請求書に印鑑は必要?角印と代表印の違いや使用する印章の種類を解説
監修者:市川 裕子(ビジネスマナー監修)
2024/09/09更新
法人や個人事業主が発行する請求書に印鑑が押されています。請求書には押印が必要なのか疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
ここでは、請求書に印鑑を押す必要があるのか、法人の場合は角印・代表印のどちらを使うのが正しいのかを解説します。請求書を手軽に発行できる「電子化」のメリットについてもご紹介しますので、事務処理の効率化にお役立てください。請求書に押印する場合の注意点と併せて確認していきましょう。
請求書に印鑑を押すのは義務ではない
結論からお伝えすると、請求書への押印は義務ではありません。つまり、印鑑の有無を理由に、請求書や請求の事実が無効になることはありません。押印のない請求書であっても請求できるだけでなく、請求書を送らずに口頭で支払いを依頼しても、意思表示の合致があれば請求することは可能です。
押印は必要ではないが、あれば偽造が難しくなる
会社印や角印、担当社印などが押印されている請求書は、印影の真偽の検証によって「該当の企業や個人事業主が発行したものである」という信頼性や信憑性を持つものと考えられています。
とはいえ、リモートワークが急速に広がる中で、押印文化も減少傾向にあります。2021年4月からは税務関係書類への押印義務が廃止され、自治体でも押印を不要とする手続きが増えました。今後も、押印を必須とする流れは弱まっていく見込みです。
しかし、掛取引をする場合やBtoB(企業間取引)では、請求書を発行することが一般的です。なんらかのトラブルが起きた際に取引を証明することが困難になります。請求書を発行することで、取引金額や支払先などの情報を請求する側とされる側が確認することができるので、こうしたリスクを未然に防ぐためにも請求書を発行するのが望ましいでしょう。
適格請求書(インボイス)にも押印は不要
「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」においては、適格請求書発行事業者同士の取引の場合、買手側に発行を求められた場合、売手側は適格請求書(インボイス)の発行と保存が義務付けられています。口頭での支払い請求や適格請求書の要件を満たしていない書面での請求は認められない点を理解しておきましょう。適格請求書に記載すべき項目は下記のとおりです。
適格請求書の必須項目
- 発行者の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引内容
- 取引金額
- 交付を受ける者の氏名または名称
- 軽減税率の対象品目である旨
- 税率ごとに区分して合計した対価の額
- 適格請求書(インボイス)発行事業者の登録番号
- 税率ごとの消費税額
上記のうち、適格請求書で新たに記載が必要になった項目は、「適格請求書発行事業者の登録番号」「税率ごとに区分して合計した請求金額(税抜または税込み)と適用税率」「税率ごとに区分した消費税額」の3つです。書き忘れのないように注意してください。
適格請求書の例
上記は、適格請求書(インボイス)の例です。請求書で記載が必須になる項目は以下の通り
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①請求先の宛名:企業が相手の場合、敬称は「御中」です
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②請求書の発行日:取引日にするのか、月末にするのかといった表記ルールは、事前に請求先に確認しておくことをおすすめします
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③請求書番号や通番:必須の記載項目ではありませんが、つけておくと管理する際に便利です
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④請求者の会社名:社名や住所、電話番号、メールアドレスなどを記します
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⑤適格請求書発行事業者の登録番号:請求者の会社名などを書く欄に、適格請求書で必要となる「適格請求書発行事業者の登録番号」を記載します
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⑥請求者の捺印:押印は必須ではありません。取引先から押印を求められる場合があるので、取り決めをしておくことをおすすめします
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⑦ご請求金額:消費税なども含めて請求金額の総額を記載します
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⑧品番・品名:商品やサービスの名称を記載します(型番などがある場合は併記する。また、消費税法上、軽減税率適用取引の場合は、商品やサービスごとにその旨を記載します。上記の請求書では例として「※」で記した項目が軽減税率の対象)
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⑨数量:商品の数量を記します
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⑩単価:商品の単価を記します
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⑪金額:商品の数量に単価を掛けた金額です
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⑫小計:商品の金額を合計した額です
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⑬消費税:小計に対する消費税の金額です
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⑭合計:消費税と小計を合計した金額です
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⑮10%対象/軽減8%対象:消費税率ごとに区分した請求金額と、税率ごとの消費税額です(適格請求書では記載必須項目)
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⑯備考欄:支払いを依頼する一文を入れます(必須ではありません)
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⑰振込先:振込であれば、銀行口座名を書きます
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⑱支払期限:取引先に確認のうえ、振込予定日を記載します
上記に「印鑑」が含まれていないことからもわかるとおり、社判などの押印は適格請求書(インボイス)においても義務ではありません。会社印や角印、担当社印などが押印されている請求書は、印影の真偽の検証によって「該当の企業や個人事業主が発行したものである」という信頼性や信憑性を持つものと考えられています。
ただし、ビジネスにおける請求書業務の中で、請求する相手先から書類への押印を求められることもあるかもしれません。トラブルを避けるためにも、先方から押印を希望されたら、できる限り対応することをおすすめします。
請求書に押す印章の種類
請求書に押印する場合、どのような印章を用いれば良いのでしょうか。印章の種類と請求書に適した印鑑について解説します。
法人の場合
通常、法人は「角印」「銀行印」「代表者印」などの印章を所有しています。
角印
請求書に押すのは角印が一般的です。角印は請求書のほか、見積書や発注書などにもよく使われます。印鑑として正式に届け出が必要なものではないため、認印と同様の位置付けになります。
銀行印
銀行印とは金融機関に届け出をした印章のことです。法人口座に関する手続きや手形・小切手などの発行時に用いられます。通常の業務で発行される請求書などの文書に押印するのは一般的ではありません。
代表者印(会社代表印・丸印)
なお、代表者印は、法務局に印鑑登録の届け出をした法人の実印を指します。契約書など企業として正式に作成・発行した文書に押印する場合には、代表者印を用いるのが一般的です。
法人として最も重要な印鑑であることから、同じ丸型の銀行印よりも大きいサイズで作られているケースが多く見られます。こちらも銀行印と同様、請求書に押印するのは一般的ではありません。
個人事業主の場合
個人事業主の場合、使用する印章はどのようなものでも問題ありません。しかし、プライベートで使用する印章と事業で使用する印章は分けた方が良いでしょう。
屋号がある場合には、「角印」「丸印」「銀行印」を用意しておくと便利です。請求書や領収書に押印するのは、認印として使われる角印です。代表者名と屋号をかたどった印鑑にするケースが多く見られます。
なお、丸印は契約書などに押印する際に用いる、銀行印は事業用の口座を開設する際の手続きに用いるのが一般的です。
個人事業主で屋号がない場合には、事業用に「丸印」と「銀行印」の2種類を作成しておくことをおすすめします。いずれも個人用の印章と同様、個人名を刻印するのが一般的です。請求書や契約書には丸印を用い、金融機関から求められた場合には銀行印を押印します。
請求書への押印方法
請求書に押印する場合、どの位置に押すのが良いのでしょうか。一般的な慣習としてよく見られる押印方法について解説します。
法人の場合は社名と重ねて押印する
請求書に押印欄がある場合には、押印欄に収まるように角印を押印します。押印欄が設けられていない場合は、社名または住所と角印が重なるように押印するのが一般的です。文字と印鑑が重なっていることにより、印鑑の複写や請求書の偽造が困難になるため、この押印方法がよく用いられています。
なお、個人事業主の場合は事業主名と押印を重ねる必要はありません。氏名や屋号の横に押印するのが一般的です。
印鑑がきれいに残るように押印する
印章は鮮明になるよう、かすれや欠け・ずれが生じないように押印します。ただし、角印は一般的な個人用の印章よりも大型のため、印鑑がきれいに残るように押印するにはコツが必要です。万が一、実際の印鑑と異なるように見えてしまうと、押印による証拠能力が発揮されないおそれがあるので注意しましょう。
印章は、請求書に対して垂直になるように立てて持ち、印章全体が紙に均等に当たるよう垂直に力を加えます。押す力が弱すぎるとかすれや欠けの原因となり、反対に力が強すぎると印鑑がつぶれたり請求書にしわが寄ったりする原因となります。試しに、不要な紙に押印して印鑑を確認したのち請求書に押印すると確実です。
万が一、請求書の押印に失敗してしまったときは、請求書を再発行して押し直してください。印鑑がかすれたり、曲がったりしている請求書は破棄しましょう。
訂正印は使用しない
請求書は、改ざんされていないことに重要な意味をもつ文書のため、訂正印は使用しません。一般的な文書のように書き間違えた箇所に二重線を引き、その上から訂正印を押すといったことはしないでください。
請求書に訂正印が押されていると、部門長などしかるべき立場の人物が承認する前に訂正したのか、承認後に担当者が独自の判断で訂正したのか区別できません。請求書としての信頼性が損なわれる原因となるため、訂正印は使用しません。
請求書の記載事項を書き損じてしまった場合など、訂正・修正が必要になった際にはその請求書を破棄し、再発行で対応することを徹底しましょう。
なお、適格請求書(インボイス)の記載に誤りがあって再発行する場合、修正前と修正後の適格請求書(インボイス)の写しをいずれも保存する必要があります。修正後の適格請求書(インボイス)のみ保存するのでは不十分のため、修正前の適格請求書(インボイス)の写しを破棄しないように注意してください。
電子請求書には電子印鑑の導入で業務効率化
ここまで見てきたとおり、請求書への押印にはさまざまな注意点があります。印鑑がかすれたり、欠け・ずれがおきたために、請求書を再発行する必要に迫られるケースも少なくありません。こうした手間を極力減らすためには、請求書を電子化するのがおすすめです。
2001年に電子署名法が施行され、要件を満たした手書きの署名や電子印鑑の法的効力が認められています。電子印鑑を導入することにより、請求書に毎回手作業で押印する必要がなくなり、データ上での押印が可能になります。
また、電子請求書によるペーパーレス化は、業務効率の向上とコスト削減効果をもたらすことが期待されます。
請求書関連の業務が負担になっている法人や個人事業主は、電子請求書の導入を検討してみてはいかがでしょうか。
電子印鑑の作り方
電子印鑑には大きく分けて2つのタイプがあります。1つは単純に印鑑を画像化したもの、もう1つは印鑑の画像に識別情報を付与し、請求書の改ざんを防ぐ効果を高めたものです。これらの違いはセキュリティの差にあります。
電子印鑑は下記の3つの方法で作成することができます。作成方法のポイントを押さえておきましょう。
手持ちの印章を押印してスキャンする
電子印鑑には、手持ちの印章を白い紙に押した印鑑をスキャンし、画像に変換して作る方法があります。作成手順は下記のとおりです。
印章を使った電子印鑑の作成方法
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1.コピー用紙など白地の紙に印鑑を押す
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2.印鑑をスキャンする
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3.印鑑の画像データを補正する(色・角度など)
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4.背景を透明にする
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5.印鑑データとして保存する
背景を透明に加工しておくことで、社名などの文字と重ねて配置できるようになります。ただし、この方法で作成した印鑑データは、あくまでも単なる画像にすぎません。
印鑑データには、使用者情報や使用した年月日を示す情報(識別情報)が含まれていないため、複製・改ざんしようと思えば容易に実行できてしまいます。手軽に作成できる方法ではあるものの、請求書に押印する本来の目的と照らし合わせるとセキュリティが万全とは言い切れません。
フリーソフトやオンラインツールで作成する
フリーソフトやオンラインツールで電子印鑑を作成することも可能です。作成したい印鑑の文言を入力し、希望のデザインを選択するだけで印鑑が完成します。短時間で作成できるうえ、無料で印鑑を用意できる点がメリットといえるでしょう。
一方で、フリーソフトやオンラインツールは誰でも利用できるツールのため、まったく同じ印鑑を作ろうと思えば簡単に作れてしまいます。ツール内で用意されているテンプレートの中から選ぶ関係上、作成される電子印鑑の形状・デザインが限られてしまうからです。
また、手持ちの印章を白い紙に押印してスキャンした場合と同様、完成した画像はあくまでも単なる画像にすぎません。識別情報が含まれていないため、複製・改ざんのリスクがあることを理解しておきましょう。
フリーソフトやオンラインツールで作成した電子印鑑を使用するのは、形式的な認印などの用途にとどめておいた方が無難だといえます。
印鑑に識別情報を付与できるサービスを使用する
電子印鑑の作成に対応したサービスの中には、識別情報が付与可能な印鑑を作成できるものもあります。識別情報を付与することにより、電子印鑑が押されてから変更が加えられていないという事実の証明ができます。
この電子印鑑で押印した際は、押印された年月日や押印したユーザーが記録されるため、印鑑を加工したり別の印鑑と取り替えたりすることはできません。つまり、請求書の改ざんを防ぐ効果が他の作成方法と比べて高いといえます。請求書の改ざんを防止するという押印の本来の目的に照らし合わせると、識別情報が付与された印鑑を作成できるサービスを利用するのが安心です。
なお、通常の印鑑と同様、電子印鑑にも法的効力はありません。請求書への押印は、あくまでも発行元の事業主が確認・承認したことを示す意味で慣習として行われています。請求書を発行した事業主が、確かに作成したという事実を伝えるために電子印鑑も使用します。
請求書の押印方法を正しく理解し、偽造や改ざんの防止を
請求書への押印は決まり事ではなく、押印していない請求書でも支払いの請求をすることは可能です。しかし、会社印や角印、担当社印などが押印されている請求書は、印影の真偽の検証によって「該当の企業や個人事業主が発行したものである」という信頼性や信憑性を持つものと考えられていることと、商習慣から、請求書に押印するケースは少なくありません。押印の本来の意味合いをきちんと理解したうえで、適切な方法で押印することが大切です。
請求書を出力して送付する際はもちろん、弥生のクラウド請求書作成ソフト「Misoca」でも印影登録することが可能です。用途に合わせて検討してみてください。
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この記事の監修者市川 裕子(ビジネスマナー監修)
マナーアドバイザー上級、秘書検定1級、ビジネス実務マナー、硬筆書写検定3級、毛筆書写検定2級、収納アドバイザー1級、など。 出版社や人材サービス会社での業務を経験。秘書業務経験よりビジネスマナーとコミュニケーションの重要性に着目し、資格・スキルを活かし、ビジネスマナーをはじめとする各種マナー研修や収納アドバイザー講師として活動。