未入金が判明したらどうすべき?個人事業主がとるべき催促方法を紹介
監修者: 齋藤一生(税理士)
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個人事業主は税務処理や入金管理も自分で行う必要があります。しかし、中にはスムースに支払いをしてくれる取引先ばかりとは限らず、「未入金」が発生する可能性もあります。また、売り手側のミスによって未入金が発生するケースもあるでしょう。未入金があると判明した場合、個人事業主はどう対処すべきなのでしょうか。
本記事では、未入金とは具体的にどのような状態を指すのか、基礎知識や発生する原因を解説。未入金を回収するための催促の手順や、法的な手続きも併せて紹介します。
未入金とは、売掛債権の中で売掛金が回収されていない代金のこと
未入金とは、売掛債権として取り扱っているうち、買い手側からの売掛金が回収されていない代金のことをいいます。売掛債権とは、商品やサービスを顧客に提供したものの、まだ受け取っていない代金を請求できる権利のことです。
未入金は買い手側が単純に支払いを忘れてしまっている他、支払える状況になかったり、故意に支払っていなかったりと、さまざまな原因が考えられます。
未入金の発生によって本来支払われるはずの売上代金を回収できないとなると、売り手側のキャッシュフローにも悪影響を及ぼすリスクがあります。
例えば、売上代金の回収と仕入代金の支払いのタイミングによっては現預金が不足して、予定していた仕入代金や経費などを支払えなくなってしまうおそれもあるでしょう。未入金が連続すると最悪の場合、倒産や廃業の原因となるかもしれません。
売掛債権の有効期限
売掛債権は法律によって有効期限が決まっており、その期限を過ぎると売り手は代金を請求できなくなります。
債権の消滅時効期間については、2020年4月1日に以下のような民法改正が行われました。
債権の消滅時効期間における改正ポイント
- 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき
- 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき
- ※e-Gov「第百六十六条(債権等の消滅時効)」
上のいずれか早いほうの行使がなされていない時点で、売掛債権を請求する権利は消滅します。
商取引においては「債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき」が該当するため、商品・サービスを提供してから5年以内に請求しなければ売上代金を回収できなくなります。
有効期限を過ぎてしまわないためにも、未入金が判明したらすぐに対応することが大切です。
請求書の支払いが行われない原因
取引先へ請求書を送付したにもかかわらず支払いが行われないときは、どのような原因が考えられるのでしょうか。売り手側のミスと、買い手側のミスが考えられるため、それぞれの原因を詳しく見ていきましょう。
売り手側のミス
売り手側のミスによって未入金が発生することは珍しくありません。売り手側のミスによって支払いが行われていない理由としては、以下のようなケースがあります。
売り手側のミスで支払いが行われていない理由
- 請求書の送付漏れ
- 請求書の宛先ミス(住所や部署名などに誤りがある)
- 買い手側の請求締め日に請求書が届いていなかった
- 支払期限の記載ミス(予定の1か月先の日付で記載していたなど)
まずは売り手側で請求書の発行・送付履歴を確認し、問題がなさそうであれば買い手側へ未入金について確認をしましょう。その際は、こちらのミスであることを謝罪した上で再度請求書を送りましょう。
買い手側のミス
売り手側の発行した請求書に不備がなく、買い手側にも届いているにもかかわらず支払いが行われていない場合もあります。そのようなケースでは、以下のような買い手側のミスが考えられます。
買い手側のミスで支払いが行われていない理由
- 請求書の支払日を忘れている、もしくは誤った支払日で認識している
- 担当者が経理担当へ請求書を渡し忘れている
このようなトラブルを防ぐためにも、請求書だけでなく送付状や送付時のメールには、しっかりと支払日を記載することが大切です。
未入金が判明したら段階に応じて催促していく
支払いがなされない場合、社内的な事情で遅れていることもあります。同じプロジェクトの中で自分が関わったところ以外の箇所がまだ終わっておらず、すべてが完了してから支払われるのかもしれません。まずは買い手側の現状確認をしたうえで、必要に応じて支払いを促すようにしてください。
催促しても支払いに応じてもらえない場合は、請求書を再発行します。あまりにも相手の態度が悪質な場合は内容証明郵便で出して、支払いの催促や督促を行う方法も検討することになります。
最終手段としては、60万円以下の支払請求の場合に行える小額訴訟を選択することになりますが、手間がかかるうえに、回収できるかは定かではありません。実際に未入金が発生したときには、現実的な対応をとる必要があるでしょう。
未入金が発生したときにとるべき具体的な対応
未入金が発生した場合の現実的な対応とは、いったいどのようなものなのでしょうか。ここでは、未入金が発生したときにとるべき、具体的な対応の流れを紹介します。
1. 請求書の内容を確認し、相手に届いているか確認する
まずは、請求書が正確な内容と宛先で発行・送付されているかどうかを確認しましょう。特に、支払日の記載ミスがないかもチェックします。
売り手側にミスがないと確認できたら、買い手側に請求書が届いているかどうかを確認します。
2. 取引先に未入金があることを伝える
続いては買い手側の担当者に、未入金がある旨を伝えます。
未入金の原因としては、単なる支払い忘れや請求書の紛失などもあるため、請求書の再発行が求められるケースもあります。取引先へ未入金についてメールで伝える際は、以下のような内容が好ましいでしょう。
未入金を伝えるメールの例文
件名:
◯◯サービスX月分のご入金についてのご確認
本文:
株式会社◯◯
◯◯様
平素より大変お世話になっております。株式会社◯◯の◯◯です。
◯年◯月末日に◯月分の請求書をメールにて送付させていただいておりますが、ご確認いただけましたでしょうか。
本日◯時現在、当方にてご入金の確認が取れておりませんでしたため、ご連絡いたしました。
手違いかと存じますが、ご確認いただくようお願いいたします。
恐縮でございますが、ご確認がとれましたら状況をお知らせいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。
行き違いでご入金済の場合は、何卒ご容赦くださいませ。
株式会社◯◯
住所:東京都◯◯区◯◯ ◯◯-◯◯-◯◯
Tel:◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯
e-mail:XX@XX
3. 契約書や同意書の内容を確認する
未入金の連絡をしても支払いが確認できない場合は、契約書や同意書といった、取引先の捺印があり、商品やサービスについて代金を支払うことが記載された書類の内容を確認します。
契約書や同意書は、最後まで支払いが行われず裁判に発展した際も有益な証拠となるため、紛失しないでください。
また、契約書では、「期限の利益喪失条項」と「所有権移転時期」もチェックします。
期限の利益喪失条項
期限の利益喪失条項とは、債務者からの支払いが滞った場合などにおいて、入金期限前でも債務の全額をただちに支払う義務が生じるという条項です。
例えば、4月と5月それぞれの月末の2回分割払いで代金を支払うという契約において、4月末分の支払いが遅れた場合、「期限の利益喪失条項」の記載があれば、4月末の支払いが遅れた時点で5月末までの代金を請求できるようになります。
所有権移転時期
所有権移転時期とは、商品の所有権が売り手から買い手へ移る時期を明記したものです。例えば、商品を納品した時点なら「納品時」、買い手が売り手へ代金を支払った時点なら「支払時」となります。
所有権移転時期を確認し、代金の未払いが発生した時点で売り手に所有権がある場合は、買い手が破産しても商品を引き揚げることができます。
4. 悪質であれば商品の出荷やサービスの提供を停止する
未入金の連絡後も先方に代金を支払う意思がない、あるいは支払うことができないという状況であれば、商品やサービスの提供を停止する必要があります。そのような場合は、今後も代金が支払われる可能性が低く、商品やサービスを提供し続けても売り手側のリスクが膨らんでしまうためです。
先方には「支払期日を過ぎてもお支払いいただけない代金があるため、今後の出荷やサービスの提供は停止させていただきます」という旨の連絡をします。
5. 未入金分の売掛金を買掛金で相殺する
未入金のある取引先に対して売掛金と買掛金がある場合は、未入金分の売掛金を買掛金で相殺することも可能です。取引先と相互に商品の売買やサービスの提供を行っていて、相殺できる売掛金が見つかったら、「相殺通知書」を取引先へ送ります。
相殺通知書は内容証明郵便で送付し、発送したことを第三者が証明できるようにします。
相殺通知書の例文
株式会社◯◯
代表取締役 ◯◯殿
前略
当方は貴社に対し、◯年◯月◯日現在、下記(1)の債権を有し、下記(2)の債務を負担しております。
(1)当方の債権
◯年◯月◯日、貴社に対して売り渡した商品◯◯の売掛金債権
(額面金◯万円)
(2)当方の債務
1. ◯年◯月◯日付金銭消費貸借契約書にもとづき、貴社より借り受けた金銭債務元本金◯万円
2. 上記貸付金にかかる本日までの約定利息金◯◯円
つきましては、本書面をもって上記の債権債務を対当額にて相殺することを通知いたします。
当該残額のお支払いについては、本通知書の到達後◯日以内に指定口座宛にお振り込みいただきますようお願いいたします。
◯年◯月◯日
株式会社◯◯
住所:東京都◯◯区◯◯ ◯◯-◯◯-◯◯
Tel:◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯
e-mail:XX@XX
法的措置を含めた未入金回収の方法
未入金について連絡しても支払いが行われない場合、法的措置を含めて対応を検討する必要があります。ここでは、その方法を具体的に見ていきましょう。
催促状・督促状を送る
連絡しても代金が支払われない場合は、催促状または督促状を送付します。催促状と督促状は、下記のように意味合いが異なります。
催促状と督促状の違い
- 催促状:支払いを催促するための文書。督促状と比較して強制力が弱い。
- 督促状:支払いを強く促すための文書。支払われなければ、法的措置をとるという意味合いも持つ。
一般的には、まず催促状を送り、それでも対応がない場合は督促状を送るという手順となります。それぞれの例文は下記のとおりです。
催促状の例文
株式会社◯◯
代表取締役 ◯◯殿
拝啓
平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
◯年◯月◯日にご請求いたしましたお取引金額につきまして、本日時点で入金の確認がとれておりません。
貴社との契約では、請求月の翌月末にお支払いいだたくこととなっております。
何らかの手違いかとは存じますが、下記ご請求内容もご確認のうえ、至急お支払いいだけますようお願い申し上げます。
敬具
・請求内容
取引年月日:◯年◯月◯日
商品名:◯◯サービス
取引金額:◯◯円
お支払期限:◯年◯月◯日
・お振込先
◯◯銀行◯◯支店 普通 1234567 株式会社◯◯
※振込手数料はご負担ください。
なお、本状は◯年◯月◯日現在の入金確認にもとづいております。
行き違いでお振り込みいただきました場合は、何卒ご容赦いただきますようお願い申し上げます。
◯年◯月◯日
株式会社◯◯
住所:東京都◯◯区◯◯ ◯◯-◯◯-◯◯
Tel:◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯
e-mail:XX@XX
督促状の例文
株式会社◯◯
代表取締役 ◯◯殿
拝啓
平素より格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
早速ではありますが◯年◯月◯日付にて弊社よりご請求しております◯◯サービスの代金について、本日時点で入金の確認ができておりません。
至急ご確認をいただき、お支払予定日をご連絡ください。
◯年◯月◯日までにお支払いをいただけない場合には、誠に遺憾ではございますが、法的措置をとる他、遅延損害金、延滞利息、請求手数料を加算させていただく場合があることもご承知おきください。
なお、本状は◯年◯月◯日現在の入金確認にもとづいております。
行き違いでお振り込みいただきました場合は、何卒ご容赦いただきますようお願い申し上げます。
敬具
◯年◯月◯日
株式会社◯◯
住所:東京都◯◯区◯◯ ◯◯-◯◯-◯◯
Tel:◯◯-◯◯◯◯-◯◯◯◯
e-mail:XX@XX
内容証明郵便を送る
督促状を送付しても回収ができない場合は、内容証明郵便を送ることも検討しましょう。内容証明郵便とは、文書の送付元・送付先やその内容、受取日時を証明するものです。
内容証明を利用した催促は法的な催告に該当し、請求書が取引先へ確かに送付されていることを証明できるだけでなく、その請求書の支払いの時効が6か月延長されます。
公正証書を作成する
公正証書とは、公証人が作成する公文書です。公正証書へ「強制執行の認諾文言」を記載すると、取引先が不払いを起こした際に強制執行を行うことができます。
なお、公正証書があれば訴訟手続きをしなくても、相手の財産を差し押さえられるようになります。公正証書は、全国の公証役場で作成可能です。
法的措置である支払督促に移行する
支払督促とは、裁判所からの文書で支払いを促す法的措置です。裁判所からはまず「支払督促」を、次に「仮執行の宣言が付された支払督促」を出してもらうよう申し立てます。支払督促の申し立てが確定すると、判決が出た場合と同じ効力を得られます。
支払督促の申し立てをするために必要な書類は、以下のとおりです。
支払督促の申し立てで必要な書類
- 支払督促申立書
- 当事者目録、請求の趣旨および原因の写し
- 請求する金額に応じた申立手数料の収入印紙
- 宛名書きをして120円分の郵便切手を貼った無地の封筒
- 宛名書きをして1,230円分の郵便切手を貼った無地の封筒
- 宛名書きをした郵便はがき
- 資格証明書(会社など法人のとき)
- 委任状(弁護士や認定を受けた司法書士が代理人として申し立てをする場合)
- 出典:最高裁判所「支払督促」
郵便料金は、2024年6月時点の金額です。(2024年10月1日に郵便料金変更予定)
貸倒損失が認められる3つのケース
取引先が経営的に支払不能に陥っている場合など、もはや回収の見込みのない売掛金や貸付金は、貸倒損失処理を行うことで経費(損金)にすることができます。貸倒損失が認められるケースは3つありますので、1つずつ見ていきましょう。
法律上の貸倒れ
法律上の貸倒れとは、金銭債権が切り捨てられたケースが該当します。例えば、業績悪化によって取引先に会社更生法や民事再生法が適用された場合、規定によって切り捨てられた金額は、その事実が生じた事業年度の経費(損金)の額に算入することができます。
事実上の貸倒れ
事実上の貸倒れとは、金銭債権の全額が回収不能となったケースです。この場合も、それが明らかになった事業年度において貸倒れとして経費(損金)に計上することができます。
ただし、取引先に担保がある場合は、その担保を処理した後でなければ、経費(損金)にすることはできないので注意しましょう。
形式上の貸倒れ
形式上の貸倒れとは、取引停止後1年以上回収できない場合や、回収コストが債権額を上回るケースです。この場合、債務者に対する売掛債権の額から備忘価額(1円)を控除した残額を貸倒処理することができます。
ただし、損金にできるのは売掛債権に限るため、貸付金などそれ以外の債権については、この方法は使えません。
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事業規模が小さい、資金が少ないといった個人事業主や小規模企業ほど、未入金によって代金を回収できないときの影響が大きくなります。未入金によるリスクや回収手順を押さえておき、万が一未入金が発生したときは、スムースに対処できるように備えましょう。
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