 確定申告で青色申告をする場合に提出 | ||
青色事業専従者給与に関する届出書 | 税務署 | 青色事業専従者給与額を必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年の1月16日以後に開業した場合や、新たに専従者を雇用することになった場合は、開業または雇用した日から2か月以内) | 青色事業専従者の要件を満たす家族従業員への給与を経費にしたい場合に提出 | ||
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書 | 税務署 | 事務所の開設日から1か月以内(開業と同時に従業員を雇用する場合は開業日から1か月、開業後に従業員を雇う場合は雇用した日から1か月以内) | 従業員を雇う場合に提出 | ||
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 税務署 | 期限の定めなし(原則として、提出した日の翌月に支払う給与等から適用) | 従業員数が10名未満で、源泉所得税の納付を年2回にまとめたい場合に提出 | ||
適格請求書発行事業者の登録申請書 | 税務署 | 登録希望日の15日前まで | インボイス制度に対応するために適格請求書発行事業者になる場合に提出 | ||
事業開始等申告書 | 都道府県税事務所 | 自治体によって異なる | 開業の際は必ず提出 |
また、事業開始等申告書以外の開業時に併せて提出したい書類について、それぞれの書類が持つ役割や提出が必要なケースは以下のとおりです。提出の必要がない書類を無駄に作成したり、提出に漏れがあったりしないよう確認しておきましょう。
開業届
開業届は、正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といい、個人事業主として事業を始めたことを税務署に知らせるための書類です。基本的には、開業届は、事業を開始した個人事業主の全員が提出しなければなりません。
個人で事業を始めるとき以外に、例えば、不動産所得や山林所得が発生する事業を開始したときにも、開業届を提出することが所得税法で定められているため、忘れないようにしましょう。
※開業届については以下の記事を併せてご覧ください
青色申告承認申請書
青色申告承認申請書は、正式名称を「所得税の青色申告承認申請書」といい、確定申告で青色申告を行う場合に提出が必要です。
個人事業主が行う確定申告には、青色申告と白色申告の2種類があり、青色申告なら最大65万円の青色申告特別控除が受けられます。ただし、この青色申告承認申請書を提出しなければ青色申告が認められないため、青色申告をしたいと考えている方は、開業時に併せて提出しておくと良いでしょう。
※青色申告承認申請書については以下の記事を併せてご覧ください
青色事業専従者給与に関する届出書
青色申告をしている個人事業主には、一定の条件を満たせば、家族に支払った給与を経費として算入できる「青色事業専従者給与の特例」があります。この特例を適用するには、「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。
ただし、青色事業専従者と認められるためにはいくつかの要件があります。例えば、個人事業主と同居している15歳以上の家族または親族であることや、6カ月を超える期間従事していることなどがあげられます。
青色事業専従者給与の特例が適用されるためには、青色事業専従者給与に関する届出書だけではなく、上述の青色申告承認申請書の提出も忘れないようにしてください。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
「給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書」は、従業員を雇用する場合に、税務署への提出が必要な書類です。
一般的に、従業員を雇用する事業主は、従業員の給与から所得税を計算して天引きし、本人に代わって国に納める源泉徴収を行う義務があります。この書類を送付することで、源泉徴収を行うことを税務署に知らせることができます。ただし、従業員の給与が少額で源泉徴収が必要ない場合でも、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書の提出は必要です。
なお、上述した個人事業主が青色事業専従者給与の特例を受けるためには、青色申告書承認申請書と青色事業専従者給与に関する届出書に、この給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書も併せて提出しなければならないことに注意しましょう。
※給与支払事務所等の開設届出書については以下の記事を併せてご覧ください
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」は、従業員を雇用し、「源泉所得税の納期の特例」を申請する場合に、提出が必要な書類です。
従業員の給与から源泉徴収した所得税は、原則として、翌月10日までに税務署に納付しなければなりません。ただし、給与を支払う従業員が常時10名未満の場合は、この申請書を税務署へ提出すれば、半年分の源泉所得税を年2回にまとめて納付できる、源泉所得税の納期の特例を適用できます。
源泉所得税の納期の特例を適用することで、源泉所得税の納付回数を減らして事務負担を軽減できたり、納付期限に遅れるリスクも減らせたりします。従業員が10名未満の事業所なら、この源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出しておいた方が良いといえるでしょう。
適格請求書発行事業者の登録申請書
開業時からインボイス制度に対応しようと考えている方は、「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出が必要です。適格請求書発行事業者として登録を受けると、適格請求書を発行できるようになります。
適格請求書は、従来の区分記載請求書等と異なり、基本的な取引内容の他に、登録番号・適用税率・消費税額も記載されます。
なお、開業時に適格請求書発行事業者になると、開業1年目から消費税の納税義務が生じるため、提出前に自社にとってどちらが良いかよく検討しましょう。
事業開始等申告書は提出をしなくても罰則はない
事業開始等申告書を提出しなくても、特に罰則などのペナルティはありません。また、事業開始等申告書には、例えば東京都であれば15日以内、神奈川県では1か月以内といったように、自治体ごとに提出期限が設けられていますが、期限を過ぎて提出しても基本的には受理されます。
ただし、開業時には事業開始等申告書を提出するよう各自治体の条例などで定められているため、罰則がないから提出しなくてもいいとは考えずに、期限までに提出するようにしましょう。
個人事業税の課税対象になれば納税通知書が届く
もし開業時に事業開始等申告書を提出していなかったとしても、確定申告した際に個人事業税の納税対象となれば、事業主の元に納税通知書が届きます。
法定業種に該当する場合は、たとえ事業開始等申告書を提出していなくても、各都道府県事務所から個人事業税の納税通知書が届きます。これは、確定申告の内容が都道府県事務所にも共有され、確定申告書の「職業」欄を基に、個人事業税の課税の有無が判断されることによるものです。
開業と確定申告の手続きを手軽にする方法
個人事業を開業する際は、さまざまな書類の作成が必要です。それぞれ氏名や住所などの必要事項を毎回入力したり、書式を揃えたりする手間がかかり、作成するうえで多大な作業負担が発生します。そこで、提出書類の作成を含めた開業手続きを手軽に行いたい場合には、「弥生のかんたん開業届」がおすすめです。
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また、開業後は、日々の帳簿付けや毎年の確定申告が必要になります。事業が本格的に動き出してから慌てることのないように、開業のタイミングで会計ソフトや確定申告ソフトを導入しておくといいでしょう。クラウド確定申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」なら、簿記や会計の知識がなくても、最大65万円の青色申告特別控除の要件を満たした青色申告の必要書類がかんたんに作成できます。
開業時には事業開始等申告書も忘れずに提出しよう
個人事業主として開業する際には、開業届に加えて、事業開始等申告書の提出も必要です。開業届は税務署、事業開始等申告書は都道府県事務所と、提出先が違ううえ、提出期限も異なるため、注意しなければなりません。
また、開業時には、そのほかにもさまざまな提出書類があります。記事内でご紹介したチェックリストを活用しながら、提出漏れのないようにしっかりと準備しておきましょう。
併せて、「弥生のかんたん開業届」を利用すれば、開業届はもちろん、所得税の青色申告承認申請書や給与支払事務所等の開設届出書なども、忙しい開業準備中でも手軽に作成できるのでおすすめです。
この記事の監修者森 健太郎(税理士)
ベンチャーサポート税理士法人 代表税理士。
毎年1,000件超、累計23,000社超の会社設立をサポートする、日本最大級の起業家支援士業グループ「ベンチャーサポートグループ」に所属。
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