青色申告なら赤字を翌年に繰越できる!「繰越損失」の条件と書き方

2021/03/31更新

この記事の執筆者齋藤一生(税理士)

赤字の場合に所得税の確定申告をする意味があるのかどうか……そんな悩みをお持ちの個人事業主の方もいるのではないでしょうか。
実は青色申告の場合には、赤字でも確定申告を行うことで3年間も赤字の繰越をすることができるという大きなメリットがありますので、その点についてご説明します。また、赤字の場合の所得税の確定申告書の書き方も解説いたします。

POINT

  • 青色申告の場合は、「赤字の繰越」をして節税できる
  • 赤字の繰越の節税効果は非常に大きい
  • 白色申告でも損益通算をすることはできるが、繰越はできない

そもそも「赤字の場合の繰越損失」とは?

赤字の場合の繰越損失とは、年間を通じて生じた総収入金額から必要経費を差し引いた場合に生じた損失の金額を、翌年以降3年間繰り越すことができる制度です。
事業を開業して1年目の場合や、将来に向けての事業投資を多く行った年には、赤字が生じるケースも多いので、ぜひ繰越をして節税したいところです。

例えば、今回の確定申告で100万円の損失が生じたとします。
そして翌年には利益が500万円生じたとします。
この場合に青色申告をして損失の繰越しをしていると、翌年分の確定申告の際に、500万円の利益から100万円の繰越損失を差し引いた400万円の金額を軸として税金計算をすることができるのです。

この制度は、白色申告の場合は適用することができないので、翌年分の確定申告では利益である500万円に対する所得税や住民税を納めなくてはならないのです。
2年でみると400万円しか利益は出ていないのに、500万円に対しての税金を納めなくてはならないというのはちょっと悔しい気持ちにもなりますよね。

事業を新たに開業された方などは、ぜひ、期限内に必ず「所得税の青色申告承認申請書」を税務署に提出し、青色申告者となっていただきたいところです。

赤字の場合、青色申告特別控除はどうなる?

赤字の場合には、青色申告特別控除を受けることはできません。

例えば、赤字の金額が200万円発生したとします。
この場合に、青色申告特別控除65万円を加算した265万円を翌年以降に繰り越すことができるというわけではありません。
あくまでも赤字の金額200万円のみを翌年以降に繰り越すことができるのです。

青色申告特別控除は、利益が生じた場合にのみ適用可能な制度であり、すでに赤字の場合にはその節税効果を発揮しないのです。

損失申告をするための条件は?

業務で生じた赤字について、損失申告をして翌年以降に繰り越すための条件があります。
まずは、その損失が「事業所得」「不動産所得」「山林所得」の計算上で生じた損失の金額である必要があります。
つまり、例えば「雑所得」の金額の計算上で生じた損失の金額を翌年以降に繰り越すことは認められていません。

また、赤字が乗じた場合には、他の所得区分の黒字の金額とまずは相殺されます。
これを損益通算と呼びます。
損益通算をしても、なお赤字の金額が残る場合にのみ、その赤字の金額の繰越をすることができるのです。

事業所得の金額の計算上200万円の赤字が生じ、その他に不動産所得の黒字金額が150万円あったとします。この場合は、まずは損益通算が行われ、200万円の赤字金額から150万円の黒字金額を控除した50万円分の赤字のみを翌年以降に繰越することができるのです。

なお、あえて損益通算を行わずに、全額の200万円を繰り越すといったことは認められていません。必ず損益通算を優先的に行います。

「繰越損失」は青色申告ならではのメリット!

繰越損失の制度を利用して、赤字を翌年以降に控除できるのは、あくまでも青色申告を行っている場合に限ります。
翌年以降において、「赤字の金額×税率(所得税率、復興特別所得税率、住民税率の合計税率)」で計算される税金を節税できるので、節税額はかなり大きくなります。

「所得税の青色申告承認申請書」を開業時もしくは開業日から2カ月以内に提出しなかったが故に、こちらの節税制度を使えなくなってしまっては、後で大きな後悔をすることになってしまいます。
事業を開始したばかりの方、これから開業をする方は、青色申告の承認申請書を必ず提出するようにしてください。

なお、赤字の繰越のほか、青色申告特別控除なども含めて、青色申告者のみが利用できる節税策はいくつもあります。

白色申告の場合で赤字だとどうなる?白色申告との違いは?

上述のとおりで、基本的には、赤字の繰越は青色申告者のみに認められている制度ではあります。
しかし、白色申告で赤字が生じた場合であっても、条件さえ満たせば、下記のような制度を利用することができます。

まず最初に適用を検討したい制度は損益通算です。
損益通算に関しては、実は、青色申告者のみに認められた制度ではなく、白色申告者でも使うことができる制度です。

万が一、青色申告承認申請書の提出を忘れたり、提出期限が過ぎてしまって白色申告で確定申告をする場合でも、損益通算は行って節税してください。
このように、知っているかどうかで節税できるかどうかが変わってしまうところが、税制の怖いところでもあります。

また、白色申告者であっても、被災事業用資産の損失の金額がある場合や変動所得の損失の金額がある場合には、赤字の繰越ができます。
被災事業用資産の損失の金額とは、事業用の資産が風水害、火災、震災等の災害で被害を受けたことによる損失の金額のことです。

変動所得の損失の金額とは、漁獲やのりの採取、原稿や作曲の報酬または著作権の使用料にかかる所得計算上生じた損失の金額です。珍しいケースではありますが、こういった特殊なケースもあるのです。

白色申告の場合で、損益通算の対象となるプラスの所得も存在せず、被災事業用資産の損失の金額や変動所得の損失の金額も存在しないとなると、残念ながら、赤字の金額を節税に生かすことはできないということでもあります。

赤字で繰越の場合の確定申告書の書き方

さて、青色申告をされている個人事業主の方が赤字の繰越をする場合の所得税の確定申告書の書き方をここで説明いたします。

損失申告の場合には、第四表(一)と第四表(二)を提出する必要があります。
画像を見るとなんだか書き方が難しそうですが、そんなことはありません。
書き方は簡単であり、損失が生じた初年度に関しては、記入する箇所が非常に少ないので、特に簡単です。

ここでは、例として、開業初年分に事業所得の赤字が200万円生じたものの、開業前の会社員時代の給与所得が150万円あった場合を想定して説明します。
この場合は、損益通算を行った後に赤字の繰越をできる金額は200万円から150万円を差し引いた50万円の金額となります。

  • 書式は平成31年(2019年)2月現在、各税務署で使用されているものです。変更されることもあります。

第四表(一)の上の方、「1損失額又は所得金額」のAの部分に「経常所得(申告書第一表の①から⑦までの合計額)」という部分があります。この部分の右側に「-500,000」と記入してください。「1損失額又は所得金額」については、これだけの記載で良いのです。

続いて下の方の「2損益の通算」のA「経常所得」の部分を記載します。「Ⓐ通算前」「Ⓑ第1次通算後」「Ⓒ第2次通算後」「Ⓓ第3次通算後」「Ⓔ損失額又は所得金額」と横に並んでいますが、左から右まで全ての部分に「-500,000」と記入してください。そして一番右下の「損失額又は所得金額の合計額」のところに「-500,000」と記入します。

ここまで記入していただければ、第四表(一)は完成です!

続いて第四表(二)の書き方です。

  • 書式は平成31年(2019年)2月現在、各税務署で使用されているものです。変更されることもあります。

こちらに関しては「3翌年以後に繰り越す損失額」の一番上の部分「青色申告者の損失の金額」の右側に「-500,000」と記入します。実は、第四表(二)に関しては、これでもう完成なのです。

山林所得の損失の金額、変動所得の損失の金額や被災事業用資産の損失の金額がある場合は記入箇所が増えて少々難しく感じられるかもしれませんが、それらがあるようなケースは、比較的稀です。多くの方にとっては、第四表(一)と第四表(二)は簡単に作成できるものなのです。

「純損失の繰戻し還付」についても知っておこう

純損失の繰戻し還付という制度を利用すると、過去に支払った所得税の還付を受けられます。

赤字の繰越の場合には、今年生じた赤字を翌年以降3年間繰り越して、翌年以降の税金の節税をしようという話でした。

しかし、純損失の繰戻し還付に関しては、本年生じた赤字を前年の黒字と相殺して、前年分で支払った所得税を取り戻すという話になります。
未来の税金の節税ではなく、過去にすでに支払った税金の節税というイメージを持っていただくとわかりやすいと思います。
こちらの制度は、赤字の繰越と違って利用する納税者が少ないため、制度自体を聞いたことがなかったと言う方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

本年の赤字の金額の分だけ前年の所得が少なかったものとして所得税額を計算し、実際に前年分に支払った所得税額との差額の還付を受けることができます。
還付請求の際には、「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」という書面を税務署に提出してください。

ここまで聞くと、すぐに還付を受けられるのだから、赤字を繰り越すよりも繰戻し還付をした方が得なのではないか?と思われる方もいらっしゃると思います。
しかし、繰戻し還付にはデメリットも存在します。

まず第1に、所得税の還付は受けられるものの、住民税や復興特別所得税の還付を受けることができない点です。
そのため、還付金額は期待したほど大きくはならないことが考えられます。

第2に、繰戻し還付の請求を行うと、税務調査が行われます。
税務調査が入ることに対しては大きなストレスを感じる方もいらっしゃると思います。
私のように税理士業を行っていると、慣れているせいか、税務調査と聞いてもストレスなどは感じないものですが、一般の納税義務者の方々は税務署の調査官に所得の発生根拠を説明するだけでも、恐怖心を感じることがあるようです。

脱税などをしていないのであれば、きちんと還付してくれますし、そこは恐れなくていい部分ではあるのですが。
税務調査に時間が取られること自体が大きなデメリットと感じられる方も多くいらっしゃるようです。

税務調査が入り、修正事項が生じるような場合には、申告書の再作成作業の手間も生じますので、普段の営業活動に支障が出てくることも考えられます。税理士に依頼している場合で、税務調査対応に対する税理士費用が発生する契約となっている場合には、本来はなかった税務調査が生じることで、予定外の税理士報酬が生じてしまうというデメリットもあります。

翌年以降に利益が出ることが見込めない場合などは、繰戻し還付を優先的に受けても良いですが、もしそうでないのであれば、赤字を繰り越して繰越控除を選択した方がよいのではないかと思います。
私の経験上も、ほとんどの方が赤字の繰越を選択し、繰戻し還付を利用されていないのが現状です。

photo:Getty Images

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この記事の執筆者齋藤一生(税理士)

東京税理士会渋谷支部所属。1981年、神奈川県厚木市生まれ。明治大学商学部卒。

決算書作成、確定申告から、起業(独立開業・会社設立)、創業融資(制度融資など)、税務調査までサポート。特に副業関連の税務相談を得意としており、副業の確定申告、税金について解説した「副業起業塾 新規タブで開く」も運営しています。

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