電子請求書とは?電子データ発行時の注意点やシステムについて解説
監修者:辻・本郷税理士法人/辻・本郷ITコンサルティング
2023/03/10更新
業務のデジタル化が進み、テレワークや脱はんこなどが浸透する中で、請求書の発行も電子的に行うケースが増えています。そこで本記事では、請求業務にかかる手間やコストを削減できる電子請求書の種類やメリット、導入時の注意点などを解説します。
インボイス制度や電子帳簿保存法の改正との関係についてもご紹介しますので、今後の参考にしてください。
電子請求書とは?種類も解説
電子請求書とは、データ化されている請求書のことです。紙の請求書は郵送で取引先に発送しますが、電子請求書はデータでインターネットを介してやり取りをします。
この記事では、電子請求書を説明するうえで「メール型」「ダウンロード型」「システム型」の3種類に分けて紹介します。
メール型の電子請求書
メール型の電子請求書とは、WordやExcelなどで作成した請求書や紙で印刷した請求書をスキャナなどでデータとして取り込みPDFデータ化して、メール添付で送付する電子請求書です。これまで印刷して送っていた請求書をPDFにしてメールに添付して送信するだけですから、手軽に導入できます。発送コストもかかりません。脱はんことは言え、電子印鑑を使えば押印することも可能です。
一方で、メール型請求書には、誤送信や情報漏洩、データ管理などのリスクがあります。メールを誤って別の取引先等に送信してしまうと、他社との取引状況を知られることになります。添付ファイルを間違えて、社外秘の文書を取引先に送ってしまうといった事態も心配です。
さらに、データの管理方法を定めたうえで運用しないと、内容を修正した際にどれが最新なのかわからなくなったり、誤ってデータを削除してしまったりすることもあるため、注意が必要です。
ダウンロード型の電子請求書
ダウンロード型の電子請求書は、電子請求書をオンライン上で取引先と共有し、取引先にダウンロードしてもらう請求書です。発行側は、社外のシステムに請求書データをアップロードすることになりますから、ビジネス向けに運営されているセキュリティの確かなサービスを選びましょう。
データの共有方法には、取引先と自社が双方でアクセスできるオンラインストレージや、データを一時的にアップロードできるファイル転送サービスなどの利用が挙げられます。ファイル転送サービスでは、取引先にURLとパスワードを伝えることで、リンク先からデータをダウンロードしてもらいます。一定期間が経過するとデータが自動削除されるサービスが多いため、ダウンロードが確認できない場合はリマインドが必要です。
また、オンラインストレージでは、共有範囲の設定を厳格に管理する必要があります。
システム型の電子請求書
請求書の作成、発行、取引先への交付といった一連の業務を一貫して行えるシステムもあります。システム上で請求書を発行して取引先に通知を行うことで、請求書を確認してもらうことが可能です。取引先は、クラウド上などで請求書を閲覧できる他、ダウンロードもできます。
請求関連業務の一元管理ができるシステム型なら、過去のデータの閲覧なども容易です。
無料お役立ち資料【「Misoca」がよくわかる資料】をダウンロードする
電子請求書の法的な注意点とは?
「請求書は紙で発行し、押印しなければならない」という考えを持っている方もいるかもしれません。しかし、請求書は電子的に発行しても問題ありませんし、押印がなくても法的効力を持ちます。つまり請求書は、紙で発行しても電子的に発行しても、同様の有効性を持つといえます。
ただし、電子請求書のやりとりには、発行する側にも受領側にも注意が必要です。電子請求書を発行する側と受領側、それぞれについて対応しなければならない法律上の注意点をご紹介します。
電子請求書の発行側:適格請求書の発行には注意
2023年2月現在、電子請求書を発行する側については、電子取引の場合に保存義務が生じること以外に、発行方法や送付方法に関する法的な規定はありません。
しかし、2023年10月の適格請求書等保存方式(インボイス制度)開始後、適格請求書発行事業者(受注側・売手側)は、課税取引を行った際に取引先(発注側・買手側)の求めに応じて適格請求書を発行する義務が課せられます。また、発行した適格請求書の写しは7年間の保存が必要です。
なお、自社発行した請求書(控)は、「国税関係書類」の取引関係書類(自社発行書類の写し)にあたります。
電子請求書の受領側:一定期間の保存義務
売手側から請求書を受領した場合、請求書が紙かデータかにかかわらず、一定期間の保存が義務付けられています。保存期間は、原則的に個人事業主が5年、法人(※)や消費税課税事業者の個人事業主は7年です。また、2022年(令和4年)以降、前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円超の方は、その業務に係る現金預金取引等関係書類を5年間保存する必要があります。電子データで受け取った請求書も、紙の請求書と同様に、適切に保存しましょう。
請求書の保管期間についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
なお、2021年分までは電子データとして受け取った請求書でも、印刷して紙で保存することが可能でした。しかし、電子帳簿保存法の改正によって、2022年1月から電子データで受け取った書類は、電子データのまま保存しなければいけません。2023年12月31日までは猶予(正確には宥恕)期間となっているため紙の保存も許されますが、2024年1月1日以降は電子データのまま保存してください。
なお、令和5年度税制改正において、電子帳簿保存法での電子取引の電子データ保存に関して、以下の改正が行われています。
-
①電子取引の電子データを電子帳簿保存法の要件に従って保存できなかったことについて「相当の理由がある」場合には、税務職員の質問検査権に基づく電子取引データのダウンロードの求め及びそのデータの出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力されたものに限る。)の提示又は提出の求めに応じることができるようにしていれば、その他の要件を満たさずに電子データを保存することができる。
-
②電子取引の電子データを整然とした形式及び明瞭な状態で出力し、取引年月日等及び取引先ごとに整理・保存していれば、検索機能を確保することなしに電子データの保存を可能とする。※電子帳簿保存法の他の要件を満たす必要はあります。
その電磁的記録の出力書面(整然とした形式及び明瞭な状態で出力され、取引年月日その他の日付及び取引先ごとに整理されたものに限る。) の提示又は提出の求めに応じることができるようにしている保存義務者
いずれも2024年(平成6年)1月1日以後に保存が行われる電子取引に関してのものです。①の「相当の理由がある」場合とは、どのような場合が該当するかについては、現時点(2023年4月10日)では、必ずしも明らかではありません。そのため、詳細情報が公開された段階で、本記事を更新予定です。
いずれにしろ、法人・個人事業主にかかわらず、電子データで受領した請求書は、電子データとして保存することが必須になります。
また、電子帳簿保存法には、電子請求書を保存する際の要件も定められています。要件を満たす形で保存できるよう、2023年12月までに体制を整えておくことが必要です。また、紙で受領した請求書を電子データとして請求書を保存したい場合は、要件を満たす必要があります。
電子帳簿保存法と請求書についてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
電子請求書のメリット
電子請求書は、請求書を発行する側にとって多くのメリットがあります。実務に照らしながら、紙の請求書に比べてどのような点が優れているのかを見ていきましょう。
コスト削減
紙の請求書を発行している事業者が電子請求書を取り入れると、コスト削減につながります。
例えば、1か月あたり平均50通、紙の請求書を発行していた事業者が電子請求書に変更すると、1通あたり84円の郵送費×50通=4,200円の削減に。(2024年10月1日から1通あたり110円(50gまで)に変更になります。)
さらに、印刷するためのプリンター機器の買い替え費用のほか、インク代や紙代、封筒代も不要になります。印刷した請求書を折って封入したり、宛名ラベル等を別途作成したりする手間や時間もなくなり、コスト削減の他にも大きなメリットがあるといえます。
業務の効率化
電子請求書は、業務効率化やテレワークの推進にも効果的です。具体的には、下記のように業務が効率的になります。
請求書の管理が容易になる
システム型の電子請求書では、請求書の発行だけでなく控えの保管や管理も可能です。いつ、どこに、どのような請求書を発行したのかが一目でわかりますし、必要な請求書データもかんたんに呼び出せます。過去の請求書を探すために、分厚いファイルを開く必要はありません。保管にかかる手間や場所も不要です。
再発行や修正対応がかんたんに行える
紙で発行した請求書について、再発行や修正を依頼された場合、再度請求書を印刷、郵送しなければいけません。これには手間がかかりますし、最新の請求書がどれなのかわかりにくくなるという難点もあります。
電子請求書であれば、再発行や修正したデータを電子的に交付するだけですから、リアルタイムで即座に対応できます。メールやシステム上に履歴が残りますから、最後に送った請求書がどれなのかも明白です。
業務時間を短縮できる
前述のとおり、電子請求書の発行は業務時間の短縮につながります。請求書の印刷や郵送にかかる時間を削減することで、より重要度の高い別の業務に時間をあてられるようになるでしょう。
テレワークでも発行できる
電子請求書は、インターネットがつながる場所であればどこからでも発行できます。会社の封筒やはんこがないと発行や郵送ができないということはありません。アナログからデジタルへの移行の第一歩としても、電子請求書は効果的です。
セキュリティの強化
紙の請求書は、封入や投函した後の状態を確認することができません。例えば、「確かに請求書を発送したはずなのに、取引先から届いていないと言われた」という状況になっても、他社に誤って送ってしまったのか、郵便事故なのかを送付した側から確認することはできません。万が一、「別の会社宛の請求書が届いた」ということになれば、情報漏洩になってしまいます。
その点、送付の履歴が残る電子請求書であれば、誰にどの請求書を送ったのかが後からでも確認できます。もちろん、「印刷したはずの請求書が見つからない」といった紛失リスクもありません。
さらに、ダウンロード型やシステム型であれば、誤送信時のリスクも減らせます。システム型は、そもそも請求書の作成からシステム的に行うため、誤送信はまず起こりません。ダウンロード型も、万が一誤ったデータをアップロードしてしまった場合でも、気が付いた時点でデータの削除が可能です。
ただし、システム上のセキュリティはきちんと確保しましょう。
電子請求書導入時の注意点
多くのメリットがある電子請求書ですが、きちんと体制を整えないまま導入を強行してしまうと、思わぬトラブルに見舞われる可能性もあるでしょう。電子請求書の導入にあたって留意したい注意点をまとめました。
社内体制の構築
電子帳簿保存法の改正に伴い、発行した電子請求書のデータは、データとして保存しなければいけなくなります。電子帳簿保存法の要件を満たす形で保存を行えるように、社内体制の構築が必要です。
従来の請求業務フローを見直すと共に、実務に携わる社員に対して研修を行うことで、スムースに移行しやすくなります。
導入・運用コスト
インボイス制度や電子帳簿保存法に対応するために新しいシステムを導入するには、多くの手間と時間がかかります。適格請求書をスムースに発行し、電子帳簿保存法の要件を満たす形で請求書を保存するためには、両者に対応した請求システムの導入が便利です。
インボイス制度のシステムについてはこちらの記事で解説していますので、参考にしてください。
ただし、こうしたシステムの導入や運用には、ある程度のコストがかかるのが一般的です。具体的な金額は、導入するシステムによって異なります。導入コストや月額費用、利用できるシステム、セキュリティ、操作性などを比較して、適したシステムを選びましょう。無料でお試しができるシステムも多いため、仮の請求書などを登録して使い勝手を比較するのがおすすめです。
取引先企業への個別対応
請求書を発行する側(受注側)が電子請求書に移行したくても、取引先(発注側)が対応していない可能性もあります。請求書は取引先に対して発行するものですから、独断で変更するわけにはいきません。請求書の電子化に際しては、事前に取引先に確認を取ったり、案内文を送ったりし、丁寧なフォローをしましょう。
取引先の中に、電子請求書では困るという企業があった場合は、個別に紙の請求書を発行したり、取引先指定のフォーマットでの請求書発行をしたりする必要があります。しかし、このようなやり方では、請求書発行フローを統一することができません。イレギュラー対応が必要な取引先が多い場合は、電子化によってかえって業務が煩雑になってしまう可能性もあります。
できるだけ電子請求書を受け入れてもらえるよう、取引先に対して丁寧な説明や交渉も検討してみましょう。
電子と紙の両方を発行、または受領する場合
取引先(発注側)が、電子請求書の発行を認めてくれなかったり、電子請求書だけでなく紙の請求書の発行も求められたりする場合には、紙の請求書を発行することになります。法律上、どちらかに統一する必要はありませんから、取引的に問題がなければ、それぞれの取引先に合わせた形式で請求書を発行することになります。
ただし、自社内で発行した請求書をまとめて確認したい場合、保存形式が異なると混乱する可能性もあります。社内で保存ルールなどを定め、誰でもわかりやすい形での保管が必要です。
一方、請求書を発行する側(受注側)が電子請求書と紙の請求書の両方を送ってくることもあります。例えば、メールでPDFの請求書を送った後、原本を郵送するといったケースです。このような場合、取引慣行や社内規定で「郵送されたものを原本とする」としているのであれば、電子データの請求書を保存する必要はありません。ただし、メール添付と郵送されたものが同一ではない場合、両方を保存しておく必要があります。
電子請求書で請求書の発行業務を効率化しよう
電子請求書を導入することで、請求書の発行や郵送にかかる手間とコストを大幅に削減できます。さらに、インボイス制度や電子帳簿保存法の改正に対応した請求書発行システムであれば、法改正への対応もスムースです。
システムの導入はコストがかかるという場合は、無料から使える「Misoca」のようなサービスもあるため、検討するのも良いでしょう。
無料お役立ち資料【「Misoca」がよくわかる資料】をダウンロードする
クラウド見積・納品・請求書サービスなら、請求業務をラクにできる
クラウド請求書作成ソフトを使うことで、毎月発生する請求業務をラクにできます。
今すぐに始められて、初心者でも簡単に使えるクラウド見積・納品・請求書サービス「Misoca」の主な機能をご紹介します。
「Misoca」は月10枚までの請求書作成ならずっと無料、月11枚以上の請求書作成の有償プランも1年間0円で使用できるため、気軽にお試しすることができます。
見積書・納品書・請求書をテンプレートでキレイに作成
Misocaは見積書 ・納品書・請求書・領収書・検収書の作成が可能です。取引先・品目・税率などをテンプレートの入力フォームに記入・選択するだけで、かんたんにキレイな帳票ができます。
各種帳票の変換・請求書の自動作成で入力の手間を削減
見積書から納品書・請求書への変換や、請求書から領収書・検収書の作成もクリック操作でスムースにできます。固定の取引は、請求書の自動作成・自動メール機能を使えば、作成から送付までの手間を省くことが可能です。
インボイス制度(発行・保存)・電子帳簿保存法に対応だから”あんしん”
Misocaは、インボイス制度に必要な適格請求書の発行に対応しています。さらに発行した請求書は「スマート証憑管理」との連携で、インボイス制度・電子帳簿保存法の要件を満たす形で電子保存・管理することが可能です。
会計・確定申告ソフトとの連携で請求業務から記帳までを効率化
Misocaで作成した請求書データは、弥生会計、やよいの青色申告、弥生会計 オンライン、やよいの青色申告 オンライン、やよいの白色申告 オンラインなどの会計・確定申告ソフトに連携することが可能です。請求データを会計ソフトへ自動取込・自動仕訳できるため、取引データの2重入力や入力ミスを削減し、効率的な業務を実現できます。
この記事の監修者辻・本郷税理士法人
国内最大規模の税理士法人。専門分野に特化した総合力を活かし、一般企業の税務顧問をはじめ、医療法人、公益法人、海外法人など多種多様なお客様へサービスを提供。開業支援から事業承継、相続・贈与対策、オーナー向けの資産承継など、法人・個人問わずお客様のニーズに柔軟かつ的確に応えるべく、幅広いコンサルティングを行っている。Webサイト:https://www.ht-tax.or.jp
この記事の監修者辻・本郷ITコンサルティング
国内最大級の税理士法人である辻・本郷 税理士法人のグループ会社として2014年に創業。実践した数多くのDX化ノウハウをグループ内外に展開。バックオフィスに課題を抱える組織のコンサルティングから導入までをワンストップで行う。電子帳簿保存法やインボイス制度対応等、最新のコンサルティング事例にも精通。「無数の選択肢から、より良い決断に導く」をミッションとし、情報が多すぎる現代において、お客様にとっての「より良い」を見つけるパートナーを目指す。