源泉所得税とは?計算方法や税率、納付方法をわかりやすく解説
監修者:税理士法人古田土会計 社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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個人の所得には、その金額に応じて所得税(所得税及び復興特別所得税)がかかります。ただ、会社員などの給与所得者は、自分で所得税を計算して国に納付するわけではありません。給与所得者の所得税は、事業主(会社など)が給与からあらかじめ差し引き、本人に代わって国に納めます。
このような、税金を給与などから天引きして本人の代わりに納付する仕組みを源泉徴収といい、源泉徴収された所得税を源泉所得税といいます。源泉所得税は、月々の給与だけではなく、賞与や退職金でも発生します。また、会社が源泉徴収した所得税は、年末調整で従業員ごとの事情などを加味し、確定していく必要があります。
ここでは、給与計算担当者が知っておくべき源泉所得税の仕組みや計算方法、源泉徴収した所得税の納付方法の他、年末調整の手順についても解説します。
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源泉所得税とは、源泉徴収して納付する所得税のこと
源泉所得税は、給与などの支払者が支払額から徴収し、本人に代わって国に納付する所得税のことです。
そもそも所得税は、個人の所得に対してかかる国税で、1年間の所得が一定額以上の人は、所得額に応じた税金を国に納めなければなりません。なお、所得税は納付の仕組みによって、「申告所得税」と「源泉所得税」に分けられます。
申告所得税は、1年間に得た所得とそれにかかる所得税額を本人が計算し、確定申告によって国(税務署)に申告・納付する仕組みです。
一方、源泉所得税は、前述の通り、給与や報酬などを支払う事業者があらかじめ一定額を給与等から天引き(源泉徴収)して、それを国に納付する仕組みです。
従業員の源泉所得税は年末調整が必要
従業員の給与や賞与から源泉徴収した所得税について、事業主(会社など)は、一年の終わりに年末調整を行う必要があります。そもそも所得税は年間の所得にかかる税金ですから、1月~12月の1年間の給与支払額が確定しないと正確な税額はわかりません。源泉所得税はあくまで概算なのです。
そこで、事業主は1年間の給与が確定した時点で個々の正しい所得税額を計算し、納めすぎていれば従業員に還付し、不足していれば追加徴収します。この一連の手続きを年末調整といいます。
一方、報酬や料金の源泉所得税については、支払者である企業が年末調整を行う必要はありません。源泉所得税と正しい納税額との調整は、報酬や料金を受け取った本人が確定申告によって行います。
源泉所得税の徴収が必要な主な所得
所得税の源泉徴収が必要となる所得の範囲は、企業が報酬や料金などを支払う対象が個人であるか、法人であるかで異なります。ここでは、企業が個人に支払うもののうち、源泉所得税の徴収が必要になる主な所得についてご紹介します。
従業員に支払う給与、賞与、退職金
従業員に支払う月々の給与をはじめ、賞与、退職金は、所得税の源泉徴収対象となります。
社外の個人に支払う報酬、料金など
社外の個人に業務を依頼した場合、業務内容によっては所得税の源泉徴収が必要です。具体的には、主に下記のような報酬・料金が源泉徴収の対象となります。
個人に支払う報酬・料金のうち所得税の源泉徴収が必要なもの
- 原稿料や講演料
- 弁護士、公認会計士、司法書士など特定の資格者に支払う報酬・料金
- プロスポーツ選手やモデル、外交員などに支払う報酬・料金
- 映画や演劇、テレビ出演等の報酬・料金や、芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
- 宴会での接待にあたるコンパニオンなどに支払う報酬・料金
- 役務の提供にあたり一時に支払う契約金(プロ野球選手の契約金など)
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金 など
従業員の所得税計算の流れ
会社が行う従業員の所得税計算は、月々の給与や賞与から源泉徴収する源泉所得税と、一年の終わりに行う年末調整に大別されます。まずは、1年間を通した所得税計算の流れをつかんでおきましょう。
1. 従業員から「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受ける
各従業員から、毎年その年の最初の給与の支払い日の前日までに、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の提出を受けます。これは、税額表における甲欄・乙欄の判定や、扶養人数を確認するために必要な提出書類です。新卒入社、中途入社、既存の従業員を問わず、最初の給与支払い日前日までに提出してもらいましょう。
パートやアルバイトでも、他の勤務先に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出済の場合を除き、基本的に提出が必要です。
2. 従業員の月々の給与と賞与から源泉所得税を徴収
各従業員に月々の給与や賞与を支給する際に、所定の源泉所得税を徴収します。源泉所得税の額は、従業員の社会保険料控除後の給与の課税支給額(賞与の場合は、前月の給与から社会保険料を控除した課税支給額)や、扶養親族の数に応じて、税額表により計算します。
徴収した源泉所得税は、原則として翌月10日までに、会社が全従業員分を(給与支払事務所が複数ある場合には、その事務所ごとに)まとめて国に納付します。
3. 年末に従業員から年末調整関連書類の提出を受ける
年末が近づいたら、従業員に対して年末調整に必要な書類の提出を依頼します。必要書類や詳しい手順は後述します。
4. 年末に従業員の年間支給額が確定する
12月の給与額と賞与額が決まると、各従業員の年間支給額がわかります。年間支給額が確定したら、給与支給額の合計や社会保険料額、源泉徴収した所得税額などを確認しましょう。
5. 年末調整を行い、所得税額を確定させる
確定した1年間の課税支給額と社会保険料額、従業員から提出された年末調整関連の書類をもとに、年末調整を行います。これによって、各従業員が納めるべき正確な所得税額が決まります。
6. 所得税の過不足税額を、原則12月の給与に反映
確定した年間の所得税額と、これまでに源泉徴収した所得税額を照らし合わせ、差額がある場合は過不足額を精算します。原則として12月の給与支給時に、多く支払っていた場合は還付を行い、不足していた場合は追加徴収を行います。例えば、確定した所得税額が60万円で源泉徴収した所得税額が62万円の従業員の場合、多く支払っていた2万円分が還付金となります。
給与明細には、このような還付金を「年末調整還付」、追加徴収する場合は「年末調整徴収」として記載します。その他、「年末調整過不足額」としてプラスとマイナスを同じ欄に書く場合もあります。
源泉所得税の計算方法
従業員に支払う給与や賞与、退職金から差し引く源泉所得税と、社外の個人に支払う報酬・料金から徴収する源泉所得税は、税額の計算方法が異なります。ここでは、それぞれの計算の仕方を解説します。
月々の給与から徴収する源泉所得税の計算方法
月々の給与から徴収する源泉所得税は、「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」を用いて計算します。具体的な手順は下記のとおりです。
計算手順
1. 課税支給額を確定する
基本給や残業手当、各種手当などの合計額から、欠勤控除や遅刻早退控除などの金額を引き、課税支給額を求めます。なお、課税支給額に非課税交通費は含まれません。
2. 課税支給額から社会保険料を除く
課税支給額から社会保険料を差し引きます。
3. 源泉所得税額を求める
「2」で求めた金額を、国税庁が公表する「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」に照らし合わせて、源泉所得税の金額を算出します。
源泉徴収税額表には甲欄と乙欄があり、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員は甲欄、提出していない従業員は乙欄を参照します。さらに、甲欄には「扶養親族等の数」の欄があります。課税支給額から社会保険料を引いた金額を「その月の社会保険料等控除後の給与等の金額」にあてはめ、「扶養親族等の数」別に定められた源泉徴収税額を確認することで、容易に税額を求めることが可能です。
例えば、課税支給額から社会保険料を引いた金額が20万円で、扶養親族がいない従業員の源泉所得税は、4,770円になります。
なお、給与計算を電子計算機などの事務機械により処理している場合、源泉所得税額を財務省が告示する計算式で算出できる特例が設けられています。この特例によって求めた税額と、税額表で求めた税額に差額が生じたとしても、年末調整で正しい税額の精算が行われます。
賞与から徴収する源泉所得税の計算方法
賞与から徴収する源泉所得税の額は、源泉徴収税額表の「賞与に対する源泉徴収税額の算定率の表」を用いて計算します。
計算手順
1. 賞与月の前月の給与から社会保険料を引く
賞与支給月の前月の課税支給額から、社会保険料を差し引きます。給与の場合と同様に、課税支給額に非課税交通費は含みません。
2. 税率を確認する
「1」で算出した金額を「賞与に対する源泉徴収税額の算定率の表」にあてはめて、「賞与の金額に乗ずべき率」の欄を確認します。これが、賞与に対する源泉所得税の税率になります。
3. 源泉所得税額を求める
「1」で算出した金額に「2」の税率を掛け、賞与の源泉所得税額を算出します。1円未満の端数が出た場合は切り捨てとします。例えば、賞与支給月の前月の課税支給額から社会保険料を引いた金額が20万円で、扶養親族がいない場合の税率は、4.084%となります。
退職金から徴収する源泉所得税の計算方法
退職金の源泉所得税額は、給与や賞与とは別に計算・納付します。退職金から源泉徴収する所得税の計算の方法は、下記のとおりです。
計算手順
1. 課税される退職所得金額を算出する
税金がかかる退職金の額を算出します。計算式は下記のとおりです。
- 課税退職所得金額の計算式
-
課税退職所得金額=(退職金額-勤続年数に応じた退職所得控除額)÷2
- ※使用人勤続年数が5年以下の場合は「2分の1」に一定の制約がありますので、ご注意ください
なお、勤続年数に応じた退職所得控除額は、勤続年数20年を境に計算方法が異なります。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
2. 所得税額を計算する
「1」で算出した課税退職所得金額をもとに、下記の計算式により退職金にかかる所得税額を計算します。
- 退職金にかかる所得税額の計算式
- 退職金にかかる所得税額=課税退職所得金額×所得税率-控除額
なお、所得税率と控除額は、下記のとおりです。
課税退職所得金額 | 所得税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
- ※国税庁「退職金と税」
報酬・料金などから徴収する源泉所得税の計算方法
報酬・料金などから徴収する源泉所得税の金額は、原則として、報酬・料金額の10.21%です。ただし、同一の個人への1回の支払額が100万円を超える場合、100万円を超えた部分に対する税率は20.42%となります。この場合の報酬・料金額は、原則として消費税込みの金額となります。しかし、請求書などで本体価格と消費税の額が明確に区分されている場合は、消費税抜きの金額のみを源泉徴収の対象としてもかまいません。
源泉所得税の納付手続き
源泉徴収した所得税は、納税者本人に代わり、給与などを支払った事業主が国に納付します。納付期限や納付手続は決められているので、しっかりと確認しておきましょう。
源泉所得税の納付期限
源泉所得税は、原則として給与や報酬などを支払った月の翌月10日までに国に納付しなければなりません。しかし、給与(会社の場合は役員報酬も含む)を支払う人数が常に10人未満である事業所の場合は、半年分の源泉所得税をまとめて納付できる特例があります。
この特例を適用するには、あらかじめ「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を税務署に提出する必要があるためご注意ください。なお、特例の対象は、給与と一部の報酬(税理士報酬など)に限られます。
源泉所得税を期限までに納めないと、ペナルティとして不納付加算税の対象になります。ただし、過去1年間滞納がなく、納付期限から1か月以内に納付した場合など、不納付加算税が免除される救済規定もあります。
源泉所得税の納付手続
源泉所得税を納付するには、「窓口納付」「電子納税」「コンビニ納付」「クレジットカード納付」の4つの方法があります。
- 窓口納付
- 税務署・金融機関の窓口に納付書を持っていき現金で納付します。
- 電子納税
- e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用した自動引き落とし、またはインターネットバンキング経由で納付します。
- コンビニ納付
- 税務署が発行するバーコード付き納付書か、国税庁のWebサイトから出力したQRコードをコンビニエンスストアに持っていき納付します。
- クレジットカード納付
- 「国税クレジットカードお支払サイト」から、クレジットカードで納付します。税額に応じた手数料がかかるため注意しましょう。
年末調整の進め方
源泉所得税に関連して、毎年年末時期に会社が行う手続きが、年末調整です。年末調整では、企業が従業員の給与から徴収した所得税と、本来支払うべき所得税の金額を算出して差額を調整し、納税額を確定させます。年末調整は、下記のような手順で進めます。
1. 従業員から年末調整関連書類の提出を受ける
年末調整にあたっては、下記の書類を従業員に配付・記入してもらい、回収する必要があります。さらに、必要に応じて従業員から提出してもらう書類もあります。
回収が必要な書類
- 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書
- 給与所得者の基礎控除申告書 兼 給与所得者の配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書
該当する従業員から提出してもらう書類
- 保険料控除証明書(民間の生命保険や地震保険に加入している従業員)
- 国民年金保険料控除証明書(子供の国民年金等を支払った従業員)
- 小規模企業共済等掛金払込証明書(iDeCoに加入している従業員)
- 住宅借入金等特別控除申告書と年末残高等証明書(住宅ローン控除を受ける従業員。ただし初年度は本人による確定申告が必要)
- 前職の源泉徴収票(年内に中途入社した従業員や、新卒入社でその年にアルバイトをしていた従業員)
2. 年間の給与額を確定させる
1月1日~12月31日に支払う給与と賞与の額を合算して、1年分の給与の合計額を確定させます。
3. 年間の給与所得を確定させる
年間給与等に、給与所得控除、所得金額調整控除を適用し、給与所得を確定させます。
4. 所得控除額を確定させる
従業員から提出された年末調整書類をチェックして、各従業員が受けられる控除の種類と控除額を確認します。
原則として全ての従業員に適用される控除
- 基礎控除(年間所得2400万円から段階的に縮小され、年間所得2,500万円超は対象外)
- 社会保険料控除
条件を満たす従業員に適用される控除
- 扶養控除
- 配偶者控除または配偶者特別控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 寡婦控除
- ひとり親控除
- 小規模企業共済等掛金控除 など
5. 課税所得金額を求める
給与額から所得控除額を引いて、課税所得金額を求めます。
6. 所得税額を求める
「5」で求めた金額に所定の税率を掛け、そこから控除額を差し引き、所得税額を求めます。
税率は下記のように、課税所得金額の範囲によって決まっています。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 4,796,000円 |
7. 基準所得税額を求める
「6」で算出した所得税額から税額控除の額を引いて、基準所得税額を求めます。代表的な税額控除には、住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)や配当控除があります。
8. 1年間で支払うべき所得税額を確定
基準所得税額と復興特別所得税額を足した額が、最終的に納税する所得税額となります。
復興特別所得税額は所得税額に対する付加税で、2013~2037年の各年分の基準所得税額の2.1%を、所得税と併せて納付するものです。つまり、「基準所得税額+復興特別所得税額(基準所得税額×2.1%)」が、1年間で支払うべき所得税額となります。
9. 源泉所得税額との過不足調整を行う
「8」で算出した1年間で支払うべき所得税額と源泉徴収税額の累計額を照らし合わせて、過不足を調整します。
10. 過不足額を従業員に還付・追加徴収する
「9」で過不足の調整をした結果、源泉徴収税額の累計額が支払うべき所得税額よりも多い場合は、納めすぎていた差額分を従業員に還付します。
反対に、源泉徴収税額の累計額が支払うべき所得税額よりも少ない場合は、不足額を従業員から追加徴収します。
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この記事の監修者税理士法人古田土会計
社会保険労務士法人エムケー人事コンサルティング
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