支払通知書とは?役割や書き方、電子化のメリットを解説
監修者: 辻・本郷税理士法人 / 辻・本郷ITコンサルティング
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支払通知書とは、支払いをする側が支払い内容を通知するために発行する書類であり、国税関係書類のひとつとして取り扱われます。
この記事では、支払通知書の発行目的や記載項目、発行にあたって注意すべきポイントなどをまとめて解説します。インボイス制度に対応した支払通知書の形式や、電子的に発行する場合の電子帳簿保存法に関する注意点についても紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
支払通知書とは、支払いを行う側が売手側に対して支払内容を通知する書類のこと
商取引を行ううえでは、受注側(売手側)と発注側(買手側)が複数の書類をやりとりします。支払通知書もやりとりする書類のひとつで、買手側(代金を支払う側)が、売手側(代金を受け取る側)に支払い内容を通知するために発行する書類です。
支払通知書と似ている書類に請求書があります。請求書は受手側(支払いを受ける側)が買手側に対して発行する書類です。支払通知書とは発行者が異なる点に注意しましょう。
なお、支払通知書と請求書では、支払通知書のほうが先に発行されます。例えば、企業とフリーランスが取引をした場合、企業(買手側)があらかじめ支払通知書を発行することで、取引の内容を売手側に通知します。売手側であるフリーランスは支払通知書の内容にもとづいて請求書を発行すれば良いので、請求管理の手間を省けますし、締め日のずれによる請求書の出し直しなどもなくなるでしょう。
支払通知書の発行義務はない
支払通知書の発行義務はありません。発行しない企業もあるため「フリーランスは支払通知書を待ってから請求書を出せば良い」というわけではありません。発行するかどうかは、取引している企業の規定や取引先との契約内容にもとづいて決まります。
発行義務はないものの、発行された支払通知書は、国税関係書類として取り扱われます。取引先との円滑な取引のためにも間違いのないように発行しなければいけません。また、支払通知書を受け取ったときは、一定期間の保管義務が生じます。
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支払通知書を発行するメリットとは?
発行の義務がないにもかかわらず支払通知書を発行するのは、それだけのメリットがあるからです。続いては、支払通知書が取引で活用される、3つのメリットを紹介します。
双方(売手側・買手側)の思い違いやミスがなくなる
請求書を受け取る前に支払通知書を発行しておくことで、請求に関する売手側、買手側双方の認識の最終確認を行えます。
例えば、売手側が「今月分の請求はA、B、Cの3件になるはず。Dについては一部の納品が遅れたため、来月納品になるだろう」と思っていても、支払う側は「今月はA、B、CとDの半額が支払い対象になる」と思っていることもありえます。このような齟齬があると、請求書を再発行しなければいけなくなる可能性もあるでしょう。
取引に時間と手間がかかってしまうことは、お互いにとって良いことではありません。事前に支払通知書を作成し、支払い対象を明確にしておくことで、請求内容に関する行き違いをなくせるのは大きなメリットといえます。
経理業務の円滑化
支払通知書を発行することで、売手側の請求書作成にかかる手間と、買手側の請求書確認にかかる手間を減らせます。
支払通知書をもとに請求書を作れば、請求内容にずれが起こることはありません。取引内容を見返さなくても、簡単に確実な請求書を発行できることはメリットといえます。買手側も「発行された請求書の内容が間違えていて再発行を依頼する」といったことがなくなり、手間を軽減できます。
支払通知書や請求書を発行せずに支払いをすると、支払金額の間違いが起こる可能性も。そうなると、再度支払いを行うための振込手数料が発生したり、過入金分を翌月請求分から相殺したりといった手間やコストがかかります。支払通知書や請求書には、このような問題を回避する役割もあります。
請求書の代わりになる
事業者同士が取引を行う場合は、取引内容に関する意思を相手方に明確に伝える書類の作成が必要です。代表的な書類として請求書がありますが、支払通知書を請求書の代わりの書類として利用することもできます。そのため、買手側が支払通知書を発行していれば、売手側の請求書発行手続きを省略することが可能です。
支払通知書を請求書代わりにすることで、買手側は「売手側が請求書を発行するのを待っていると支払い業務が遅れる」「売手側の作成した請求書が正確か確認するのに手間がかかる」といった問題を解決できます。売手側も、請求書を発行する必要がなくなるため、事務処理にかかる手間を減らせますから、双方にとってメリットです。
また、請求書を発行せず、支払通知書を売手側が確認することで支払いを行う企業もあります。このような企業では、支払通知書の役割は請求書の代わりに支払い内容を確認するためのものです。その場合の流れを下記の例で見てみましょう。
支払通知書が請求書の代わりになる場合の例
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1 個人事業主に対して、発注者が支払通知書を発行
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2 個人事業主が支払通知書の内容を確認し、了承した旨を伝える
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3 発注者(買手側)が売手側の個人事業主に支払通知書に従った支払いを行う
支払通知書を発行せずに支払いをしてしまうと、後から間違っていたことがわかってトラブルになるかもしれません。支払通知書を発行することで、支払い前にいつ、何の代金として、いくら支払うのかが明確になります。
支払通知書に記入が必要な項目
支払通知書には、決められたフォーマットがありません。取引先である企業にとって使いやすいフォーマットで発行するのが基本です。ただし、記載する項目は決まっています。記載すべき項目に漏れがないように気を付けてください。
ここでは、支払通知書に記載すべき内容をまとめました。なお、必要に応じて、これ以外の内容を記載しても問題ありません。支払通知書の記載項目について、従来と適格請求書(インボイス)対応に分けてご紹介します。
従来の支払通知書の記載項目
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(1) 書類のタイトル
取引において発行する書類には、何の書類かがわかるタイトルを記載する必要があります。書類の一番上の中央に「支払通知書」と大きい文字で記載してください。 -
(2) 書類を発行した年月日
書類の発行年月日を記載します。特に決まりはありませんが、1ヵ月分をまとめて記載するのであれば、月末の日付または、月初の日付にするのがおすすめです。 -
(3) 発行企業名・連絡先
支払通知書を発行する企業の名称と住所、電話番号、メールアドレスといった連絡先を記載します。支払通知書は支払いを行う買手側が発行する書類ですから、買手の企業名が入ります。 -
(4) 宛名
支払通知書の宛先となる取引先名を記載します。支払いを受ける側、つまり、受注側の企業名や個人事業主名が該当します。
敬称は、先方が企業であれば「御中」、個人事業主やフリーランスで個人名の場合は「様」です。個人事業主宛で屋号を併記する場合は、屋号を先に書き、その後ろに個人名と「様」を記入してください。 -
(5) 支払通知金額
支払通知書によって通知する支払予定額を記載します。消費税も含めた、支払う金額の総額をわかりやすく大きく記載してください。 -
(6) 取引年月日
取引が発生した年月日を記載します。支払通知書の発行日とは別に、取引の内容ごとに一つひとつ書いてください。なお、基本的に取引年月日は、支払通知書の発行日付よりも前になります。 -
(7) 取引内容
取引の内容をわかりやすく記載します。「工事代」といった書き方では何に対する金額かがわからないため「A邸ルームクリーニング代金」というように、取引を特定できるように書いてください。 -
(8) 単価
商品やサービスの対価を商品ごとに記載します。 -
(9) 消費税
それぞれの商品やサービスの単価ごとに消費税を記載します。なお、消費税は商品ごとに書くのではなく、最後の合計額に消費税率を乗じて求めることもできます。その場合は、最後に税抜の合計額と消費税額を記載する欄を作りましょう。 -
(10) 備考欄
支払い期日や振込先の口座、注意事項、補足など、支払いに関して伝えるべきことがあれば、備考欄に記載します。「一定期間内に連絡がない場合、確認済といたします」といった文言を記載しておくと、支払通知書の確認をしてもらえたかどうか問い合わせる手間を省けます。 -
(11) 小計
本体価格と消費税額の小計をそれぞれ計算して記載。 -
(12) 総合計
最後に、本体価格と消費税を合わせて総合計を記してください。
適格請求書に対応した支払通知書の記載項目
2023年10月からインボイス制度がスタートします。支払通知書も適格請求書等保存方式に含まれるため、適格請求書に対応した形式で発行すれば、仕入税額控除が認められます。
ただし、そのためには下記の項目を、従来の支払通知書の項目に加えて記載しなければいけません。
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課税仕入れの相手方の登録番号
「課税仕入れの相手方」とは、支払いを受ける側(支払通知書の宛先であり売手側)です。あらかじめ登録番号を確認しておき、支払通知書の宛名の下に「登録番号:T××××××」と記載してください。 -
該当の取引が軽減税率の対象であるか否か
それぞれの取引が、軽減税率の対象となるかどうかがわかるように明記します。 -
税率ごとに区分して合計した支払額(税抜)
消費税額を含まない本体価格について、税率ごとに区分して合計を求めます。該当の支払通知書のうち、8%対象の小計がいくらで、10%対象の小計がいくらなのかをそれぞれ明記してください。 -
適用税率および消費税額など
税率ごとの合計額に対して、適用税率と消費税額をそれぞれ計算して記載します。
なお、適格請求書に該当する請求書では、消費税の端数処理を税率ごとに1回しか行うことができません。そのため、取引ごとに消費税の計算をするのではなく、税率ごとの合計を出してから消費税率を掛けて、税額を算出しましょう。最後に総合計を算出し、支払い金額として上部に記載します。
支払通知書の保存期間
支払通知書を発行した場合や受け取った場合は、その控えや原本を保存しなければいけません。これは、支払通知書が国税関係書類に該当するためです。
紙の支払通知書を受け取った場合は、後からすぐに見返せるように、取引先別や日付別にファイリングします。担当者以外でも、必要なときにすぐに確認できるようにしておくことが大切です。
電子データの支払通知書を受け取った場合は、電子データでの保存が必要。税務署などから求められたときに検索できるよう、一定のルールにもとづいて保存してください。
法人と個人事業主、それぞれに定められている保存期間は下記のとおりです。
法人の場合:支払通知書原本の保存は7年間
法人は、支払通知書を7年間保存する義務があります。支払通知書の発行日または受領日から、7年後の法人税申告期限の日までの間保管してください。受領日の7年後ではない点に注意が必要です。
なお、青色申告法人で赤字決算の場合や、青色申告書を提出しなかった事業年度に災害損失欠損金額が生じた場合は、10年間(2018年4月1日前に開始した事業年度は9年間)の保存が必要です。法人の赤字(繰越欠損金)は10年間繰越ができ、繰越控除を受けるうえで証憑書類の保存が要件となるためです。
個人の場合:支払通知書原本の保存は5年間
青色申告や白色申告をしている個人事業主は、支払通知書を5年間保存しなければいけません。支払通知書の発行日または受領日から、5年後の確定申告期限日まで保存してください。
ただし、消費税の課税事業者やインボイス制度に対応して適格請求書(インボイス)発行事業者として登録をした個人事業主は、支払通知書を含む証憑書類を7年間保存する義務があります。この場合は、適格請求書を交付した日(または受け取った日)が属する課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年間となります。
また、免税事業者でも、個人事業主の決算関係書類や総勘定元帳などの帳簿類は、7年間保存しなければいけません。保管場所に余裕があるなら、証憑書類も決算関係書類と併せて7年間保存しておくと管理がしやすいかもしれません。
副業で雑所得を得ている方
雑所得がある方のうち、前々年の該当の業務によって得られた収入金額が300万円を超える方は、支払通知書を5年間保管しなければいけません。支払通知書以外の書類であっても、取引に関連する書類は5年間保管します。なお、適格請求書に該当する書類は7年間の保存が必要です。
支払通知書を電子化するメリット
支払通知書は、電子データとして発行することもできます。もっとも、電子データをわざわざ紙に印刷して保存するよりも、要件を満たす形で電子保存したほうが省スペースですし、手間もかからない可能性が高いといえます。支払通知書の電子化には多くのメリットがあるため、検討してみてください。
ここでは、支払通知書を電子化するメリットについて、詳しく見ていきましょう。
手作業によるミスがなくなる
支払通知書をシステム的に発行できるようになれば、書き間違えや転記間違いといった問題を軽減できます。買手側、売手側双方にとって確認や修正の手間が省けますから、業務効率化につながるでしょう。見積書や注文書の内容を自動で引用できるシステムの利用がおすすめです。
書類を一括管理でき業務がスピーディーに
取引に関する書類のやりとりができる経理関係のシステムを活用すると、書類の一括管理やWeb上での閲覧が可能になります。書類のやりとりもWeb上で行えるため、郵送の手間や時間がかかりません。問い合わせがあったときもすぐに該当の書類を確認できるので、リアルタイムでスムースな対応が期待できます。
書類保存のスペース削減、コストカット
支払い通知書を電子的に発行した場合は、原則、電子データとして保管することになります。紙に印刷してファイリングする必要がなくなり、省スペース化が可能に。さらに、紙に印刷するためのコストや、管理にかかる人的コストの削減にもつながります。
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支払通知書をはじめとする書類作成は弥生でシステム化を
支払通知書をはじめとする取引書類の作成には、帳票の発行や管理を一括で行えるシステムの利用が便利です。
「弥生販売」では、支払通知書はもちろん、請求書や発注書、見積書などの発行や管理、分析も可能です。インボイス制度にも対応していますので、2023年10月以降も手間なく新しい形式の支払通知書や請求書を発行できるでしょう。業務負担の軽減や、企業間のスムースなやりとりにご活用ください。
この記事の監修者辻・本郷税理士法人
国内最大規模の税理士法人。専門分野に特化した総合力を活かし、一般企業の税務顧問をはじめ、医療法人、公益法人、海外法人など多種多様なお客様へサービスを提供。開業支援から事業承継、相続・贈与対策、オーナー向けの資産承継など、法人・個人問わずお客様のニーズに柔軟かつ的確に応えるべく、幅広いコンサルティングを行っている。
Webサイト:https://www.ht-tax.or.jp
この記事の監修者辻・本郷ITコンサルティング
国内最大級の税理士法人である辻・本郷 税理士法人のグループ会社として2014年に創業。実践した数多くのDX化ノウハウをグループ内外に展開。バックオフィスに課題を抱える組織のコンサルティングから導入までをワンストップで行う。電子帳簿保存法やインボイス制度対応等、最新のコンサルティング事例にも精通。「無数の選択肢から、より良い決断に導く」をミッションとし、情報が多すぎる現代において、お客様にとっての「より良い」を見つけるパートナーを目指す。