過入金の返金処理方法は?過剰請求への対処法と仕訳を解説
監修者: 中川 美佐子(税理士)
更新

取引先から本来の売上額よりも多い金額が振り込まれた=過入金が発生した場合には、取引相手と協議したうえで適切に処理する必要があります。本記事では、過入金が発生したときの返金パターン別の仕訳と処理方法を中心に、過入金が起きる原因などを解説します。適格返還請求書(返還インボイス)についても触れます。
過入金が起きる原因
過入金が起きる主な原因として考えられることは、以下2点です。
- 二重振込などの入金側によるミス
- 二重請求などの請求側によるミス
二重振込などの入金側によるミス
入金側のミスによって実際の金額よりも多く振り込まれたときには、以下の原因が考えられます。
- 相手先が金額を間違えた
- 既に振り込んだことを忘れて、再度振り込んでしまった
- 振込先を取り違えた
請求書に記載されている金額を見間違えて、気づかないまま誤った金額で振り込みをしてしまった場合も過入金が発生します。一度振り込んだあとに、改めて同じ金額で振り込んでしまうミスは、決済方法が変更になった時期に起きやすいものです。そのほかにも、毎月取引がある相手に翌月分の支払い額を一緒に振り込んでしまうといったミスも考えられます。
二重請求などの請求側によるミス
過入金は、請求側のミスが原因で起こる場合もあります。請求側で起こりやすいのは、請求書に記載された金額が間違っている場合や、一度請求書を送付(送信)したあとに、同じ内容の請求書を再度送ってしまうミスです。請求書の発行履歴を残していない場合には、勘違いで同じ請求書を再発行・再送付(送信)してしまう可能性があります。
取引先からの依頼で請求書を再発行した場合には、新旧の請求書の区別がつかないことが原因で二重振込が発生する可能性があります。混乱を避けるために、再発行した請求書には【再発行】などと朱書きしておくと区別がつきやすいです。
過入金が発生したときは返金(返済)が必要
過入金が発生した場合、過剰分は必ず返金(返済)する必要があります。
- 過入金で受け取ったお金は不当利得に該当する
- 返金を拒否すれば刑事責任が問われる
以上のような問題があるからです。過入金に対する返金を行わなかった場合でも、一定の期間で時効が成立しますが、時効が成立する前に返金することが重要です。
過入金で受け取ったお金は不当利得に該当する
過入金によって過剰に受け取ったお金は民法第703条で返還義務が規定されている「不当利得」に該当します。不当利得とは、正当な理由もなく他人の財産を受け取って生じた利益のことです。過入金は不当利得に該当するため、返還義務があります。たとえ受け取った側にミスがなくても、過入金は返還しなければなりません。過入金であることを知っていながら返金しなかった場合には、過剰分に利息をつけて返還する必要があります。
参照:e-Gov「民法第703条」
返金を拒否すれば刑事責任が問われる
過入金による過剰振り込み分に対しては、一般的に支払者(振り込み側)から返納を要求されます。過剰分は必ず全額を返さなければならず、過入金の返納を拒否すれば、相手から訴訟を起こされる可能性があります。実際に不当利得返還請求訴訟を起こされて、不当利得が認められ、過去には詐欺罪(刑法第246条)の判決が出された判例も存在します。すでに物品などを購入してしまい、返納が不可能な場合には、購入した物品を差し押さえられることもあります。
時効が成立する前に返納をしよう
過入金の返納請求には時効があります。民法第166条第1項では「債権者が権利を行使できることを知ってから5年間行使しないとき」に時効が成立すると規定されています。返納を拒否した場合、該当する可能性のある刑の時効は7年です。時効を過ぎれば返済義務はなくなりますが、同時に取引先からの信用も失ってしまいます。過入金に気がついたら、早急に返納し、取引先との信頼関係を維持するよう努めることが重要です。
参照:e-Gov「民法第166条第1項」
過入金が発生したときの返金パターン別の仕訳と処理方法
過入金が発生した場合の返金方法としては、
- 過剰分の全額を返金する
- 次月以降の請求金額と相殺する
があります。
(1)過剰分を全額返済する
過入金のあった相手と当面の間、取引が見込めない場合には、過剰に支払われた金額を迅速に返金することが最善の対応方法です。過入金に気がついた時点で、すぐに相手に連絡をして、返金方法について協議してください。請求書に記載した金額に間違いがあったなど、過入金の原因が受け取り側にある場合には、振込手数料などは受け取り側が負担するのが基本です。
例えば、受け取り側のミスが原因で300,000円の売上金額に対して330,000円が口座に振り込まれた場合には、以下のように仕訳をします(振込時に、過入金30,000円を一時的に仮受金処理した場合)。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 330,000円 | 売上 | 300,000円 |
仮受金 | 30,000円 |
さらに、振込手数料220円を返金する際の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仮受金 | 30,000円 | 現金預金 | 29,780円 |
現金預金(手数料分) | 220円 |
(2)次月以降の請求金額と相殺する
過入金のあった相手と、継続して取引を行っている場合には、次月以降の請求金額と相殺する方法もあります。相殺が可能かどうかを相手と協議したうえ、請求額を相殺するには、同じ勘定科目かつ同じ金額で差し引きを行い、相手には次月の入金額を調整してもらう必要があります。
相殺仕訳は、振り込みの際にいったん仮受金で入金処理をした差額分を、翌月に前受金に振り替えて、事前に支払われていたとして売上合計から差額分を差し引きます。例えば、今月の売上200,000円に対して220,000円の入金があり、翌月の300,000円の売上入金の際に差額20,000円を相殺する場合には、今月入金時の仕訳は以下のようになります(過入金20,000円を一時的に仮受金処理した場合)。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 220,000円 | 売上 | 200,000円 |
仮受金 | 20,000円 |
翌月、以下のように仕訳をして相殺します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仮受金 |
20,000円 | 売上 | 300,000円 |
現金預金 | 280,000円 |
請求書に記載する相殺方法はこちらをご覧ください。
差額が少額で相手側に返金を断られた場合の仕訳と処理方法
過入金でも、差額が数十円、数百円など、振込手数料よりも少額だと相手側から返金は不要だと断られる場合があります。返金が不要な過入金が発生した際には、雑収入の勘定科目で処理します。
例えば31,000円の売上で31,100円が振り込まれた場合、差額分をいったん仮受金に計上してから、売上の前受金に振り替え、最終的に雑収入へと振り替えます。入金時の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
現金預金 | 31,100円 | 売上 | 31,000円 |
仮受金 | 100円 |
また、雑収入への振り替え時は以下のように仕訳します。
借方 | 貸方 | ||
---|---|---|---|
仮受金 | 100円 | 雑収入 | 100円 |
過入金が発生したときの対処方法
過入金が発生した際には、
- 早急に取引先に連絡を取る
- 決定に沿って過入金を処理する
まずは早急に取引先に連絡を!
過入金が発生していることが判明したら、速やかに取引先に連絡を取ることが重要です。過入金の原因や差額などの事実を確認したうえで、まずは相手に謝罪します。過入金された金額や発生した原因をまとめたうえで、対応方法を提案します。その際には口頭で伝えるのではなく、証跡が残るよう、メールなどを含む文書でやり取りするようにすると良いでしょう。
決定に沿って過入金を処理する
提案した対応方法に相手が了承してくれた場合には、決定した内容に沿って、速やかに過入金の処理を行います。具体的な処理方法は、前項「過剰分を全額返済する」「次月以降の請求金額と相殺する」「差額が少額で相手側に返金を断られた場合の仕訳と処理方法」を参考にしてください。
課税事業者との取引では適格返還請求書(返還インボイス)を発行しよう
適格返還請求書(返還インボイス)は、課税事業者との取引において、返品や値引きなどが行われ、金銭の返還が必要になった場合に発行・交付する請求書です。返還インボイスには、発行事業者の名称、登録番号、返還の年月日や対象の取引年月日、返還内容、税率ごとの金額などを記載します。発行後には、適格請求書と同様に返還側と受け取り側の両方が一定期間保存しなければなりません。
過入金の返金は速やかに行おう
過入金は、請求した側、入金した側のどちらのミスでも発生する可能性があります。過剰に振り込まれた金額に対しては、民法で定められているとおり、返還する義務があります。万が一、過入金が発生した場合には、速やかに相手に連絡して返金処理を行ってください。
請求書のミスを削減するには、クラウド請求書サービスの利用がおすすめです。弥生のクラウド見積・納品・請求書サービス「Misoca」なら、取引先、品目、税率などを入力するだけで簡単に請求書を作成できます。会計・確定申告ソフトとの連携も可能で、請求書発行関連業務の効率化を実現できます。
クラウド見積・納品・請求書サービスなら、請求業務をラクにできる
クラウド請求書作成ソフトを使うことで、毎月発生する請求業務をラクにできます。
今すぐに始められて、初心者でも簡単に使えるクラウド見積・納品・請求書サービス「Misoca」の主な機能をご紹介します。
「Misoca」は月10枚までの請求書作成ならずっと無料、月11枚以上の請求書作成の有償プランも1年間0円で使用できるため、気軽にお試しすることができます。
見積書・納品書・請求書をテンプレートでキレイに作成

Misocaは見積書 ・納品書・請求書・領収書・検収書の作成が可能です。取引先・品目・税率などをテンプレートの入力フォームに記入・選択するだけで、かんたんにキレイな帳票ができます。
各種帳票の変換・請求書の自動作成で入力の手間を削減

見積書から納品書・請求書への変換や、請求書から領収書・検収書の作成もクリック操作でスムーズにできます。固定の取引は、請求書の自動作成・自動メール機能を使えば、作成から送付までの手間を省くことが可能です。
インボイス制度(発行・保存)・電子帳簿保存法に対応だから”あんしん”

Misocaは、インボイス制度に必要な適格請求書の発行に対応しています。さらに発行した請求書は「スマート証憑管理」との連携で、インボイス制度・電子帳簿保存法の要件を満たす形で電子保存・管理することが可能です。
確定申告ソフトとの連携で請求業務から記帳までを効率化

Misocaで作成した請求書データは、弥生の確定申告ソフト「やよいの青色申告 オンライン」に連携することが可能です。請求データを申告ソフトへ自動取込・自動仕訳できるため、取引データの2重入力や入力ミスを削減し、効率的な業務を実現できます。
会計業務はもちろん、請求書発行、経費精算、証憑管理業務もできる!
法人向けクラウド会計ソフト「弥生会計 Next」では、請求書作成ソフト・経費精算ソフト・証憑管理ソフトがセットで利用できます。自動的にデータが連携されるため、バックオフィス業務を幅広く効率化できます。

「弥生会計 Next」で、会計業務を「できるだけやりたくないもの」から「事業を成長させるうえで欠かせないもの」へ。まずは、「弥生会計 Next」をぜひお試しください。
この記事の監修者中川 美佐子(税理士)
税務署の法人税の税務調査・申告内容の監査に29年勤務後、令和3年「
たまらん坂税理士法人」の社員税理士(役員)に就任。法人の暗号資産取引を含め、法人業務を総括している。
