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確定申告書は代理で作成・提出できる?注意点やメリットについて解説

監修者:田中卓也(田中卓也税理士事務所)

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日本の所得税は、申告納税制度を採用しています。申告納税制度とは、納税者本人が税務署に所得や所得税の申告を行うことで税金が確定し、確定した税金を自ら納付する制度です。つまり、確定申告は原則として本人が行うこととされています。

しかし、何らかの事情で本人が確定申告書を作れなかったり、提出できなかったりすることもあるかもしれません。そのような場合に、代理人に対応してもらうことは可能なのでしょうか。

ここでは、確定申告書の代理人による作成や提出が認められるケースや、代理人に依頼するメリットとデメリットなどを詳しく解説します。

確定申告書の作成は税理士のみが代理で対応できる

確定申告書の作成を代理で行えるのは、原則として税理士だけです。税理士資格を持っていない方が作成できるのは原則として本人の確定申告書のみで、他人の確定申告書を作ることはできません。

税理士法によると、第2条第1項に規定されている税務代理、税務書類の作成、税務相談の3つの業務について、原則として税理士または税理士法人以外の者が行ってはならないと定められています(税理士法第52条新規タブで開く)。

この3つの業務の内容は、それぞれ以下のとおりです。

税理士法第2条第1項に規定されている3つの業務

  • 税務代理:納税者の代理として税金の申告や申請などを行うこと
  • 税務書類の作成:確定申告書をはじめとした税務署への届出書などを代理で作成すること
  • 税務相談:税金計算や確定申告書作成などについて相談に乗ること

これらは、有償か無償かを問わず、税理士以外が行うことのできない業務です。例えば、友人や家族の確定申告書を代わりに無償で作成した場合も、税理士資格がなければ税理士法違反になります。

ただし、禁止されているのはあくまでも代理行為です。代理とは、本人が同意した範囲の中で、代理人が意思決定できることを意味します。税理士も、依頼者から受け取ったデータや書類を基に、自らの判断で税金の計算などを行っています。

一方、本人が意思決定を行ったことを第三者が代行することは禁止されていません。例えば、手を負傷してしまった本人に代わり、家族が本人の指示に沿って確定申告書に数字を書き込むことは、税理士でなくても可能です。このような行為は、税理士法違反には該当しません。

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確定申告書の提出は家族でも可能

確定申告書の作成ではなく、提出のみであれば、家族などが代行できます。提出は税理士法第2条第1項に規定されている税務代理、税務書類の作成、税務相談のいずれにも該当しないため、法律上の問題はありません。

家族以外の友人や知人などが、確定申告書を代理で提出することも可能です。しかし、税務署の担当者などに、確定申告書の作成まで代理していたのではないかと疑われるおそれもあります。そうなれば、本人と友人・知人の双方の不利益になりかねないため、家族以外に依頼するのは控えましょう。

代理人による確定申告書の作成が認められる場合

代理人による確定申告書の作成が認められるのは、原則として税理士のみです。しかし、例外的に許されるケースもあります。

以下の2つの場合に、確定申告書の作成代理が認められています。

税理士に依頼する場合

確定申告書の代理作成が認められるのは、作成の依頼先が税理士である場合です。税理士に確定申告書の作成を依頼した場合、一般的には税理士が確定申告書の作成・提出を代理しますが、作成のみを税理士が行って本人が提出することもできます。

一般的に税理士に確定申告書の作成を依頼するのは、例えば、業務が多忙である場合や税務・会計の知識に自信がない場合など、本人が確定申告に対応できないケースです。個人事業主はもちろん、給与所得者が株式投資の利益の申告や寄附金控除の適用などのために確定申告をする場合にも、税理士への依頼が可能です。具体的にどのような業務に対応してもらえるかは税理士によって異なるため、個別に確認してください。

個人事業主が税理士に確定申告書の代理作成を頼む場合は、決算書の作成も併せて依頼することも少なくありません。領収書や請求書、通帳のコピーといった必要書類を税理士に提出すれば、記帳業務や決算書の作成、確定申告書の作成、提出まですべて代理で行ってもらえます。また、日々の記帳業務は自分で行い、決算仕訳や確定申告書の作成だけを依頼する場合もあります。

本人が成年後見制度の対象になっている場合

本人が成年後見制度の対象になっている場合にも、代理人による確定申告書の作成が可能です。

成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害といった理由によって、本人が契約や手続きなどで意思決定を行うのが困難と認められた場合に、意思決定のサポートをする方を定める制度です。意思決定のサポートをする方には、補助人や保佐人、後見人などの類型があります。

この中で、最も判断能力が低下している方をサポートする後見人の場合は、民法第859条で財産の管理権とその財産に関する法律行為の代理権を与えられているため、確定申告も代理で行うことが可能です。この場合、税理士法違反にはなりません。

なお、未成年者の場合も、親が本人に代わって確定申告を行うことができます。未成年者については、民法第824条で財産の管理権やその財産に関する法律行為の代理権が親に与えられているため、その権利の一環として親が確定申告を行うことも可能です。

例えば、未成年者が芸能活動を行って報酬を得たものの、本人が確定申告できない場合は、親が代理で確定申告できます。この場合も、税理士法違反にはなりません。

確定申告書の提出を代理人に任せる場合の具体例

確定申告書の提出を代理人に任せるケースとして、具体的にどのようなパターンが想定されるのでしょうか。

2つの具体例を紹介します。

本人が海外在住で提出できない場合

本人が海外に在住している場合は、納税管理人を定めて、確定申告書の提出や税務署からの書類の受け取り、税金の納付のほか、還付金の受け取りといった一連の手続きを行ってもらわなければならない場合があります。

納税管理人を定める必要があるのは、海外に住んでいても、日本の所得税の課税対象になる方です。例えば、以下のようなケースが該当します。

納税管理人を定める必要があるケース

  • 日本の証券会社に特定口座(源泉徴収なし)を持っていて、保有している株式の配当金収入がある
  • 日本の自宅を売却して譲渡所得を受け取った
  • 日本に保有している不動産を人に貸して賃貸収入を受け取っている
  • 日本の保険会社と契約した保険の満期保険金を受け取った

これらの所得があり、確定申告を行わなければいけないときは、納税管理人を定めます。納税者本人の住所地を管轄する税務署に「所得税・消費税の納税管理人の選任・解任届出書新規タブで開く」を提出してください。

なお、納税管理人になるための資格などはありません。家族や法人、友人など、手続きを任せられる相手を選任しましょう。

本人が何らかの事情で提出できない場合

確定申告期間中に入院してしまった場合など、何らかの事情があって本人が確定申告書を提出できないときは、家族などが確定申告書の提出を代行します。

確定申告書の代理人による提出は、特に法律上の問題はない行為であるため、例えば「自分の確定申告書を提出しに行く家族の分も持っていく」「税務署の近くに用事があるからついでに家族の確定申告書を提出する」といったことも可能です。とはいえ、確定申告書は税務署へ持ち込むか、郵送やe-Taxで提出することもできるため、本人が提出できる方法も模索しましょう。

なお、本人の病気やケガなどが原因で確定申告書の作成自体ができない場合は、確定申告期限の延長を申請できます。その際は、「災害による申告、納付等の期限延長申請書新規タブで開く」を管轄の税務署に提出してください。「災害による」という名称ですが、災害だけでなく、本人の重傷病や火災なども延長の理由になります。

例えば、新型コロナウイルスに罹患した場合であれば、被災状況の欄に「令和6年3月14日に新型コロナウイルス感染症に感染し療養していたため、令和6年3月15日の期限までに申告・納付を行うことができなかった」などと記載することとなります。

ただし、申請書を提出しただけで延長が認められるわけではありません。延長が妥当かどうかの審査が行われます。結果の通知時期は状況により異なるため、個別に確認してください。延長可能な期間は、延長の理由となるやむを得ない事情が解消されてから2か月以内です。

確定申告を代理人に依頼する場合の注意点

確定申告を代理人に依頼する場合、注意しなければならないポイントがあります。

以下のポイントを押さえたうえで、依頼を検討しましょう。

誰に依頼するか慎重に検討する

税理士と家族では、確定申告手続きで代理できる範囲が異なるため、誰に依頼するかを慎重に検討しなければなりません。代理を頼む方を検討するときは、まず何を頼みたいのかを考えて、それに合わせて依頼先を検討してください。

例えば、初めての確定申告でやり方がわからないというのであれば、税理士に依頼したほうがスムースに進むかもしれません。一方、忙しくて提出に行けないだけであれば、税理士に報酬を支払って依頼するよりも、e-Taxや郵送といった手段を使うか、家族などに提出を依頼したほうがコストを抑えられます。

さらに、どの税理士に頼むか、家族のうちの誰に頼むかといった検討も必要です。対応範囲や費用が希望に合う税理士や、信頼できる家族に依頼しましょう。

代理で提出する場合は、納税者本人の身元確認書類が必要になる

確定申告書を家族などが提出する場合、代理人に関する委任状などの書類は不要ですが、納税者本人の身元確認書類を添付しなければならない点に注意が必要です。例えば、マイナンバーカードなど、本人のマイナンバーがわかる書類と身元確認書類の写しを提出してください。

代理提出を依頼する場合はこれらの書類を預けることになるため、信頼できる相手を選ばなければなりません。また、依頼された場合も、預かった書類は慎重に管理する必要があります。

税理士に依頼する際は依頼時期と料金を確認する

税理士に依頼する場合は、依頼時期と料金を確認しなければ、そもそも依頼ができなかったり、想定外のコストがかかったりすることがある点にも注意してください。

税理士への依頼では、税理士から必要書類などの連絡を受けた後、書類を取りまとめて郵送し、その書類を基に税理士が確定申告書を作成します。確定申告書の作成には時間もかかるため、確定申告の期限直前に依頼しようとすると、断られる可能性があります。短期間での作成を引き受けてもらえたとしても、特別料金がかかる場合もあるため、いつまでに依頼すればよいのかと、いくらかかるのかを事前に確認しましょう。

また、確定申告の業務だけを依頼する場合でも、後々のトラブルを回避するために、契約書を取り交わし、業務の範囲、報酬の額と内容、資料の提供方法と期限に関する依頼者の責任と受任者の義務などについて明記しておくことも重要です。確定申告書の作成報酬は、依頼先によって変わります。事前に比較して、自分に合った税理士を見つけてください。

確定申告の手続きを代理人に依頼するメリット

確定申告の手続きを代理人に依頼する場合、さまざまなメリットがあります。そのメリットは、依頼する相手によっても異なります。

依頼先ごとのメリットは、以下のとおりです。

家族に代筆や提出を依頼するメリット

家族に代筆や提出を依頼することで、書類の記入や提出にかかる労力を無料で削減できる点はメリットです。何らかの事情で確定申告書への記入や提出を自分で行うのが困難な場合は、家族のサポートが役立ちます。

なお、代筆や提出の代理は、判断が不要な行為ではありますが、家族に時間や労力の負担をかけることになります。「無料でやってもらえて良かった」で済ませるのではなく、感謝の気持ちを伝えましょう。

税理士に確定申告書の作成を依頼するメリット

税理士に確定申告書の作成や提出を依頼することで、スムースかつ正確な確定申告が可能になるといったメリットがあります。経費などの処理方法に不安がある方や、本業が忙しくて確定申告に労力を割けない方などは、税理士への依頼を検討してみましょう。

さらに、税理士によっては節税のポイントなどのアドバイスをくれる場合もあります。「この費用は経費になるのか」といった細かい疑問点や、できるだけ税金を抑える方法などを教えてもらいたい方にも、税理士への依頼はおすすめです。

ただし、節税のアドバイスがもらえるかどうかは税理士や契約内容、契約する時期によっても異なります。対応してもらいたい内容と依頼できる内容がマッチしているかどうかは、事前に確認が必要です。

確定申告を代理人に依頼するデメリット

確定申告を代理人に依頼する際は、デメリットにも注意しなければいけません。

家族に依頼する場合と税理士に依頼する場合、それぞれのデメリットは以下のとおりです。

家族に代筆や提出を依頼するデメリット

家族が確定申告の代筆や代理での提出を行う場合、税務署の窓口で適切に対応できないと、不審に思われる可能性がある点はデメリットです。確定申告書の書類作成自体は、本人が行わなければなりません。税務署に提出に行った際、本人と家族それぞれの対応範囲を正確に説明できないと、税理士でない者が確定申告書の作成を代理したのではないかと疑われる可能性があります。

納税者本人だけでなく、実際に税務署などに赴く家族も、作成の代理は違法であることを理解しておかなければなりません。

税理士に確定申告書の作成を依頼するデメリット

税理士に確定申告書の作成を依頼する場合、報酬を支払わなければならない点もデメリットといえます。報酬の金額は税理士や依頼内容によって異なりますが、数万円から数十万円程度のまとまった金額が必要になるため、コストとメリットが見合うか検討する必要があります。税理士に提出する書類の取りまとめや事業内容の説明といったやりとりも必要になるため、一切の労力から解放されるわけでもありません。

また、税理士に依頼するタイミングによっては、断られる可能性もあります。確定申告の期限が迫る前に、早めに検討を始めましょう。

本人が確定申告の手続きに対応できない場合は、適切な代理人に依頼しよう

確定申告書の作成は税理士、提出や代筆だけなら家族が代理で対応できます。本人が対応できないときは、依頼したい内容に合わせて、他者の手を借りることを検討しましょう。

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この記事の監修者田中卓也(田中卓也税理士事務所)

税理士、CFP®
1964年東京都生まれ。中央大学商学部卒。
東京都内の税理士事務所にて13年半の勤務を経て独立・開業。
従来の記帳代行・税務相談・税務申告といった分野のみならず、事業計画の作成・サポートなどの経営相談、よくわかるキャッシュフロー表の立て方、資金繰りの管理、保険の見直し、相続・次号継承対策など、多岐に渡って経営者や個人事業主のサポートに努める。一生活者の視点にたった講演活動や講師、執筆活動にも携わる。

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